「こちらがカードになります、再発行には銀貨1枚かかるのでなくさないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
「ふふっ、お二人のご活躍を応援していますね」
冒険者ギルドで説明を受け終わった僕達は、遂に冒険者としての第一歩を踏み出すことが出来た。カードに刻まれているのは最低ランクの『F級』だが、それでも確かに冒険者になることは出来たのだ。その事が何だかとても嬉しくて、貰ったカードを握りしめる。
冒険者のランクは最低のF級からS級までの7段階評定だが、滅多な事が無ければS級に上がる事は無いという。S級は規格外で、物語の英雄のような力を持っているというが…僕も見たことは無いのでどれくらい強いのかは分からない。
戦闘系の技能が無いと昇格が難しいというD級への昇格をとりあえずの目標として頑張っていこうと思ってはいるが、依頼を受けるのは明日以降になるだろう。流石に僕は勿論、シエナも長旅で疲れていると思うし。
そんな訳で受付のお姉さんに聞いた宿へと歩を進める事、暫く。
どうやら同じ宿に泊まっているらしいグレイ師匠に先導してもらいながら、王都を歩いているのだが……あの、師匠は仕事しなくて良いんですか?と口から出かけた言葉は飲み込んだ。
「最初に謝っておくが、明日から同じパーティに……というのは難しいんだ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、勘違いしないでくれよシエナ君?その……変な勘繰りを入れようとするやつもいるという事だ」
確かに現役A級冒険者であるグレイエル・スノウリリィと同じパーティにいるF級の冒険者がランクを上げていけば、彼女の実力に寄生していると見られてもおかしくはないだろう。
「だから、正式にパーティを組むとしたらC級に上がってからの方が良いだろうね」
「それじゃあ師匠とパーティを組めるのは随分と先になっちゃいそうですね」
「……それ本気で言ってるのかい?まあ良いか」
ふっ、ふうん?私とパーティを組みたいと思ってくれてはいるんだ……なんて言葉が後ろから聞こえた気がしたが、本人の名誉の為に聞かなかったことにしよう。久しぶりの再会だからだとは思うが、師匠のテンションが昔よりも数割増しで高い気がする。
この能力のせいで見たもの聞いたものが描写されてしまうのは、少しだけやり辛いと思う事がある。見えなくてもいいもの、聞かなくていいものまで知ってしまうから。
暫く歩いていると、目的の宿屋へと辿り着く。
宿の名前は『獅子の尻尾亭』と言うらしい。王都の宿屋と言うだけあって、非常に大きい四階建ての宿屋だった。食堂は勿論の事、なんとかけ湯ではなく別料金でお風呂にも入れるらしい。流石は王都だ……
女将さんに挨拶をして、荷物を降ろす。冒険者用の宿屋と言うだけあって武器や防具を置けるように少し広めの室内になっている。駆け出しの冒険者は一部屋に4人ほどが集まって安い部屋に泊まるそうなんだけど、僕達は一つグレードの高いシングルのベッドが二つある部屋に泊まる事にした。僕の場合はスキルや持ち込んだ本が問題だし。
本当は一人一部屋でもいいとは思ったんだけど、無駄遣いをするべきではないと言われてみれば確かにその通りだった。それにしてはシエナの様子は必死だった気がするけど。
その日は荷物を降ろして、身を綺麗にすると直ぐに眠気がやってきてしまった。途中で寄った村の宿にも泊まったのでずっと外に居た訳では無いものの、やはり野営では身体が休まり切らなかったらしい。
「お休み、シエナ」
「うん、お休みノル君」
押し寄せる睡魔に抗えず、僕の意識は深い微睡に落ちていく。
次の日、朝1で依頼を探しに人が溢れる冒険者ギルドへと赴いてから気づく。それはF級の僕達が受けられる依頼に割のいい依頼なんてある訳がないんじゃないかという事だ。常設の薬草採取や討伐依頼に町の困りごと解決くらいが関の山だった。
C級までは依頼の実績やギルドからの評価だけでランクが上がるとの事だったので、とりあえずは薬草を採取するべく準備を行う事にする。なんといっても採取対象の薬草が分からないと薬草採取のしようがないからね。
王都の近くにある森も深くまで行かなければ魔物はあまり出てこないらしい、それも絶対とは言えないが。奥に何があるのか気にはなるものの、冒険するとしても絶対に基礎の出来てない今じゃない。
本にも一通り目を通した。何か忘れているような気もするが、いざとなればスキルでどうとでもなるだろう。……あまりスキルに頼りきるべきではないのだろうが、習熟度上げも兼ねているので使えば使うほど得になるという何とも言えない現状を抱えている。
「それじゃあ初めての依頼に出発しようか」
「どんな冒険が待ってるのか……楽しみだね!」
いやまあただの薬草採取依頼で何か起きる事は無いと思うけど。
王都の門を出てから暫く歩いた場所にあるこの広大な森の名前は、『狩人の森』というらしい。その名の通り可食部のある魔物が多く生息しているようで、更に採取できる薬草も多く王都で仕事をする新人~中堅冒険者の食い扶持になっているとのことだ。
そんな森に足を踏み入れたはいいものの、森の浅い部分にあるような薬草は殆どが摘み取られていて見当たらなかった。それも当然かもしれない、だって新人の冒険者は僕達だけじゃないんだし。
こうなると必然的に時間をかけるか、森の奥に踏み入るしかない訳だが……
「シエナはどっちが良いと思う?」
「うーん……私達の実力的には余裕だとは思うけど、初日だし安全策を取り過ぎるくらいでちょうどいいかも」
「そうだね、僕も同意見だよ」
『冒険者』と言う職業は、名前とは正反対に冒険はしない方が良いとされている。理由は単純で、慣れない土地や実力に見合わない場所での行動は死亡のリスクが跳ね上がるからだ。
「少し慎重すぎるくらいでちょうどいい」とは師匠の言だが、まさしくその通りと言えるだろう。
そうして採取を続けていた僕達だったが、本を読んでいた時に気付いた物足りなさの正体に気付いた。僕の知っている薬草の内の何種類かが、本には記載されていなかったのだ。
この『Θεραπευτικό γρασίδι』……つまり『癒し草』なんかも集めてると思ったんだけど。
買い取り対象の薬草の一覧には乗っていなかったような気がする。
一応確認をしておこうとスキルを発動させる。
『特殊タグ:注釈』
辺り一帯にまばらに生えている薬草らしき草*1に目を向けるが……成程。
どうやら製法が失われているらしい、毒にも薬にもならない草なら買取の対象にはならないかもしれないが、どうせならと思って採取を続ける事にする。
薬草に注釈を振る事で、薬草の見間違いもおきないので非常に便利である。どうしても本の挿絵と本物じゃ差異がある事もあるし。シエナの方も順調に薬草を集めていて、そろそろ切り上げようかと話をしている所───誰かの悲鳴のような声が辺りに響き渡った。木々をなぎ倒すような音と足音は幸か不幸かこちらへ向かってくる。
森の茂みから出てきたのは三人組の冒険者パーティだった。
二人は剣、一人は杖を持っているものの装備の質は良さそうには見えない。そしてお互いに気を配れているようにも見えない……つまり。
「───人か!?すまねぇ、トレインしちまった!逃げてくれ!」
トレインとは勇者が広めた冒険者用語の一つで、魔物に追い掛け回されている状況。つまりは今のような事を指す。悪質さが認められた場合はギルドからのペナルティ、資格の剥奪等が行われることもあるらしいが、今回はそういう訳では無いのだろう。見るからに新人っぽい装備だし、大方薬草を探すために奥地まで踏み入ってしまったのだろう。
「ブモォォォォォッ!」
「ひっ……きゃぁ!」
後ろから現れたのは二足歩行の豚、つまりはオークと言うやつだろう。
そして人と出会った事による気の緩みか、恐怖からか……後衛の魔法使いらしき少女がバランスを崩して倒れこむ。こうなる事は分かっていたと言ってもいい。撤退の際は剣士が魔法使いより後ろに位置どるのが常識だ、後衛は前衛に比べて運動能力が劣るのだから。
「シエナ」
「うん、今日はオーク肉のステーキにしようね」
───違う、けどまあそう言う事で良いか。
冒険者は冒険をしない方が良いとは言うが……
目の前の三体の魔物が、如何に強いと言っても12魔将に勝るとは思えない。
だから今からするのは冒険じゃなくて、必然。
「凍てつく剣よ、わが敵を切り裂け───」
『特殊タグ:透明文字』
「───アイスブレイド」
その場で透明になった氷の剣に向かって速度を緩めることなく突き進む二体の豚人の胴体と頭は、鋭利な刃によって分かたれて透明な刃は真っ赤に染まる。その事に気付いた最後尾のオークが足を止めるがもう───
「───遅いッ!」
まるでハサミで紙を切るかのように、オークを切り裂いた一閃。その鋭さのあまり、切り裂かれた筈の頭が胴体の上に乗ったままという異常な事態を引き起こしていた。
その場に残されたのは5人の冒険者と物言わぬ三つの死体。こうして僕達の初めての依頼で起きた戦闘は、一瞬で終わりを迎える事となった。
先に謝っときます、問題がありそうなら変えます。
どうしても思いつかなかったんや……
地の文多めにしたけど大丈夫?読み辛くない?ついて来れそうですかね……
文章の比率とか
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地の文が多いほうが嬉しい
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会話文多めの方が嬉しい