スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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134.託されたモノ

 どんよりと淀んだ空気の、氷のように冷え切った雰囲気の空間で。

 

「……シエナ」

「……分かってる、分かってるよ。ここで怒りに我を忘れるほど、子供じゃ……無いよ」

 

 ギリリと奥歯を噛みしめるシエナは、今も怒りに震えてその剣先は震えているものの……必死にその場に留まっていた。彼女にとっても、僕にとっても。到底許せるようなことではないが……怒りに身を任せて暴れても、大抵は良い方向には進まない。

 

「おや、あまりこう言う物語は好まれませんか?」

「好むも何も……」

「ですが、いずれ分かるようになりますよ」

 

 クルクルと指を回し、輪を描いた機動の先。

 何も無い筈の空間を、目を閉じたまま彼女は覗いているようだった。

 

「既定路線のハッピーエンド、誰も死なずに敵と敵で手を取り合って作る大団円。起承転結の無いありふれたエピソード、どれもつまらない……見るのも演るのも退屈過ぎて、端的に言えば飽き飽きしてしまったのです。それ故に……我が少しばかり、物語を面白くしてあげようとしただけなのです」

 

 

 奴の能力は、運命の操作。

 

 

 魔王に何ができるかは、此処に明らかになった。

 未だそれを攻略する事は出来たとは言えないが、対策する事は出来る。

 

 故に次は奴の思考を理解する所から、だが……あまりにも人間離れしていて読み辛い。

 

 能力の種が割れたというのに、一切焦る素振りすら見せない。

 戦いに勝ちたいなら、自分が不利になったことに少しくらい焦りを見せる筈なのにだ。

 

「攻撃してこないなら……こちらから仕掛けさせて頂きましょうか」

「うっ……ぐっ!?」

 

 そして……奴の攻撃が苛烈さを増している。

 あんなに重い大剣を、まるで重さなど無いかのように片手で振り回す。

 

 速く、鋭く───そして力強い。

 

「分かる、知る。知識とは重要な事である事は否定しませんが……分かっていてなお、どうにもならないのが運命というものなのですよ?」

 

 必中の効果こそ消えたものの、その分単純な戦闘能力が増え……単純な強さを増している。

 

「我が命に従い顕現せよ──────アイスナイト」

「速さを司る者よ───彼らに更なる俊敏さをお授けください」

 

 そして大規模な攻撃を振っても恐らくは、当たらないだろう。

 むしろ大規模な攻撃、予備動作のある攻撃程……奴には通らない。

 

 だからこそ、数を増やす選択肢は正解であるように思える。

 

「ううむ、やはり賛同は得られませんか」

 

 結局奴は、生きている人々を物語の登場人物のように消費しているんだ。

 奴は人間に敬意を持っているとは言っていたが、結局はその人間の紡ぐ物語が好きなだけ。

 

 

 更に言えば───その物語の終わりが、ハッピーエンドなど許せないから……否、つまらないから。

 

 

 小匙一杯の善意でもって、物語に苦みを……バッドエンドやビターエンドを目指す、脚本家気取り。

 それが奴の原動力、嗜好……「思考」の奥底にあるもの。

 

 これが小説や御伽話ならまだしも……実際に生きている僕達からすればたまったものではない。

 

 

 

「さて。あまり舐められても、格が落ちますので。少しばかり圧倒させていただきましょうか」

 

 またしてもその指がくるくると回り円を描いて、新たな運命を呼び込む。

 

 

「形あるものは全て───崩れ往く『運命』」

 

 

 猛烈な寒気を感じて、周囲を警戒するものの……奴自身に何か変わった様子はない。

 

「ノル君、逃げて!」

「逃げ……何処に!?」

 

 と思った、その次の瞬間、天井がグラリと揺れ───違う。

 落ちてきている、崩れ落ちてきているんだ。

 

 この巨大な魔王城の、この三階建ての城の膨大な質量が。

 この広間に吸い寄せられるように崩落を始めている。

 

 これは魔法でも、まして暴力でも無い……まさに天災。

 奴の能力の底を見誤っていたのかもしれない、直接の攻撃でなければここまで大規模な運命を呼び込めるなんて、思っても居な───

 

 

「運が良ければ、命は助かるでしょう。全ては『運命』が運ぶままに」

 

 

 全身を濁流のような瓦礫に押し潰されながら、不自然にポッカリと開いた瓦礫の隙間で。

 こちらをニコニコと見ていた魔王が、また一段と笑みを深めるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 気付けば、真っ白な空間にいた。

 まるで天国のような場所、心地良い暖かさに包まれた世界。

 

 

 そんな場所に倒れ伏す僕、その目の前に……誰かが居る。

 戦闘の、最中だったはずだ……そう思って立ち上がろうとしても、何故か体に力が入らない。

 

「ノマル。ノマル・フトゥーよ……」

 

 そこに居たのは、一人の綺麗な顔立ちの羽の生えた……人型の存在。

 その聞き覚えのある声に、安心感を憶える事こそあれど……危機感を覚えるような事は無かった。

 

「この姿で会うのは、初めてでしょうか。折角ですからティータイムと行きたいところですが……生憎、時間がありません」

 

 少しずつこの真っ白な空間に、罅が入っている。

 

「私達の同胞……がこの世界に……その責任は私達にあります……」

 

 ノイズがかかった様に、上手く聞き取れなくて。

 だけどその声は少し、寂しそうで……

 

「ですから、私の権能を、託します。だから、世界を……今まで……」

 

 待ってと言いたかった、だけど目の前が真っ白に淡く輝いて。

 

 

 

 ぶつりと、世界が切り替わった。

 

 

 

「ノマル。ノマル・フトゥー」

 

 何処か既視感のあるやり取り、だがそれは……低めで、これもまた聞き覚えのある声。

 

「苦戦していそうじゃの、ノマルよ」

「その声は……もう1人の僕? なら、ここは一体……」

 

 先程と違って、身体は動くし声も出る。

 

 僕は確かに、瓦礫に全身を押し潰され……そして、一瞬真っ白な世界が映っていたはずだ。

 それが気付けば、いつかシエナと約束を誓った木の下にいた。

 

 真っ黒な夜空が、何処までも綺麗に広がっている。

 

 

 そんな場所に、もう一人の僕……お爺ちゃんの彼がいるということはつまり……

 

「お察しの通り、ここは天国でもなんでもないわい。オシエルが介入しようとしたタイミングで、そのチャンネルをこう……グイッと弄るような感じかの?」

 

 規格外だ、僕よりもずっと強いとは思っていたけど……まさかあのオシエルさんに干渉できる程だったなんて。能力のレベルも、今の僕とは段違いで。

 

「それはそうじゃ、何せ……この能力は、オシエル本人から授かったものなんじゃから」

 

 オシエルさんから……授かった?

 さっきのは、つまり……

 

「オシエルは最後、お前にその力の全てを譲渡するつもりじゃったという事よ」

「それを、止めたという事は……」

「それも、お察しの通りじゃな。儂の世界では……すべてを救えたわけでは無いのよ」

 

 確かに、きっとオシエルさんの力があれば……僕がお爺ちゃんほどのスキルの力があれば、奴に勝てるのかもしれない。そして奴の望む通りの、誰かの犠牲を含んだビターなエンドを迎える。

 

「あやつは……儂に全てを託して……還りよった。その事がどうしても、心残りでのぉ」

「僕を呼んだのは……そういうこと?」

「ま、それもお察しの通りじゃな」

 

 そう言って、かっかっかと笑った僕は……それから僕の頭を撫でて続ける。

 

「そんな時、運よくこちらに干渉する事は出来るようになった。じゃけど、儂らではこちらの世界に干渉する事もそんなにできる訳でもない。この世界の儂に出来たのは、あの場で『刻送り』を潰し、12魔将の権能の完全集結を阻止するくらいじゃった」

 

 それは十分すぎる功績だとは思う、正直あの時の僕じゃあの2人には勝てない。

 そうなれば……恐らくクロッカス王国は大きな被害を受けていただろう。

 

 ツェツィと、王様も……きっと、おそらくは。

 それはあまりにも、大きすぎる分岐点だ。

 

「あの時の分岐点によって、未来はずっと別の可能性を得るに至った。お主の経験の中にこの状況を変える鍵は……既に宿っておる」

 

 この状況を変える手段があるとしたら、それは……奴の呪いを欺くには。

 

「奴が世界に干渉して問題ないのには、それだけの「理由」がある」

 

 ここまで来れば、足りないのは最後の一ピースのみ。

 考えろ、考え続けろ。

 

「答えは、出たようじゃな?」

「うん、どうなるか分からないけど……勝負に出るよ」

 

 その中に、1つだけ答えはあった。

 だから後は、奴を倒す事……それのみ。

 

 

「それじゃあ行ってくると良い、若人よ。挑戦するのは何時だって、若いモノの特権じゃからな」

「うん、ありがとうお爺ちゃん……行ってくる」

 

 スキルを発動させれば、少しずつ真っ黒だった空に光が射しこんで。

 意識が少しずつ……浮上していく。

 

 

『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』

「お主の旅路が……」

 

 

『WEB小説投稿サイトHAMELN』

「どうか……」

 

 

『小説閲覧設定:変換設定→三人称』

「素晴らしいものである事を、祈っておるよ」

 

 

 

 奴を……魔王を、この物語の登場人物の一人に落とし込め。

 

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