「辺りもそろそろ暗くなり始めそうですし、今日はそろそろでしょうか?」
「確かに、今日は皆疲れただろうし早めに休憩を取るべきだろうね」
急ぎの旅ではあるものの、僕達の事情を慮ってか野営地の候補を探し始める事にした僕達。ここまでは村や町があったものの、王都から離れると毎回宿に泊まる訳にも行かなくなってきた。それにしても……
「その、ツェツィーリア様は随分と野営に手慣れておられるんですね」
「あら、ツェツィと呼んでくださってよろしいのですよ?」
「そっ、そういう訳には……!」
彼女の身分を考えると愛称で呼ぶなんて、平民の僕にはあまりにも恐れ多い。それに、護衛の騎士さん達からの視線も怖い気がするし。そもそも『聖女』と呼ばれる割にはしっかりと帯剣しているし、もしかしたら結構そう言う経験があるのかもしれない。
僕達が怪我をすることも無いので、彼女は支援系以外のスキルを見せていない。名前からしておそらくは回復系の魔法を得意としているのだろうけど、『スキル』で勝手に覗くのも失礼だし。
「姫様は少々お転婆が過ぎます、小さい頃からお茶会を抜け出しては外へ行こうとするのですから……」
「あら、それは言わないって約束したじゃないルーク!」
護衛の騎士の一人のルークさんは、ツェツィーリア様と同じくらいの年齢だろうか。僕が言うのもなんだが、若いのに王族の護衛を任されるなんて凄い騎士なんだろう。何故か何処となく嫌われているような気がしないでも無いけど、恐らくは警戒しているだけだと思いたい。
その日の夜、野営の為に馬車を止めて身体を休めていた僕達だったが……僕は何となく寝付けなくて野営地を離れて、外を歩いていた。昼に起きた事、盗賊の衝撃に染まったままの最期の顔が未だに脳裏の奥にこびりついて離れない。
当たり前のように振るっていた力は、容易に誰かを殺し得るモノだったなんて分かっていたはずなのに……真の意味では理解できていなかったんだろう。
「こんな風に旅をするなんて村を出た時以来だね、ノル君?」
何時の間にか後ろを歩いていたシエナ。きっと夕方の一戦に思う所があったのだろう。野営をしていたあの時は交代で見張りをしていたから、夜に2人でこうして話をするという機会はそんなになかった気がする。
「……そうだね、シエナも寝付けなかったの?」
「まあ、そんな所かなぁ」
魔法で戦った僕よりも、剣で命のやり取りをしたシエナの方が衝撃は大きかっただろう。それなのに、僕よりもショックを受けた様子を見せないのは彼女の心が強いからか、それとも気丈に振舞っているだけなのか。
村を出た時はこんな事になるなんて思ってもいなかった。
こんなにも早くB級冒険者に成れる事も、王女様と冒険をする事になるのも。そして……悪意を持ってこちらを害そうとする人間がいる事も。村の皆は、優しい人ばかりだったから。
「後悔……してる?」
「……分からない」
絞り出すような彼女の問い、昼のあの時の判断の事を指しているのだろう。生け捕り……は現実的じゃない。彼らを見逃せば、襲われるのは次に通る『誰か』だ。だからあの行動はきっと最善だった、最善だった筈だ。
「でも、同じことがあっても僕は同じ選択をすると思う」
「そっか」
今回は余裕があったから良かったけど、接戦においてあの『迷い』は窮地では戦闘を左右する明確な『隙』になっていたと思う。だからここで初戦を終えられたのは運が良かったとも言える。それでも、この感覚に慣れるようになるのかは……分からない。
「ノル君はさ、慣れなくても……そのままで良いと思うよ」
「本当に……いいのかな」
「その優しさはノル君の良い所だと思うから」
敵は敵と割り切れたらきっと楽だったんだろうけど。そんな風に考えられない僕は、人と戦うたびに悩み続けるままで良いと……シエナは言っているのだろうか。
「それは、誰かを傷つける事に慣れるよりもずっと素敵だと思うな」
それは理想論に近いのかもしれない。それでも確かに、その一言の中に僕は救いを見出すことが出来た。大事な局面で迷いさえしなければ、悩んだって……いいのか。
「ありがとうシエナ、少しだけ……気が楽になった気がする」
「うん! 相談ならいつでも聞くからさ、もっと頼ってほしいな?」
それから少しだけ一緒に夜の星空の下を道沿いに歩いた。明日に響くし危ないから、あまり遠くまでは行けなかったけど……それでも、久しぶりに二人で話せてよかったと思う。
それから、道を歩く事数日。魔物に襲われることは何度かあったものの……トラブルらしいトラブルに見舞われることは無く馬車は進んでいった。騎士の人たち……特にルークさんとは壁を感じるし、ツェツィーリア様は壁が無さ過ぎて怖いくらいだけど。それでも旅は順調だった。
「この辺りにあるはずなんですが……」
だから、そこに辿り着いたときは間違えたと思った。目的地を間違えただけだって。
「……シエナちゃん」
「うん、分かってる」
警戒の為に鞘から剣を抜いたシエナと、杖を構えるグレイ師匠。
辺りの地面は少しばかり大き目の石が転がっていて、草こそ生えていないものの、要塞らしきものは何処にも見当たらない───なんて、果たして有り得るだろうか? これだけの辺境の地で、辺り一帯だけ綺麗に草だけが刈ってあるなんていう事が。
『特殊タグ:注釈』
嫌な予感と共に、スキルを発動させる。対象はこの辺り一帯*1。その予感は……スキルによって確信へと変わった。
「……ツェツィーリア様、ここが僕達の目指していたモエニアです」
「そんな……はずがっ!?」
だけど僕達は確かに『モエニア要塞』に辿り着いていたんだ。
瓦礫とむき出しの地面が広がる……モエニア要塞の跡地に。
『モエニア』への連絡が取れないのは当然の事だったのだろう。連絡するべき『そこ』には誰もいないのだから。兵士は疎か非戦闘員すら一人も見当たらない。連絡を取って誰も戻ってこないのは、ここに着く前か帰りには既に命を落としているからなのだろう。
「ここを守る兵士たちは……その役目を最期まで果たしたのですね」
悲痛そうな顔で呟いた彼女は、その場で故人を偲んで黙祷を捧げる。辺りに気配は感じないし、破壊跡もかなり前のモノに見える事から……すぐ近くにこの惨状を生み出した主は居ないのだろう。そう判断して僕も彼女に続いて黙祷を捧げた。
弔おうにも、埋めるべき遺体すら見つからない。だから、一本だけ転がっていたクロッカス王国の意匠のロングソードを地面に刺し、花を添えて墓の代わりとした。最期まで職務を全うした彼等の墓としては、あまりにも粗末過ぎるけど……あまりここでゆっくりしている訳にはいかないのだから。
「……どうされますかツェツィーリア様」
師匠の「どうする」というのはこの後の話だろう。依頼としてはモエニア要塞への護衛だった訳だが、そのモエニアは既に跡形もなく消え去っていた。何時までもこの場に留まるのはリスクも高い、とはいえ残らない事には何も分からない。
「一先ずは鳥で伝書を出します。その後は……調査を手伝っていただきたいのです」
……リスクのある提案だ、それでもこの災禍を引き起こした主がもし王都やソノヘンの村を襲えばここと同じような惨状になるのは目に見えていた。『命令』という形をとることも出来たかもしれないが、『お願い』という形を取っているのは彼女なりの誠意か、優しさによるものなのだろう。
「ううん、難しい判断だけど……」
「私達は、リーダーの判断に従うよ」
撤退か、調査かの決断を迫られている。冒険者歴の長いグレイ師匠が撤退の判断を出さないという事は、この状況で調査した場合には少なくないリターンがあるという事だろう。そして、このメンバーなら最低限対応できるだろうという戦力評価。
「……分かりました、少しこの辺りを見て回りましょうか」
「ありがとうございます! この御礼は必ず……!」
大きな脅威がクロッカス王国に迫っている。そんな不安を背筋に感じながら、野営の準備を進める。愛国心なんてそんな大層なものでは無いけど、それでも大切なものを守る為……せめて情報位は王都に持ち帰りたい。この時の判断が正しかったのかどうか、今の僕には判断できなかった。
次出す予定の別作品になりますが
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文章の比率とか
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