19.王都ウィスタリア
街道を歩くこと2週間程、道中は盗賊に襲われる───なんて事は無かった。魔物こそ出たりしたものの、今更ハウリングウルフの一匹や二匹出た所でシエナが一蹴してしまうし。人の通りが少なすぎるのか治安が良いのか分からないが、盗賊との対人戦はまだ少し怖いから出なくて助かったと言えるかもしれない。
「こんなに歩いたのは初めてかも~」
「……次は何処かで馬車に乗ろうか」
ただそんな調子で2週間以上も歩き続けたのでクタクタだった、今は柔らかいベッドが酷く恋しい。その代わりと言っては何だが野営の準備には随分と慣れる事が出来たのは良かった所だろう。
そんな日々にも終わりが近い、今いる街道の先に遂に見えてきたのは都市全体を包む大きな城壁。
「あれがクロッカス王国の首都『王都ウィスタリア』か」
「村よりもずーっと大きいねぇ」
あの高い城壁は魔物や侵略者と言った外敵から都市を守り、いざと言う時は城として敵を迎え打つためのもの。王城のある王都であり、国の最終防衛ラインでもある城郭都市がそこには存在していた。
実を言えば冒険者になりたいだけなら、わざわざ王都まで来る必要は全くと言っていい程無い。冒険者ギルドはある程度の大きさの町や村なら支部が存在しているからだ。それでも僕達が王都を目指しているのには───
『
───『
うん、これで良いだろう。最近気づいたが待ち合わせには9割がた『
ズルいかもしれないがこれも天からの贈り物だ、大事に使わせていただこう。
城門の前に辿り着くと、そこは見た事も無い量の人で溢れかえっていた。流石は王都と言うべきだろう。商いをしにやってきたであろう商人も剣を担いだ冒険者もいるが、その内の大多数はスムーズに王都へと入っていく。恐らくはこの王都をホームに活動している人々だろう。
初回受付用と書かれた看板が立てかけられている入り口があるが、その隣には騎士らしき人間が立っている。恐らくは文字の読めない人用の案内だろう。この国の識字率は他国と比べても高い方らしいけど、全員が全員読める訳では無いのだから。本を買えるくらいの余裕があったうちは裕福な方なのだろう。
「ソノヘンの村から来たんですけど……」
「随分と遠くから来たんだな……それにしても随分かわいい嬢ちゃんだ、どっかで見た事があるような気もするが……」
「……何処かで会いましたっけ?」
「あぁ、悪い悪い、多分気のせいだ。それで文字は読めるか?」
「はい、2人とも大丈夫です!」
「分かった、手続きをしてくるから書類の必要事項を書いておいてくれ」
田舎の村からの出身だからと言って特に絡まれるという事も無く、王都への受付は終わった。まあ、何か起きそうな雰囲気も感じてはいたが。
王都に入ると、華やかな街並みと沢山の人が広がっている。村とは比べ物にならない程に人とモノに溢れているこの街は、お昼時ということもあってより一層賑やかに見えるのだろう。
「ここが王都か……はぐれちゃいそうだね」
「それじゃあ手を握っててあげる! それならはぐれないでしょ?」
「それは心強いんだけど……子供みたいじゃない?」
宿を取るのも冒険者ギルドで提携しているお店を斡旋してくれるらしいので、まずは冒険者登録を済ませるべく王都を歩く事、暫く。それらしき建物は大通りに面している事もあって、直ぐに見つける事が出来た。
どうやら酒場も併設しているらしい冒険者ギルドの中に入ると、お昼だというのに人の影は少ない。いや、酒場であり冒険者ギルドだからお昼に人が少ないんだろう。冒険者なら朝の内に仕事を取りに来て、帰ってくるのは夜になるだろうから。
「冒険者ギルドに何か御用ですか?」
「はっ、はいっ! 登録がしたくて!」
そんな風にキョロキョロと入り口から様子を伺っていると、冒険者ギルドの受付のお姉さんらしき人に話しかけられる。あまりにも、田舎者丸出しだっただろうか? 少し恥ずかしくなって返事が上擦ってしまった。
「冒険者ギルドの規則はご存じですか?」
「一応は勉強してきたんですけど、説明してもらっても大丈夫ですか?」
「私も聞きたいです!」
「はい、大丈夫ですよ」
想像していたよりも、随分とスムーズに始まりそうだった受付。
このまま何事も無く終わるのだろうかと、安心しきっていた所───
「おいおい、こんなところに子供が一体何の用だい?」
横から声をかけられた。
こっ、これは勇者イカイノの冒険譚で見た事がある所だ……!
俗に言う新人への洗礼、ここで圧倒的な実力を示して「あいつ一体何者だ!?」なんて一躍有名になるチャンス……ってあれ?
「……えっと」
「冒険者ギルドは子供の遊び場じゃ無いんだぜ、分かったら───」
「あの、何をやってるんですか……グレイ師匠」
困惑するのも無理はないだろう、僕に絡んできたのは他でもないグレイエル師匠だったのだから。
「それはほら、冒険者ギルドに伝わる伝統って奴だよ。君はそう言うの好きだろう?」
「それは……確かに嫌いじゃないですけど」
だからといって、こう言うのは知り合いがやっても意味は無いのでは無いだろうか。どうしよう、ここからでもこの流れに乗った方が良いのか困惑していると……並べられたテーブルの奥から一連の流れを眺めていた男性が声を掛けてきた。
「新人が困っておるじゃろう、ダル絡みはその辺にしておかんかグレイエル。それに地方ならいざ知らず、王都でそんな頭の悪そうな絡み方をする奴がおるわけが無いじゃろうが」
「そんな事は分かってるんだよハンベルグ。良いところなんだから邪魔せず酒でも飲んで黙っててくれないかい?」
「それにあまりにも古臭くていかん。やはりエルフなんぞの思考は100年ほど前で止まっておるのかのう?」
「吠えたなハンベルグ……酒と鍛治しか知らないドワーフの君がどうやって小粋なコミュニケーションを取るのか見物だね」
グレイ師匠とバチバチの睨み合いをしている彼は、豊富な髭を蓄えた小柄な体躯の男性……つまりは師匠の言う通りドワーフという奴なんだろう。村では見た事が無かったから少し新鮮な気分だ。
「それにしても───奇遇だねノル少年。いや、もう少年という大きさでも無いか? 随分と大きくなった、シエナちゃんも随分と別嬪さんになったね」
「グレイさんもお変わりなさそうで何よりです!」
「あぁ、本当に真っ直ぐな子に育って───」
「はっ、一月ほど前から毎日仕事もせずギルドに入り浸っては肩を落として帰っていくお前さんの『奇遇』とやらは随分と面の皮が厚いらしいわい」
「それは言わないって約束ッ───いや、あのドワーフの言う事は気にしなくても良いよ、なんせアルコールに溺れてて昨日の夕飯も思い出せないんだ。あんなんでもB級冒険者だから酔って暴れてる時は近づかない方が良い」
「こんなん水みたいなもんじゃ、酔ったりせんわい!」
あの時の傍点は役に立ったらしい、こうして偶然? 出会えたのだから。どうやら使わなくても出会えていた気がしないでも無いが。
そう、わざわざ村から遠いこの都市を拠点に選んだ理由の内の1つは───A級冒険者のグレイエル・スノウリリィがこの王都を中心として活動しているからに他ならない。
「あの? 受付の最中に邪魔をした挙句に喧嘩を始めるなんて……この前も注意したばかりですよね? 次やったら塩漬け依頼を片っ端から掃除させるって、私言いましたよね?」
「……おっと、そういえば酒を受け取らんといかんのを忘れておった。それじゃこれから頑張るんだぞ坊主! その耳長には気を付けるんじゃぞ~!」
「わっ、私も少し用事があるのを思い出したよ。それじゃあノル君、受付が終わったらまた話そうね」
そう言って駆けていく二人の冒険者。
この一瞬で、このギルドのパワーバランスと言うものを思い知ったかもしれない。
ニコニコと優しそうな人は───怒らせると怖い。
不定期になりそうですが更新予定です、冒険者編をお楽しみに~
文章の比率とか
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地の文が多いほうが嬉しい
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会話文多めの方が嬉しい