波乱のパーティーが終わって、あれから随分とグレイ……さんの家族に質問責めにあった。精霊の事とか、後は僕の杖の事とか。ちょっと大変だったけど、別に仲が悪い訳ではなさそうでよかった。
「ねぇノル君。昨日グレイちゃんと何かあった?」
「いや、まぁ……特には?」
「へぇ、ふぅん……?」
まあ、特別やましいイベントがあった訳じゃない。そんな訳で用事も済んで王国への帰る為の準備をしていた訳だが……折角なので、僕も精霊召喚なるものをしてみたいと思っていた。
そんな訳で、彼らの流儀? に合わせて【急募】移動に自信のある精霊【求む】というスレを立てたのだが、なんと3秒後にレスがあるという始末だった。どれだけ娯楽に飢えているんだ。
宿を離れて都市を出て……少し歩いたところで、開けた平地を見つける。ここでなら例え変な精霊が出たとしても、周囲への影響は少ないだろう。
精霊は本来、スキルによって契約した精霊を呼び出すものだ。だからどう呼び出したものか……と思っていたのだが、なんと精霊側から指定があった。是非こうしてほしいと言われれば、やるしかないだろう。
『スキル:ルビ』
「
何となく、このまま詠唱を続けると不味い事になる気がする。最近はスキルが、やって良い事とやっちゃいけない事をなんとなく理解させてくれている。例えば、感想欄に僕が書き込むのはあまり良くない気がするとか。
「
「詠唱する前に居るじゃないですか……」
何時の間にか現れていた、人よりも巨大な6本足の馬。周囲で風が渦巻いているから風属性の精霊なのだろう。それにしても毎度ルビを振るのも、あぁ『ルビ機能:あり』を拡張すれば行けそうだ。それにしても……
「「マジで話通じんなら全然行く」なんて言っていたとは思えない位、なんと言うか……気品があるというか」
<掲示板とリアルを紐づけるのはタブーなのである……>
契約者の前では恰好つけていたいというのは確かにあるかもしれない。僕も何と言うか、精霊ってもっと雲の上の存在だと思っていたし。何なら精霊信仰の国だってあるのに、こんな事を口走ったら異端者として八つ裂きにされる。また世界に公表できない事ばかりが増えていくな……
<自己紹介がまだだったのであるな。普段は名乗っても聞こえないのでな……>
精霊の身体構造は分からないが、一息をついた……ように感じた。周囲の大気がまるで喜びに震えているかのように、振動している。
<我が司るは『移動』。名は『
だからレスポンスも早かったんですね……なんて軽口は言えなかった。それはあまりにも強いプレッシャーを目の前の存在から感じたからだ。おそらく彼の力の3割も引き出せていない現状。それなのにその威圧感は正しく『王』に相応しいモノだと、身体で分かってしまう位には……凄い。
<緊張する必要は無い、
「本当に良いんですか、足代わりにしたりして……」
<世界を己が足で駆けるというのは、何事にも代え難い楽しみがあるというものよ>
そう言って上機嫌そうに喉を鳴らした6本脚の巨躯を持つ馬は、本当に楽しみではあるのだろう。だが、そんな彼に馬車を引いてもらうなんて……あまりにも、あまりにも……
「よっ、よろしくお願いします……?」
<うむ、だがこれでは少しばかり目立つ故な……>
そう言って普通の馬と同じくらいのサイズ感になった彼は、掲示板をしているとは思えない程に……随分と気遣いが出来て、気さくな方だった。
彼が牽く馬車は、まるで早馬が走っているかのような速度で道を走っているというのに……全く揺れないのだ。おそらくは精霊の魔法によるもの……? いや、それすらも見当が付かない。
「わぁ、全然揺れないね!」
「サスペンションを変えたのでしょうか? いえ、これは……一儲けできそうな気配がしますね」
帰り道は本当に爆速で、これなら移動の関わる依頼も積極的に受けてもいいかもしれない。その度に呼び出すのは申し訳ないから、あんまり護衛依頼ばっかりっていうのもあれだけど。
「……ノル君、あれもしかして」
「グレイ……さん、分かってます。分かってますから……」
やはり精霊術の使い手である彼女には、あの馬が精霊だという事に気付いているのだろう。それでも、流石に正体までは分かってはいないみたいだが。
「あの、北風さんは休憩とかは……」
<かっかっか、北風さんとな! 良い、凄く良い! これは奴らにも面白い土産話が出来たのう!>
何を話しても嬉しそうにしてくれるし、何を見ても楽しそうにしてくれるから……こちらとしては凄く助かるのだが……帰り道だというのに魔物の一匹、どころか獣すら寄り付かない。野生の勘が本能的に上位者の存在を察知しているのだろうか。一体どれだけの方なのかが怖くて仕方ない。
結局、一度も襲われることのないままクロッカス王国の王都へと帰って来てしまった。行きの半分もかかっていないどころか、もっと短い。あれでも余力を残していたのだろう、恐らくは馬車を気遣って。
その日は、宿屋に戻って早めに寝て……待って、なんかおかし……!?
湯浴みをしたからか、まだ少しだけ湿った灰色の長髪を頭の上でまとめて部屋のベッドへと座り込む。ノル君とシエナちゃんはまだ相部屋だ。ツェツィちゃんも増えた訳だし、今の
「いや、しかし……ノル君にも困ったものだよなぁ……」
正直、彼女が冒険者として名を挙げたいと考えたきっかけは……コンプレックスのようなものだった。今は純粋に冒険者が楽しいというのもある。だが、精霊の出せない『氷精霊の恩恵』のスキル持ちでも……一人前になれる。そんな考えでここまで頑張って来たものの、A級に上がってから暫くして言われたのは……
「勿体ない」と。
もし氷の精霊が呼び出せれば、S級だって夢じゃなかったと。
確かに自分でもそう思う、上を知れば知る程……もしかしたら手が届いたかもしれないなんて、諦めにも似た感情が鎌首をもたげているのに気づいた。まだ、S級になれないと決まった訳でも無いのに。
そんな問題は、先日あっさりと解決してしまった。私が魔法を教えた……未だに弟子気分の抜けない少年の手によって。初めて解決の糸口が見えたと言われた時は、正直疑いと少しばかりの苛立ちがあった。今までどうにもならなかったことが、昨日の今日で何とかなるなんて。
「全く……本当に困った……」
顔が熱いのを感じる、でもあんなの……反則だと思う。自分の事を冴えない普通の人間だと宣っておいて、人の悩みを解決して……何でもない顔をしているだなんて。恩着せがましい訳でも、感謝を求めるでもなく。自分に出来たからしただけ、スキルが凄いだなんて……彼はきっというのだろう。
だが、あんな力を得て増長しない人間がどれだけいるだろうか? 私も正直自信が無い。彼はどうしようもない程の人たらしなのだろう。シエナちゃんもきっと……彼の何気ない行動に脳を焼かれてしまったに違いない。
「とはいえ、そう言う関係性はパーティ崩壊の引き金になりかねないんだよなぁ……」
対等である、というのはパーティにおいて重要な事だ。誰か一人のワンマンチームのパーティは、トップが動けなくなると機能不全になりやすい。だからあまり崇拝や情愛と言った感情は、あまり好ましくない。師匠関係も私の意見を尊重しすぎて、良くないのではないかと思ったからの呼び方の変更の提案だったのだが……
思わずダンスパーティのあった日の夜の事を思い出して、ベッドの上でパタパタと足を振る。直前に正気を取り戻したものの、私は一体何をするつもりだったというのだろうか。そもそも歳を考えろ、まるであんな乙女みたいな……なんて、これ以上考えても自己嫌悪に陥りそうだからこれ以上は止めておくべきだ。
「……寝るか」
掛け布団を頭まで被って、何とか眠りに就こうと思っても……頬の熱が収まらない。いや、これは布団を被ってるからだ……なんて。誰にするでも無い言い訳をしながら、やがて眠りへと───
思わず頭を抑える、これは本来……僕の知らない場所で描写される予定だった様子なのだろう。
つまり、これ……絶対僕が見ちゃいけない奴だった。
なっ、何か対策を考えないといけない……