電撃的な速度でC級冒険者へと昇格した僕達は、『王都に来たもう一つの目的』を達成するべく街で準備をしていた。
1日目で受付と少しの観光、2日目でC級に昇格したので王都の事は分からないことだらけだ。
だからこそ、王都に詳しいグレイ師匠の存在は有難い。
「それで、目的のお店ってこの先にあるんですか?」
「ああ、そうだよ。それでさノル君が私を師匠扱いしてくれるのはとても嬉しいんだがね?」
「急にかしこまってどうしたんですか、師匠?」
「いや、パーティを組んだ以上私達は対等であるべきだと私は思っていてね。だから、呼び方を改める必要があるとは思わないかい?」
言われてみれば、何となく定着しすぎて疑問に思った事も無かった。
こんな時、冒険譚だとさらっと名前呼びをしていたが……
生憎、僕は女性の名前を呼び捨てにする事に幾分か抵抗があった。
普通はそうなんじゃないか?
シエナはまあ……別だ、子供のころからずっと呼んでいて定着してしまったし。
「いやぁ、それはそうなんですか……ちなみに周りからはどう呼ばれてるんですか?」
「グレイエル、白銀の……それと親しい人はグレイと呼ぶかな。あとは古臭いエルフとか?」
最後のは間違いなくハンベルグさんだろう。
エルフとドワーフは嗜好の違いから険悪な雰囲気になる事が多いとは聞いたことがあるが、2人に限ってはそういう訳でもなさそうだ。本人たちに言ったら否定するだろうけど。
「じゃあ私はグレイちゃんって呼んでいい?」
「ちゃ……っ!? ちゃん付けされるような齢じゃあないんだが、まあシエナちゃんが呼びたいならそうするといいさ」
僕の中で師匠は師匠なんだよな。
僕に魔法と冒険者は何たるかを教えてくれた恩人。
例え少しくらい日常がだらしなくても、意外と子供っぽい悪戯が好きでも。
胸の中に渦巻いてる尊敬の念は、そうそう簡単には無くなったりはしない。
「少し考えさせてください……」
「そんなに悩むところかいそれ? まあ忘れずに頼むよ……っと。此処が目的地さ」
辿り着いた目的地には盾の看板が掲げられている。
僕達がここに来たのは、防具を揃えるためだった訳だ。
武器は今の所間に合ってるし、お金には何故か余裕が出来たから。
王都の地下にある迷宮……『ダンジョン』に挑むには、防御面が不安過ぎる。
目的の店に入ると、皮と金属製の防具がマネキンに飾り付けられていた。
このお店はグレイ師匠も使っていたお店で、夫婦で経営しているそうだ。
夫が金属製の防具を、妻が革製の防具を仕立てているらしく王都でも指折りの名店だとか。
シエナは重戦士と言うよりは軽快なフットワークと身のこなしを売りにした戦い方をしているし、彼女の強みである速度を潰すのは勿体ないだろう。
僕は前衛も出来る魔法使いだから、一般的な魔法使いの装備よりも少し硬めの装備をそろえるべきだ───とは師匠のアドバイスなんだけど、本当にその通りだと思う。
僕はローブと急所や関節を保護できる、胸当てや肘当てを購入した。
シエナは軽戦士用のバックアンドブレストを購入していたが、装備を着こんでもいつも通り動いていたあたりもう少し重い物でもよかったのかもしれない。
他にもその日だけでブーツやロープ等、迷宮の探索に必要そうなものを買いそろえていたら結構良い時間になっていた。
王都の色んな所を歩き回る事にはなったけど、そのお陰で新しい靴にも慣れることが出来たので良かったのだろう。
そんな訳で、迎えた次の日。
僕達はダンジョンに入るべく、ウィスタリアダンジョンの受付の前に来ていた。
王都に来たもう一つの理由でもあるこのダンジョン、何故王都にダンジョンがあるのかだが……
その疑問に答えるためにはまず、このクロッカス王国の成り立ちから話さなければならない。
このクロッカス王国は勇者が興した国と言われており、当時の勇者が国の財政問題を解決するために目を付けたのがこのダンジョンだったらしい。
食料は勿論、鉱石や装備。それに人々の生活に無くてはならない存在となった魔石も産出する事から、この都市は所謂迷宮による利益を享受するべく人々が集まる『迷宮都市』となった。
今では迷宮からの資源だけで国が回っている訳では無いものの、この迷宮は都市に大きな利益をもたらし続けている。
その管理も冒険者としての重要な役割であり、このダンジョンは原則冒険者と騎士以外の立ち入りが禁止されているという訳だ。
実はここでC級冒険者に上がる為の実績を積もうと思っていたのだが、まさかあんなことになるとは思っていなかったから仕方がない。
受付自体は冒険者カードを受付の人に見せるだけで終わった。
僕達は新しい装備に身を包み、迷宮へと遂に足を踏み入れた。
とはいっても、今日は深くまで潜るつもりは無いんだけど。
なんといってもグレイ師匠とパーティを組んで初めての冒険になる訳だし。
「パーティのリーダーはノル君に任せるよ、本来はベテランである私が務めるべきではあるんだろうけど……『スキル』の事がある以上、君の方が臨機応変な判断を下しやすいと思うからね」
「……緊張しますね」
「なに、別に手伝わないって言ってるわけじゃない。私も殆どパーティの経験が無いから実はパーティに関しては初心者と言ってもいいくらいだしね」
「ノル君なら大丈夫だと思うから、肩に力入れすぎずにやっていこ?」
先頭にシエナ、少し遅れて僕が続いて最後尾にグレイ師匠が続く。少し薄暗いながらも、天井や壁に生えているドウクツヒカリゴケのおかげで照明の類は必要ないまま進むことが出来ている。
第一層にはほとんど魔物は出ない、ギルドによるマッピングも済んでいるから迷子になる心配も無い。
その代わりお宝なんかも見込めないらしいけど。
そして出てくるのも……
「スライムがいるね」
不定形のゼリー状の魔物。
その中でも酸や毒を持っている訳でも無く、押しつぶしによる鈍重な攻撃手段しかない最弱と称される魔物だ。
シエナが投げた石がものすごい速度で加速し、スライムのコアを叩き潰す。
当然かもしれないが魔法使いの出番はなかった、魔力の温存は大事だけど。
そして、何処からともなく現れた宝箱がその場でゴトリと音を立てる。
「おっ、ラッキーだね。スライムを倒して箱が出るのは100体に1回くらいなんだけど。折角だ、シエナちゃんが開けてみなよ。とはいえ───」
宝箱か、中身を開けるまでのお楽しみとは言うが。
果たして中身が確定するのは開けた後なのか、それとも出てきた瞬間なのかは気になるところだ。
「ノル君、あれやっとく?」
「そうだね、今日は余裕もあるし試してみても良いかもしれない」
「宝箱に何かするのかい? 多いよね、開ける前に願掛けする人」
『スキル:
言うなれば永続的な物質改変とも言えるようなこの使い方は、状況や珍しさによって消耗が増加してしまうのだが……宝箱に対する使用は消耗が少なくはないらしい。
そしてシエナが宝箱を開くと、中に入っていたのは───
「そうガッカリするモノじゃ無いよ、スライムの宝箱は中身が大抵ポーションで……ってあれぇ?」
入っていたのは首飾りだった。
先端についてる青い宝石が、何処となくスライムを連想させる意匠をしている。
「スライムの……首飾り?」
「……あぁ、三年ぶりに見たけどそう言う『スキル』だったね。戦闘以外にそこまで幅が広いとは思ってなかったけど」
そう言えば言ってなかったかもしれない、この三年の内に皆がどれだけ成長したかを語り合ってから来るべきだったのだ。少々浮足立っていてその辺りを疎かにしてしまっていた。
『特殊タグ:注釈』
首飾り*1をよく見てみると、どうやら魔法使い用の装備のようだ。
「魔法使い系の装備かな、結構レアみたいだよ」
「えっ、そっかぁ……じゃあノル君にあげるね!」
そういう訳にもいかないだろう、何より三人でパーティを組む以上は───
「───報酬は山分けとかいったら怒るからね? 流石にこれで山分けを主張するのは、面の皮が厚すぎると思うんだよ、私は」
顔に出ていただろうか、そんな分かりやすい顔をしているつもりは無かったんだけど。
「それに、幼馴染からの好意は無碍にするものじゃないよ? 私は冒険が終わったら夕食でも奢ってくれればいいよ……ついでにお酒も」
そう言って報酬の受け取りを拒否する師匠。
確かに装備品である以上このままパーティを組み続けるなら戦力の強化に繋がるものの……あまりにも金銭面に無頓着すぎる。
そこまで考えて気付いたけど、うちのパーティは皆金銭を求めて冒険しているわけじゃないんだ。
普通はもっとカツカツで、その日暮らしだって父さんから話を聞いてたんだけど。
「私がつけてあげるから動かないでね?」
「うん、ありがとう」
首元にかけられた青い宝石のネックレスは、僕達がこのダンジョンで手に入れた初めてのお宝だった。その事が何故だか無性に嬉しい。
「うん、すっごい似合ってるよ!」
「そうかな?」
「……青春だねぇ」
自分ではよく分からないけど、似合ってないと言われてしまうとショックだとは思うから……お世辞でも嬉しい。
そんな事がありながらも順調に進んでいき、地下への階段を見つける僕達。
通路よりも少し薄暗い階段を降りて、僕達は迷宮の第2層へと足を踏み入れた。
文章の比率とか
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地の文が多いほうが嬉しい
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会話文多めの方が嬉しい