スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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125.たとえ忘れ去られても

 吹き飛ばされているシエナに、思わず動揺して……そして冷静に思考を回す。

 シエナは無事だ、彼女の事を信頼しているからこそ僕がするべきなのは次を考える事だ。

 

 ならば、この状況を打開するための一手を考えなければならない。

 

 目の前の魔族を見て戦闘中だという事は把握した、だけど……

 

 

 何故、ツェツィとグレイが居なくて……僕とシエナだけが戦っているんだ?

 

 

 そして何故、僕とシエナの武器が交換されている?

 しかもわざわざ鎌……彼女の長剣ではなく、僕の短剣と鎌を使わなければならない理由がある?

 

【あれ、ノル君? 何で……よみあげてるの?】

 シエナ……なんで、シエナが?

 

 使った覚えのない『よみあげ』、まるで身に覚えがない。

 

「あれは脅威に値した、故に……対策は取らせずに潰しきらせてもらおう……!」

 

 細剣を振るう魔族が、目の前でシエナを圧倒している。

 何かがおかしい、シエナの剣はもっと綺麗で……獲物が違う程度で、此処まで鈍る程じゃない。

 

【ノル君は解決策を……私が時間稼ぐから!】

 

 

 シエナは必死に敵の猛攻を防ぐべく、回避を主体にした動きへと立ち回りを変えている。

 その間に、彼女が命懸けで時間を稼いでくれている間に……せめてこの状況の整理だけでもするのが僕の仕事だ。

 

「使い辛いなら……要らないっ!」

「剣士が武器を捨てるなど……がふッ!?」

 

 鎌を投げた彼女は、勝負を決めにかかった魔族の腹に右ストレートをぶちこんだ。

 キレのあるパンチだった、少なくとも鎌捌きよりかは。

 

 そして投げた鎌も綺麗な軌道を描いて───放物線を描く。

 

「汝、忘却せよ───拳の使い方を……!?」

 

 綺麗な放物線を描いて戻って来た鎌のブーメランが、魔族の肩口を切り裂いて鮮血をばら撒く。彼女自身が近接武器以外には適性が無いと言っていたが、少なくとも鎌として扱うよりかは綺麗な動きに見えた。

 

 そして『忘却』という単語と今置かれている不可思議な現象、今は恐らく『権能』の影響を受けている。何か打開案を探るために、スキルを発動させ……そして気になる『感想』を見つける事になる。

 

 

 バックログ、メタ持ち……?

 問題なのは、僕が気付けるかどうか?

 

 そこから推測するに……

 

 

 つまり僕は既に……何か記憶を、消されている?

 

 

 だとすれば、既に起きている事を……繰り返せばいいだけ。

 

 

 

『スキル:一時保存+プレビュー』

 

 過去の記憶が、まるで濁流のように流れ込んでくる。

 

【人呼んで、『忘却』のレーテリア】

 

 そうだ、奴は12魔将の一人で……

 

【汝、忘却せよ───長剣の振り方を】

 

 奴の『権能』は、『忘却』。

 武器の振るい方すらも忘れさせる、強力な権能。

 

 例え有効な手段を見つけても、奴が一度仕切り直してしまえば白紙に戻る。

 僕らは武器の使い方を、忘れたまま……

 

 

 

 だが───分かってしまえば、もう怖くはない。

 奴の権能は既に「既知」へと、引き摺り下ろされた。

 

 シエナ、此処から切り替えるから……

【りょーかい! 信じてるから!】

 

 

 スキルを発動させ、目的の人物の『よみあげ』を開始する。

 

『スキル:よみあげ』

 

『老ノマル』

『賢者アメティスタ』

『オシエル』

『グレイエル・スノウリリィ』

 ▶『シエナ・ティソーナ(異)』

『幻想のエラーレ』

『ツェツィーリア・フォン・クロッカス』

『シエナ・ティソーナ』

 

『戻る』

 

 

【……どうしたの?】

 奴が正体不明の12魔将で……記憶を消す能力持ちなんだ。つまり……

【そういうこと。分かったよ、亡霊でも……君の役に立てるところを見せないとね】

 

 これで反撃の準備は整った。

 奴の『権能』の攻略の糸口は……既に、見つかった。

 

『置換:鎌→戦斧』

 

「喰ら───えッ!」

「───なッ、想像よりも……!」

 

 戦斧が勢い良く振りかぶられ、地面を裂く。

 急に変えたというのに、凄い適応力だった。

 

「汝、忘却せよ───戦斧の振り方を」

 

 直ぐに適応されたものの、世界にどれだけの武器があるのか……細かいものを数え始めればキリがない、そして……それは、お前を倒すのには十分すぎる。

 

『置換:戦斧→大槌』

「厄介な……がっ!」

 

 氷で出来た鎌の切っ先が巨大な鈍器になり、受けようとした細剣ごと奴を弾き飛ばす。いきなり受けようとした鎌が大槌に変化した事に対応なんて普通は出来ない、むしろ……手元の武器がコロコロと変わって対応できるシエナの方が異常なのだ。

 

 

 それから、パチンと指を鳴らしたかのような音が響いて───

 

 今の状況は、いった……

【私を信じて、一時保存とプレビューをして】

 

『スキル:一時保存+プレビュー』

 一瞬のうちに流れ込む膨大な記憶の中、武器を変え続ける。

 

『置換:大槌→大剣』

 

「なっ、貴様ッ……どうして……!」

「攻撃を続けて!」

 

 大槌は、身長ほどもある大剣へと切り替わり……左腕を切り飛ばして。

 大剣は、メイスへと切り替わって奴を殴り飛ばす。

 

 三叉槍が、シミターが、フランベルジェが、棍棒が……魔族を突き刺し、切り裂き、叩き付け続ける。目にも止まらぬ猛攻、対応することなどできない速度で武器を変えて猛攻を続けるシエナ。

 

「汝、忘却せ───ッ!?」

 

 当然、その武器の一つ一つに対して、『忘却』をかけることなど───間に合わない。

 

 

 また、パチンと音が鳴って───【一時保存とプレビューをして】

 一瞬のうちに流れ込む膨大な記憶の中、武器を変え続ける。

 

「続けて、シエナッ!」

 

 シエナも僕を信じて、目の前の相手へと武器を振るい続ける。

 

 彼女にはこの戦闘の記憶は戻ってはいない、ただ……僕に言われたから、その言葉を信じて正体も分からない相手へと、変わり続ける武器を振るっている。

 

 

 そして決定的な一瞬は───遂に訪れた。

 

『置換:棍棒→細剣』

 細身の剣となったフローズンブレードは、確かに奴の胸を刺し貫いていた。

 

「な……あっ……」

 

 間違いなく致命傷だ、あの傷なら余程の回復魔法がなければもう……助からない。

 

「あっ───がっ、私は……こんな所で……ごほ……ッ!?」

 

 引き抜かれた半透明だった氷の刃は、今や返り血で真っ赤に染め上げられていた。

 放っておいても失血死するであろう、だがしかし……シエナがそんな相手をわざわざ見逃すわけもない。

 

 首目掛けて細剣が振られる直前に、奴は……その翼を広げて。

 

 

「こんな所で……終われは……終われはしないッ!」

 

 

 それから、パチンと指を鳴らしたかのような音が響いて───記憶を取り戻して。

 空高く飛びあがった彼女は、フラフラと大量の血液を撒き散らしながらも何処かへと飛び出した。

 

「追うよ、シエナ! 説明は……走りながら!」

「分かった、背負うから捕まって!」

 

 

 奴が向かうのは恐らく、本来の目的である……『聖浄』の元だ。

 その推測は正しかったらしく、文字通りの血反吐を吐きながら空を飛び続ける。

 

 身体はとっくに限界を迎えているだろうに、精神力だけであれは飛んでいる。

 それはまるで、死にかけた蛍が見せる最後の輝きのようだった。

 

 そして追いつけないままに、代弁者が居るであろう陣地へと辿り着く。

 

「嫌だぁ、死にたくない……死にたくないィ!」

「個の審判の時は、未だ訪れない」

 

 その先には、四肢を地面へと繋ぎ止められた魔族が囲まれていた。

 周りには立ち止まったまま、動かない……ではなく、動けない騎士の姿が散見されるものの。

 

 既に勝敗は決していて、この傷だらけの魔族が居た所で……変わるような戦況じゃない。

 そんな中、奴は代弁者へと真っ直ぐに突っ込んでいき……

 

「気を付けて代弁者、こいつは記憶を───」

 

 記憶を、どうするつもりだ?

 奴はスキルを消すことは出来ない、なら何故……どんな勝算が……

 

 

 それから、パチンと指を鳴らしたかのような音が響いて───

 

 

 

 

 

 

 

 

「───? 聖別する。其は不浄の身体を持ってはならない」

 

 二本の光の柱が、魔族の心臓へと突き刺さった。

 地面に縫い付けられたそれは、間違いなく致命傷で……致命傷で?

 

「───狙ったのは、お前達じゃ……ないッ」

 

 まさか、奴が消したのはスキルの使い方じゃなくて……

 

「ふふっ、あははは! 見て頂けましたか魔王様、このレーテリアの命懸けの献身を……!」

「個は何故、トドメを刺さずに……魔族と敵対している?」

 

 この場に捕らえられているであろう魔族に、トドメを刺す事。

 自らの命を文字通り……魔王に、捧げたのだ。

 

「死にたっ……もっと……早く……」

「どうか、貴方だけは私を……忘れ、ないで……」

 

 

 目の前に二体の魔族が死んでいるのを見て、誰もが声をあげられなかった。

 薄気味の悪い静寂の中、遠くの方で……「何か」が蠢いたような気がした。

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