「『スキル:ハメ上』……っと」
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青白いウィンドウを出現させて、中身を確認する。突然だが、ここまでこの物語を閲覧している方がいる……という事が分かった上で、一つ気になる事があった。それは……もしこの世界を小説のように認識しているのなら、ある意味死活問題とも言える話だ。
『小説閲覧設定』
それは、簡単な話……見辛いのではないかという事だ。何が……というのは、例えば……
「それにしても、今日はあっついな……あんなに燦々と輝かなくったって良いのにね」
「あっ、うん……流石に暑いけど……急にどうしたのノル君?」
「ううん、良いんだ。独り言だから」
そう、読み辛くは無いだろうか。折角アイデアや応援をして頂いているのにこれでは少しだけ申し訳ない。だから、何かないかと思ってスキルを弄っていたら……こんなものを見つけたのだ。
「『ルビ機能:あり』……これでどうかな、
多分上手く行っている気がする、これで
A級への昇級が終わって数日、当然のように試験官を一蹴したシエナと僕は正式にA級冒険者。そう、冒険者の上澄みになることが出来たのだ。この前B級に上がったという手紙を送っただけで、それはもう喜んでくれた父さんと母さん達が……もうA級になったと聞いたらどういう反応を取るのかは楽しみである。
しかし父さんは喜んではくれたものの、絶妙な表情をしていると母さんが言っていた。「息子の成長は嬉しいが男として負けた気がする」なんて言って、最近は剣の素振りをしているらしい。とっ、父さん……
「困ったことになったな……」
「どうかしたんですか、師匠?」
「いや、実家からね……」
そんな訳で久々……と言うほどでも無いが、近況報告にソノヘンの村に帰るのも有りかなとは思っていたんだけど……どうやらグレイ師匠の実家の方から手紙が届いたらしい。
ただ眉間に皺を寄せて手紙とにらめっこをしている師匠は、あまり乗り気という訳では無いようで。ご実家と仲が良くないのだろうか、あまり家族の事を話したがらないのでなんとなく仲が良い訳では無いのだろうとは思っていたのだが。
「……そんなに心配するような事じゃないんだ、私の方が折り合いがつかないだけでね」
「そのうち話すよ、何時までも隠しておくことでも無いし……」なんて言って、手紙を懐へと仕舞ったグレイ師匠。そんな彼女の横顔はどこか寂しそうにも見えた。一体師匠が何を抱えているのか、教えてもらってばかりの彼女に……僕からも何か返してあげたいのに、もどかしい。
冒険者パーティ……と一概に言っても、そのメンバーがずっと一緒に居る訳ではない。怪我や病気と言った身体に関係する理由から、実家に帰ったり用事があったりと言った理由まで。そんな理由でソロ、もしくは残りのメンバーで活動をすること自体は意外とよくある話らしい。勿論、普段よりも安全マージンを取っての行動になるという。
「そういう訳で、少し実家に顔を出さなくてはいけなくてね。暫くの間はパーティを……」
「まあ、とっても面白そうですわ!」
だが、そんな面白そうな冒険のイベントに食いつかない訳が無いお姫様が一人。
「いや、流石に王族が勝手に国境を超えるのは……」
「えっ、私もグレイちゃんの故郷に行ってみたいなぁ」
この国から出た事が無いシエナも、きっと着いて行きたがると思っていた。
「ノル君からも何とか説得をだね……」
「師匠、申し訳ないんですけど僕も興味があって……」
「のっ、ノル君もかい!?」
そして僕も彼女の故郷には行ってみたいと思っていた。師匠には申し訳ないが……当たり前だろう。希少な木材や固有の生態系。それにエルフ特有の文化……色んな冒険がしたくて冒険者になった僕達からすれば、行きたくない訳が無い場所だった。
それこそ、他国を見て回るなら『グリーンウッド』か、隣国の魔法都市である『プルプラ』にしようと決めていたくらいだし。シエナは腕試しで闘技大会のある『ルベル』にしたいと言っていたけど、そもそも果たして今更彼女に腕試しの必要があるのだろうか……?
師匠もついて来てほしくないと言うよりかは、ツェツィーリア様が国を離れて無断で他国を訪問する事を危惧しているみたいだし。いやそもそも一国の王女様が僕らのパーティに所属しているのが異常なんだけど。
「それなら心配ありません、なんと言っても……わたくしはツェツィなので」
「いや、流石に問題があると思うよ?」
「冗談ですよ? ですが、ちょうどグリーンウッドで重要な対談があると聞いておりまして。そこに捻じ込もうかなと」
冗談か本気か分からないプリンセスジョークにも、やや慣れつつある自分が少し怖い。それなら確かに問題は無いのだろうけど……何処まで見て
「ほっ、本当に来るのかい? 来ても期待する程面白くは無いと思うよ……?」
「グレイ師匠さえよければ、行きたいなって……ダメですか?」
「そんな顔でお願いされると、駄目とは言い辛いよなぁ……」
そんな事情で
グリーンウッド……正式な国名はグリーンウッド共和国。クロッカス王国から幾つかの森と山を挟んだ場所にあるこの国は、森の中に位置する都市『アルクス』を中心とした共和国だ。大きな木々に囲まれたその都市は、沢山のエルフ達が住んでいるが……種族性からか外の国に来るエルフの数は多くは無い。
道中は特筆するようなことが……ある訳はない。そもそもA級冒険者で構成されたパーティが脅威に思うような事象がゴロゴロと存在しているようでは、世界を旅する商人が存在できるはずがない。
辿り着いたそこは、クロッカス王国の建築様式とは大きく違って……白を基調した建物に街の中にも植物の姿が多く見受けられた。その中でも一際目を引くのが、街の奥にある天を衝くほど巨大な樹木だろう。クロッカス王国では世界樹と呼ばれるその木は周囲を浄化し、その葉は病を癒す……なんて言われている。
「ここがグレイ師匠の故郷……」
「歓迎するよ、望むものがあるかは分からないけどね?」
街への入り口である門は、外から来る人が少ないからか列こそ並んでいないものの堅牢な造りをしていた。立地やここまでの道の危険性からあまり旅人は多くないのだろう、それにエルフには排他的な思考を持った方も少なくは無いと聞いているし。
僕達がアルクスに着いて、グレイ師匠が門の近くに居たエルフと一言二言話したかと思うと……守衛の中の一人が急ぎ足で何処かへ走っていく。やはり何処か良い所の出なのだろう、守衛が少し慌てていたように見えたし。
その日は夜も遅かったので、適当な宿に泊まる事になった。実に三日ぶりの安全な場所で休息だったので、漸く気が休まった気がした。そういう所でもしっかりとリフレッシュできるのも必要な才能なのかもしれないが、僕達は立場の割に野営の経験が少ないからそうも行かない。
宿屋についてから。「話したいことがある」と言われグレイ師匠と二人で夜のアルクスの街の中を歩く。今回来た目的に関するものだろうか、それとは別の物だろうか。分からないけど、恐らく大切な話であるのは理解していた。師匠は、何時になく難しそうな顔をしていたから。
それにしても空気が澄んでいて、心なしか風が気持ち良い。初めてクロッカス王国の外に来た僕達だったが、目に入るもの全てが新鮮でとても楽しい。とは言え今回は遊びに来た訳ではなく、師匠の用事を片付けに来たのだ。それだけは忘れてはいけない。
「そう肩肘を張る必要もないよ、なに……本当に大した話じゃないんだ」
「でも、師匠が困ってるなら……力になりたくて。シエナとツェツィも同じ気持ちだと思います」
「……そっか、嬉しい事を言ってくれるね」
そう言って僕の頭を撫でながらどこか遠くを見つめる師匠は、きっと昔の事を思い出しているんだろう。少しして、決心を決めたかのように話し出す。
「スノウリリィ家の人間は、必ず同じスキルを授かるんだ。言ってしまえば相伝スキル……とも言えるかもしれないね」
エルフ特有の物なのか、珍しいモノなのかは分からないが……今までそんなスキルを持っている人を見た事が無かった。王国内に一人もいなかった事から……恐らくは何かしらの条件があるのだとは思う。
「そのスキルの名は『氷精霊の寵愛』。氷魔法への適性と、契約した氷精霊を呼び出せる強力なスキル……だと思う」
何故かスキルを明かしたがらなかった師匠のスキルは、コンプレックスを抱くほど弱いモノでは決してなかった。そしてその理由にも何となく推測が付いた。何故なら、どれだけ追い詰められた状況でも───
「早ければ契約の時にでも姿を現す彼らと術者は二人一組で成長していく。それが……普通だった」
「それはつまり……」
「うん、察しの通りだよ」
「その根幹でもある氷精霊は……私の前に姿を現したことは無いんだ。これまでの人生で一度もね」
────今まで、氷の精霊らしき存在を見たことは無かったのだから。