村までの道のりを走り続ける、ただひたすらに。気配を薄めたお陰か道中で魔物に襲われることは一度も無かった。残してきたシエナは心配ではあるものの、僕は僕のやるべきことを為すだけだ。
村に近づけば近づくほど、村で火の気があがっているという事が実感として重くのしかかる。何事も無いなんてことは無いのだろう、それでも少しでも多くの人が無事でいてくれと願う事しか僕にはできない。
ようやく村に辿り着いた僕の前にあったのは───
「なんだよ……これ……」
───まるで叩き潰されたかのように破壊された村の門だった。魔物の突進なんかで破壊された訳じゃない、その全てが尋常じゃない程の一撃で破壊されたようだった。
不幸中の幸いというべきか、その中に人の姿は見受けられなかった事だ。村長さんの家にバリケードを作って迎撃すると言っていたから、そのお陰だろう。それにしてもこの村で一体何が起きているというのだろうか。そんな事を考えていた時、村の中で一際大きな破壊音が鳴り響いた。
「急がなきゃ……だけど」
これだけの破壊音……この先に居るのだろう。この惨状を引き起こせるだけの存在が。果たして僕に勝てるのだろうか、なんて意味の無い問いだったかもしれない。
覚悟は村を出たあの時に決めたのだから。
断続的になり続ける破壊音を頼りに向かったその先にいたのは、2mをゆうに超す人型の魔物。立派な角が生えているという事はつまり───こいつも『魔族』だということだ。幸か不幸か彼以外に魔物の存在は視認できなかった。
「───なんだ。やっと村人を見つけたと思ったらただのガキかよ」
存在感を希薄にしているというのに、相手は僕の事を既に視認している。ここに来るまで誰にも気づかれなかったというのに、一目で見破られるという事は彼は相当な実力者だという事だろう。
「なんでこんな事を……目的は何だ」
もしかしたら交渉の余地があるかもしれない、そうでなくても相手の目的を知ればこの村から遠ざける事が出来るかもしれない。そんな僕の淡い期待は泡沫のように消えることになる。
「この村に『剣聖』が生まれたと報告があったからな」
「残念だけどこの村に『剣聖』は───!」
「あぁん? 何か勘違いしているようだなガキ。『剣聖』がいるとしたら王都だろうよ。わざわざ『剣聖』を育てるのに、こんな辺鄙な村に置いておく必要はねぇ」
「だったら何のために……」
その質問を聞いた『それ』は、純粋な悪意を滾らせてニヤリと嗤う。
「この村に来たのは『剣聖』の家族に用があるからだ。『剣聖』に対する人質にして良し、皮を剝いで盾に縫い付けても良し。こんな良いものを襲わん手が無いだろう?」
僕は『魔族』が人と同等の知能を持ち人語を解しながらどうして分かり合えないのか。彼らが『人類に仇なす決して相容れない存在』と呼ばれているのかを理解していなかったんだと思う。
「どうだ、『剣聖』の家族とやらが何処にいるか教えれば……お前だけは飼ってやってもいいぞ? 前に飼っていたのは丁度壊れてしまったのでな」
シエナがこの事を知ればきっと苦しむ。自分のせいで村の皆を危険に巻き込んだと考えかねない。悪いのは……シエナじゃないのに。
「───なら探す手間が省けたじゃないか」
「……あ?」
生まれて初めて感じる負の感情に身が竦みそうになるけど、それでも前を向け。虚勢でも良いから目の前のこいつを引きつけるんだ。村の皆には手を出させない。
『特殊タグ太字』
「僕が『剣聖』の───兄だから」
「ギヒヒッ、こいつぁ傑作だぁ! お前を殺せば『剣聖』様のさぞ良い顔が拝めるだろうなぁ!」
相手は徒手だが……それはつまり自身の肉体に絶対の自信があるという事。
「魔王軍幹部直属───12魔将の『鋼鉄のシャリブレン』様だ。精々、自分の無力さを噛みしめて死んで行けよクソガキ」
そして絶対にシエナとこいつを会わせたりしてはいけない。
例え誰であろうと、こいつは此処で───必ず殺す。
相手までの距離は30m程、十分に先手を取れる距離だと判断して魔法を放つ。
「凍てつく槍よ、我が敵を貫け───」
『スキル:
「
だが、渾身の一撃を受けてなお───
「おいおい、剣聖の兄だって期待してみれば魔法使いかよ。がっかりだぜ」
───彼の身には傷一つついていなかった。
驚異的なまでの攻撃力と圧倒的な防御力。その圧倒的なフィジカルの強さは、搦め手や条件付きの強さと違い……格下相手にはワンチャンスも無いということ。
目の前に迫った魔族が右手を振りかぶると同時に、世界がずっと鮮明に見えていく。右手を振りかぶったストレートを身を捩って避ける。それだけで風圧が頬を僅かに裂く。まともに一撃受ければそれで『終わり』だろう。
左から顔に向かって放たれたフックを後ろに体勢を下げて避ける───と同時に脇腹に向かって飛んで来た蹴りを後ろに避け。そして再度放たれた右のストレートを───避けきれない。そう判断して短剣を盾に受けに回る。
「───ぐっ!」
大きく吹き飛ばされて家の壁に激突する。攻撃を受けた時に使った左手に鈍い痛みが走る。今ので殆ど力が入らなくなった。
視えていても反応できるかはまた別の問題だ。圧倒的なフィジカルから放たれるラッシュを避けきれる程僕の身体が動くわけではない。
『特殊タグ:注釈』
『鋼鉄のシャリブレン』*1の弱点が分かればと思ってスキルを使用したものの……残念ながら彼の硬さは弱点がある類のものでは無い。
「オラッ! 精々無様に這いつくばれよ!」
壁に叩きつけられ膝をついていた僕を、敵は当然だが待って等はくれない。押しつぶすように両の手を振り上げた彼から距離を取るべく大きくその場から距離を取ると、振り下ろされたその一撃は家の壁をまるで豆腐のように叩き潰す。
体力も魔力も……スキルを使うのも有限だ。このまま根競べをすれば不利なのは僕なのは分かっているけど、有効打が見つけられない。『取り消し線』はあくまで物事をなかった事には出来ない、それに詠唱よりも肉体のフィジカルで戦うタイプだ。『傍点』で強化した魔法は通じず、『注釈』の結果も決定的な弱点が分かったわけじゃない。
「さっきの威勢はどうしたよ!? 逃げてばかりで潰し甲斐がねぇぞ!」
顔に向けられた右手のアッパーを避けつつ、振り向きざまに短剣を腕に向かって突き刺すが……金属質な音と共に弾かれるだけに終わる。短剣を離さないように握っているだけが精一杯だった。
速く硬く───力強い。純粋な暴力を体現したような存在だ、僕の手札のどれもが通じず───彼の攻撃の全てが一撃必殺と言える威力。
「……はっ……はぁ」
肩を息でするのがやっとの現状。奴を倒すには何もかもが足りない、待っていても事態が好転する事は無いだろう。世界は物語のように劇的じゃない、奇跡が起きて不思議な力に目覚めるなんてそれこそ───絵本の世界だけだ。
僕達は今ある手札で戦うしかない、唯一の勝機があるとすればそれは……
「おいおい、もう終わりかよ。せめて死ぬときはとびっきり苦しそうな顔をしててくれよ? じゃねえと俺も愛しの『剣聖』様へのサプライズの甲斐がねえってもんだ」
相手が僕を侮っている事、この一点に尽きる。きっと殺そうと思えばもっと早く勝負はついていたと思う。それでも僕がこうして生きているのは、奴が甚振る事を目的としているからだろう。
急所狙いの一撃で仕留める───これしかない。
右から来るストレートを躱し、大きくその場で飛び上がる。
『鋼鉄』という名の通り頑丈なのだろう、だからこそ狙いをつけるのは眼球。
『スキル:
僕は短剣を強く握り、眼球へと
「───ッ、なんで」
───さらない。先ほどと同様の硬い金属音が響き渡り、弾かれた僕は空中で大きく姿勢を崩す。
「そんな部位、対策しねえ訳がねぇだろ」
足場のない空中に逃げ場なんてなかった。丸太のような太さの腕が、僕の眼前に迫って───
ちょっと明日投稿できるか怪しいです、出来るだけ頑張ります
どれくらいが好み?
-
主人公が無双無双してる方が良い
-
紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい