ダンジョンの階層間の転移が可能になったことによって、日帰りで深層以降の攻略が可能になった僕達は破竹の勢いで攻略を進めていった。A級相当の冒険者が二人と僕で進む以上は当然かもしれないが、三層の攻略は簡単に終わった。
まあ、戦闘だけで言えばの話なんだけど。何と言っても三層『迷いの沼地』は文字通り……湿気た沼地なのだ。出てくる魔物は虫や爬虫類が多く、有用な素材が落ちこそするものの精神を擦り減らしていく。
「うぅ、ジメジメするし虫が居るし気持ち悪い……」
「凍らせても良いかな?ぶ、ブーツが湿って気分が悪いんだけど」
「良い訳ないじゃないですか、それに師匠は慣れっこですよね?」
「慣れてても辛いものは……辛いんだよ」
道を整備してもぬかるんですぐに見えなくなってしまう、だからマップを頼りに進むしかないのだが……霧まで出ているので方向感覚が狂うのだ。この階層を転移で飛ばせるのは本当にありがたい。冒険がそう言うものだとは言え、正直こんな所を何度も通りたくはないのが本音だ。
第四層の階段を見つけた時には、すでに全員が泥まみれで満身創痍だった。その分、その日に入ったお風呂は人生で一番だったと思う。だからと言って二度と行きたい場所では無いけど。
そして遂に足を踏み入れた第四層、既にダンジョンの中層へとさしかかっているが今回のダンジョン探索は四層、もしくは五層で一旦中断の予定だった。なんといっても、ここにはB級の昇格に必要な討伐対象の魔物が出現するのだから。
第四層は沼地とは打って変わって乾燥した砂漠だった。あまりの気候差に、今はこの場にいないダンジョン管理の妖精を恨みそうになった。絶対悪意を持ってやってるだろ。
とはいえ乾燥しているだけでそこまで暑いというわけではない、じわじわと汗をかく程度の暑さ。少なくとも浅層や中層の話にはなるが……極端に暗かったり、極端に暑かったりといった環境的要因で冒険者にトドメを刺そうという意図は無いのだろう。
それと罠らしきものはここまでで見てはいない、過度に気を使わなくても良いのは助かるが……唐突に現れた時に油断していそうで少し怖い。
「第四層は通称『陽炎の砂原』。何時もより足場が柔らかいから、少し注意が必要だね」
「あっつい……!」
そう言いながらも、砂で出来た巨人をコア毎真っ二つにしたシエナ。この階層の雑魚相手ならまだまだ余裕だという事なんだろう。
砂原というだけあって、道中に出てくる魔物にはサンドゴーレムやサボテン型の魔物といったそれっぽいものが多い。今回目的としている魔物は別で居るのだが、そちらはまだ見つけられていない。まぁ、昇級の対象になるような魔物は強い魔物だろうから、そんなにうじゃうじゃと居ても怖いんだけど。
「一応さ、B級の昇級試験だから2人……いや、1人になるか。1人で倒してみなさい、その方が君にとっては良い薬になる」
そう言って氷で出来た団扇で涼み始めた師匠、確かにA級冒険者に手伝って貰えば討伐は容易になるだろうけど……何故1人なんだろうか。
その答えはすぐに分かる事になった。
「……下?」
いきなり震え始めた地面に驚くが、該当の事象をギルドの図書館で見た事がある。柔らかい砂の海を泳ぐ第四層で最も厄介と言われている魔物。
地中から這い出てきた巨大な腕と鋭い爪がシエナを襲うが───危なげなく躱す。だが彼女が反撃を入れようとした所、それはひらりと身を翻しまた地中へと戻っていってしまった。
土竜……モグドラゴンと呼ばれる彼らは、竜と名付けられているものの竜では無い。だからと言って弱いのかと言うとそういうわけでも───ない。
気付き辛く追いづらい砂の海を泳ぐと言う性質と、硬く鋭い爪による攻撃はかなりの脅威と言える。そして何より攻撃の隙が地中から出てきた一瞬しか無いのだ。
「これは……手強そうだね」
「えっ、う……うん」
地面に潜った土竜が、次は僕に狙いを定めて地中から飛び出た矢先。
「───どこを狙ってるのッ!」
飛び出した首と胴体が真っ二つになり、そのままドサリと地面の上に落ちる。あまりにも速い一閃による文字通りの一撃必殺。これは確かに僕の討伐の手柄とは口が裂けても言えないだろう、そう言う事だったのか。
「私の見立てでは君達は既に十分A級冒険者になれるだけの実力がある、足りてないのは知識と経験……そして何よりノル君に足りてないのは自信だよ」
「経験を積まないと自信もつかないからね、だから1人で討伐してごらん?」と続けた師匠。僕にできるかは不安だが、確かにいい機会なのかもしれない。
対象を探し回る事しばらく、僕は歩きながらも土竜の対策を考えていた。ギルドの資料によると彼らは聴覚が優れており、音によって外敵を識別するらしい。それなら幾らかやりようはあるかもしれない。
先ほどと同じように、奴が居る事を示すかのように地面が揺れ始める。狙いは先頭を歩いている僕だろう、あえて大きめに足音を立てた甲斐があったというものだ。
「シエナ、師匠!ちょっと耳を塞いでいてください!」
僕がやろうとしているのは、そんな彼らの習性を利用したもの。
普段は全く意味のないスキルの使い方だけど、こういう時は役に立つ。
『特殊タグ:二段階拡大+太字+震える』
「凍てつく氷よ、我が前に現れ壁となれ───ッ!」
まるで音の爆弾のような出力の詠唱が辺りに響き渡り大地を揺らす。人間である僕ですら顔を顰めそうなくらい五月蠅いのだ、聴覚が敏感な彼等なら───
「ギャウッ!?」
───耐え難い苦痛だろう、思わずと言わんばかりにその場で飛び上がった土竜。きっと直ぐに地面に潜ろうとするだろうけど、要は潜る先が砂じゃなくなってしまえばいい。
『スキル:
「
まるで氷山のような硬質な氷の壁が、土竜の真下へと生成される。これだけの規模なら直ぐには地面には帰れないだろう。僕は次の魔法を詠唱しようとして───
「あっちゃぁ、随分と派手にやったねぇ……」
「後は試験を受けるだけだね!」
土竜は氷の剣山に突き刺さり、真っ赤な花を咲かせている。
あれだけの巨体が突き刺さっても壊れないだけの強度が、あの魔法にはあったという事だ。素材は綺麗には取れないだろうけど、ダンジョンの中だし問題ないのはそうなんだけど……戦闘があまりにも一瞬で終わってしまったせいで困惑を隠せない。
「これまでの相手が悪かったんだよ、黒いスライムとか深層でもめったに出ないレベルの強敵だからね?二人とも、その事を念頭に試験に臨むんだよ?」
「分かったよ!全力で試験頑張るねグレイちゃん!」
「話を聞いてたかなぁ!?」
確かに、遺跡の守護者や12魔将に放つつもりで魔法を撃てばとんでもない大惨事になっていたかもしれない。試験自体は負けても見込みがあると試験官が判断すれば合格になるそうだが……流石に試験官を木っ端みじんにしてしまえば合格とはいかないだろう。
「二人ともこうやって釘を刺しておかないと、試験で相手の試験官を仕留めかねないからね……」
五層へ続く階段へと足を踏み入れだけして、引き返して地上へ帰る用意をする。こうするだけでその階層に行った事がある判定をもらえるらしい、ミービーちゃんがそう言っていた。とは言えこの後はダンジョンではなく冒険者らしい依頼を受ける予定だったので、暫くは使わない予定だったんだけど。
冒険者ギルドに討伐の証である土竜の爪を納品して、帰路に就く。こうして、順調に4層を突破した僕達は……B級への昇級試験に挑むのであった。
文章の比率とか
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地の文が多いほうが嬉しい
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会話文多めの方が嬉しい