スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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34.凱旋

 十分な休息を取って王都への道を進み始めた僕達、行きの不穏さとは正反対に王都までの道のりは平穏そのものだった。だから特筆するとしたら騎士の彼の事くらいになる。

 

「夕飯の用意か?俺も手伝おう、ノマル・フトゥー」

「ありがとうございます、でもノマルで良いですよルークさん」

 

 王国騎士のルーク・マグヌス。その名が示す通り、シエナが村で決闘したオットー・マグヌスの息子さんだろう。その時に彼の自尊心をズタズタにするような勝ち方をしてしまったせいで、家族には恨まれているだろうと覚悟はしていたのだが……結果的にこうして話をしてくれているのは何かしらの心境の変化があったのだろう。

 

「貴殿とは話さなければいけないと思っていたんだ、我ながら失礼な態度だった」

「いえ、そうなるのも無理は無いと思いますし……」

 

 互いに譲れないものがあったと思うから仕方ないとは思うんだけど、あまりにも配慮が無かった。さらに元はと言えば僕があの時詳しく話を聞いておけば良かった訳で。とは言え、あの時の選択を間違いだと思った事はないけど。

 

 結果的にとは言え、こうして魔王軍の討伐の力になっているので……どうにかあの時の事は水に流してくれないかな……

 

「初めは……何か卑怯な手を使ったんだと思っていた。父上が年端も行かない少女に負けるはずが無いとな」

 

 それはそうだ、僕も勝負にすらならないと思っていた。いくらスキルがあるとは言え、体格と経験が違い過ぎるし。あの時はきっとスキルが噛み合いすぎていた。

 

「だが彼女の剣を見て分かった、あれは正しく本物の天才という奴なんだろう」

「そう……ですね」

 

 そう言って思いを馳せている彼は、恐らくこの前の12魔将との戦いを思い出しているのだろう。どんどんとキレと引き出しが増えている、僕も彼女も未だ成長段階だから当然なのかもしれないが。僕達は、何処まで成長できるのだろうか……

 

「それで……あぁ、君達のパーティはなんて呼べば良いんだ?」

 

 あっ、完全に忘れていた。パーティを組むときにあると便利だと受付の人に言われていたのに。どうして気付かなかったんだろう。いや……そもそも依頼を受けるのが初めてだから、必要性に今気づいたというのが正しいのか。

 

「かっ、帰ったらすぐ決めておきます……!」

「あぁ、そうするといい。国も今回の件を見て君達を指名する事も増えるだろうからな」

 

 凄く光栄な事だが、途轍もなく期待が重い。そもそも今回が殆ど初めての依頼だというのに。元々村での一件があって目を付けていたのだとは思うが、まるで国のお抱えみたいな扱いだった。

 

 

 盗賊に襲われることも無く旅をする事しばらく、慣れ親しんだ城門が見えてくる。護衛依頼は当然だが拘束時間が長かった、それでも王都にこもりっきりじゃ見られない景色や出会いがあった。なので、また何時か受けてみても良いなとは思うものの……そう頻繁に受けるものでは無いだろう。

 

「今回の件の報酬、考えておいてくださいね?もちろんわたくしでも……」

「「姫様?」」

 

 思わずといった様子で言葉が重なるシエナとルークさん。まぁ、この場合の「わたくし」と言うのは一緒に冒険に連れて行って欲しいと言う彼女の願望なのだろう。長い事旅をして分かった、この方めちゃくちゃ冒険者に憧れている……!

 

「心配しなくても、彼をとったりはしませんから安心してください?」

「わっ、私とノル君はそう言うのじゃ……」

「あぁ、そうなのですか?それなら気兼ねなく……」

「えっ……?」

「あんまりシエナを揶揄わないであげてください……」

 

 コロコロと表情の変わるシエナは感情の許容量がパンクしたのか、なんとも言えない表情で静かになってしまった。シエナとの関係……頼りになる剣士で、仲の良い幼馴染だけど……僕には「色恋」というのはまだよく分からない。きっとシエナもそうなのでは無いだろうか。なんと言っても僕達はまだ……大人になりきれていない。

 

 僕達は依頼の終了報告、王女様達は王城へ戻るという事で……一旦ここで解散する事になった。なんだかんだこれだけ長い間一緒にいると、王女様の人となりもある程度は知れたと思う。もしかしたらそれも織り込み済みでのこの依頼なのかもしれないけど。シエナに国に対しての悪いイメージを無くして、繋ぎ止める楔にする……なんて考えすぎか。

 

「それでは皆様、近いうちにまたお会いしましょうね!」

「姫様……!馬車から身を乗り出さないでください、危ないです!」

 

 そう言って馬車から身を乗り出してこちらに向けて手を振っている彼女に、僕達も手を振り返しておく。本当に嵐のような人だった、聖女と言うよりかはお転婆姫と言う方が似合うかもしれない。

 

「いやぁ、大変だったねぇ……柔らかい布団とお風呂が恋しいよ」

「けっ、剣を買わないと……ノル君から折角もらった剣なのに……」

「誰かの命を守れたなら、道具としても送った側としても本望だと思うよ?」

 

 今まで、シエナは僕が村で誕生日に買った剣で戦ってきたものの……今回ばかりは買い替えざるを得ないだろう。彼女は『思い出』と『戒め』だとして刀身がごっそりと削り取られた剣のグリップを大事そうに抱えている。カジおじさんの腕は間違いなく悪くは無いものの、数撃ちの剣で素材も普通の鉄である以上はB級冒険者の獲物としてはあまりにも心許無い。

 

 なんなら、僕の短剣の方が質が良いのだ。あくまでサイドウェポンでしかない魔法使いの短剣に劣る質の剣で、ここまで戦って来た事が異常と言うべきだろう。

 

 

 とは言え暫くは休息期間にするつもりだったし、買い物や羽を伸ばすのにはちょうど良いだろう。ギルドに報告を済ませて帰路についた僕達はそんな話をしていた気がする。

 

 だから、そんな連絡が来るとは思ってもいなかったし……近いうちに会いましょうなんて言うのが、方便なんかじゃないと気付かされたのはその、翌日のこと。

 

 僕たち『氷竜の一閃』に、やけに重厚そうな手紙が届けられていた。裏を見ると封蝋の形は間違いなくこの国の王家を示す『それ』。つまりは国から何か大事な書類が届いた事に他ならない。

 

 ちなみに、氷竜の一閃はかなり安直とは思うが分かりやすさを重視して急遽つけた名前だ。氷を得意とする魔法使いが多い事、剣士と魔法使いで構成された事がわかりやすい名前だと思う。僕のスキルは公表する訳にはいかないし。

 

 こんなに高そうな封蝋を開けた事がないからどうしても緊張する。もし中に不味いモノが入っていたらと思うと開けるのが怖い。だけど中に入っていたのは招集状などではなかった。だけどとても……判断に困るモノで。

 

「それは……パーティの招待状かい?」

「えっ、ドレスなんて私持ってないよ……!?」

「そこは安心してくれたまえ、こう言う場合は主催者側が貸してくれるから」

 

 王城で主催されるパーティへの招待状だった。今回倒したのは確かな筋からあれが12魔将だと国も分かってはいるだろうし、魔王の復活が確かなものだと断定された今……国を活気づける意味合いもあるのだろうけど。

 

「だっ、ダンスなんて僕、踊った事ないんだけど……!?」

「あっ、足踏まないだけなら私もできるよ?」

 

 当然だ、村で生きて来て冒険者になってからもダンスの機会なんてある訳がない。シエナはそりゃあ近接戦のステップに比べれば機敏さは無いだろうけど、おそらくそう言う事じゃ無い。

 

「そこまでゲストには求めないと思うよ?まぁ、こう言う事もこれから先増えるだろうし……幸いパーティまでは余裕があるから、少し練習しようか?」

 

 急遽として始まったダンスの練習をしながら思う、当たり前のように自分で教えると言っているグレイ師匠は一体何者なのだろうかと。僕にはまだ、師匠の知らないことが沢山ある。それは『スキル』を使えばきっと分かるのだろうけど……

 

「どうしたんだい?私の顔なんて見つめて」

「いえ、なんでも無いですよ師匠。ダンスの方も特訓お願いします」

「うん、大船に乗ったつもりで任せてくれたまえ!」

 

 ……使わないと言う選択肢を僕は取った。やはり人の核心を覗く事は。人のプライベートに土足で踏み入るような事は、出来ればしたくは無かったから。

 

 いつの日か、師匠が自ら語ってくれる日が来るだろう。そう思って思考を切り替える。肝心のダンスは、思っていたよりも難しく……何度も足を踏む事になった。

文章の比率とか

  • 地の文が多いほうが嬉しい
  • 会話文多めの方が嬉しい
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