酒場とは何処の地域でも夜は活気があるものだけど、それでも輪をかけて王都の酒場は騒がしかった。中庭で焼こうとしていたオークのお肉も、あれよあれよと酒場の厨房で焼いてくれることになったし。
「E級の昇格お祝いの筈が、D級にあがってあれよあれよとC級の昇格お祝いになっちゃったね」
「さっすがノル君! さすノル!」
「何その掛け声、何処で覚えてきたのさ?」
「これが王都の流行りらしいよ?」
「そっ、そっか……」
全くもって意味不明な掛け声だが、褒めてもらう分には気分が良い。S級冒険者……英雄譚に語られるような冒険者になる為の大きな一歩を踏み出すことが出来た。
B級への昇給は、C級の『ギルドからの評価』と『危険なモンスターの討伐』に加え、試験官との戦闘試験があるらしい。ギルドからの評価は今回のポーションの件で十分との事なので、何か強いモンスターの討伐実績と対人戦闘の経験を積まないといけない。
そうしてようやく昇給の手続きを済ませて、何処の席に座ろうかと考えていると……こちらに手招きする小柄な人物が一人。あれは初めてギルドに来た時に居た……
「ハンベルグさんでしたよね? ありがとうございます、何処に座ろうか迷ってた所なので」
「おうおう、今日の主役様たちを立たせたまんまって訳にもいかねえだろうよ! 今日は奢ってやるから、好きなだけ食って飲みな!」
「ほ、本当に良いんですか……?」
「気にすんな茶髪の嬢ちゃん! こういうときは大人しく奢られとくのが冒険者のコツってやつよ」
断り続けるのも却って迷惑になるかと思い、大人しくご馳走になる事にした。一応この国では15歳からお酒は飲めるけど……まだ僕達には早い気もするので今日の所は飲むつもりはないけど。
厨房から運ばれてきた鉄板の上に、ジュウジュウと音を立てながらオーク肉のステーキが運ばれてきた。オークは見た目こそ醜悪だが、こうしてブロック肉にしてしまえば案外気にならない。
「いただきますっ!」
油の滴るステーキを切り分けて一切れ口に運ぶと、口の中一杯に肉汁が広がる。味は豚肉に近いが食感は少し筋肉質で、その分旨味が強い。胡椒がしっかり効いていて、酸味のあるソースが飽きを感じさせない。
付け合わせのポテトも、程よくオークの肉の油が絡んでいて非常に美味しい。
『特殊タグ:注釈』
……何故だか注釈を入れておかなければいけない気がして、慌ててポテト*1に注釈を入れる。
何故こんな事をしているのかは、さっぱり分からないが。
しなきゃいけない気がしたんだ、どうしても。
ひっきりなしに色んな冒険者があいさつしに来るけど、流石に顔と名前が覚えきれない。単純に雑談をしに来たと思えば、儲け話に食いつこうと詳しい話を聞きに来た人もいたが……なんというか、単純に話を聞きに来たというよりかはまるで何かを値踏みするような視線を感じる。
「そいつは皆ノル君を狙ってるのさぁ! いやぁ、『C級に上がるのは随分と先になる』だっけ?」
「うわ、酔っ払い……じゃなくて師匠じゃないですか」
今日の昼の発言を引きずっているのだろう、にやにやと笑いながら肩を組んできたグレイ師匠はとてもお酒臭かった。そしていつの間にかハンベルグさんが居ない。酔っぱらった彼女の相手をしたくなかったのだろう。
「そうだよ、グレイ師匠だよ? 二人とも楽しんでるかい!?」
「ステーキ美味しいです!」
「うんうん、そいつぁ良かった!」
凄いな、全く顔は赤くなってないのに言動はべろんべろんに出来上がっている。
師匠は酔うとダル絡みするタイプだったらしい、知りたくなかった。
「新人の有望株だからね君たちは。何処も牽制しあっててはいるものの、パーティに招待したくて仕方ないのさ。人気者だねヒュウヒュウ♪」
「師匠、お水飲んだ方が良いんじゃ……」
「……あーまあ、良いんだよ。素面じゃ緊張してこの先が言えなかったんだから」
そう言って立ち上がった師匠は持っていたエールをぐいっと呷り、空になったジョッキをテーブルへと叩きつける。それからゆっくりと僕達を見て───続ける。
「君たちは有望株だ、きっと何処のパーティも選びたい放題とは言わないけど……引く手は数多だろう。まだまだ君達が冒険者について詳しくないのも、分かってるつもりだ」
彼女の耳が赤いのは、アルコールを一気に呷ったせいか。
それとも気恥ずかしさのせいだろうか。
その先の言葉をゆっくりと選んでいた彼女は、少ししてから覚悟を決めたように真っ直ぐとこちらを見た。
「それでも───私と。その、一緒にだな……頂点を目指してみないかい?」
「私はこの前話した通りだよ、ノル君」
この王都に来る前、シエナと二人で向かっている最中に話していたことがある。
それは、何時か僕達が一人前になったらやろうと決めていた事。
それは少し、いやかなり早まる事にはなったけど。
「僕達こそ、よろしくお願いします」
何時の日か、師匠とパーティになれたらいいねと。
何時か彼女を誘いに行こうと話をしていた、未だソロで冒険を続けている彼女を。
「本当に……いいのかい、私で」
少し緊張した様子の師匠は、何時もの自信に満ち溢れた様子とは程遠くて……儚さのようなものを感じた。何て声を掛ければいいのか分からないけど、こういう時は思った事を伝えるのがきっと一番だ。
「師匠が良いんです。僕達はグレイ師匠と一緒に───世界を回ってみたい」
「……はぁ、緊張して損した。君、何時か刺されても知らないぞ?」
「えっ、何でですか!?」
そういっておどけてみせた師匠は、何時も通り不敵な笑みでジョッキを差し出してくる。
これを飲み干すのが、パーティ結成時の慣例となっているらしい。
どういった意味があるのかは詳しくは知らないけど。
「まあまあ、それじゃあ我々の新たな門出を祝って!」
「「「乾杯!」」」
そう言って一息にジョッキに注がれたジュースを飲み干す。
「あっ、これ甘くておいし……?」
ぐらりと視界が揺れて、意識が遠くなっていく。
これ、もしかしてアルコール……っ。
不敵な笑みはそう言う事だったのかと、気づいたときにはもう既に手遅れだった。
小鳥の囀る音で意識が浮上する、あれ? 昨日は確か宴会の最中で……うぅ、頭が割れるように痛んで何も思い出せない。ベッドにいるあたり、ちゃんと宿屋には戻ってこれたみたいだけど。
ゆっくりと身体を起こすと、かけられていたシーツがズレ落ちる。
辺りを見回して気づいたが、この部屋には何故かベッドが一つしかない。
確かシングルが二つの部屋を取ったはずなんだけど……
とりあえずは起き上がろうとベッドに手をつくと、真っ白な背中が───背中?
見覚えのない部屋の間取り、隣に寝ているのはグレイ師匠。
アルコールで飛んだ記憶、点と点が線で繋がって最悪な想像が頭を過ぎる。
| 傍点 | ルビ | 特殊タグ | 整形・置換・変形 | プレビュー | 小説閲覧設定 | 一時保存 |
「いっ!? 『一時保存』と『プレビュー』ッ!」
慌てて例のウィンドウを出現させて、スキルを発動させる。
正直に言えば、昨日何があったかなんて確認したくない。
それでも、僕は何があったのかを確認しなくてはいけない。
もしもの時の為に、それが僕の取れる唯一の責任だから。
『プレビュー』は、『再現』する。
今できるのは『一時保存』した時点での、僕の体験をだけど。
そこに僕の意識や記憶があるかどうかは、関係ない。
そこに当事者たる僕が居れさえすれば良い。
昨日は───────
「あっ、これ甘くておいし……?」
テーブルへと突っ伏した僕。
そうだ、一息に飲み干したのはジュースなんかじゃなくて果実酒で。
此処からの記憶がさっぱりない、あの後一体何があったんだ?
「えへへ~このジュース美味しいねノル君! ……あれ、ノル君?」
シエナも僕もお酒はあまり強くないらしい。
シエナは酔うと子供っぽくなるというか、まるで12歳の時に戻ったみたいだった。
「旅は道連れ世は情けだ! 君達にも十分恥ずかしい所を晒してもらおうじゃないか!」
さ、最低ですよ師匠。
あの人、本格的に禁酒させた方が良いんじゃないだろうか。
「まあなんだ、これから大きな酒の失敗をする前に覚えさせておこうという老婆心って奴だよ」
「と───」
「さてさて、ノル君はどんな酔い方をするのかなっと」
何故だろうか、物凄く嫌な予感してならない。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはノマル・フトゥー! いずれ歴史に名を刻む冒険者である!!!」
「───ぶっ、あっはっはっは! そう言うタイプかぁ!」
「良いぞ坊主! もっと言ってやれ!」
───うっわ、死にたい。
顔から火が出そうだ、物凄く恥ずかしい。
こんなの見るんじゃなかった。
それでもこの後何があったのか確認だけしないと……
「諸君は幸運だ! 如何にして僕が遺跡の守護者を打倒せしめたかを聞けるのだから!」
「こっ、これ以上放っておくと記憶があった時私が怒られそうだな……ほら帰るよ2人とも」
「私歩けない! おんぶ!」
「今更だけどお酒を飲ませたのは失敗だったかな……‥」
そう言って僕達を連れて帰るグレイ師匠、正直もう手遅れ感があるけど傷がこれ以上広がらなさそうでよかった。
「あぁ、部屋が何処か聞いてなかったな。まあ今日は私の部屋に泊めればいいか」
よ、良かった。
想定していたような事態は決して起きてなかった。
シエナは先に起きて何処かに行っているだけなのだろう、流石の回復力だ。
「昨日は随分と激しかったねノル君……ってチョップは酷くないかい!?」
何時の間にか起きていた、意地悪そうな笑みを浮かべた師匠に少しむっとして、チョップをかました。
これくらいなら許されるだろう、昨日は酷い目に遭った訳だし。
「そうかそうか、記憶はあるタイプなのか……それはその、なんだ」
「暫くは禁酒してくださいね?」
「そっ、そんなぁ!?」
何も無かったのは良い事だったけど。
ギルドに行くと、生暖かい視線で見られるのが非常に心地悪くて辛かった。
文章の比率とか
-
地の文が多いほうが嬉しい
-
会話文多めの方が嬉しい