スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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122.翌日、あるいは前日

 …………気を、気を取り直して翌日。

 本当に取り直せたかは分からない、だが取り直した事にさせて欲しい。

 

 昨日は、全く寝付けなかった……むしろあの状況で寝付ける人が要れば教えて欲しいくらいだ。

 

 僕が布団に入った後も、ツェツィとシエナは何やら楽しそうに雑談をしていた。

 その後は空いているソファで二人とも寝ていたが……あの中に混じれるほど、僕のメンタルは強くはない。

 

 

 とは言え、勘違いされたくは無いが……不快だった訳では無いのだ。

 むしろ、その……とても嬉しい。

 

 シエナも、仲間外れが嫌というよりかは……僕に、執着心を見せているような反応だったし。

 誰かに大切に思われているという気持ちは凄く嬉しい、だがしかし……それに僕が答えられないだけの話。昨日は気恥ずかしさからか外面を取り繕ってみても、やはり嬉しい事には変わりない。

 

 だがいつまでもそちらに、意識を引きずられている訳にはいかない。

 今日は、大切な会議があるのだから。

 

 

 迎えの馬車に乗って、この臨時拠点の中心へと向かう。

 

 今日は、今後を決めるための大事な会議が開かれる事となっている。

 議題としては、今後の進行ルートに関しての話が主となる。

 

 最優先は此処から北西の方向に居るとされる、『母なるマテルメア』の討伐。まあそれは他の世界での出来事なので、この世界でも同じ場所にいるかは定かでは無いのだが。そこに奴がいると仮定すると、それまでに他の全ての12魔将を討伐してはならないという制約を抱えて、ここからは進まなければならない。

 

「本当に何処からこんな重要な情報を……魔族側にスパイでも居るのかい?」

「そう言う訳では無いんですが、情報を得る手段がありまして……」

「なんと、敵将の情報まで得られるとは……益々欲しいのである」

 

 だが、どの12魔将を残すかは……先に確認しておく必要がある。

 その為には残りの12魔将について、おさらいしておく必要があるだろう。

 

 

『母なるマテルメア』

 その能力は白い繭を作成し、通常よりも強力な魔物を作成する能力。

 現状ですら通常の三倍サイズのオークが湧いているのだ、このまま放置すれば質も量も手がつけられ無くなるのは想像に難くない。

 

 S級が居る場所なら、対処はできるかもしれない。だが奴らが僕達を狙わずに……周辺諸国へと進めば? 実力者の数は限られている、そこで起こる事になるのは……文字通りの蹂躙だろう。

 

 

『愚鈍なるタルドゥス』

 シエナから聞いた情報によると、逆にこいつは戦闘特化の12魔将らしい。自身以外の全てをゆっくりにするという非常に強力な権能を持っているとの事だ。戦闘能力は非常に強力だが、種さえ割れてしまえば対策のしようはある……と思う。

 

 

 そしてもう一体の、正体不明の12魔将。

「それ」については一切の目撃情報すらなかったらしい、不自然な事だが……シエナの世界では最後に残ったのがマテルメアだったという事なので、誰かには討伐されたという事なのだろう。どんな権能があるのかは分からないのは脅威だが、マテルメアを優先した方が良さそうだ。

 

「……正直信じられないくらいだ、君が魔族側のスパイだったという方がまだ説得力があるくらいに……勿論そんな事は無いというのは、分かっているんだけど」

「切っても尽きぬ軍勢とは……胸が躍りますな」

 

 マテルメア討伐は、間違いなく『狂戦士』が最適だろう。

 物量という障害は、彼には文字通り時間稼ぎ以上の意味を持たない。

 

 放っておけば3日でも、3週間でも敵を殺し続けてくれるはずだ。

 

「『愚鈍』相手には、少々不向きかもしれないな。本当に事前に情報があるというのは素晴らしいよ、奴らは初見殺しが大きな強みな訳だからね」

 

 逆に『神槍』はその速さを殺される形になる、『愚鈍』との戦いには不向きと言える。

 当てるのならマテルメアか、正体不明の12魔将になるだろう。

 

「個は『聖浄』を行うのみ。たとえ相手が誰であろうと、神の意に背く獣は狩り尽くす所存である」

 

『聖浄』はどちらにも相性がいいが、『愚鈍』にあてたい気持ちはある。

 敵の権能を聞いた感じは、相性が良さそうだから。

 

「正体不明の12魔将が厄介ですね……情報が無いというのは、怖い所です」

「普通は、相手の正体や能力なんて分からないのが普通なんだけどね……君が味方で本当に良かった」

 

 となると残る謎の12魔将を僕達が相手したいところだが……狙った相手とエンカウントできるという訳ではない。出来たらいいな程度に考えておかないと、臨機応変に立ち回る事が出来ない。

 

 なにせいきなり目の前に、12魔将が現れる可能性だってあるのだから。

 

「何時までも魔物を生み出す元凶を放っておくわけにはいかないだろう。とは言え、こうなっては此処の守りを薄くする事も出来ない……補給が出来なくなった軍は、死んでいくからね。此処は僕が、『神槍』が、この名にかけて守り切ろう」

「それはとても頼もしいです、そうなると……」

 

 マテルメア討伐には、『神槍』不在で挑む事となる。

 強力な前衛が居なくなるのには不安が残るが、その分帰ってきたら拠点が落ちているという事はないだろう。それは心強いのだが、不足の事態に対応しづらくはなる。

 

「会議はこれで終了……でいいかな、それじゃあ作戦の決行は明日。それまでに各自準備を整えておこう」

「卿は、拠点防衛をして来るのである」

 

 拠点防衛とは名ばかりの、蹂躙のために足早にこの会議を去っていった戦争卿。彼の求める戦場は会議室ではなく、外に広がっているのだろう。

 

 彼の行動原理はブレず、何時だって戦争が第一である。そんな彼が時間を割いて会議に出席しているというのは、この会の重要さをひしひしと示しているようだった。

 

「個は、奉納を行う。ノマルさえ良ければ、扉を出して欲しい」

「構いませ……構わないけど、その……暇さえあればずっと入り浸ってるけど、教会の人達は大丈夫なの?」

「問題無い。むしろ、最近の教会では大いなるものへの捧げ物をする権利を争いあい、日々議論が熱中している。協会の本部からは、甘いものだけを詰めた馬車が届く」

「それは……大丈夫なのかな」

 

 最近は何かを運び込んでいると思っていたが、あれら全てが捧げ物……その上で甘いものだったとは。さぞオシエルさんは喜んでいることだろうが、それにしても大いなる存在は、そんなに甘いものを摂取して太ったりはしないのだ……今凄く、背筋に寒気が走った。

 

 そもそも確定している訳でもない、曖昧なものだ。

 建前として、ホームに持ち込んだお菓子が……不思議な事に、目を離した隙に無くなっていると言うだけ。それが何処に消えたのは文字通り、神のみぞ知ると言うことにしておく。

 

 昨日と今日は、随分と平和な1日だった。

 それこそ、敵地の真ん中だとは思えないほどに。

 

 幸せな時間を、他愛のない日常を過ごせば過ごすほどに……この日々を守らなければいけないという気持ちは、強くなる。マテルメアを倒せば、大量の魔物に怯える心配はなくなる。

 

 絶対に、絶対に負けられない戦いが始まる。

 人類のためなんて崇高な志は、未だ僕の中にはあまり無いけれど。

 

 周囲の人々のために、明日の遠征で……必ず、マテルメアを倒す。

 そう強く、心に誓った。

 

 

 

 翌日、遂に出立の時が来た。

 眼前にズラリと並んだ冒険者たちは文字通りの精鋭、人類の上澄みである。その一人一人が、一騎当千の英雄である。

 

 そして勿論、僕には誰よりも信頼できるパーティーメンバーがいる。

 

 残る3人の12魔将、そのどれもが強敵揃いだとは思うけど……

 僕たちならきっと、乗り越えられるはずだ。

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