裏山から家に帰った僕は、家に帰るなりベッドの上で気絶するように眠った。おそらくスキルを使った時に気力みたいなものを使い切ったのだろう、頭も割れるように痛かったし。
起きた後は……それはもう怒られた。「怪我をしたらどうするんだ」とか、「シエナちゃんに何かあったらどうするの」とか。でもそれ以上に……泣かれた。そして抱きしめてくれた。「無事に帰ってきてくれて本当によかった」と。そしてそれ以上怒られなかったのは、きっと両親も僕のスキル事情に対して配慮してくれていたのだろう。
そんな事件からも、数日が経った。スキルが爆発したり魔物を呼び出す危険なものじゃないと分かった僕は、どんなことが出来るのかのテストを始めた訳だが……どうやら僕が思っていたよりもこのスキルは万能らしい。『小説閲覧設定』なる項目があるように、このスキルはまるで小説のように世界を書き換えてしまう類のものだ。それに伴って世界を文字で認識する事が出来るようになった気がする。
「スキル発動───っと」
| 傍点 | ルビ | 特殊タグ | プレビュー | 小説閲覧設定 | 一時保存 |
自分に何ができるのかを知るためにも、目の前に青白いウィンドウを出現させる。どうやら“これ”は他の人には見えないらしい。なので偶に手慰みに出したりしているが……新しいモノを試すのは少し勇気がいる。そして僕にしか見えないのでスキルで凄い事が出来るんだって証明し辛い。傍から見たら狂人にしか見えないかもしれない、そんな意味で普通から逸脱したい訳じゃない。
「特殊タグの取り消し線ってなんだ……って気持ち悪っ」
自分が言った事が自分で聞き取りづらくなるという……何とも不思議な感覚だ。誰かの発言にでも被せればいいのか?でも言わなかったことになる訳じゃなさそうだし……何とも使い辛い。
今が使うべき時ではないのか、それとも使う事が出来ないのかは分からないが、いくつか使えないモノもある。『小説閲覧設定』なんかはその最たる例だ。押してもウンともスンとも言わない。それと自分のスキルだから分かるんだとは思うんだけど、『整形・置換・変換』を使うと不味い事になるという実感がある。少なくとも今の僕に使いこなせるようなものじゃないんだろうと。
「またスキルのやつ見てるの~ノル君?」
「そうだよ、それにしてもこんな事よく信じてくれたね?」
「あれからずっとすっごく調子が良いもん!それにノル君は嘘ついたりしないでしょ?」
彼女……シエナは両親以外で僕のスキルを信じてくれた唯一の人物である。信じてくれたのはとても嬉しいが、あまりにも信頼が重い。僕だって嘘をつく事はある。昨日だって読書に集中したくて洗濯の当番はお母さんだって誤魔化したし。もちろん、その後頭に一発良いのをもらった。
「このスキルで何が出来るのかを知っておきたいんだけど……何をすれば良いのかも思いつかないんだよね。」
「えっ?びゅーん!って強くするだけじゃないの?」
「びゅ、びゅーん?っていうのは分からないけど、他にも色々出来そうだなって」
「“びゅーん”は“びゅーん”だよ?“ばびゅーん!”って感じかも!」
「……そっか」
益々分からなくなった。折角だからシエナに剣術を教わろうと頼んでみたことがあるのだが、擬音の多さとレベルが違いすぎて教わる事はできなかった。なんだよ、なんとなく何処に剣を振れば良いか分かるって。こっちは分からないから教わりたいんだけどな……
とは言え、彼女の綺麗な剣の振り方は見ていて非常に参考になるので、定期的に彼女とは剣を交えさせてもらっている。お手本があるぶん、前より大分上達している……気がする。
「何ができるのかかぁ。ノル君は何をやりたいとかはあるの?剣士とか、魔法使いとか……弓なんてのもあるよね!どれもノル君ならすっごい使い手になれると思うよ?」
「確かに、もし冒険者になるとしたら……何をメインに戦っていくかは考えないといけないよね」
冒険者として有名になって、それこそA級なんかになれば間違いなく普通から脱却したと言えるだろう。だが、僕に何が出来るのだろうか?少なくとも剣はお世辞にも見込みがあるとは言えなさそうなんだけど。
「剣の使い方なら……負けないから!」
「シエナは僕を何だと思ってるの?今でさえライバルと呼ぶのもおこがましいくらい差があるよね?」
「ノル君なら全部こなせちゃうかもね。“おーるらうんだー”ってやつ?」
「器用貧乏で終わるのがオチだと思うなぁ……」
剣は見ての通りだし、弓も父さんに少し使わせてもらったけど、まるで才能というモノが感じられなかった。そして魔法は……魔法は?
「まだ使った事が無い……つまり未知数という事だよね?」
「の、ノル君?急にどうしたの?」
基本的に魔法は使える人に師事して覚えるのが一般的だ。僕はまだ魔法を使った事は無い、そして練習したことも。まだ観測していないものならこのスキルで干渉する余地がある……?
『
「なんだかある気がするんだ。僕にも
グラリと揺れて、地面が近づいてくる。違う、地面が近づいているんじゃなくて僕が倒れて───?
「ノル君!?へ、返事をしてノル君ッ!どうしよう、お医者さん?まずはノル君のパパとママに───」
どうやらシエナが受け止めてくれたらしい、地面と熱烈な接吻をする事は避ける事が出来たが……
助けを呼ぶシエナの声を何処か遠くに感じながら───僕は意識を手放した。
───目を開けると、見慣れた天井が目に入る。ここは僕の部屋のベッドの上か……それにしても割れるように頭が痛いし身体も重い。一体何があったんだっけ、確か僕は魔法の才能を……
「の、ノル君!?良かった、起きたんだ!?死んじゃったかと思った……!」
身体が重かったのは、シエナが僕の上で寄り掛かるように寝ていたからだったらしい。恐らくは看病をして起きるのを隣で待っていてくれたが、疲れて寝てしまったのだろう。窓から見える外の様子も大分暗くなっているし。
「だ、大丈夫だよ。少し疲れただけでこれくらいなんてこと無いから」
「で、でもっ……!ノル君まで居なくなっちゃたら……!」
「こんなことで死ぬわけないだろ?シエナは大袈裟すぎっ」
言いかけた言葉は、言葉にする事が出来ずに遮られる事になる。他でもないシエナによって。
「人は……思ったよりも簡単に死んじゃうんだよ?」
やってしまった。寝ぼけていたとはいえ、もっと言葉を選ぶべきだったのに。
「……ごめん、僕が無神経だった。心配してくれてありがとね」
「うん!もう無理はしちゃダメだよ?」
その日も、しこたま両親に怒られることになった。軽率に人の能力に干渉するべきではないだろうという事が分かっただけでも収穫かもしれない。
そして、暫く経って。僕は魔法使いとしての道を順調に歩いている……なんてことは無かった。
「それにしても何となく魔法の使い方が分かる、なんて都合のいい話はないかぁ」
シエナは何となく剣を何処に振ればいいか分かるって言ってたし、僕ももしかしたらイケるのでは?なんていう淡い期待は粉々になった。名だたる魔法使いはスキルを得た瞬間に魔法を使う事が出来たなんて話を聞いたことがある。つまり、僕自身は飛びぬけた才能がある訳では無いのだろう。
「とは言え全く効果が無かった訳ではないと思うんだけど……」
それを試す手段がないのである。冒険者の中には飲み水の確保等の為に簡単な魔法を覚えている人も多いとは聞いたが、父さんには使えないらしいし。
それにしても、何故意識を失ったのか。これは恐らく僕のキャパシティを超えていたからだろう。試してみたところ、この能力は無制限に世界を改変できる訳もなく。有り得ない事であるほど消費は激しくなる傾向があるみたいだ。そして限界を超えた改変を行おうとすれば……
「意識を失ったり、それ以上の事が起きる事もあるんだろうな」
最悪の場合は本当に命を落とす事もあるのかもしれない……って、あれ?シエナを強化したときですらここまでは消耗しなかったよな?僕に魔法の才能がある事ってそこまで有り得ない事だって言うのか?大した才能ですらなさそうなのに???
「才能の壁って残酷だなぁ……」
とは言え一歩前進できたことも確かだ。後は誰か魔法使いの人が村にいれば良いんだけど。そんな都合のいい展開は、いたって“普通”の僕には、残念ながら起こりえなかった。
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