スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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26.隠し通路の先にあったモノ

 明らかに人の手が入っている人工物の道を進む、警戒しながら進んでいるがどうやら罠の類は見当たらない。

 森や洞窟があるから、こんな遺跡のような場所があってもおかしくは無いのだろうけど……それでもやはり洞窟の隠し通路の先にこれがあるのは少し不自然だ。

 

 暫く歩くと、そこには開けた空間が広がっていた。

 開けた先に居たのは、真っ暗な色をした異質な存在感を放つ巨大な軟体の生物がいた。

 目なんて無いはずなのに、それはこちらを見つめているような気がして思わずゾっとする。

 

「黒いスライム……スライムと言って侮らない方が良さそうだね」

 

「見た所コアが見当たらないんだけど、何処を切ればいいんだろう?」

 

「分かんないけど───来るよ!」

 

 黒いスライムは僕達を外敵と認めたのだろう、ゆっくりとこちらにむけて身体を伸ばして向かってくる。触手のように伸ばしたその一本一本が僕達の胴と同じくらいの太さを持っている、捕まれたら一溜まりも無いだろう。

 

「こっち来ないで───硬っ!?」

 

 液状生物であるはずのスライムの触手と、シエナが振るった剣が鳴らしたのは金属質な音。

 液体でありながら硬度があるということだろうか、あまりにも異様な性質の生物だ。

 シエナが硬いと感じたという事は、少なくともA級冒険者が対応に回る必要がある程度の魔物であるという事。

 一瞬撤退の判断が頭を過ぎったが、もしこのスライムが解き放たれ───水道にでも潜伏したとしたら? 被害の規模は想像もつかないモノになるだろう。

 

「グレイ師匠!」

 

「……あぁ、こいつは此処で仕留めないとダメだ」

 

『特殊タグ:注釈』

 

 黒いスライム*1に……コアなんて見当たらないんだけど!?

 

 黒い身体の何処かに、目では見えないほどの小さなコアがあるとでもいうのだろうか?

 それならあれだけの質量を一撃で吹き飛ばさなければいけない。

 ……そう考えるのは早計だろうか、一先ずは見に回ってもいいかもしれない。

 

「我が命に従い顕現せよ───アイスナイト」

 

 氷の大槌を持った氷の騎士が現れ、巨大な粘液生物に向かって走り出す。

 剣や盾より、鈍器の方が効率的に身体を叩き潰せると踏んだのだろう。

 騎士の振るった氷の槌は、スライムに突き刺さり───弾力を持って弾き飛ばされる。

 

「そんな両方の特性の都合の良い所だけなんて、ズルじゃないかい!?」

 

 弾力を持ったスライムとしての特性と、金属のような硬質さを併せ持つという事だろうか。

 そんな事が有り得るのだろうか、少し信じられないけど……実際に起きている以上はそうなのだろう。

 

「速くは……無いけど!」

 

 シエナが向かってくる触手を切り払い続けてくれている、ボトリと地面に落ちた触手はその場でのたうち回った後動かなくなるものの……黒いスライムの総量は全く減ったようには見えなかった。

 

「キリが……無いっ!」

 

 動きはそこまで速くは無いものの、まるで取り囲むかのように伸びてくる鋼鉄の液体は、気を抜くとあっという間に逃げ場がなくなってしまうだろう。

 

「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───アイスランスッ!」

 

 反応が見たくて放った氷の槍は、まるで取り込まれるかのように身体を通っていく。

 遠距離からのこう言った攻撃は殆ど役に立たないかもしれない。

 スライムがここまで厄介な相手だとは思ってなかった。

 

「5小節の魔法で勝負を決めにいくべきかな?」

 

「いや、それは……」

 

 何かを見落としている気がする。

 古代魔法のアブソリュートブレスは高威力ではあるものの、師匠ですら魔力を使い切って放つような代物だ。

 もし有効打でなければ、それこそ僕達の勝ちの目は無くなる。

 

 

 スライムがその場から動かないのは、扉の先にあるモノを守っているのだろう。

 本体を一切動かそうとしない黒いスライムを見て、この先に何があるのかが気になる所だが……?

 

「凍てつく大槌となって我が敵を叩き潰せ───アイスハンマーッ!」

 

 奥にある扉に向かって魔法を詠唱するが、特に後ろを庇う訳でも無くハンマーはスライムの横を通り過ぎて扉に激突し鈍い音を立てる。

 どうやらあの魔物は扉の先を守っている訳では無いらしい。

 それじゃあ、動かないのはなんでだ?

 

 

 ───もしかして、前提から違うのか?

 あの体の何処かに、スライムのコアがあると思っていたが……その前提が違っていたとしたら?

 

『特殊タグ:文字色』

 

黒いスライムのコア以外を青く染める。

 身体は真っ青に染まり、黒い部分はどこにも見当たらない。

 やはり、奴のコアは此処には存在しない……だとしたら何処に?

 注釈のおかげで、コアがある事自体は分かっているのに。

 まさか、本体と離れた場所にコアがあるとでもいうのだろうか?

 

 ……そんな訳はない、コアと本体は絶対にどこかで繋がっている筈だ。

 それなら一体どこに? まさか……

 

「シエナ! 隙を作れる!?」

 

「うん、任せて!」

 

「師匠は詠唱を開始してください、狙いは僕が探しますから!」

 

「───冷たく暗い溶ける事のない氷よ」

 

 返事代わりに詠唱を始めた師匠、僕は目を凝らし世界をより詳細に認識していく。

 青くなったことで分かりやすくなったが、あのスライムの真下にはぽっかりと開いた穴がある。

 その下にもスライムの体が伸びている、奴の総量が減らなかったように見えたのはこういうカラクリがあった訳だ。

 

「───我が魔力を贄とし、触れるものを氷へと閉ざせ」

 

「触手の一本たりとも、ノル君とグレイちゃんには触れさせないッ!」

 

 もし、僕の仮説が正しいのだとすれば奴のコアは───地面の下だ。

 奴は『動かない』のではなく、コアのあるその場から『動けない』。

 じっくりと観察した事で遂に見えた、青く染まっていない黒いスライムの一部。

 

 狙うべき場所を強調するために、僕はスキルを発動させる。

『特殊タグ:文字色+下付き』

 

 奴の……真っ赤に染まったスライムのコアに。

 

『特殊タグ:太字』

 

───其は氷の星にしてその終わりッ! 

 

「決めてください、師匠ッ!」

 

 今、氷の爆発が叩き込まれようとして───

 

「■▼、ちょっと待ってくださいなんですけど~!?」

 

 その魔法は、薄花色の羽を持った金髪の小柄な少女がスライムと僕達の間に現れて手を広げたことによって中断される。

 スライムの方も攻撃の手が止まったあたり、騙し討ちの心配はあまりなさそうではあるが。

 いきなりどうして女の子がこんな所に? 擬態した魔物の一種なのだろうか?

 どうするべきか迷ったものの、師匠は何時でも詠唱を完了できるように保持しているので話の続きを聞いてみる事にした。

 

「統一歴以来の言語を話すなんて久しぶりですけど、訛ったりして無いと良いんですけど?」

 

 そう言って話し始めた少女は、確かに少し変な喋り方をしている。

 ダンジョンではよくある事なのだろうか?

 そう思って師匠に視線を向けるが、ゆっくりと首を横に振っている。

 今起きている事がイレギュラーなのはどうやら間違いなさそうだ。

 

「それであなたは誰なの?」

 

 シエナのもっともな疑問に慌てたように姿勢を正した彼女? はコホンと一息ついてから答えた。

 

「申し遅れました! わたーしはダンジョン管理用妖精Ⅲ-13型、第一層担当のミービーちゃんなんですけど!」

 

 自己紹介をしてもらったはずなのに、分からない事が増えた。

 一体何から聞けばいいんだろうか……

*1
第一層の守護者:マザースライム。巨大なスライムであり、コアを破壊しない限り身体を修復し続ける




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