村編も残り数話の予定です
───まるで鏡だ。
一戦目は魔物、それも最初の日出会った狼のような俊敏さと守護者のゴーレムの力強さを活かしたような戦い方。
二戦目は、一戦目のオットーさんの防御を真似したかのような戦い方。
一体何のためなのかは分からないが、シエナはこの『決闘』で何かを成そうとしている。
遂に三戦目が始まろうとしている、シエナにとってはもう後が無いのに……彼女は休憩が終わってもその姿を表さなかった。
「どうしましょうかオットー団長?」
「ふむ、逃げたとは思えないのであるが……」
「ごめんなさい〜! 遅くなっちゃって!」
もしかしたらこのまま帰ってこないのでは無いか? そんな空気が騎士たちの間に流れ始めたのとほとんど同時に……彼女はこちらに走ってきた。
「何処に行っていたのであるか?」
「剣を振ってたんです、ちょうど後もう少しだったので」
その一言に観客の間で動揺とざわめきが広がる、休憩の為の時間に剣を振るなんて前代未聞だと思う。それに───
「付け焼き刃の技術や、数分程度の努力で覆る程に……剣の道というのは甘くないのである。とは言え、それを理由に今更勝負を反故には……」
数分、数十分の努力で覆るほどに剣の道は甘くはないはずだ。それなら身体を休めて次のラウンドに本気で挑んだ方が得策だろう。そんな彼女は、観客席の僕を見つけると大きく手を振っている。
「ノル君! 私、迷ってたの! この試合に勝っても何かと理由を付けて王都に行くことになっちゃうんじゃないかって!」
シエナさん!? 確かにその通りかもしれないし、話したいことがあるのは分かったけど、公衆の面前だし何より───
「だから誰にも文句の言わせない圧勝って何かなって考えて───私なりの答えを見つけたの! だから、そこで見ていてね!」
騎士団の方達も、オットーさんも目の前にいるというのに。
「剣聖殿、挑発に心を動かされる程……吾輩は狭量ではないのである」
そんなの───挑発以外の何物でもないだろう。現に気にしないと言っていたオットーさんも、静かに闘志を燃やしているように見える。
「……参りますぞ、『剣聖殿』」
「負けられないの、私を『シエナ・ティソーナ』として求めてくれる人が待ってるから」
両者が構えを取り、運命を分ける三戦目の開始を告げる鐘が鳴った───のだが。
「……勝負を捨てる事が、吾輩たちへの答えであるか。とは言え手加減をするつもりは無いのである」
2人が取ったのは、奇しくも同じ受けの構え。見覚えのあるそれは正しく『騎士団長』の使う『それ』そのものだった。
互いに動かないまま場が膠着する。先に動いたのは───彼だった。
「付け焼刃の技術が通用する程、剣の道は甘くは無いのであるッ───!」
シエナは頭上に迫ったその一撃を、受け止める───のではなく受け流す。力で劣る彼女なりの考えがあるのもそうだが、本来はこの剣術が人間より力強い魔物も相手取れるように考えられているからこその選択だろう。
「……」
返す刀で放たれた、胴を狙った一閃を身を捩って躱すシエナ。攻撃を外し、体勢が崩れたその隙を見逃すことなく斬撃を放つが───その攻撃を弾き、オットーが距離を取る。これで仕切り直しの形となった。
「……ッ!」
現時点では───全くの互角。その事実は、オットーを焦らせるには十分だったのだろう。
一戦目では『あれほどの差があった』はずなのに、『現時点で互角』なのだから。
「ならば、これで───ッ!」
大上段へと大きく構えを取った彼を取り巻く威圧感が、また一段と大きくなる。おそらくは王国式剣術の秘中の秘とも言えるその技で勝負を決めようと───彼は勝負の決着を『焦った』。その焦りは一瞬で勝負の決まる剣の世界において───『致命的』であった。
「───そこッ!」
大上段に構えた彼の剣のガードを狙ったであろう一点狙いの突き。それにより彼の技は出だしを潰され───持っていた剣は宙を舞い、カランと高い音を立てる。
余りの事態に、世界は静寂に包まれて誰もが声を失った。彼が声を震わせながらその一言を口にするまでは。
「…………参ったである」
少し遅れて拍手と歓声……そして悲鳴が巻き起こる。大方、悲鳴は彼に大金をかけた者が発したものだろうけど……結果的に三戦目は、シエナの勝利と言う形で幕を閉じた。
四戦目が始まるというのに、オットーさんの顔からは疲れが抜けきっていない。先ほどの敗北が余程堪えたのだろうか。それでも、眼光だけで人を射抜けそうな程の闘志を滾らせている。
「吾輩はこれより始まる決闘を、最早訓練とは───思わぬ。当たる直前で止める等と言う気遣いはもう出来ぬものということである」
「……私も、その心持ちです」
四戦目の開始を告げる鐘の音が鳴り響く、先に動いたのは───彼女だ。
上段から放たれた振り下ろしは───彼の剣に弾かれる。そのまま返す刀で放った切り払いも彼に阻まれて、その攻撃が彼に届くことは無かった。
彼の剣、延いては王国式剣術は『王国の盾』と称されるほどの堅実な剣だ。故に、その守りを崩すのは並大抵の事ではない。
だから、その守りを崩すにはきっと『きっかけ』がいる。その事を理解していたのであろうシエナは大上段へと大きく構えを取る。それによりブワリと彼女の放つ威圧感が、少し強まる。
「───はッ!」
正しく必殺の彼女の一撃、それに対して放たれた彼のカウンター狙いの一閃は───空を切る結果に終わった。
「しまっ───!」
彼が二戦目で見せたのと同じような───フェイント。その構えを誰よりも知っている彼だからこそ、身体が無意識に反応してしまったその隙を……見逃す程に彼女の目は甘くは無かった。
慌てて防御の為に構え直そうとした彼に、振り抜かれた一閃を彼は受け切ることが出来ず───無情にもその剣は地面へと叩き落とされ、膝をつく。
悲鳴にも似た歓声が村人達から湧き上がる。それとは反対に、驚きのあまり声も発せない騎士達。これでどちらも二本を取った、戦績上は互角だが……肩で息をするオットーと、対照的に息一つ切らしていないシエナ。
地面が揺れる程に力強く地面を叩き彼は───
「もう一戦残っているのであるッ!!!」
───叫んだ。それは騎士たちに向けたモノなのか、あるいは彼自身を鼓舞するためのモノだったのか。彼は立ち上がり、剣を構えなおす。
「休憩は───」
「休憩など、必要無いのである───ッ!」
オットーが走り出すのと同時に、慌てて五戦目の鐘の音が響き渡る。目にもとまらぬ程の速度で駆けだした彼の放った大上段からの斬撃は───容易く弾き返される。
それに対して、距離を取って姿勢を立て直した彼女の腹を狙った横薙ぎの一撃は空を切る。首元を狙った突きも、頭を狙った振り下ろしも、足を狙った切り払いさえも───その尽くが空振り、打ち払われ、弾き返された。
「ぬおぉぉっ!」
攻めているのはオットーの筈なのに、徐々にシエナが押しているような気がするのは気のせいではない。攻めている筈のオットーは滝のような汗を流している一方で、受けに回っているシエナは汗一つ流していなかったのだから。まるで一戦目が入れ替わったような内容。
目で追うのがやっとの重く速い斬撃の嵐を全ていなし続けてなお、彼女はそこに立ち続けている。このままでは体力を奪われるだけだと分かっているのだろう、だからこそ彼は次の一撃で決めるべく大きく構えを取る。それに対して───
シエナも大上段へと大きく構えを取る、フェイントではなくどちらも放つつもりなのだろう。王国式剣術の奥の手とでも言える一撃を。
「王国式剣術────ッ!」
大きく踏み込んで、彼は空を跳ぶ。それに対して彼女はその一撃を地上で迎え撃つ。
「その剣はもう──────理解ったから」
その後の斬撃は、僕の目には捉える事すら出来なくて。
「『剣理』王国式剣術───連」
大きく振りかぶった彼の剣は、彼女に届くことは無く。その手前でカランと高い音を立てて床へ落ちる。刃を潰された剣で放たれた筈なのに、『四つ』に分かたれた剣だったものが───床に散らばっていた。
誰もが息を吸うのを忘れるほどに、その絶技に魅入っていた。剣術になんて詳しくない村人でさえも。それに対して宣言するかのように彼女が口を開く。
「信じてくれてありがとう、勝ったよ───ノル君」
「しょ、勝者シエナ・ティソーナ!」
司会役の騎士が、我を取り戻したかのように決闘の勝者を告げる。割れるような歓声が観客から巻き起こる。こうして『剣聖』と『聖騎士』の決闘は幕を閉じた。
『スキルとは絶対と言っても良い。剣術のスキルを持つものは持たないものと絶望的とまで言える程の差がある』何時の日か語ったそれと同じように、『聖騎士』と『剣聖』の間にはあったのだろう、『努力』で埋められない程の絶対的で残酷なまでの差が。
ただ、それを受け止める事が出来るかどうかは……全くの別問題。
「───そんな事が」
何より残酷だったのは、シエナの振るう剣術が堅実で……騎士団長のものと酷似していたこと。彼の30年近くに渡る研鑽を、彼女は1時間と少しで自分のモノにした上で……昇華させた。その事実が、どれ程に残酷な事か。
「わ、吾輩の今までの鍛錬は……?」
ガクリと膝から倒れ伏したまま動かなくなった王国最強の騎士。それは、つまり───彼女を満足させられる騎士はもうこの王国に存在しないことを意味していた。
とまあ、こんな感じだ。水平線はどうやら過去起こった事を思い出すのに使えるらしい。他にも使い道がある気がするが、僕の力では使いこなせていない。
あの決闘の後……その場にいた全員に緘口令が敷かれた。それも当然かもしれない。王国騎士団最強の彼が12歳の少女に負けたとなれば、他国との余計な軋轢に繋がりかねないのだから。
シエナのしたことは正しかったのだろうか、それは僕にはわからないが。それでも、彼女の『力』が劣っていれば、彼女は王都に連れて行かれていただろう。より大きな『力』と『権力』によって、本人の意思は関係なく。
それを彼女はより大きな力で振り払ったに過ぎない、結局この世界で自分の意思を通したいなら最終的には力が全てという事なんだろう。
「何考えてたの? ノル君?」
「ん? シエナは強いなぁって思ってたんだよ」
「そう、私はすっごく……すっご〜く
「ノル君は、私を置いていったりしないでね?」
燃える炎のような彼女の赤色の瞳が、僕をじっと見つめていた。
曇らせ(騎士団長)
『ここ好き』本当に助かってます、どういう描写が人気なのか一目瞭然ですし、増やしていきやすいです。
やっぱりスキルの描写が人気ですね、同じくらいキャラ同士の掛け合いも気に入っていだだいてるようで嬉しいです。
特にグレイ師匠は人気ですね、全体の半分くらいしか出てないのに……
どれくらいが好み?
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主人公が無双無双してる方が良い
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紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい