スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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遅くなりましたが毎日投稿です



14.分水嶺

 その日の空は晴れ渡っていて、雲一つない快晴だった。昨日の約束では、朝起きて本日の主役を起こしに隣の家まで向かう事になっていた。

 

「起きてシエナ、皆もう待ってるよ?」

 

「ん~もう少しだけ~」

 

 今日の主役は随分と寝坊助らしい、大方昨日楽しみで寝付けなかった……と言う所だろうか?

 

「そっか、今日の朝ごはんはシエナの好きなパンケーキらしいんだけどなぁ……」

 

「えっ、起きる起きる! 着替えるから待っててノル君!」

 

「せめて僕が出て行ってから着替えてね!?」

 

 ベッドから文字通り飛び起きたシエナが着替えを始めようとしたので急いで部屋を出る。リビングの椅子に座って彼女を待っているが、埃一つ溜まっていなかった。彼女がこちらの家を使うのは寝る時位のはずだが、家自体は綺麗に保たれている。それが彼女が几帳面だから来るものなのか、それとも何か思う所があるからなのかは分からないけど。

 

「お待たせノル君!」

 

「それじゃいこっか」

 

「うん!」

 

 スキルを授かってから凡そ一年程が経った、僕も彼女もこうして立って並んでみると少し大きくなったなと思う。冒険者になれるのは特例が無ければ15歳から、その二年の間にどれくらい大きくなれるだろうか。

 

 それからはとても楽しい時間が過ぎていった。

 

「これ誕生日のプレゼント。カジおじさんの所で選んで来たんだけど……」

 

「わっ、一番しっくり来たやつだ! 流石ノル君だね!」

 

「ふふっ、気に入ってもらえて嬉しいな」

 

「父さんたちからもプレゼントだ、シエナちゃんに似合うと思ってな」

 

「わぁ~真っ赤なリボン! ありがとうノル君のパパとママ、つけてもいい?」

 

「勿論よ、シエナちゃんが喜んでくれてよかったわ」

 

 プレゼントを渡して。

 

「甘くておいしい……!」

 

「夜ご飯はチキンのローストだけど、そんなに食べて食べれそうかしら?」

 

「全然大丈夫!」

 

 ご飯を食べて。

 

 村の中を見て回ったり、昔話に花を咲かせたり。どんな冒険者になりたいかなんて未来に想いを馳せたりした。とても……とても楽しい時間だった。

 

 

 

 

 そんな、楽しい時間に陰りが見えたのはお昼を過ぎて暫くしての事だった。夕飯の支度をしていた僕達だったが───どうやら村の様子が騒がしい。

 

「……何かあったのかしら?」

 

「俺が話を聞いて来るよ。なぁに、どうせまた村長の爺さんが腰でもやったんだろ」

 

 そう言って父さんが席を立つと殆ど同時に、家の扉が乱暴に開かれた。驚きのあまり声を失っていた僕たちに告げられたのは、想像よりもずっと悪い知らせ。

 

「まっ、魔物の群れが───近くまで来てるらしいんだ!」

 

「───ッ。父さんと母さんは村の広場に行ってくる。ノルとシエナちゃんは荷物をまとめておくんだ」

 

 いきなりの事態に僕は困惑するしかなかった。もしかしたら大したことないかもしれない。きっとそうに決まってる。そんな言い訳を捜し続けている脳内とは裏腹に、僕は荷物をまとめる為に立ち上がっていた。

 

「……荷物をまとめようか」

 

「えっ、どういう事? そんな、何でこんないきなり……」

 

 困惑するのも無理はないと思う。だけど今の事態はきっと一刻を争う。例え杞憂に終わったとしても、備えだけはしてはおかなければならない。

 

「きっと大丈夫だよ、だけど準備はしておくに越したことは無いだろう?」

 

「……うん、そうだね」

 

 空に浮かぶ太陽は少しずつ姿を隠し始めていた。

 

 

 

 父さんたちが帰ってきて告げたのは、考えられる中でも最悪の部類。結論から言えば───魔物の群れがこの村に向けて迫ってきているとの事だ。

 

 他の村から来た彼の言によると、100体にも届こうという魔物の群れが村を襲ったらしい。理由や目的は全くの不明だが、一直線にこの村の方向へ向かって来ているらしい。

 

 そして問題なのはその中に『人型の魔物』の姿が確認されたとの事。それがもし本当なら、その群れの主は───『魔族』だ。人と同等の知能を持ち、決して人と相いれないという魔物の一種。彼らは略奪と殺戮を繰り返して、ここに向かって来ている。

 

「なんでそんなのがいきなり……」

 

「分からない……けど」

 

 村長さん達が会議で決めたのは、戦えない老人や子供達を近くの村まで避難させて、残った大人たちで警戒態勢を敷くことだった。

 

 彼等の進行速度は人が歩くよりずっと早い。進路にあった村の彼は馬で駆けてきたようだが───ただ逃げるだけではいずれ追いつかれてしまうだろう。そもそも何を目的に彼らがこちらの方向を目指しているのかも分からないのだから、人の多い方を目指して追ってくる可能性もある。それなら道で襲われるよりも、村の内部で迎え撃った方が確率があるとの判断だそうだ。

 

「だったら私も残って戦う───! 知ってるでしょ、私は『剣聖』なんだよ!?」

 

「シエナちゃん。酷な事を言うが『剣聖』だからこそだ」

 

「なっ、なんで……!」

 

「……戦えないお年寄りや小さな子を守ってあげられるのは、シエナちゃんしかいないんだよ」

 

 諭すように告げた父さんだったが───おそらくは方便だ。『剣聖』は未来に必要な人材だから……‥これもきっと違う。

 

「ノル、シエナちゃんを頼んだぞ。お前はきっと将来良い冒険者になれる」

 

「───っ。分かったよ、父さん」

 

「そんな、最後のお別れみたいな事言わないでよ!? だって……だって!」

 

「シエナちゃん、皆を頼んだわ。ママのお願い聞いてくれる?」

 

「わ、私が皆を守るから……! だからすぐに追いついてね、約束だから!」

 

「えぇ───本当に愛しているわ、2人とも」

 

 本当に家族だと、娘のように思っていたから。だからこれから先の死地に連れて行きたくなかった、きっとそれだけのことなんだ。

 

 

 何処か現実感が無いまま事態は動いていく。そうだ、現実感が無いんだ。俯瞰しているような視点と感情、僕は未だこの事態を呑み込めていなかった。悲しくて、認めたくなくて、苦しくて……だけどそれに現実感が無い。

 

 明日、ベッドで目を覚ましたら全部が夢で。そんな未来が来るわけがないなんて一番僕が分かっているのに。

 

 今思えば、この事態が起こる予兆は日常の中に散りばめられていたのかもしれない。

 

【事態は一刻を争うのだ】

 

【物語みたいに魔王が復活する訳でもないでしょうし……】

 

【最近は魔物が多いって自警団の連中も言ってたからよ】

 

 まるで点と点が線で繋がるように、過去の出来事が想起される。そんな事に今更気づいても、もう遅いのかもしれないけど。

 

 

 

 

 暗くなりつつある村の入り口に老人や子供たちが集まっている。歩けない怪我人や荷物を積むための馬車が二台だけあったのは、不幸中の幸いと言うべきだろうか。大人たちは武装してバリケードを作っているし、もう猶予は無いのだろう。

 

「……そろそろ出発かな」

 

 僕はそんな入り口とは真逆にいた。それは他の村から伝令が来た方角……

 

 つまり、僕は一人で魔物の群れのいる方へと向かおうとしていた。

 

 これから起きる事を考えると恐怖で手が震える。立っていられない程の恐ろしさに足がすくみそうになるのを、必死に杖を握って倒れないようにするのが精一杯だった。

 

 例え僕一人が行ったって焼け石に水かもしれない。今ここでこんな事をするのは、父さんと母さんの遺志に泥を塗るような所業だ。間違ってる、正しくない。僕は『物語の英雄』なんかじゃない。

 

「そんな事は分かってるけど」

 

 ここで村の皆を。父さんと母さんを見捨てて生き延びるくらいなら、死んだ方がマシだと思ったから。だから僕は行く、たとえ意味がなくたって最後まで足掻いていたい。たとえその結果命を落とすことになっても。

 

「───やっぱりそう言う事だと思った、ノル君聞き分けが良すぎるもん」

 

「シエナ、子供たちが集まるのはあっちだよ。僕もすぐ行くから先に行っててくれる?」

 

 そんな僕に話しかけたのは、ここに居るはずのない人物。それが意味するのはつまり───オシエル君は彼女を引き止めるのに失敗したらしい。

 

「……嘘つき。置いていかないって約束したのに」

 

「大丈夫、僕もすぐ行くから」

 

「ノル君は嘘をつくときには絶対に目線を合わせないよね」

 

「……ダメか。でも、僕が今からしようとしてることは、きっと正しくない行いだよ」

 

 勇気と蛮勇を履き違えたような行為だ。僕だって魔物をすべて倒せるなんて微塵も思ってはいない。だけど、もし少しでも進路が逸れれば、村の皆が逃げる時間が作れればそれで良いと思っていた。それにシエナを巻き込みたくはなかったんだけど───

 

「もう大切なものを守れないまま惨めに生きるのは嫌だから」

 

 ───どうやら、彼女の意思は固いらしい。説得に応じてはくれなさそうだ。

 

「それに生き延びられたとして……後悔に苛まれながら、帰ってこない誰かを待ち続けるような生活を過ごす位なら───死んだ方がマシだよ」

 

 余りにも実感の込められたその一言は、彼女の境遇を考えれば納得のいくものだった。

 そう、奇しくも僕達の結論は一緒だったんだ。

 

「───実は僕もそう思ってたんだ」

 

「本当? やっぱり私達……気が合うね」

 

 

 今でも、怖くて怖くて怖くて怖くて───仕方ないけど。

 

 杖を握る手の震えは、いつの間にか治まっていた。

どれくらいが好み?

  • 主人公が無双無双してる方が良い
  • 紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい
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