───夢を見ているんだろう。
燃える村の中で、相対していたのは『僕』と『魔族』。
だけど僕が持っていたのは杖なんかじゃなくてありふれた長剣だったし、村のそこら中には人や魔物の死体が転がっていた。だからきっとこれは夢だ。
声は聞き取れないけど、夢の中の僕は何かを喋っている。それを聞いて口角を上げた『魔族』。
この夢は一体何なんだろうか、そんな事を考えていた所で。
夢の中の僕は剣を振りかぶって───無情にも叩き潰された。
そんな所で意識がゆっくり浮上していく。
───目が覚める。身体中が焼けるように痛い。それにおそらく瓦礫の下敷きになっている。僕は確か───魔族と戦っていて。攻撃が弾かれてそれで───どうしたんだっけ。そうだ、あの時避けられないと悟って左腕を盾代わりにして。そこまで思考を回して気づいた、左腕に全く力が入らない。骨も完全に折れているだろう。
死んでないという事は、意識があるという事は……あれからそこまで時間は経っていないんだろうけど。
「剣聖の見た目を聞くのを忘れちまった、まあ良いか。人間の顔なんて一々覚えてられねえし」
足音がゆっくりと確実にこちらに向かってくる、早く動かなきゃいけないのに全く身体が動かない。このまま意識を失ったふりをしていれば、楽に───なんていうのは楽観的だろうけど。
そもそも起き上がれたとして意味はあるのだろうか?
あんな化け物なんかに勝てる訳がないのに。
やはり、ただのモブでしかない僕には荷が重かったんだろう。例えスキルが『特別』でも、多少努力したって所詮は───モブ。モブは主人公……ましてや『勇者』になんかなれない。きっと主人公って言うのはシエナみたいな人の事を言うんだろう。
「この辺に飛んでったよな? 手間を掛けさせやがって……」
もし僕のスキルが何ら特別じゃない『普通』のものだったら。もし僕がこの『スキル』に目覚めてなかったとしたら。僕はあのまま子供たちと一緒に別の村に逃げていたのだろう。逃げて、その先で助けを求めて……悲しみを乗り越えて、新しい日々を生きていく。
───本当に?
当然だ、大したスキルが無い僕が村に残ったって何も出来やしない。まるで道端に転がる石ころのように蹴飛ばされて終わりだろう。
だけど何故かそんな様子を容易に想像できた。
蛮勇で正しくない事なんて最初から分かっていただろ、それでも最期まで抗いたかったから立ち上がったんだ。勝てないからなんていうのは……立ち上がらない『理由』にはならない。
右腕に力を入れて立ち上がる。左腕はダラリとぶら下がって杖を持つことすら儘ならないが、足はまだ───動く。ならまだ諦めるのには早い。
「馬鹿なガキだ、わざわざ起き上がってくれるなんて探す手間が省けたぜ」
だけどどうすればいい? 僕にはグレイ師匠のような魔法も、シエナのような剣のキレもない。あるのはこの『スキル』と凡人とそう変わらない剣と魔法。あいつの権能である『鋼鉄外皮』はあまりにも強力だ、目ですら防御範囲だと言うのなら急所を狙うなんていうのも意味なんてない。
───注釈が教えてくれた奴の『権能』。全く弱点のないそれにも、もしかしたら隙があるかもしれない。考えが外れていればその時は……死ぬだけだ。
「───はっ、そのガキ一人仕留められずにいるのがお前だろ」
「……あ?」
その為には隙がいる。最初の一撃以外魔力は使っていないとはいえ、体力はすでに限界に近い。だから、次の一撃で勝負を決め切るしかない。使うのは短剣と相性の良い氷属性のエンチャント魔法。
『スキル:ルビ』
「
「
「───
『特殊タグ:透明文字』
短剣の周りに魔力で作られた氷が集まっていき───氷の剣となる。
「なんだか妙な詠唱をしやがったみたいだが……関係ねぇ。そんな『小さな短剣』で俺様を切り裂く事なんて出来ねえ事を思い知らせてやるよ」
『不透明文字』と違い、刀身が透き通った氷なのも相まって完全に物体を透過させることが出来た。僕の魔力のほとんどをつぎ込んだだけあって、奴の攻撃を受けても壊れない程度の硬さは確保できただろう。
「───ぶっ潰れろッ!」
大きく跳びあがり、僕を潰そうと振るわれた両腕の叩きつけをギリギリで躱す。出来るだけ最低限の動きで相手の攻撃を避けるんだ、もっとよく相手を───視る。
力強く驚異的な破壊力ではあるものの、シエナの剣の方がもっと鋭かった。攻撃を避けるのに大袈裟な動作は必要ない。必要最低限の動きで相手の隙を探れ。
彼の右から放たれた顔狙いのアッパーは首を捩って躱す、右足を潰そうとする踏み込みを少し下げて回避する。掠った一撃が頬を裂くが、大した問題じゃない。
「御大層な詠唱までして! 避けてばかりかよっ!」
僕はそこまで器用っていう訳じゃない、だからこそ狙うは一点のみ。
左から振るわれたフックは少しかがめば当たらない。業を煮やしたのか大きく振りかぶって放たれた『右腕のストレート』───それを待っていた。
彼のストレートに合わせて、魔鉄鋼の短剣を振るう。当たれば即死は免れない威力のそれの側面に目掛けて氷の刀身を当てるように振るう。絶対に当たらない位置での硬質な感触に、奴の表情が驚愕で歪むのが見える。インパクトのタイミングをずらされた打撃は、地面に向かって受け流され───隙が生まれた。
「なッ!?」
この一撃に……全てを賭ける!
『スキル:
「くらえぇぇぇぇ!!」
───渾身の
その場から飛びのいて大きく距離を取ったはいいものの、膝から崩れ落ちる。奇しくも先ほど吹き飛ばされた瓦礫の近くだ。スキルの二重使用に意識を保てない程の頭痛に襲われるが───まだ意識を失う訳にはいかない。この勝負に決着をつけるまでは、絶対に。
「───はっ」
青い血が奴の左胸からポタポタと流れ落ちている、僕の放った一撃は確かに奴の鋼よりも硬い外皮に傷をつけた。
「はははははっ! 息まいておいてその程度かァ!」
……それでも奴の身体を貫通するには至らなかった。もう殆ど魔法もスキルも使うことも出来そうにないし体力も底を尽きた。
「久しぶりに俺様の身体に傷をつけたのがこんなガキとはな。決めたぞ、貴様だけは楽には殺さん。『剣聖』の前で甚振って殺してから魔物の餌に……」
聞くに堪えない言葉を今も口から流し続けている奴の言葉を聞くのも、どう転んでもこれで最後になる。
「───残りは地獄でほざいてろ」
立っているのも厳しいけど、グレイ師匠が送ってくれた杖を頼りに立ち上がる。貴方の教えてくれたこの魔法で───この勝負に決着をつける。
「内側から爆ぜろッ!」
突き刺さっていた氷の剣に込められた魔力が蒼い光を放つ。氷の剣を起点として放たれるその光の正体は───二重詠唱により用意していた、あの日師匠が唱えようとしていた4小節の詠唱。
「貴様ッ───!」
あの焦り様なら、推測の通り───奴の権能が守ってくれるのはあくまで外皮だけ。血液や臓器といった体内までは無防備だという事。
『スキル:ルビ』
「───
目を開けていられない程の氷の大爆発が奴の体内で巻き起こり、冷たい風が辺りに吹き荒れる。
爆風が止み、その場に立っていたのはシャリブレンだったものの下半身。
「頭……潰しても……確認しないとダメって……師匠が……」
奴の下半身が倒れる音を聞いて、緊張の糸が切れてしまったのだろう。僕は立っていられずその場に倒れ伏し───意識を失う。
「お疲れ様、ノル君」
その寸前に、誰かの声が聞こえたような気がした。
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紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい