スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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126.鳴動

 物言わぬ二体の魔族、まだ可能性は無いかと近づいてみても……すでに手遅れだった。

 2体の12魔将が事切れた以上、残り一体の12魔将に……『権能』のリソースは集約される。

 

「……個は何か、間違いを犯した?」

「いいや、悪いのは……いや、責任の所在を捜すよりも今は急がないと……」

 

 このままでは、一人で戦っている「戦争卿」が……危ない。

 早く伝えなければ、彼に付き従っている数百名の冒険者の命も危うい……!

 

「ノル君! 援軍は止めたけど……これは……」

「このままだと……マテルメアが活性化します」

 

 それは描いていた最悪の筋書き、最も恐れていた展開だった。

 とは言えここで恐れていても、何も事態は好転しない……どころか悪くなるばかりだ。

 

「彼らの元へ急ぎます、ついて来てくれますか!」

「承知。個は之よりノマルたちに同行する故、残党は個らに任せるとする」

 

 

 

 馬車に飛び乗って、急ぎで走り出してもらう。

 風そのもののような速度で、走り出す彼の背に乗って。

 

 だが異変は……すぐに起きた、ドクンと地面が揺れたような、そんな錯覚。

 そしていきなり遠くの方で山が隆起した───違う、あれは。

 

「なんですか……あれ……」

 

 あれはただの山なんかじゃ、なかった。

 空を埋め尽くすような……空を飛ぶ魔物の……群れだ。

 

 小さな点のような魔物たちが、まるで面のように空を覆い尽くしている。

 そして地上にはまるで海のように、地平線を覆うような魔物の群れ、群れ……群れ。

 

 あれがマテルメアの本気、最後に残った12魔将の力だと言う事なのだろうか。

 

【……いや、あれは不完全だ。私の知ってる世界よりも、ずっと緩やかだよ】

 

 あれで……緩やかだと?

 

 だとしたらどれだけ本来はどれだけ不味いと言うのだろうか。そして何故奴は……全ての12魔将が斃れて尚、不完全なのだろうか。

 

 そこまで考えて、一つの結論へと辿り着く。

 恐らくはもう一人の、お爺ちゃんの僕が12魔将の存在毎消してしまったのが大きいのだろう。

 

【これなら、何とかなるかもしれない……けど】

 

 もう一人のシエナの歯切れが悪いのは、一体何故なのだろうか。

 そういえば、全ての12魔将を倒した後に話があるとは言われていたが……それに関係する事?

 

 

 謎は積もるばかりだが、まずは現状を彼らへと伝えなければならない。

 僕達はやがて、魔物の海に呑み込まれそうな冒険者の集団を発見する。

 

「大丈夫───ですか!?」

「あぁ、俺らは平気だ……だが!」

 

 今も抗戦を続ける彼らの前にいる魔物へと、光の槍が降り注ぐ。

「代弁者」による、聖別……だがあまりにも敵が多すぎる。

 大規模な聖別を行うには時間が足りない、そして何より……倒してもキリがない。

 

 

 そして、その一団の中には……特徴的な真っ赤なマントを羽織った、偉丈夫が居ない。

 

 

「『狂戦士』は……」

「【戦争卿】は……彼は、俺らを逃がすために一人で殿を……」

「そんな、今すぐに助けに……」

「ノマル、冷静に判断して。個らでは合流できるかすら……怪しい」

 

 冷静な考えでは、此処は一度戻って体勢を整えるべきなのは分かっている。

 だがしかし、それではあまりにも……

 

「分かりました。この場は引いて、『神槍』と合流してから対策を考えましょう」

 

 余りにも見捨てるような判断だが、僕は今自分だけでなく……大量の冒険者とパーティメンバーの命を預かっている立場なのだ。個人的な判断で、彼らの命を危険にさらし……無駄死にさせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 撤退戦を終えて、やがて魔物の海が小さくなっていく。その中に未だ……彼は居るのだろうか、それとも。考えても仕方が無いが、どうしても考えざるを得ない。二日ほどの移動の末、世界が夜の帳に満ちた後……僕達は遂に拠点へと戻ることとなる。

 

 伝令からすでに自体は共有されていたらしい、僕達は数日間の強行軍の疲れを癒すためにようやく一時の休息を許される事となる。状態が長引けば状況は悪くなっていくばかり、ここからあまりゆっくりとはしていられない。

 

 

 そんな緊張感の漂う拠点にて、一人眠りにつこうとしていた時の事だった。

 

【話があるんだけど、良いかな。本当はこの後にしようと思ってたんだけど……状況が、変わったから】

「全然大丈夫だけど、どうしたの?」

 

 そんな中、もう一人のシエナが僕へと話を持ち掛けてきた。

 その口調は何時もよりもずっと深刻そうで、何か言いたくない事を口にしようとしている。

 

【あの調子なら12魔将を倒すだけなら、きっと何とかなる。だから……‥】

「……だから?」

 

 少しの間、言葉を止めて……それから意を決したかのようにその続きを言葉にする。

 

 

【マテルメアを倒したら、魔王は他の人に任せてさ。ソノヘンに帰りなよ】

 

 

 それは確かに、言葉にするのは勇気のいる内容だったのだろう。

 

「……なんで」

【なんでも、だよ】

 

 そしてそれ以上に、意味が分からない……なぜ彼女がそんな事を言うのか。

 

【故郷に帰ってさ、両親とこれまでの旅を本にしてもらって……ゆっくり過ごせばいいじゃん。それで……】

 

 その言葉は悲痛さに満ち溢れていた、彼女には得られなかった当たり前で普通の日々。何処か絶対に……僕が死ぬと確信しているような、そんな訴え。ただ敵が強いというわけではないと思う、何故ならそんなに魔王が強力だと言うのなら……そう伝えるはずだ。

 

「……何か、理由があるんだ。そして、それを言う訳にはいかない……言いたくない?」

【あはは、その通りだよ。こういう時は察しが良いよね……君】

 

 はーっと溜息を吐いて、それから何かを逡巡するかのような間が流れて。

 

【理由は言わないって言っても、どうせ納得はしてくれないだろうしなぁ……】

 

 

 ポツポツと話し出した彼女は、自身の記憶……その最期の記憶を語り出す。

 

【これは私の、生前の最後の記憶。私が魔王の首を切り落としたのと同時に……奴から放たれた『何か』が、私の胸を刺し貫いたの。一切の予備動作も、まして軌道すら見えず……最初から刺さっていたと言うような一撃】

 

 それは、疑問に思っていた1つの考え。

 

 僕よりもよっぽど強いシエナが、どうして魔王と相打ちになってしまったかの答えだった。シエナですら目で追えないと言う事は、僕ならば避けられるなんて慢心は死を招く事になるだろう。

 

【私の推測では……恐らく、魔王自身の死をトリガーとして発動する何か。奴を倒したとしても、決して勝者はハッピーエンドを迎える事は出来ない、そういう呪詛のような呪い】

 

 そして奴自身は、何食わぬ顔で1000年ほどの時間が経つと復活する。

 

【魔王を倒した勇者の物語は、そこで終わりを迎えるのかもね。そこにエピローグなんて訪れない】

 

 勇者の命と引き換えに、犠牲を払って封印する事しか出来ない……世界の癌。

 

 

【確かに魔王を倒さなければ、いずれ新しい『権能』を与えられた魔族が生まれるけど……束の間の平穏は訪れる、その間にきっと誰かが魔王を討伐してくれる。何も君達が頑張る必要なんて無いんだよ】

 

 それは考えてみれば当然のことだった、魔王が与えていた『権能』。

 それがすべて失われたとして、もう一度授けられない道理もない。

 

【せめて挑むなら、もう一人の私に刺させて。過ごした時が長ければ長い程、執着は強く大きくなる。今のあの子、君が居なくても生きていけるだけ……強くないよ】

 

 当然そんな選択肢はない、だけど……僕はどうすればいいのか分からなくなってしまった。

 このまま進めば、待っているのは後味の悪いビターエンディングだけ。

 

【言いたいことは、それだけ。私には、君を力づくで止める事は出来ないけれど……後悔のない選択をしてね】

 僕は……

【願わくば、君の……ノル君の骸なんて二度と見たくないって言うのが、私の願い】

 

 それきり、話すことは無いと静寂が空間に響き渡る。

 最後に残ってしまった12魔将と、魔王の持つ呪い。

 

 

 問題は山積みで、だけど解決策なんて見つからないままに時間は無情にも過ぎていく。

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