スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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115.ホーム

 あれから一夜が経って、人や物が運び込まれている。

 その中には非戦闘員の姿もちらほらと見れる。

 

 その中でも驚いたのは、土魔法使い5人で構成されたA級の冒険者パーティが居た事だろうか。

 主に遠征や大規模作戦での陣地形成を主としている彼らの主導によって、まさか一日で城壁が建つとは思っても居なかった。

 

 土地の毒素に関しては『聖浄』主導の聖職者たちによって、浄化が行われている。

 全ての土地の浄化は行えないが、こうして限定的になら人手が足りる。

 周囲が汚染されている以上、維持を止めればその内汚染されてしまうのだろうけど。

 

 

 こうして完成したのが魔大陸初の、人類の拠点である。

 

 補給ラインもあるものの、暫くはホームに貯蓄してきた物資での生活になる。S級になった事をいい事に、その辺りの能力は隠さずに使っていくことにした。国に取り込まれるとかも、心配する必要はあまりないし。

 

 ただ、それに思わぬ反応を示した人もいた訳で。

 

「一人で補給ラインをこなせると言うことであるか……! ノマル・フトゥーと申したな。卿と地上の遍く戦場を駆け回らぬか!? 卿と貴公なら、特大の戦火を引き起こせるのである!」

「その、申し訳ないんですけどあんまり戦争は好きじゃなくて……」

「なんと、それだけの力を持ちながら、あの蹂躙の心地良さが分からぬとは……珍しい人間もいたものである……」

 

 感想にも居たが、人類の全てが戦争と殺戮を愛している訳では無いのだ。

 むしろ少数派なので、そんな驚愕に目を見開かれるとこちらとしても反応に困ってしまう。

 

 

 実は僕、直接戦闘より内政の方が向いているのかもしれない。

 なんて言う雑談はさておき、ここからは地道な作業になるだろう。

 

 この広い魔大陸を探索し、母なるマテルメアや魔王のいる場所を探さなければならないのだから。他にもこうして攻撃作戦に出た以上は、各地に散らばっていた12魔将も魔王を守るために戻ってくるだろう。ここからは文字通りの、総力戦になる。

 

 

 後日、各方面に分かれての探索が開始された。僕達が担当するのは此処からさらに北の方向。

 S級4人の内二人を中央へ、他二人の率いる部隊を左右に割り当てての探索をする事となった。

 

「個は之より、魔大陸を聖浄するために進行を開始する」

「こちらは私がある程度、指揮を取ります。皆さん一流の冒険者ですので、あまり細かい指揮は必要ないかもしれませんが」

 

 当然僕に指揮の経験など無いので、教会勢力は教会勢力で。それ以外はホワイトランドの将とツェツィの指揮の元行軍を続ける事となった。軍の指揮ができる冒険者など、そうそう居ないだろう。

 

 

 とは言え、僕達も本来の役割を果たさなければならない。

 

「私たちに求められてる役割って、敵の数を減らす事だもんね」

「そうだね、そういう意味で言うとボルドーさんは適任だろうなぁ……」

 

 今もどこかで、あの高笑いをあげながら魔族も魔物も切り殺し続けているのだろう。

 

 

 

 進軍を始めて、最初の夜が来た。

 キャンプで過ごすのも良いが、どうせなら僕達は『ホーム』で休憩したい。

 

 そして、連合軍の全員を休憩させるだけの居住スペースは無いが……数人程度なら休める程度には、ホームにある家は広い。何より安全地帯であるため、奇襲・暗殺の恐れがない。基本的に人は、眠っている時は無防備なのだ。

 

「流石は大いなるもの、あんな荒野にこんな立派な家を出現させるスキルなんて。こうして実際に見るまでは、個も俄かには信じがたかった。感謝する、ノマル・フトゥー」

 

 それ故に彼女もこのホームへと招き入れる事となった。

 ホームの存在は難民を移動させるときにも使ったし、耳の聡い相手には知れ渡ってしまっているだろう。それならとことん使って、好きに警戒させた方が効率的だ。

 

「そこかしこから、大いなるものの波長を感じる。定期的に、訪れている?」

「えっ、いや……分かんないですけど……」

 

 もしかして、僕達が使っていないときは……まさかバレる訳が無いとは思っていたのだろうが、少しうかつ過ぎやしないだろうか。登場がとか、干渉のし過ぎは……とか言っていたのに。

 

「特に、畑とリビング。質問、少しリビングを借りても良いだろうか、個は大いなるものの残滓をこの身に感じていたい故」

「構わないけど……うん……」

 

 自由だ、そして一途だ。

 彼女はオシエルさんのような大いなるもの、そして彼女の言う神への信仰で生きている。

 もしも僕にこのスキルが無ければ、彼女は僕に微塵も興味も持たなかったのだろう。

 

 僕はオシエルさんに恩義を感じているし、その恩を返したいとも思っている。

 しかし、その信仰に殉じれるかと言えば……きっとそうではないのだろう。

 

 その真っ直ぐさが少しだけ、羨ましいと思った。

 

 

 

 食事をとり、湯を浴びて自分の部屋へ戻る。

 明日も早いので、何時ものように小説検索をする事もせず眠りにつこうとして。

 

「どうしたの、シエナ。そんなところで……」

「ちょっとだけ、ノル君とお話ししたくて……良い?」

 

 布団の中にいた彼女の真っ赤な瞳と、目が合った。

 

「全然いいよ、どうしたの?」

「ん……ちょっと分かんなくて。布団、入って?」

「良いけど……悩み事?」

「多分……? あのさ、此処にいたのが、ツェツィだったら……ノル君はどうしてた?」

 

 もしここにいたのがツェツィだったとしたら……布団の中にいた彼女に、驚いていただろう。彼女はそんな事をし無さそうだし、この前の会話の事を思い出せば、少し気恥しさと……自室に女性が居るという、妙な緊張感があっただろうし。

 

 彼女の場合は、こうしてすんなりと状況を受け入れられている。

 それを言葉にすると、信頼なのだろうか。

 彼女がそばにいる事は、僕にとって恐らく普通だと……脳が認識しているのかもしれない。

 

「流石に、布団には入らなかったかな」

「ふぅん、そういうもの……かなぁ」

 

 布団の中でもぞもぞと動くシエナは、村に居た頃よりもずっとしっかりとした体格だった。

 流石に旅に出てからは、そういうタイミングも無かったけど。

 

 シエナとは村に居た頃は、彼女と一緒に寝る事なんてよくある事だった。

 何ならもう少し小さい頃は、一緒に湯浴みしていたくらいだし。

 

「何かわかんなくなっちゃって、ううん……難しいね?」

「あんまり、言いたくない事?」

「うん、言いたくない事~」

 

 その一言には、彼女にしては珍しく、明確な拒絶の意志を感じた。

 

 一人用のベッドなので、流石にちょっと狭いけど。

 その窮屈さは、あまり不快に感じなかった。

 

 まるで、あの村での……昔に戻ったみたいで。

 

「今も一緒に湯浴みしよって言ったら、出来る?」

「え”っ”、それは……流石に……」

 

 流石にそれは恥ずかしい、し。

 なんて言葉は何故かしどろもどろになってしまって、上手く口に出せない。

 

「なっ、なんでそんな事聞いたの?」

「うーん……なんでもないかも? それじゃ、おやすみ!」

 

 そのまますやすやと、寝息を立て始めたシエナ。

 

 途端に、布団の中にこもる熱が熱く感じてしまって。

 暫く寝付けなかったのは、言うまでもない。

 

 

 

 そんな事があった翌日以降も、魔大陸の進行は続いていく。

 

 そこから進み続けることしばらくは、代り映えのしない荒野が続いていた。魔物の出現回数は非常に多いものの問題なく進行自体はできている。問題は魔大陸の広さである。

 

 一向に要所へと辿り着けないのだ。これだけ広大な土地を進むのには時間がかかる、だからなかなか戦果を得られないのは当たり前の筈……なのだが……

 

「……霧?」

「周囲の景色が見辛くなるのは、不便だね……」

 

 そこにノイズが混じったのは、進み始めて合計で3日ほど経ったある時の事だった。

 少しずつ、周囲を霧が覆いはじめた。

 

 その時はただの気象だと思っていたのだが……それから暫くして、決定的なものを見つける事となる。

 

 

 足跡を見つけたのだ。

 

 

 いや、足跡自体は別段珍しいものではない。魔物は沢山いるし、魔族だってそこそこ出現している。問題はその足跡が、人の鎧の……ブーツのように見えた事。

 

 誰かが先行している?

 そんな筈はない、最前線は僕達だ。

 

 誰かが昔ここに来たのだろうか、その線は薄いだろう。

 その程度なら、雨が洗い流してしまうだろう。

 

 まさか、もしかするとこれは……そう思って周囲へと注釈を振る。

 

『特殊タグ:注釈』

 

 この霧*1の正体は……嫌な想像の通り、只の霧ではない。

 

 それなら、僕達は既に……

 

「攻撃を、受けていたんだ……」

 

 そう思うと周囲の代わり映えのしない荒野が、酷く薄気味の悪いものに感じて。

 周囲を包む霧は、次第に濃く……深くなっていく。

*1
彷徨いの霧:12魔将『幻想のエラーレ』の作り出した霧、方向感覚を狂わせて幻影を見せる

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