「彼の者の傷を治したまえ───ヒール」
「あっ、ありがとうございます……」
淡い光が足首を包んでいく、完治とまではいかなくても歩くのに支障がない程度までは回復できるはずだ。全治数か月の骨折を経て、僕は回復魔法だけは習得しておこうと心に決めていた。これからもシエナと同じ速度で歩いていくのなら、怪我は早めに治せるに越したことは無い。きっと僕が病室のベッドの上で呆けている間に、彼女はどんどんと前に進んでいってしまう。
『魔法の才能がある気がする』なんて、何時の日か傍点を振ったが。僕の魔法の才能はどれかに特化している訳では無く、万遍なく普通の魔法使い位の才能のはずだ。その中でも氷の魔法は使用頻度が高い事もあって、熟練度は高いとは思っているけど。
「わ、わりぃ助かっ……ひっ! た、助かりました!」
後ろでシエナが凄い顔をして睨んでいる気がする、まあ無理もない。連れてくる相手やここに居るのが他のF級冒険者なら、今地面に並んでいたのは物言わぬ冒険者の死体だった可能性もあるのだから。
冒険者が舐められたら不味いとはいえ、この状況で軽い謝罪で済ませようとしたのに対してムッとする気持ちは分からないでも無いが、余計なトラブルは避けた方が賢明だろう。
「街までは戻れそうですか?」
「あっ、あぁ……流石に命の恩人にそこまで世話になる訳にはいかねえよ」
根は悪い人達じゃないんだろう、実力と考えが足りてないだけで。
森の奥は危険だという話は、ギルドの資料に書いてあったはずだが……目を通していないのだろうか?
「俺たちは一旦帰還するが、この礼は必ずさせてくれ……! それじゃあな!」
そう言って去って行った3人組だったが、何か忘れているような気が……
そうだ、名前を聞いてない。けどまあ良いか、お礼が欲しくて助けた訳でも無いし。
「ノル君、血抜きしないとお肉に臭みが残っちゃうよ?」
「あぁ、うん。獣が寄ってくると不味いからもう少し浅い所でやろうか」
買い取り対象の肉や皮は上質な状態で持っていくと、買取の査定が上がるらしい。まさかオークを倒すことになるとは思ってもいなかったから少し処理の知識に自信は無いが、一先ずは猪と同じように……首を落としちゃったんだった。
血抜きの為に木に吊るすこと暫く、内臓類はどれが食用かまでは分からなかったので全て取り出す。猪なんかは生きたまま抜くのが一番いいとは聞くけど、流石に魔物相手にそこまでの余裕はなかった。代わりに氷魔法で作った氷を当てておくことにしよう。
少し早かったが大きな荷物が出来たので、早めに森から帰る事にする。本来は運び屋を雇ったり台車を持って来るなりするんだろうけど、今回は仕方ないので担いで持っていくしかないだろう……いや?
『特殊タグ:二段階縮小』
オークの死体を───よし、革袋へと詰める。
どうやらオークの死体は僕の『モノ』として判定されているらしい、この3年間で僕は声だけじゃなくて自分のモノくらいなら縮小できるようになっていた。これは永続という訳では無いみたいだけど、大きいモノを運ぶときは重宝している。
まあ、問題は質量は据え置きだという事だ。
つまりこのオーク三体を詰めた革袋を持つのは僕には……大分厳しい。
「シエナ、お願いできる?」
「うん、任せてよ。ノル君は薬草の方お願い~」
トレインやオークとの戦闘と言ったハプニングが起きつつも、狩人の森を出て初めての依頼をこなした僕達。十分な量の薬草は採集できたし、依頼は達成できるだろう。
そうして冒険者ギルドに帰って採取した薬草を買い取り用のカウンターに出している最中の事だった。そういえば、袋に入れたままのオークはどうすればいいんだろう。というかどう見ても大きさと中身のサイズが合っていないのを失念してた。
「お疲れ様です、大変だったそうですね……」
先に帰った三人の冒険者パーティから話を聞いていたのだろう、改めて聞いた話と僕の認識に齟齬は無かった。やはりあの事故は故意などではなくたまたま運が悪かっただけらしい。
「二人ともそれなりに心得があるので何とかなりました。あと、これの買取もお願いしてもいいですか?」
カバンから三体のオークが出てきて辺りがどよめく───なんてことは無かった。まあわざわざ酒を飲んでる最中にかなり離れたこちらを凝視しているような人が居る訳ないのかもしれない。それでも受付のお姉さんは驚いていたけど。
「あっ、えっと今これを何処から……」
「マジックバックです、少しばかり伝手があって」
一応はマジックバックと言う魔法具が世界には存在している。中身の容量が非常に大きいそのバックは商人や上級冒険者にとって垂涎の品であり、間違っても子供が持っているものでは無いのは確かだが……そう言い張る事にした。
「承知しました、少し査定にお時間いただくかもしれませんが……」
そういってしまえば、受付の方もそれ以上突っ込むことはしないだろう。マジックバックは珍しいものだが、決して存在しないものではないのだから。
「ひとまずは昇格おめでとうございます、こちらE級のカードです。そしてこちらが……D級の冒険者カードです」
「えっ、いきなり……ですか?」
「実は、E級への昇進は実力が無くても最低限の姿勢を見せれば昇格できるんです。冒険者は情報が命ですからね。事前に下調べをして依頼に臨むようであれば、問題なく昇格して良いと判断されるんですよ」
確かに、森で出会った彼らは最低限の情報も調べず奥へと踏み入って……運悪くオークに出会い逃げ回る事になった。もししっかりと下調べをしてから行けば、ああなる事は無かっただろう。つくづく良い師匠を持ったなと思う。
「それじゃあなんでD級のカードもくれるんですか?」
「それはですね、D級の昇格に必要な討伐モンスターの一覧にこの『オーク』が含まれているんです。そこはE級に昇格してからお話しする内容なので、知らなかったのは問題ないんですが……」
流石はグレイさんのお弟子さんって言う事なんですかねぇ……なんて一人で納得している彼女に、僕は聞きたいことがあったので尋ねてみる事にする。
「この薬草は買取してないんですか?」
「えっと、確認いたしますね?」
古代の薬草図鑑に書いてあった『癒し草』を一房取り出し、買取を頼んでみたはいいものの。残念ながら返って来たのは「買取はしていない」という返答だった。
「故郷では薬に使っていた……なんて言う話であれば、錬金ギルドに声を掛けてみるのが良いかもしれませんね。そういった都市への貢献も結構昇級に関わってきますよ?」
「ありがとうございます、そうしてみようと思います」
「言い忘れてました、C級への昇給条件は『ギルドからの評価』か『危険なモンスターの討伐』です。此処からの昇格は大分条件が厳しいので、焦らずゆっくり頑張ってくださいね」
「分かりました、頑張ります!」
そう言って冒険者ギルドを出るが……
冒険者になって二日目にして、父さんのランクと並んでしまった事に驚きを隠せない。
オークってそんなに強い魔物だったのか、いや当然か。群れで動き、人より力が強くて武器を扱う。確かに脅威じゃない訳が無いのかもしれない。
「なんか思っても無い展開になっちゃたね、ノル君」
「まあここから上がり辛いって聞くし、暫くはゆっくり薬草採集と討伐依頼を受けていこうか」
夕食の時間まではまだ随分と時間があるし、とりあえず受付のお姉さんの言う通りに錬金ギルドを目指すことにした。
オークは下処理をしっかりしたお陰で、結構な金額で売れたし。いくらか切り分けてもらったので、今日はこのお肉で豪華にD級の昇格祝いにしようかなとかそんな事を考えながら。
文章の比率とか
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地の文が多いほうが嬉しい
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会話文多めの方が嬉しい