スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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29.B級昇級試験

 B級に昇級するための試験の日付が決まった。試験は明日の昼、シエナの試験は明後日の昼行われるらしい。それまでの間準備や休憩という事になったので今は一人で街にいるのだが……ここ毎日ダンジョンに潜っていたせいで、王都で休みの日に何をしていいのか分からない。

 

 折角の休日を無駄にするのも嫌だったので、王都にある図書館に来てみた。当然だが村に図書館なんて無かったので、こんなにも紙の本が並んでいる光景は圧巻だ。そしてテンションも上がる。

 

 B級の昇級試験は、現役B級の冒険者が行うらしい。試験官も既に決まっているらしく相手はあの『ハンベルグ』さんらしい。王都に来た時に出会ったドワーフの大槌使いで、師匠とも仲が良い?ようだけど……

 

「流石に師匠に聞くのは良くないよなぁ……」

 

 手の内や戦闘スタイルを知れば試験でも有利に立てると思ったが、冒険者の商売道具を盗み見るようなものだし。

 

「そういう訳でも無いんだなぁ、それが」

 

「なんでしれっと図書館に居るんですかグレイ師匠」

 

「ん?可愛い弟子が私を探してるんじゃないかなぁって、探し回っていた所だったんだよ」

 

「シエナちゃんには必要ないって言われちゃったけどね」と師匠は続ける。なんでも、前情報無しの真剣勝負で仕合たいのだとか。流石と言えるけど、騎士団長の時と同じような事態にはならないように釘を刺しておかないと……

 

「結局の所E級の時と同じでね、相手の事を調べられる情報網も評価に入るのさ」

 

 成程、純粋に戦闘能力を見るだけの試験ではないらしい。それなら遠慮なく教えてもらった方が良いだろう。僕は対人戦闘の心得なんて無いに等しいんだから。

 

「教えてもらってもいいですか?とりあえずお昼はまだですよね」

 

「おっと、ノル君も冒険者の流儀が分かって来たねぇ、まず彼のスキルは───」

 

 

 

 そして迎えた試験の当日、試験は王都から少し離れた場所にある試験用のフィールドで行われるらしい。王都は広いとはいえ、B級以上の魔法使いの破壊力はとんでもないものだからだろう。

 

 試験会場はならした土と線が引かれただけの簡単な訓練場だった。そこら中に破壊の跡がついているのが、ここで行われたであろう戦闘の苛烈さを物語っている。

 

「よう、ノルの坊主。お前さんは高みに行ける器だとは思ってたが……まさかこんな早く上がってくるなんてな」

 

「ハンベルグさん、今日はよろしくお願いします」

 

「おう、ハンベルグでいいぜ。冒険者ってのは本来そういうもんだ。お前さんに言いたいことは幾つかあるが……」

 

 そう言って、僕の身の丈よりもずっと大きな大槌を軽々と持ち上げたドワーフ族の戦士は、その大槌をこちらに向ける。

 

「簡単に負けてやるつもりはねえから……気合入れろよ」

 

 

 気前のいいドワーフだった彼は、既に歴戦の戦士の面持ちをしている。僕もそれに応えるべく短剣と杖を手の中で握りなおす。緊張はしている、それでも……それ以上に興奮が勝っていた。

 僕は今、B級冒険者になるために彼を───倒す。

 

 

「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───」

 

 まずは最も使い慣れていて、牽制やメインのダメージとしても優れている氷の槍を詠唱する。だが、相手は歴戦の戦士だ。魔法使い相手にどうするかなんてわかっているだろう。

 

「───まずは小手調べだ!」

 

 一足に距離を詰めた彼は、大槌を僕に向けて振り下ろす。すぐ眼前に迫った大槌に対して魔法を詠唱する。身体より大きな大槌をまるで棒のように振り回す彼の一撃は、まともに喰らえば一撃で戦闘不能になってしまうだろう。

 聞いていた通り、彼は重量系の武器を使うパワーファイター。

 

『スキル:傍点』

「───()()()()()()()()

 

 発射された氷の槍は、振り回した大槌に阻まれる。とは言えかなりの衝撃だったようで、彼も大きく後ろへ下がった。流石にこれが決定打になるとは思っていなかったが、決して避けきれない速度では無さそうだ。それなら、やりようはある。

 

「悠久の時を越えて溶ける事のない氷よ───」

 

 短剣に魔力を集中させるが、流石に3小節の魔法の詠唱を待ってくれるほど相手も優しくはない。だから、この攻撃は魔法無しで受けきるしかない。眼に力を入れ、世界の描写を増やしていく。

 

 まるで空気を裂くかのような速度で上段から振り下ろされたやや大ぶりな一撃に、短剣を沿わせることで攻撃の角度を変える。僕に直撃するルートを少し外れ、地面に土煙が舞って大きなクレーターを作る。

 

「我がもとに現れ剣の形を取れ───」

 

 しかし、地面に突き刺さった大槌を腕力だけで引き戻し僕を打ち上げようと大槌を振り上げる彼に対して一瞬反応が遅れる。今から回避は無理だ、あまり真正面から打ち合いたくはなかったんだけど……

 

「───フローズンブレードッ!」

 

 短剣の周りに魔力で作られた氷が集まっていき───氷の剣となる。前使った時と違って、今回は透明にはしない。見えている方が、役に立つことだってあるのだから。

 

 氷剣と大槌が真正面から打ち合い、力負けしたものの後ろに大きく跳んでダメージを殺せた。後はこれからどうするかだが……‥

 とそこまで考えた所で、ハンベルグさんはその場に大槌を下ろす。

 

「……なんで」

 

「そりゃあ、魔法使いがそんだけ前衛職の攻撃をいなせりゃ試験は合格だろうよ」

 

 そう言ってヒラヒラと腕を振る彼。……そうだったぁ、これ戦闘じゃなくて試験なんだよね。別に勝つ必要どころか勝負がつくまでやる必要も無かったのだ。集中しすぎていてその事を忘れていた……

 

「だから、試験はこれで終了なんだがよ」

 

 何処か言葉を選ぶように探している彼をじっと待つ。何を言いたいのかは何となく想像はついていたけれど。

 

「───坊主、俺をどう攻略するかって目をしてやがったな?」

 

「……はい」

 

 嘘をつく理由も無いので、正直に答える。それを聞くと彼は好戦的な笑みをみせてから、地面に置いた大槌を担ぎ直した。

 

「試してみたくは───ねぇか?テメェの実力がどれほどのもんなのかをよ」

 

 ゾクリと胸が跳ねる音が響いた気がした。そうだ……僕はこの戦いを……楽しいと思い始めていたんだ。その質問に対する返答の代わりに、氷の剣を構えなおす。

 彼はまだスキルによる『奥義』とも言えるモノを、見せてはいない。

 

「そいじゃ決まりだな、行くぞ───坊主ッ!」

 

 互いの間に緊張が奔る、きっと決着は一瞬でつくだろう。

 

 

「スキル:溶炎の槌ッ!」

 

 師匠から聞いていた彼のスキルは『鍛冶師の大槌』。ドワーフの鍛冶師が武器を打つ時のハンマー使いが上手くなるという鍛冶師向きのスキルだったが、それには戦闘の槌の扱いも上手くなるという副次効果と、槌自体の温度を上げることが出来るという思わぬ効果があったらしい。

 

 如何にフローズンブレードが3小節の魔法と言えど、燃え盛る大槌に対しては相性が悪すぎる。まともに受け切れば、氷の剣は溶解するし……かと言って回避出来る程、鈍重な攻撃じゃないだろう。

 

 大きく振りかぶった氷の剣に、僕はスキルを発動させる。

 

『スキル:二段階拡大

 

「氷剣───」

 

 乗せるのは渾身の気迫、この一撃で決めるという気迫を込めた一撃。

 僕には剣を物理的に大きくするなんて言う芸当はまだ出来ないけれど、今大きくするのは斬撃の───存在感だ。

 

「───解除!」

 

「なッ!?」

 

 氷の剣が炎の大槌と触れるその瞬間に、氷の剣は解除されてただの短剣へと姿を戻す。インパクトのタイミングを外された事により、大槌は空振り気味に通り過ぎていく。耳元を真っ赤に染まった大槌が通り過ぎる、ジュっと髪が焦げた音と臭いがしたが気にせずにさらに──ー近づく。

 

 そして僕はがら空きになった胴体に密着して、首元に魔鉄鋼の短剣を突きつける。それを驚いた眼で見つめていた彼は、やがてゆっくりと首を振ると大槌を地面へと放り投げる。

 

「……お前さんの勝ちだぜ、改めて昇級おめでとうって奴だ」

 

 先ほどの攻防……僕の斬撃の存在感を引き上げて、絶対に対処しなきゃいけない一撃だと『誤認』させた。知能がある人間相手だからこそ、刺さりやすい『フェイント』が勝負の決め手となった。二度目は無いだろう、だけど今回通じればそれでいい。

 

「期待してるぜ坊主、お前ならあのS級冒険者も夢じゃ……ねぇ!」

 

「……はい!ありがとうございました!!」

 

 こうして僕は無事、B級冒険者に昇級することが出来たのだった。

 ちなみにシエナは次の日、何故か大槌を担いで帰ってきた。使い勝手が良さそうだからと言ってその日の内に武器屋を訪れるバイタリティの高さは見習いたいところだけど……

 

 まぁ、そう言う事もあるだろう。手紙に書いたら父さんも母さんも驚くだろうななんて、そんな事を思った。




オサレ戦闘取り入れさせていただきました

文章の比率とか

  • 地の文が多いほうが嬉しい
  • 会話文多めの方が嬉しい
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