ツェツィーリア様と二人で冒険者ギルドへと赴き、『ツェツィ』が『氷竜の一閃』へと加入したという報告と申請を行った後。どうせだから依頼でも見て回ろうと掲示板の前に立ち止まることにしたのだが。
「王女様……?」
聞こえていないのだろうか、こちらを向く素振りも無くそっぽを向いている彼女は依頼を見ている……という訳でも無さそうで。
「聖女様?」
やはりこちらを向くことは無い、この距離だから聞こえていない訳は無いと思うので……拗ねているのだろう。
「ツェツィーリア様……」
「ツェツィでよろしいのですよ?」
ようやく反応してくれた彼女の台詞は、今朝から数度は聞いた呼び方の変更を求めるものだった。だが、一庶民でしかない僕が……王女様を愛称で呼び捨てにするなんて畏れ多い。誘拐みたいな事をしておいて、どの面下げてって話だけどね……
そんな彼女をパーティに入れる事で王家とは大いに揉めた───訳でも無い。
「まだ世界でも4件しか討伐の報告が挙げられていない12魔将。その討伐報告を上げている国で唯一の一流パーティを放っておくことは、国……ひいては世界の大きな損失ですからね」
そうなのかもしれない、それでも王女様が冒険者のパーティに入るなんて……よっぽど日頃の行いが『良い』のだろう。
「お父様からは、他国に行きそうなら身体を使ってでも引き止めなさいと言われております」
「えっ?」
「ハニトラを仕掛けろと言われましたわ」
かっ、勘弁してほしい。ただでさえ『酒に酔ってある事無い事したけど描かれていないだけ』だなんて疑われているのだ。これ以上悪評を広められると本当にとんでもない事になる。誓って清い身体だ……だよね?何となく怖くって注釈が使えない。旗色が悪すぎる、話を変えないと。
「その、ツェツィーリア様はどんな依頼を受けたいとか……」
「およよ、こんな幼気な女の子を捕まえて無理やりパーティーに引き入れておいて……その仕打ちがこれですのね……」
そういってさめざめと泣く……フリをする彼女。このままでは一向に話が進まないので、僕の方が折れる事にしたのは良いのだが。
「つぇ、ツェツィはどんな依頼を受けたいとかあるかな?」
「まぁ、やっとツェツィと呼んでくれましたわね!」
ぱぁっと花が開いたように笑顔になった彼女は、何処まで本気でこのやり取りをしているのかは分からない。もしかしたら僕と言う人間の人となりを探っているのかもしれない。そんな笑顔をすぐに引っ込めて、真面目……というより困惑した様子で尋ねる。
「冒険……というより。真面目な話、何時までBランク冒険者に甘んじているのですか?」
「そっ、そんな直ぐにA級には……」
「何処の国に魔王軍の幹部を倒せるだけのB級が居るのでしょうか?さっさと上がっていただかないと、ギルドとしても困ってると思いますよ?」
「異世界で流行りの『真の力を隠して』という遊びなら構わないのですが……」とつづけた彼女に対して、僕は何も返せなかった。S級冒険者からしか討伐報告の上がっていない12魔将の討伐に成功している以上は実績、討伐報告共に十分すぎるだろう。
「ご、ごもっともです……」
「それに進化したスキルの丁度いいお披露目の機会ではありませんか!わたくしも気になります」
急遽、先ほど受付をしたカウンターへと戻り昇級試験の受付をする。対象の魔物に12魔将が含まれている訳はなかったが、その話を受けて急遽僕とシエナのA級への昇級試験が組まれることになった。
試験官はB級で最も強いと言われている男の人が行う事になったらしい。相手が12魔将よりも強いなんて言う事は無いだろうが、それでも油断はできない。相手は冒険者の中でも上澄みに位置する相手なのだから。
下調べは……今回あえてしていない。というよりも必要無いはずだ、それは決して相手を舐めている訳では無いが……姿を見ればわかるはずだから。
B級に昇級する時にも使った、王都から少し離れた場所にある試験用のフィールドに辿り着く。先についていた試験管らしき男性、彼がB級で最強と噂される……
『特殊タグ:注釈』
「やぁ、君がノマル君だね?僕はアルフレッド・ブライト*1。今回の試験官を務める事になっているんだ」
彼の情報が注釈によって丸裸になった。剣と魔法……僕と似た戦法で戦うであろう彼は、僕とは違って眩しい笑顔の正統派のイケメンというやつだった。何処か光が射している気すらする金髪は、勇者と言われても納得してしまうほどの見た目で。まあ、戦い方が似ているという事は参考になる部分もあるだろう。
ところで、新しいウィンドウが増え……スキルのレベルが上がったことによって……
『スキルウィンドウ』
| 傍点 | ルビ | 特殊タグ | 整形・置換・変換 | プレビュー | 小説閲覧設定 | 一時保存 |
今までのウィンドウで使えなかった事が幾つかできるようになった。それに感想で来てた中にも試してみたい事が幾つかあった。だから、今回は……接近戦をメインに何処までやれるかを試してみる事にする。フロントの薄さはこのパーティの弱点でもある訳だし。
互いに向き合う事になった僕とアルフレッドさん、遠くの方で師匠と王女様とシエナが見学しているのが見える。少し緊張するけど、程よい緊張感だ。それと少し小細工を仕込んでおこう。
『スキル:ルビ』
「試験の概要はB級に上がった時と一緒だけど、何か質問はあるかな?」
「
「分かった、それじゃあ……始めようか」
「
相手は僕を魔法使いだと思っている節がある、だからこそここはその……虚をつく。
「何か妙な手を打っているみたいだけど……ッ!?」
「フローズンブレード!」
3小節の魔法を発動させ、魔鉄鋼の短剣に氷の刃を生成すると……地面を蹴って距離を詰める。まさか魔法使いが距離を詰め……その上で3小節の魔法をいきなり使うとは思わなかったのだろう。少しだけ相手の反応が遅れるが……それでも歴戦の冒険者らしく、直ぐに迎撃の為に剣が振るわれる。
魔法を使う剣士の弱点は、詠唱の隙を与えてもらえない事だ。それは僕も痛いほどわかっている、接近や迎撃の為に魔法を使おうとすれば……剣へのエンチャントといった攻撃方面での魔法が使えない。ただ、攻撃は上手くいなされて結果として詠唱の隙を与える事になる。
「エンチャント───フレイム」
剣術の腕は、当然ながら相手の方が上らしい。まあ僕のスキルは剣術を強化したりする訳では無いし……近接職程、力の強さに補正がかかる訳でも無い。やはり僕が勝つには上手くスキルを活用する他無い。
振りかぶった剣同士がぶつかり───拮抗する。第3小節の魔法であるフローズンブレードを使って、ようやく互角の破壊力らしい。相手の獲物が剣であることを踏まえれば……こういうのが効果的だろう。
『置換:剣→槍』
剣から槍へと姿を変えたフローズンブレード……いや、フローズンランスによって鋭い突きを繰り出す。幸い武芸百般と言えるシエナが近くに居るのだ、お手本には事欠かない。間合いと言うのは正義だ、剣よりリーチが長い分一方的に攻撃を通しやすい。そんな事は相手も分かっているのだろう、距離を詰めて射程に収めようとしたところに───
『置換:槍→大鎌』
槍より前に距離を詰めた所で、穂先がいきなり鎌の形状に変わる。彼は驚愕の表情を見せている、気づいているのだろう。このまま彼が剣を振るうより、僕が鎌を引く方が圧倒的に早い事に。横へと逃げる彼を目で追いつつ、大鎌を振り上げる。
『置換:大鎌→大槌』
イメージするのはハンベルグさんの見せてくれた大槌の振り下ろし、置換でそんな大きなものへと置き換えることは出来ないが……今となれば一瞬くらいならやりようは───ある。
『特殊タグ:拡大+二段階拡大』
「フローズンハンマーッ!」
振り下ろされた氷の槌を彼に避ける術は無い、もしかしたら何か防ぎきれる手段があるかと身構えたが……
「降参だ、もう流石に打つ手がないよ」
大槌が振り下ろされる前に、彼から降参の一言が発せられたので慌てて巨大化を解く。初見殺しのような戦法で詰め切れたが、今のを防がれていれば苦戦を強いられていただろう。流石はB級の最上位という剣の冴えだった。少なくとも、僕の付け焼刃の槍術じゃ相手になりそうにはない。
「君のスキルを聞きたいところだけど……何故か聞かないように上からお達しが出てるんだよね」
姫様が手を回してくれたのだろう、ありがたい反面少し申し訳なくはなるが……
「何はともあれ……試験は合格だ!A級への昇格、本当におめでとう!」
「ありがとうございました!」
無事に、A級の昇級試験を乗り切った僕。まさかこんな日が来るとは、あの日の僕は考えてもいなかったかもしれない。
スキルで出来ることが沢山ありすぎて、ここまで来るとどう使っていい物か迷ってしまう。あっ、そう言えば……こういうのはどうなんだろうか。
『特殊タグ:水平線』
「感想の方で何か有用そうなスキルの使い方を思いついたら、教えてくださいね……なんて」