スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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15.成長と襲来

 村から少し離れた位置にある一番高い丘に登って辺りを見渡すと、確かに魔物の大群がこちらに向かって来ている。見覚えのある狼型の魔物もいれば、見た事のない大きな嘴を持った鳥の魔物もいる。様々な化け物の中に、人型の魔物の存在は見受けられなかった。

 

 一斉に走る彼らの足元の地面には土煙が立ち、花や草は踏み荒らされている。もし、彼らが村に到達すれば村も同じように踏みあらされることになるだろう。

 

「手筈通り、まずは魔法であいつらの進行を少しでも止める」

 

 もしグレイ師匠位の魔力があれば殆どを一掃できたのかもしれないけど。生憎僕の魔力量は一般的な魔術師のそれと大差ない。だから使う魔法はよく考える必要がある。

 

「燃え盛る炎よ、我が魔力を薪として燃え上がり」

 

 如何に魔物と言えど、獣である以上は本能的に炎を恐れてくれるはずだ。本当は草木や森がある場所でこんな魔法を使うのは正しくないんだろうけど、背に腹は代えられない。

 

「我が眼前の敵を吹き飛ばしたまえ───」

 

 そして僕の魔力ではあくまで一般的な魔法使いの威力しか出せない、だからこそ魔法とスキルを掛け合わせる。タイミングは───ここ。

 

()()

()()()()()()───ッ!」

 

 生成された炎の球体は不自然に揺れると、一回り程大きくなる。魔物の群れに打ち出されたそれは群れの中央に向かっていき───

 

「さっすがノル君、ナイスだよ!」

 

「───っ、ありがとうシエナ。だけど……」

 

 ───大きな爆炎となって、彼等を炎に包む。20体ほどは巻き込めただろうか? あれだけの熱と爆発だ、上手く行けば奴らも進路を変えるはずだが……依然として奴らは村のある方向へと進行を続けている、燃え続ける仲間など気にする様子もなく。まあ、彼等に仲間意識なんてものがあるのかどうかは分からないけど。

 

「嫌な予想は当たっちゃったね」

 

「だけどここからは私の出番だよ」

 

 異種の魔物同士が徒党を組んで群れを成して何処かに向かっているなんて言う状況は、あまりにも不自然だった。即ち、この群れを率いるないしは村に差し向けている何者かが背後にいるという事。

 

「私は流石に飛んでるのは厳しいかも、そっちはノル君に任せてもいい?」

 

「うん、任されたよ」

 

 僕の魔力量的にあんな大きいのを何発も撃つことは出来ない。だから仕留められそうなのは近接で仕留めつつ、空を跳ぶ魔物は魔法で撃ち落とすという形を取るしかないだろう。ところで『厳しい』ってあの高度の魔物をどう落とすつもりなのだろうか。

 

 眼前まで魔物の群れが迫っている。少し怖いけどこんな時の為の短剣だ、飾りなんかじゃない。進路にいる僕を邪魔に思ったのか、牙を剝いた狼型の魔物……『ハウリングウルフ』に意識を向ける。もっと……もっとだ。

 

「ガルゥゥゥウウウウウ!!!」

 

 この一年、ずっと『剣聖』の素振りを見てきたんだ。お前程度の噛みつきなんて見切れないはずがない。

 

 世界がずっと鮮明に見える。狼型の魔物は両の足で地面を蹴り、前足を振り上げてこちらにその牙を向ける。目前に迫った鋭い牙も、長い爪の生えた前脚がどう振るわれるのかも見える───視える。まるで、小説の描写のように。

 

「そこ───ッ!」

 

 だからその牙を避け、毛皮で包まれた首に短剣を突き立てる。狼の突進の勢いもあったのだろう、突き刺さった短剣は狼の首を裂き地面に斃れた狼はそれ以上動く事は無かった。

 

 だが、倒した魔物に気を取られている訳にもいかない、空を飛ぶ魔物も撃ち落とさなければいけないのだから。ちょうど前方に猛禽類の魔物が空を駆けていくのが見える。

 

「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───」

 

 最も使い慣れた魔法であり、最も練習した詠唱でもある。

 

「───アイスランス」

 

 そして、最も精度に自信がある魔法だ。発射された氷の槍が翼を貫くと、『それ』は空を飛べなくなった事による自由落下を始める。

 

 シエナは───無事だな。突進してきた狼を両断しながら、返す刀で硬そうな甲羅を持った二足歩行の亀のような魔物を真っ二つにしている。そのどれもが一撃必殺であり、近づくものを切り刻み続けている。

 

「ノル君ッ! あっちの方!」

 

 シエナが示した方向にいたのは、灰色の体毛を持った猛禽類の魔物だった。空を飛んでいる彼らを打ち落としたい所だけど、その数が問題だった。

 

「4匹も同時に……!」

 

 魔法には詠唱が必要だ、今から準備したとしても撃ち落とせて1、2匹。つまり圧倒的に手数が足りない。そこまで考えて、一つ思い至ったのは彼らの特性。つまり、翼さえ傷つけてしまえば彼らは飛ぶことができなくなるということだ。

 

 それだけなら、そこまで火力は必要ないということ。

 

『スキル:ルビ(るび)

 

我が敵を貫け(凍てつく槍よ)───アイスランス!」

 

 氷の槍は一羽目の翼に突き刺さると、槍の重みに耐えられずボトリと地面に落ちて動かなくなる───次。

 

「───アイスランスッ(凍てつく槍よ、我が敵を貫け)!」

 

 二本目に放たれた氷の槍は、流石に火力が足らなかったのか翼に突き刺さる事は無かったものの……翼を傷つけられた猛禽はふらふらと高度を落とし続けている。あの様子なら、村までたどり着くことは無いだろう。つまり、この威力で良い。

 

「───アイスランス(凍てつく槍よ、我が敵を貫け)!」

 

 3本目と同様に放たれたやや小ぶりな氷の槍が放たれると同時に、4羽目の鳥型の魔物が僕の頭上を通過していく。今から詠唱して間に合うかどうか───

 

「ノル君、あれは任せて前に集中してて!」

 

「分かったっ!」

 

 跳びかかって来た角の生えたウサギを躱し、すれ違いざまに短剣を首に突き刺す。任せてとはいったがどうやって……なんて思ったが、彼女は氷の槍が突き刺さったままの猛禽の首に剣を突き刺すと、翼に刺さった氷の槍を引き抜いて投擲の構えを見せる。

 

「───堕ちろッ!」

 

 彼女が綺麗なフォームで投げた氷の槍は、凄まじい速度で飛んでいき───鳥型の魔物を後ろから貫いて、空に真っ赤な血の花を咲かせる。

 

「ナイスだ、シエナ!」

 

「ノル君こそ! それにしても大丈夫? スキルと魔法を使いすぎると……」

 

「魔力はともかく、スキルの方はまだ大丈夫!」

 

 そこまで消耗の大きな使い方はしていないので、まだ余裕はあるが……魔力の方は少し心許無い。何体ほどの魔物を倒せただろうか。シエナはかなりの数の魔物を倒していたとは思うが、流石に正確な数までは把握できていない。

 

 

 

 短剣にも刃こぼれは無いし、体力にもまだ余裕はある。このままなら村に一匹も通さず……なんて甘い考えが脳裏を過ぎった瞬間の事だった。背丈の倍程もある岩が僕に向かって飛来し───

 

「危ないッ!」

 

 ───岩は一刀の元に切り伏せられたものの、細かい破片が雨となって僕達を襲う。

 

「ノル君。怪我はない!?」

 

「ごめん、ありがとう……」

 

 腕は少し痛むが、戦闘に問題は無いだろう。だけど、もしあのまま直撃していればどうなっていたかは想像に難くない。

 

「ううん、それにしても一体誰が……」

 

「チッ、その剣筋……お前剣聖だな? 剣聖は王都にいると報告があったが───まあ丁度良いか」

 

 ゆったりと現れたのは赤い角の生えた人型の魔物。

 

「人語を解する……魔物」

 

 それが意味するのはつまり……

 

「おいおい、俺たちを見るのは初めてかよ? なら自己紹介してやらねえとな」

 

 人と同等の知能を持ち人語を介しながら───人類に仇なす、決して相容れない存在。

 

「俺様こそが『魔族』。名はランドウィンだ。今から死ぬお前らが覚えても仕方ねぇけどよぉ!」

 

 そう言いながら、赤い角の魔族が背負っていた大きな大剣を振るう。禍々しいオーラに満ち溢れたそれは巨大でありながら、振るわれた時に鈍重さを感じさせなかった。それだけあの魔族の膂力が常人離れしているという事だろう。

 

 

 戦闘が始まろうとしたその矢先───村の方向で火の気が上がるのが見える。

 

「ギヒッ、始めやがったかぁ。出遅れたぜ」

 

 なんで───取り逃した魔物はいなかった……そのはずだ。それでも絶対とは言えないし、他の道を通ってきた魔物がいた可能性もある。村の皆は心配だけど、目の前の脅威に……

 

「行ってノル君! こいつの相手は私がするから!」

 

「……シエナ」

 

 僕はこの場でどうするべきなんだろうか、冷静に考えて行くべきじゃない。魔族と魔物を相手取るなんて如何にシエナが強いと言っても限度があるだろう。

 

「私を───信じて」

 

 それでもシエナが信じて欲しいと言ったから。

 

「……分かった」

 

 あいつの反応からして、村で起きたあれは自然発火なんかじゃない。今『ソノヘン』では何かが起きている。戦力を分けるのは愚策も愚策だが、それでも間に合わなくなってからでは遅い。

 

「はっ、行かせるわけが無ぇだろうが!」

 

「お前の相手はこの私ッ!」

 

 僕の方に向かってきた一閃は、シエナが受け流した事により地面を叩き大きな土煙と衝撃を生み出す。勢いよく走りだそうとした僕に向かって魔物たちが駆け出すが……僕は土煙に紛れてスキルを発動させる。

 

 

『特殊タグ:不透明度

 

という人間の存在感が薄れていく

 完璧に気配を消すことは出来なかったけど、それでも気配察知に優れた相手じゃなければ、攻撃でもしない限り気づかれないと思う。

 

 

 剣同士がぶつかる鉄の鈍い音を背に走り出した僕は、後ろを振り返らず一心不乱に走り続ける。シエナならきっと大丈夫だと信じて。そして、この先に待つ『ナニカ』に嫌な予感を感じながら。




やっと書きたかった異能力フル活用バトルが描けた、次回に続きます。

どれくらいが好み?

  • 主人公が無双無双してる方が良い
  • 紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい
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