『魔族』の襲来の後、僕は一週間もの間眠っていたらしい。
呼吸も脈も安定していて、外傷もある程度は塞がっていたというのに……目が覚めなかったのはスキルと魔法の使い過ぎによるものだろう。
左腕は骨が折れていてぐにゃぐにゃだからぐるぐる巻きにされたままだし、僕自身も絶対安静だと言われた。村は門も家も破壊の跡が色濃く残っている。魔族の侵攻が残した爪跡は大きい。
だけど死者は───いなかった。
村長たちが籠城を選んだのが功を奏したのだろう。残っていた魔物も率いていたランドウィンと名乗った魔族を倒したら、統率が取れずに散り散りになったらしい。なんなら魔物の群れの中に残ったシエナより僕の方が重傷だった。どういう事なんだ……
「どしたのノル君、何か考え事?」
「うん、いや……運が良かったなって」
「そう? ノル君が頑張った結果だと思うけどなぁ……」
本当に───奇跡のような結末だ。少しでも運命の歯車がズレていればこうはならなかっただろう。
「まあ、あの時覚悟を決めてよかったなとは思うよ。このスキルが無ければきっと無理だった」
「私は例えそのスキルが無くたって、ノル君は立ち上がってたと思うけどなぁ……」
「それは買い被りすぎだよ、僕は自分が特別じゃないって弁えてるんだから」
「ふーん?」
窓から見える村の皆は、復興に忙しそうにしているけど元気そうだ。父さんは見てもいないだろう息子と娘の武勇伝を死ぬほど誇張して宴会で酒を呑んでいる。断じて僕は山より大きい氷の星なんて降らしたりはしていないし、シエナの放った一閃は大地を裂いて川なんて作ってない。
母さんは毎日のように違う本を持ってきてくれるが流石に読み切れない。お見舞いのフルーツなんかは部屋の隅で小高く山のようになっているのに、未だにその数を増やしている。
まあ、そんな行き過ぎた愛情を……悪くないなとも思っているんだけど。
「復興も順調そうでよかった」
どうやら国から魔族討伐の褒賞が随分と出たようだが、村の復興に回して欲しいと預けた。なのでどれくらい貰ったのかは詳しくは知らないが村全体が好景気に包まれている。
「功労者の私達は暇だけどね……怪我なんてもう全然大したことないのに!」
「なんでもう治りかけてるのかが一番よく分からないんだけど……」
そんな僕達の目下の問題は暇を持て余している事だった。僕の腕は回復の魔法を使っても包帯が外れるまで3ヶ月はかかるとか。こんな事なら回復の魔法も使えるようになっていればなぁ……なんて思ったけど、出来ないものは仕方ない。
ベッドの上でも魔法やスキルの練習が出来るのは不幸中の幸いだろう、こういう時は魔法職って便利だなって思う。
「ノル君は自分が思ってるほど『普通』じゃないと思うけどなぁ」
「まあ確かにスキルは『普通』じゃないと思うけど……」
「あのね? パパもママも帰ってこなくて、一人で泣いていたあの日。ノル君が隣にいてくれたのがとっても暖かくて───嬉しかったのを覚えてるよ」
「僕は当たり前の事をしただけで……」
きっとその場にいたのが父さんでも母さんでも同じことをしたと思う。泣いている子を一人で放っておくなんて僕には出来なかった、それだけのことで。
「それでも私にとってその思い出は『特別』なの。例えノル君が優れたスキルを持ってなくても、わた……村の皆にとってノル君はきっと『特別』だよ、それだけは───忘れないでほしいな」
「……うん」
部屋に春の訪れを告げるような、暖かい風が吹く。
「なんて、ちょっと湿っぽくなっちゃった! 私も少し身体を動かしてくるね!」
そう言って風のように走り去っていくシエナを僕はベッドの上から、見送り───あれ?
「えっ、くれぐれも安静にって言われてたよね!?」
日々はあっという間に過ぎていく、魔法の修業をして剣の修業もして。
父さんから冒険者の『基本のキ』位は学べたと思う、それに薬草の見分けなんかも少しだけ付くようになった。
そうしてついに───この日を迎えた。
「杖は持ったか? 本当に忘れ物は無いか? そうだ、父さんが冒険者の頃使ってた外套があるんだ。そいつを───」
「貴方の使ってた外套なんてサイズが合う訳ないでしょう、直前になって慌てないでって言いましたよね、あ・な・た?」
「うっ、すまん……気が気じゃなくてだな」
新しくなった村の門の前で、何時ものように母さんに詰められている父さん。こんな日なのに何時もと変わらない様子の2人を見ると何処か安心する。
「ふふっ、2人とも本当に変わらないね? ノル君」
「恥ずかしいから僕にそこで話を振らないでほしいかなあ……」
隣にいるシエナも僕も随分と背が伸びた。シエナはかなり大人びたと思う。
今日、15歳になった僕達は冒険者になるべく王都を目指して───この村を旅立つ。
「あ~しまった。言いたいことが山ほどあったのに全部飛んじまった……」
「あ・な・た?」
「ひっ、冗談だよ冗談ッ! 我が子達を思った小粋なジョークだから!」
暫くの別れだって言うのに、全く湿っぽい空気にならない。まあこれくらいの方が僕達も旅に行きやすいかもしれない。ここまで計算づくだったとしたら……な訳ないか。
「何時でも帰ってきていいからな、人生は一度きり。だから目一杯───楽しんで来い」
「うん」
「二人とも、身体には気を付けるのよ?」
「うん!」
「よし、良い返事だ! それじゃ……いってらっしゃい!」
「「行ってきます!」」
門を出て王都までの道を歩き始めた僕達、王都までの道のりはまだまだ長い。
最近は『魔王』が復活して、魔物が活性化したり異常気象が起きていたり……と大変らしい。正直いまいち『12魔将』なんてのを倒しただけで、魔王が復活したなんてこれっぽっちも実感が沸かない。
まあ、それでもいいのかもしれない。僕達が行くのは魔王討伐の旅じゃなくて───
「行こっかノル君! 誰も見た事のないお宝と景色を求めて!」
「行こうかシエナ! 山よりも大きいドラゴンを求めて!」
───何時か本になるような、めくるめく冒険の旅なのだから。
『スキル:
どうか、僕達の旅が───『
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「───行きましたか」
パタンと本が閉じる音がその空間に響き渡る。
その本のタイトルは───『剣聖シエナの復讐譚』。
それは有り得たかもしれない未来。
否、この世界が辿る筈だった物語のお話。
少年は誰かを守るために力を持たずとも立ち向かい───蛮勇の元に斃れ。
少女は魔王への復讐を胸に誓う。
そんな何処にでもある、ありふれた悲劇の英雄の物語。
それが例え気に入らないモノだったとしても……
「神だ天使だのと持て囃されながら───私たちに出来る事はあまりに少ない」
まして、彼/彼女に割り振られた権限はそう多くはない。
その権能は『智』、割り振られたのは『異界のモノとの交渉』と僅かばかりの裁量。
「それでも、貴方の『覚悟』と『祈り』は確かに届きました」
本当はこれでも危ない橋を渡ったのですが───なんて、彼/彼女の呟きは誰に聞こえるでもなく消える。
「この先の事は誰にも分かりません、ですが……」
空になったチョコレートの包み紙をクシャリと丸めて捨てると、彼/彼女はまた本を読み続ける。そこにあったのは、先ほどとはまた別の……中身が真っ白な冊子。
「貴方の紡ぐ物語を楽しみにしていますよ、ノル」
───2章・冒険者編に続く───
これにて第1章・少年期編は終了となります!
別作品とは違う行間の取り方とかを試してみているので、もしかしたら読み辛かったかもしれない……
どうしても小説の設定上、一人称視点と地の文が多いのですが……
次章以降はマシになっていくはずです
他でこうした方が良さそうとかあれば是非是非
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ちょっとプロット整理のために時間を頂くかもしれない
どれくらいが好み?
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主人公が無双無双してる方が良い
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紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい