スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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119.相互理解

 霧の晴れた世界で、僕達は一度現状確認の為に休息をとる事となった。

 そんな中ホームのベッドに寝かされている僕は、一旦安静にする事となる。

 

『幻想』戦ではスキルはともかく、戦闘面は殆ど討伐に寄与できなかった気がする。

 

「ノルさん、大丈夫ですか?」

「うん、僕はもう大丈夫なんだけど……」

「今回は仕方ないとはいえ、こうして看病する機会が多いと心配になります。本当に……」

 

 そう言って今は傷一つない僕の腹部を撫でるツェツィ。

 何とか急所を外せたから良いものの、あの一撃で死んでいた可能性も十分にあった。

 

 それにしても、いきなり後ろから爪で腹を突き刺された時はどうなるかと思ったが、やはりS級が二人もいると安定して12魔将を討伐できた。だがしかし……確かに今までの12魔将よりも強くなっていると感じる。

 

 例えば、あのまま潜伏を続けられたら?

 もしも逃走されていたら、あれがもし……街に出たとしたら?

 

 町中がたった一人の魔族によって疑心暗鬼に陥る、容易に滅ぼされてしまうだろう。

 

 考えれば考えるほど恐ろしい、この場所で仕留められたのはこの上ない幸福だったと言える。

 

 戦闘特化でないであろう『幻想』ですらそうなのだ、今後直接戦闘が得意な相手に一人でとなると……かなり苦戦を強いられることになるだろう。

 

 これで12魔将の討伐数は8、残すところは4体だが……‥その全てを討伐する必要がある訳では、ない。あくまで今回の目的は「母なるマテルメア」の討伐、そして魔王本人の討伐だからだ。勿論倒せそうなら狙いたいものの、目的を見誤ってはならない。

 

 

 ところで、『幻想』と、いつの間にか入れ替わっていたホワイトランドの将は……未だ見つかっていない。見つかっていないというのは珍しい事だ、なんといっても彼は鎧を着ていたのだから。

 

 死んでいる可能性は高いかもしれない、だが交戦したなら剣や鎧などが落ちている可能性が高い。

 それが無いという事は連れ去られたか、それとも何かに利用されている可能性が高い。

 

 巨大な魔物に丸吞み……という可能性も考えられなくはないが、少なくともこの辺りに出現した形跡はない。せめて、遺体くらいはホワイトランドへと連れ帰ってあげたかったのだが。

 

 

 そんな状況を打開できそうな、出来れば……本当に出来ればやりたくない一手が存在していた。

 とは言え僕の悪感情なんて、些細な事だ。

 

 僕はスキルを───発動させる。

 

『スキル:よみあげ』

 

『老ノマル』

『賢者アメティスタ』

『オシエル』

『グレイエル・スノウリリィ』

『シエナ・ティソーナ(異)』

 ▶『幻想のエラーレ』

 

『戻る』

 

 

【……あら? 確かに死んだと思ったのだけれど、死後の世界なんて本当にあるものなのね】

「おい、幻想。聞きたいことがあるんだけど」

【あらあら、死霊術……って訳でも無いけど、そういう感じね? 随分と多彩なのね】

「お前の想像はどうでもいいから、質問にだけ答えろ」

 

 頭の中に響く声を聞いているだけで、貫かれた脇腹の痛みを思い出して嫌な気持ちになる。

 だが、それを顔に出しては奴も喜ぶだけだ。

 

 

 それにしても何故、彼女がここに追加されているのか。

 それは間違いなく、爪での一撃が原因だ。

 

 奴を構成するその全てが、幻想であり猛毒だと彼女は言った。

 爪を通じて、奴は幻覚を見せる猛毒でもある自身の『体液』を僕に注入していたのだろう。

 

【ご名答♪ とは言え、こんな事になるとは流石にお姉さんも思ってなかったわよ?】

 

 ただ、そんな事はどうでもいい。

 欲しいのは馴れ合いでは無くて、情報。

 

「お前が化けていたホワイトランドの将軍、トルグランさんは何処にいる?」

「あら、彼ならまだ生きてると思うわよ? 運が良ければ、だけど」

「だから、何処に居るかって……」

「ふふっ、どうしてお姉さんが、そんな事を坊やに教えてあげないといけないのかしらね?」

 

 帰って来たのは、純粋で当然の疑問。

 今までは曲がりなりにも、友好的で交渉のできる相手だったが……

 

 こいつは別だ、まごう事なき人類の敵。

 他者の絶望や恐怖、嫌悪と言ったむき出しの感情を愉しみたい生粋の悪人。

 

「なーんて、冗談。教えてあげてもいいわよ?」

「お前……!」

「ふふっ。そんなに露骨に顔を歪められると、愉しくなってきちゃう♡」

 

 苛立った顔すらも、奴の糧にしかならないと思うと気分が悪い。

 だが急に、どういう風の吹きまわしなのだろうか。

 

 少しくらいは僕に不利な条件も飲もうとは、覚悟していたのだけれど。

 

「その方がきっと、沢山人の苦しむ顔が見れるもの♪」

「お前な……」

「それに坊やには、良いものを見せてもらったし……お姉さん、奮発しちゃう♪」

 

 随分と愉快そうに、道案内を始めた彼女。

 不意打ちや、罠の可能性───は低いと見てだろう。

 

 勿論油断をするつもりは全く無いが、奴が死んでから使うような罠は考えづらい。

 死んでからでは、罠にかかった相手の表情が見えないのだから。

 

 

 

 

 案内通りに進んで、臨時のキャンプから西へ10分ほど歩いた先。

 ぽっかりと岩肌に開いた洞窟を見つけた、恐らく『幻想』が存命中は入り口はカモフラージュされていたのだろう。

 

「本当に洞窟はありましたね……」

「此処から先は、気を付けた方がいいだろう」

 

 そんな洞窟から僅かに香るのは、鉄錆の匂い。

 

【多分、急いだほうがいいかもしれないわね?】

「急いだほうが、良いかも……」

「でもなんかこう、嫌な感じがする……」

 

 奴の言葉に乗せられるのは癪だが、急いだほうが良いのは間違いがないだろう。

 その先に何が待ち構えているとしても、彼を救い出すためにここに来たのだから。

 

 手遅れになってしまっては、もっと後悔するだろう。

 

 

 そんな暗い洞窟を進んだ先に、確かに彼は居た。

 

「───ッ! ───ッ!?」

「お前ッ……おっ、おえっ……」

【人間側の情報を抜き取ろうと思って、蟲壺を作ってる最中だったのよ。ただこの辺りって、全然虫が居なくってねぇ。教えた甲斐があったわぁ、本当に良い表情♡】

 

 四肢を縛られ、口元を塞がれて……足元に大量の蟲を侍らせた状態で。

 脚の腱から僅かに流れる血を奪い合うように、百足のような虫が蠢いている。

 

 苦悶の表情を浮かべたまま、必死に身体を捩っている彼を助け出すと……彼は一言だけ、安心したように感謝を述べて、意識を失った。くすくすと、その間も後ろで不快な笑い声が鳴り響いていた。

 

 

 

 こいつ相手のよみあげは二度と使う事はないだろうが、『よみあげ』の対象が「生きている」、「人間」でなくてもいいという事を知れたのは……大き過ぎる収穫と言えるだろう。此処に豚や牛と言ったよみあげ先が追加されないのは、何かのルールか、それとも配慮によるものか……

 

 何にせよ、取れる選択肢が増えた事と「彼」が帰って来たことを喜ぶ他ないだろう。

 嫌なモノばかりを思い出していれば、彼女の思う壺なのだから。

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