スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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135.勇者と魔王の戦いの結末

 大規模な崩落によって、室内だったはずの謁見の間では……淀んだ空が覗き、光が射し込んでいる。そんな瓦礫まみれのこの場所に、ぽっかりと不自然に開いた穴は、そこだけがまるで崩落など無かったかのように綺麗な空間を維持していた。

 

「さてさて、どうなったでしょうかねぇ」

 

 その中央で、周囲の様子を伺う彼女の態度はこの惨状を引き起こしたとは思えない程に能天気で。そして何より、攻撃をしたとは思えない程に殺意が無かった。まるで戦闘の結果そのものに興味は無いと言わんばかりに。

 

 そんな彼女の後ろから飛翔する長剣を───彼女はその目を閉じたままに首を逸らして避ける。

 それはまるで来ることが分かっていたかのように、そうなる事が運命だったと言わんばかりに。

 

「ちっ……」

「随分とお行儀が悪いですね、ですがそう言う所も好みですよ?」

 

 そのまま放物線を描いて、投げられた長剣は傷だらけの黄褐色の髪の少女の手元へと収まる。その後方には、氷で出来たドームが静かに佇んでいた。その氷は、役目を終えたと言わんばかりに花開いて……その中からは三人の少女たちが姿を現す。

 

「シエナちゃん、無事かい!?」

「私は。でもまだ、ノル君が……」

「今治療します! 癒しをもたらすものよ───」

 

 淡い光がシエナを包み、その傷を少しずつ癒していく。そんな光に包まれながらも、辺りを必死に見渡す少女。その瓦礫の海の中から、未だ彼女の望む彼が現れる事はなく。だがきっと、自らの信じる彼ならこの程度でくたばる筈はない───その気持ちに応えるように、瓦礫の海のその一部が、蠢く。

 

「ほう……」

「無事で……えっ?」

 

 パラパラと崩れ落ちる瓦礫の隙間から、煤に汚れ切った指先が這い出す。瓦礫に飲まれる前とは雰囲気の違う彼の様子に、思わず息を呑む両者。その身体には傷一つなく、その身体は瓦礫に飲まれる前と何ら変わらない。

 

「……ノル君?」

「おやおや、あれだけの崩落があって尚……無傷とは。本来は腕の一本や二本折れていた筈なのに」

 

 これだけの質量の崩落に巻き込まれ、無傷なんて言うのは普通───

 

「───あり得ない、のかもね」

「一体どのような絡繰を使ったのかは分かりませんが……ようやく、本気を出してくれるという訳ですね」

「……まずはお前を、物語に引きずり落とす」

 

 

『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』

 

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 立ち上がった彼は、自身にしか見えないその青白いウィンドウを眼前に表示させる。数多の選択肢と、これまでの積み重ねから彼が選んだのは───

 

『スキル:ルビ(るび)+注釈』

 

「仕組まれた■■(運命)、そういう■■(運命)へと導くもの」

 

「お前は、お前の名前は───魔王■■■■■(フォルエル)*1

「……おや、確かに今までの勇者とは毛色が違うようですね。ですが……それが分かった所で、何の問題があるというのでしょうか」

 

 

 隠されていた名前を世界に暴くための、そのスキル。

 ここに、「魔王」はこの物語の登場人物の一人に落とし込まれた。

 

 

 魔王は、その指をクルクルと輪を描くように回して新たな運命を呼び込んだ。彼らの攻撃は、自分には当たらず……そして自らの攻撃は必中するという運命は、ここに為された。

 

「シエナ、さっきのだ」

「うっ……うん!」

 

 大剣を指揮棒かのように振るう魔王の攻撃。それは瓦礫だらけの地面を余波だけで吹き飛ばし、しかし少女の頬を掠めるに留まる。確かに魔王の攻撃は命中した、それ故にこれ以上の追撃は発生しない。

 

「厄介ですね……」

「決められた運命が分かっていれば、対策は取れる」

 

太字二段階拡大

「速さを司る者よ───彼の者に更なる俊敏さをお授けください」

 

 ツェツィーリアのバフを受けて、その場から弾丸のように飛び出した彼は、魔王の首元へと剣を振るい───弾き返された。返す刀で放たれた大剣は、最低限で最小限の動きで避けて薄皮一枚を傷つける。今の彼の動きは先程までの剣技とは違う、まるで被弾を恐れない……暴力的で、攻撃的な……「攻めの極致」とも言えるような剣技。

 

 続けて連撃を繰り返す彼に、魔王はその異形の黒紫の爪を振ろうとして───

 

「───聖別する。何人も代弁者たる個を、傷つけようとしてはならない」

「───っ」

 

 攻撃を受け止めようとした獣のような異形の左腕は、天より降り注いだ光の槍によってその場へと繋ぎ止められる。其れは大いなる存在による「神罰」そのもの、何人たりとも神の裁きから逃れる事は出来ない。

 

「厄介ですね。我は少しばかり、天井の運命を弄っただけなのですが」

「個を意識しすぎてしまった事が、原因である」

 

 全体攻撃にすら反応する『聖浄』、神の裁定により本来の運命は歪められた。攻撃を受け止める事が物理的にできない以上は、その氷の剣は魔王の肩口を切り裂き手傷を負わせる。運命とは、万物に定められているが万能ではない。実際何があっても起こり得ない未来は、本来引き寄せる事など出来ない。

 

 開いた肩の傷を、楽しそうに撫でながらも目を閉じたまま……余裕の表情を崩さない魔王。まるで予定調和だと言わんばかりの表情だが、確かに追いつめられているのは魔王の側である。

 

「素晴らしいです、こうも簡単に予想を超えて来るなんて……流石は今代の勇者たちですね」

 

 やけに満足そうな笑みを浮かべて、魔王はその大剣を構える。羽根と左腕には光の槍が突き刺さり……如何に強力な身体能力をしていたとしても、その傷では満足には動けない。少しずつ、対処できる行動は減っていく。

 

 

 

「シエナ……これで決め切ろう」

「うん……分かった!」

 

 そして遂に、決定的な一瞬は訪れる。

 

 2人は左右から、挟み込むように魔王へと迫り……シエナ・ティソーナの振るう長剣が、魔王の爪に阻まれて火花を散らす。そのあまりの重さに、魔王は受けきるのが精一杯で反撃を取る事など出来なかった。例え防ぐことを運命づけられていても、そのあまりにも力強い一撃は魔王をも圧倒していた。

 

「……ノル君ッ!」

 

 そして彼の振るう氷剣を防ぐために、魔王は渾身の力を持って大剣を振って迎撃をする。それは決められた定め、例え如何に渾身の一撃だったとしても……彼の放つ剣は、魔王の大剣によって防がれる。そういう、運命の元にあった。

 

 

 その前に、真珠のような白い髪の少女が躍り出るまでは。

 

 

「個を───傷つけようとするとするのは……これで()()()である」

 

 振るおうとした大剣を引っ込めようとして───も、もう遅かった。神は、学ばぬ愚者を許容しない。一度は裁かれたその罪を、二度繰り返そうとする愚者へと「代弁者」はただ、神の言葉を伝える。神の裁きを、その口より告げる。

 

「───聖別する。学ばざるは、罪深き事である」

「───っ」

 

 大剣の切っ先が彼女に触れる直前に、天よりと降り注いだ光の槍はその右腕を貫きその場へと繋ぎ留める。振るわれるはずだった大剣は、その動きを止めて必然的に───

 

 

太字二段階拡大()()

()()()()()()()()()()()()()

 

「これで……終わりッ!」

 

 ───振るわれた氷の剣は、魔王の胴体を───確かに真っ二つに切り裂いた。

 

 三重もの強化を施された、氷の剣による一閃。息を吸う事を忘れるような、かの『剣聖』にも届きそうなくらいに鮮やかな剣筋は確かに、魔王の身体を切り裂くのに十分な鋭さを秘めていた。鮮血が舞い、魔王は力なくその場へと崩れ落ちる。

 

 

「勇者……よ……」

 

 

 胴体を真っ二つに切り裂かれた魔王の手元がクルクルと回って、その爪先が空を裂こうとして───その腕を氷の剣が切り裂いて、ドスリと地面に音を立てて落ちる。

 

 

「みご……と……」

 

 

 攻撃は、行われず……魔王の身体はその暖かさを無くしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから───ドスリと肉を裂いて何かが突き刺さったような音が、やけに静かな空間に鳴り響いた。

 

 

 驚愕に目を見開いた様子の彼、そんな彼の胸元にぽっかりと大きな穴が開いていた。その傷は、決められた運命によって開かれた、どんな策を弄そうと避けられず、癒える事のない……決して塞がる事のない傷。

 

 攻撃が行われたかどうかなど、最早関係はなく……また、避ける方法など初めから存在はしない。

 

 

 空から差し込んだ光が、彼の真下の瓦礫だらけの地面を……その穴の形に照らしていた。

 

*1
魔王■■■■■(フォルエル):その『権能』は『運命の操作』。魔王は1000年毎に復活し、12の将と供に世界を混乱へと陥れる




次回、エンディング
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