スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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120.権能

 一度報告の為と、療養の為に本陣へと戻った僕達。

 トルグランさんは、負傷が酷く未だ目を覚まさないらしい。

 

 そんな中、良いニュースもあった。

 

『神槍』により、もう一体の12魔将が討伐されたらしい。

 どうやら、戦闘に秀でた12魔将だったらしく物凄い速度を誇っていたらしい。

 そんな相手にも対応しきってしまったのだから、流石は最優と言うべきだろうか。

 

 

 だがそれも、無傷と言う訳には行かなかったと言う。

 

「たはは、お互い手酷くやられたらしいっすねぇ」

「……情けない限りです」

 

 負傷者用の建物にて、少し顔色の悪い狸のような耳を持つ女性に話しかけられた。

 そんな特徴的な喋り方の彼女は、『神槍』のパーティのメンバーの一人、ウルーティカさんである。

 

「デッドリー・ストライク」は、斥候職の中衛が負傷したらしい。

 あの『神槍』が居てなお負傷者が出るというのは、それだけ敵が強力だったのだろう。

 

「何を言うんっすか!? パーティで5体目の12魔将っすよね? とんでもなく立派な事っすよ。よっ、人類の「英雄」様!」

「あの、その英雄って呼ばれるのは……恥ずかしくて」

「ウルーティカ、あまりノマル君を困らせてはいけないよ?」

 

 何時の間にか、英雄扱いされている事にも恥ずかしさを隠せない。

 恐らくは、僕のスキルが理解できない、特徴が掴み辛いからだろう。

 

 傍から見れば氷の魔法剣士だが、パーティにはより優れた氷の魔法使いも剣士も居る。

 苦肉の策で、僕自身の特徴ではなく為した事を二つ名にしたという事だろう。

 

「情けないとしたら、僕だ。S級だの何だの持て囃されて、大切なパーティメンバーを守り切れないなんて。前衛として不甲斐ない限りだよ、もしも傷がもっと深かったとしたら……そう考えるだけで、戦うのが怖くなりそうなくらいだ」

「はぁ~S級になるには、どんだけ謙虚さとストイックさが要るんっすかねぇ……」

 

『神槍』も……というより怪我をした本人よりも落ち込んでいそうだった。

 そんな場を和ませようとしてか、パンと一つ手を叩いて狸耳の少女は話を続ける。

 

「そんな事より、楽しい話をするっすよ! ノマルさんのとこ、本当凄いっすよねぇ。今からウチで残りの12魔将を狩っても、及ばないっすからねぇ。戦功は間違いなく人類側トップじゃないっすか? 褒章は何か欲しいものとか、あるんすか?」

「恥ずかしいんですけど。僕は何時か、本に語り継がれるような英雄になりたいな……なんて」

「……もう充分じゃないっすか?」

 

 言われてみれば、既に十分な戦功をあげられているが……

 不可抗力とは言え勇者を再起不能にまで追い込んだのだ、その代わり位は人類に貢献するべきだと思う。

 

 何より、見て見ぬふりを出来なかった……きっとそれだけだ。

 

「このまま、何事も無く終わればいいんっすけどねぇ」

「……正直不可解な点はある、もう一騒動起きそうな気がするよ」

 

 残る12魔将は3体、その内の一体は僕達の狙う『母なるマテルメア』である。

 既に4分の3が討伐された、順調だ……順調すぎるとも言える。

 

 

 そんな僕達の順調にも見える旅路は───思わぬ形で狂わされる事となる。

 

 

 深夜、突然の襲撃に警鐘が鳴らされて。

 

「北の方向、防壁が破られましたッ!」

 

 戦いの音、そして騒めき。

 そんな中で伝えられた、被害の状況の報告で目が覚める。

 

 それ自体は有り得る事なのだろう……だが、深夜とは言え警戒の兵士はいた筈だ。

 何かがおかしい、そう感じた違和感は現実のモノへとなって降りかかる。

 

「南西より、巨大なオークの群れを確認! 目測ですが、通常の個体の3倍はあるとの事!」

 

 マテルメアが産み出したであろう魔物が、更に強く……?

 明確な異常事態、だがしかし理由が分からない。

 

 

 戦いの気配を感じて、起き上がろうとしたところに思わぬ来客が現れる。

 

「……起床を確認。だが、ノマルは傷の療養に専念すると良い。強いと言えど、所詮雑兵である故」

「戦争が! あちらの方から寄ってきてくれるとは……感激である……!」

 

 頼れるS級2人が、戦場へと赴くらしい。

 幾ら強いと言えど、彼女の言う通り雑兵。

 

「それじゃあご厚意に甘えるね」

「承知。個は之より───聖別を開始する」

 

 去っていく彼女達を見送って、それから暫くして辺り一帯は聖別の光へと包まれる事となった。

 

 

 僕は無理に動くよりも、回復に専念するべきだろう。

 だが何もしないというのは辛い、せめて原因にアタリだけでもつけたい。

 

「こういう時は……」

 

 オシエルさんは───無理だ。

 こういった事を直接教えるのは、何かしらに抵触するのだろう。

 

 そうでなければ先に教えてくれるはず。

 あくまで彼、あるいは彼女が伝えられるのは物語の本筋に直接関係がし辛い所のみ。

 

『スキル:よみあげ』

 

『老ノマル』

『賢者アメティスタ』

『オシエル』

『グレイエル・スノウリリィ』

 ▶『シエナ・ティソーナ(異)』

『幻想のエラーレ』

 

『戻る』

 

 だから、呼び出すのは彼女かもう一人の僕になる訳だが……おじいちゃんは、おじいちゃんで何かしらのルールに抵触しないよう、動いているらしい。だから彼女によみあげてもらうことにした。

 

【……ん、呼び出しか】

「ごめんね、本当はまだ時間を作るべきなんだろうけど」

【大丈夫、一応自分の中気持ちの整理は……まあ、つけられたとは言えないけど。何時までも悩んでいたら、失っていくだけだから。私が君に教えられる、唯一の教訓だよ】

 

 そう言って「ふふっ」と自嘲気味に笑った彼女は、一度だけ息を大きく吸って、吐き出した。

 そんな声を聞くだけで、胸が締め付けられるように痛む。

 

【同情も慰めも必要無いよ。私の存在が君の役に立ったという事実だけが、私にとっての唯一の救いだから。ロクでも無い人生にも、ちゃんと価値があったんだって】

「そんな……ううん、なんでもない。聞きたいのは、魔王と12魔将の件に関してなんだけど」

【そういう事なら、確かに私でも助言ができるかな】

 

 

 彼女はまるで散歩でもするかのような気軽さで、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

【12魔将の持つ権能は、そのどれもが魔王から与えられた物なんだよ。神が人間にスキルを与えたように、魔王は魔族へと権能を授ける事が出来るらしいんだ】

「はっ……えっ?」

 

 一瞬思考が停止する、そんなまるで神様のような事が……可能だというのだろうか。

 だがしかし、そう言われてみれば不可解だった幾つかの事にも、説明がつく。

 

【そんな魔王は討伐されると、1000年くらいの眠りにつく。そして……まあそこは重要だけど、今話す事でも無いかな。問題なのは、12魔将が討伐されるとそのリソースは他の12魔将へと引き継がれるって事だ】

「つまり……」

 

 当然、12魔将を討伐しない訳にはいかない。

 放置すれば人類側への被害も馬鹿にならなくなるからだ。

 

 だがこうして戦力を逐次投入していたのは……倒されても問題ない、倒される事に意味があるから。

 

【強化のタイミングは、その数が半分以下になった時。12人の魔将は6人、3人、1人になったときに権能が強化されるんだよ。だからマテルメアだけは最後に残しちゃダメ、地上が魔物で溢れ帰って取り返しがつかなくなる】

 

 この事は、一刻も早く他の人へと共有しなければならない。

 1つ確かなのは、これから先残り3人の12魔将は……想像を絶する苦戦を強いられる事となるだろう。

 

【12魔将は魔王を討伐したら消えたから、魔王の首を狙うのが一番早いかもね】

「魔王は、何処に……」

【正確な位置までは分からないけど……地図、貸してもらえるかな】

 

 そう言って彼女は、ここからずっと北西の位置にある辺りを示した。

 そこが、人類の敵……魔王の居城。

 

 こうして見ると、実感がわいてくる。

 魔王の首へと、手が届きそうな……

 

【マテルメアを倒したら、話したいことがあるんだ。その時にまた呼んでくれる?】

「良いけど、今じゃ……」

【今じゃダメなんだよ、その時まで待っていて】

 

 そう言ってそれきり話すことを止めてしまったシエナ、彼女は頑なにその先を話すことを拒んでいるようだった。それが何故かはわからないけど、無理に聞き出すことは不可能だろう。

 

 今の僕に出来るのは、目の前の問題に注力する事だけ。

 

【最後に一つだけ、お願いしても良い?】

「僕に出来る事なら、なんでも」

【……シエナって呼んでほしいの、それだけでいいから】

 

 その声は、壊れてしまいそうなくらいに寂しく震えていて。

 それに何の意味があるのかは、恐らく踏み込むべきでは無いのだろうと思考に蓋をして。

 

「……シエナ」

【ふふっ……虚しいね。でもちょっとだけ、あったかい】

 

 そう言った彼女は何処かで、僕の頭へと手を伸ばして……いた気がした。

 実体のない彼女に、そんな事が出来る訳は無い筈なのだけれど。

 

【じゃあね、用があったら……何時でも呼んで】

「うん、またね……シエナ」

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