「───聖別する。学ばざるは、罪深き事である」
世界が真っ白な光に覆われて、天空より無数の光の柱が降り注ぐ。今回も目視による聖別ではなく、周囲を対象とした大規模聖別が行われた。ルールの押しつけによって、戦場は幕を閉じる。喧騒は途端に静かになり……大きな勝鬨が上げられる。
「個は之にて、聖別を終了する」
「お疲れ様、何か僕に出来る事はある?」
「不要。気遣いは必要ない。之は個の、使命である故」
もしも生き残りが居ても、「戦争卿」が嬉々として狩りを行うだろう。残党狩りは、彼にとってデザートのようなものであるのだから。
こうして拠点の平和は守られた、今のところはという枕詞が付くが。
何せマテルメアがいる限りはこの襲撃は続く、元凶を除かない限りは消耗し続ける事になる。
周囲の広範囲を浄化し終わったため、その日は魔物による襲撃は無かったが……
「魔物」による襲撃が無かっただけで、とある危険に晒される事となる。
その夜、魔法使いが複数名で作り出した城壁の中は……まるで一つの街のような活気を誇っていた。非戦闘員もかなりの数がいて、インフラを回している。ホワイトランドの意向として、兵への投資は惜しまないというが……その集大成とも言える豪華さ、街を見ていると此処が敵地だと忘れてしまいうそうになる。
そんな中で、S級冒険者とその一行はホワイトランドに居た時と変わらない待遇……どころか、更に豪華な部屋を宛がわれる事となった。優にパーティ全員でも泊まれるような部屋なので、一人だと当然のように持て余してしまう。
そんな部屋のドアが、二度ほどノックされて───こちらの返事も待たずに勢いよく開かれた。
鍵がかかっていた筈、だからこの部屋に入れるのは……
「あっ、良かった~ノル君まだ起きてた」
「ノルさん、お怪我の方はどうでしょうか? 体調が悪ければ出直しますが……」
「大丈夫だけど……そんなに急いでどうしたのさ、二人とも」
茶色の髪をたなびかせて勢いよく部屋に入って来たシエナと、対照的にゆっくりと金色の髪を揺らして入って来たツェツィ。だがしかし、その表情は何処かじっとりとしていて、まるで逃げるネズミを追う猫のように、鋭い目をしていた。
「お話がありまして、まずは……遠見の石板を使ってもよろしいでしょうか?」
「え”っ”、ああいや……」
「何か、隠さなければいけないような事でも……おありなのでしょうか?」
まずい、まずいまずい。
言ってない事が幾つか、タイミングを逃したせいで伝達そびれた。
「ノル君。隠し事なんて私、悲しいなぁ……」
「分かった、大丈夫。大丈夫だから、そんな目で見ないでくれよ……」
『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』
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スキルを発動させて、青白いウィンドウが眼前とディスプレイに出現する。
そんな中で、彼女達が興味を示したのは……
「ほら、早く『よみあげ』て?」
「……はい」
『スキル:よみあげ』
『老ノマル』
『賢者アメティスタ』
『オシエル』
『グレイエル・スノウリリィ』
『シエナ・ティソーナ(異)』
『幻想のエラーレ』
▶『戻る』
ダラダラと冷や汗が止まらない、部屋の空気が夜のせいか異常に冷たい。
「へぇ~どういうことか、説明して欲しいな?」
「成程……ですね」
上から3人はまだいいだろう、どれも不可抗力によるところが大きい。
だが、下2つは……もしくは3つは不味いかもしれない。
「これ、12魔将ですよね? 何でトルグランの場所が分かるのかは疑問でしたが……」
言ってない、幻想のエラーレが追加されていた事も。
ふふふと、妖しく笑うツェツィは眼だけが笑っていない。
「もう一人の私はよくて、目の前にいる私は嫌なんだ?」
言っていない、もう一人のシエナをよみあげに追加した事すら。
ジーッと僕を見つめる真っ赤な目が、少しずつ光を失っていく。
グレイさんだけを追加した事で、不平が上がっていたのは聞いていた。
そんな所に……これだ。
「ねぇ、ノル君? 嫌とは、言わないよね?」
「悲しいですねぇ、私達だけ仲間外れで……12魔将の方が大切ときましたか。お父様に……」
「分かった、分かったから、その、それは洒落にならないから、勘弁してもらえませんか……」
何時までも引き延ばすわけにはいかない、前回の奇襲の事を考えれば……パーティがバラバラになった時の為にも、読み上げに追加するのが正解なのは分かっている。
だがその手段が問題なのだ、必要なのは体液の摂取。
人間の体液など、そう数は多くないし……どれも摂取したいと思えるようなものじゃない。
「真面目な話をしておくと、有事の際に役に立ちますし……しない手は無いかと思います」
「それに、このよみあげなら……いや、なんでもない」
何でも無いと言いつつ、ぎゅっと手を握りしめるシエナ。
幻想のエラーレが追加された後、確かに僕も少し考えた事はあるが……その先は言いたくない、その使い方はしたくない。そうならない為に、僕が全力を尽くす他ない。
「じゃあその、追加するのは決定として……どうしよっか」
「私は別に、接吻でも……構いませんよ?」
「いっ、良い訳無くない!?」
思わず、大きな声を出してしまった。
本当に、攻めていくとは言っていたが此処までとは思ってなかったから。
「冗談ですよ♪ 義務的なのは、ちょっと乙女心的にフクザツですから」
そう言って彼女は、果物用のナイフで指先を切ると……真っ赤な鮮血がポタポタと流れ落ちはじめる。いきなりの事で驚いてしまったが、慌てて口元を近づけるとそのまま指が口内に押し込まれた。
「んぐっ!?」
「余さず飲み干してください。なんて、少し倒錯的過ぎるでしょうか……ね?」
一瞬の仄かな甘さと、噎せ返るような鉄錆の匂い。
お世辞にも美味しいとは言えないそれを、無理やりに嚥下する。
彼女の名前が読み上げに追加されたのを確認すると、彼女はやや名残惜しそうに指を引き抜いて。
それから、指と僕自身に向けて奇跡を発動させる。
「感染症対策です、この前は派手にお腹を壊しましたしね」
「……指入れる必要は、あったの?」
「空気に触れると、何か嫌じゃありませんか? こう、感覚的な問題ですけど」
そう言って、曖昧に笑ったツェツィ。確かに、直接とグラスに注がれているものだと……まだ直接の方が飲みやすい気がする。続いては、頬を赤く染めているシエナだが……確かに今の光景は刺激が強かったかもしれない。
やっている事は、吸血鬼と何ら変わりがないのだが。
「シエナも、指からで……」
「指は嫌、ほらその……剣士として、傷つける訳にはいかないじゃん!?」
「すぐに治しますし、大丈夫だとは思いますけど……」
「感覚的なほら、あれがダメになるかもしれないから……」
僕にはよく分からないが、確かに剣士の手は繊細なモノなのかもしれない。
シエナレベルとなれば、特に。
だがその場合はどうしようか、何処から吸うにしても絵面的にアウトな気がする、
「だから、首筋にして?」
「……えっ、本気?」
確かに吸血鬼と言えば、首筋からのイメージがある。
だからと言って、パーティメンバーの同い年の女の子の首筋に噛みつくというのは如何なものだろうか。
「……ノル君が嫌だったら、良いけど」
「あっ、えっと……嫌って訳じゃ無いから、落ち込まないで!?」
珍しくしおらしい彼女の表情に、僕が間違っているような気持ちになる。
そうだ、これはあくまでも『よみあげ』の為の行為で。
特段、何かいかがわしい事をしている訳では断じてない。
「じゃあ、噛むね?」
「……うん」
だが目の前に綺麗なうなじが広がっていると、何か悪い事をしている気がしてしまう。
何故か甘い匂いがするし、気にしないようにしても難しい。
いざ首元が近づくと、途端に緊張してしまう。
だがこれはあくまで、健全で戦略的な……そう思って歯を立てた。
「んっ。ちょ、ちょっとくすぐったいかも……」
無心無心無心、心を無にして耐えろよ、ノマル・フトゥー……!
ここで引いたら、意識していると伝わるようなものだ。
「ノル君、ノル君……」
意識をできるだけ無にして、『よみあげ』に名前が表示されるのに集中して。
体感時間にして数分、数十分。
ようやく名前が追加され、慌てて口を離す。
彼女はこちらを見ているようで見ていないような、そんな表情でぼーっとこちらを見つめていた。
「へぇ……ふぅ……はー……」
「大丈夫かい、シエナ……具合悪く無い?」
「ツェツィちゃんが言ってたこと、ちょっと分かったかも……」
「何が」とは聞けなかった、藪をつついて蛇を出すような気がして。
何処となく雰囲気の変わった室内で、僕はそのまま目を閉じたが。
熱気のせいか、それとも血の味のせいか……ちっとも眠れそうには、無かった。