結局村の人に聞いてみたが、魔法系のスキルを持っている人は村にはいないらしい。少し火を起こしたり、水を出すくらいなら母さんも出来るとは言っていたが「そういうのは素人じゃなくて、ちゃんとした人に教わった方が良い」と言われた。変な癖がつくと良くないと言われたが、確かにその通りだった。
「だけど村にいる誰かに教わる事も出来ないんだよね……」
この村で魔法使いのスキルを授かった人が生まれなかった訳では無いが、今は都会で冒険者をやっているんだとか。まあ魔法が使えるってだけで冒険者ではかなり重宝されるらしいので、村から出て行ってしまうのも当たり前かもしれない。
「折角、魔法が使えるかもしれないのに試せないのがもどかしいな」
こればかりはシエナに相談してもどうにもいかないだろう。こう……無から錬成できたりしないだろうか?魔法の先生とか。
「そんなこと出来る訳ないし、出来たとしても代償がなぁ……」
もしそんな事をすればどうなるかなんて目に見えている。半ば諦めかけていた時、いつも来てくれる商人さんが村の中に歩いてくるのが見える。どうしても村じゃ手に入らないモノも多く、定期的に村に足を運んでくれているのだ。僕が持っている冒険譚なんかも、駄々をこねて買ってもらったものだ。
基本的に訪れる人の少ない村だ、稀に王都の学者さん?が植生を調べにきたり旅人がフラリと訪れるくらいで、見慣れない顔を見る事は殆ど無い。ただ……全くいない訳じゃないんだ。なら、試してみてもいいかもしれない。
僕はその日から、出来るだけ村の入り口の近くで待っていることにした。そしてその時は意外と直ぐにやって来たようだ。村の入り口が少し騒がしい、外を見てみると……
『
村に向かってくる荷馬車から降りてきた
「あれはっ……!」
「知っているの、オシエル君?」
何時の間にか僕の隣にいた彼はオシエル君。僕より3つ上の彼は自称『情報屋』らしいがそもそも村で生きていて何処からそんな情報を拾ってくるんだ?スキルによるものなのだろうか。
「逆になんで知らないんだ?あの方は薬草学の権威……ハーブ・ミチクサだぞ!?」
いや、そう言われても知らないが。
「いっつも思うけど、オシエル君は何処からそんな情報を持ってきてるんだよ」
「へっ、そいつは企業秘密って奴よ。これで飯食ってるからな。それで詳しい事が知りたいんならここからはクッキー4……いや、5って所だな」
そして対価に甘いものを求めてくる生粋の甘党でもある。情報量として格安なのは間違いないんだけど、そのせいでうちの家も含めてお菓子を作るのが日常になりつつある。もしやこれが目的で……?
「いや、今日は大丈夫かな」
そんな彼の情報は一旦聞かないでおくことにした。薬草学という奴にも少し興味はあったが……何でもかんでも覚えられる程に僕は器用じゃない。器用貧乏にならないためにもとりあえずは魔法の先生を探すことに集中しよう。
それからというものの僕は、村の入り口で旅人を待ち続けた。
こちらに歩いてくる
『
「おいおい、あれは王都で最近話題の有名画家イラストンさんじゃないか!?こんな田舎村に何を描きに来たんだ?」
来る日も、来る日も───来る日も。
大きな
『
「マジかよ、ありゃぁ炎の料理人とも噂されるフランベさんじゃないか!この田舎村に彼の求める食材なんてあるか……?」
頼む頼む頼む!
『
こちらに歩いてくる
「おいおい、今日は伝説の探索家の……」
今回も違うのか……そもそも1つの職業を狙い撃ちするなんて無謀なんじゃないか?
「っておい、何かしてるだろノル。こんな辺境に続々と有名人が来るわけねえんだよ。しかもお前が待ち始めたその日からだぞ?」
「あ、あはは……スキルでちょっとね」
「お、おう?神父様に見た事も無いって言われてたスキルか。そんな効果があったんだな」
それでもここまでかけた時間を取り返したくて、今日も僕は村の入り口の近くに立つ。待ってる間はずっと素振りをしていたから、少し剣の方が上達した気がする。実は薬草学を学ぶのが正解だったのでは?なんて後悔しかけていたが、そもそも学者さんがわざわざただの村人でしかない僕に薬草について教えてくれるわけも無さそうだと諦めた。まぁそれは相手が魔法使いでも同様なのだが。
ただ僕は召喚してるわけではなく、偶然有名な人が村を訪れているだけだ。だから相手の求める物によっては交渉の余地はある……と思いたい。
そろそろ辺りも暗くなってきたので帰ろうかと思った時、ちょうど
「少し良いだろうか、少年。今日はもう遅いしこの村で一泊出来たらと思っていたんだが……村に泊まれる所はあるかな?」
綺麗な銀髪をたなびかせた、“特徴的なとんがり帽子”を被った長い耳の女性。
それが示すのは───
「ああ、怪しいものではないよ。私はA級冒険者のグレイエル・スノウリリィ」
───僕がどうしても出会いたかった『魔法使い』だという事だ。
「『白銀の魔女』と言えば、伝わるかな?」
「……いや、申し訳ないんですけど分からないです」
「……あれぇ!?」
がっくりと肩を落とした彼女だが、ここは辺境のド田舎だ。そんな田舎村に冒険者の情報や二つ名なんて早々届くわけがない。あくまでオシエル君が異常なのだ。
ところで辺境の小さい村であるソノヘンには、当然だが宿屋は存在しない。なので旅の人は使ってない空き家や村長さんの家に泊まったりするのだけど、今回は両親に少し我が儘を言ってうちに泊まってもらってほしいとおねだりした。そのせいであらぬ疑いをかけられそうになったが。
というのも、元冒険者の父さんから聞いたところによると宿代の代わりに子供に魔法や剣を教えてあげてほしいというのは冒険者の間ではよくある話だと聞くからだ。あまり等級の高くない冒険者に限った話ではあるが。もし無理だったとしても、A級冒険者の冒険譚という奴を聞いてみたい。
「……あのさ?ちょっと気恥ずかしいとは思いつつも、カッコいいなぁって思ってたんだよ。二つ名までついて私も随分有名になったもんだなぁってね?いやぁ、ここの立地を少し舐めすぎていたかもしれないね……」
グレイエルさんはクールそうな見た目と彫刻のような美しさからは想像もつかない程、気さくな人だった。よく喋るし、よく食べる。凄い人だというのにとても話しかけやすい。
「頼みごとがあるんですが……」
「うん、どうしたの?」
だが彼女はA級冒険者だ。A級冒険者と言うと冒険者の中でもトップクラス、間違っても宿代の代わりに魔法を教えて欲しいなんて釣り合うはずも無い。
「ぼっ、僕に魔法を教えてくれませんか?」
緊張からか思わず声が上擦ってしまった。
「魔法を教わりたいの?確かにちょっと素養を感じるね。良いよ、見てあげよう」
グレイエルさんは快く提案を受けてくれた。
なんと今夜から魔法について教えてくれるらしい。この日を待ちわびていたのですっごく嬉しい。ただ、魔法を使うにも周囲に迷惑をかける訳にはいかないので、村の外れまで向かっている。
グレイエルさんは、どうやらここから近くで見つかった遺跡の調査に来たらしい。有名な探索家なんかもそこの調査に向かっているんだとか……どこかで聞いたことあるような話だな。
「暫くは遺跡の調査をしたいから、宿が見つかるのは渡りに舟なんだよ。流石に何日も野宿はしんどいからねぇ……それに、なんといってもノル君ママのご飯が美味しい!」
確かに母さんはすっごく料理上手だと思う。
「野宿もやっぱりするんですね、僕もいつかやってみたいなぁ」
「夢を壊すようだけどそんなに良いもんじゃないぞ少年?お風呂には入れないし、寝るのも大変だし……それに見張りも立てないといけないからね」
「うっ、考えてみればそうですね」
確かに今まで冒険の輝かしい所にだけ目を向けていて、現実的な事を見れていなかった。
「綺麗な冒険譚に憧れるのは良い事だけど、ギャップがありすぎて音を上げる子も毎年何人かは居るからねぇ。冒険者の実態も知っておくに越したことは無いよ。お父様が冒険者だったんだろう?」
「そうですね、旅に出る前に父には聞いてみたいと思います」
本当に冒険者になるならそういう所も学んでいかないといけない。
「それはそれとして冒険者は良いぞぉ?どれ、お姉さんが家より大きい巨人を倒したときの話をだな……」
「本当に気になるんですが……目的地についてしまいましたよグレイエルさん」
本当に冒険譚は聞きたいところだったが、目的地についてしまったのだ。時間がそんなにある訳じゃない以上、このままでは、ここまで雑談をしに歩いてきたことになってしまう。
「……続きは帰り道で話そっか。あとグレイで良いよ?長いでしょ」
「分かりました、グレイ師匠」
「うん。しっかりついてくるように、ノル少年!」
何ともしまらない空気のまま、僕の初めての魔法訓練が始まったのだった。
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紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい