窓の外がいつの間にか明るかった。
朝……か。結局昨日はほとんど眠れなかった。
気分は最悪だ、本当に最悪だった。
注釈を使って人のプライバシーを覗かないようにとか、そういう所には特に気を付けていたのに。不可抗力とは言え、グレイさんには酷い事をしてしまった。色々とスキルを見て気付いた原因は、おそらくはスキルの自動化を行ったから……だと思う。
グレイさんと顔を合わせるのが、酷く気まずい。あまりそういう事には詳しくは無いけど……おそらくはそう言う事だ。憎からず思われているとは思っていたけど……うまく受け止め切れていない。
とは言えこんなスキルで覗き見たモノで露骨に態度を変えるのは、あまりにも悪趣味だ。スキルで人の心を操ったり覗き見て……恋仲になるなんて、そんな外道に成り下がるくらいなら、死んだ方がマシだ。だから平常……は無理だとしても、せめて悟られない位の距離感を保たないと。
決意を込めて部屋を出て階段を降りる、朝食を食べている宿の宿泊客の中に……良く見慣れた綺麗な灰色の髪のエルフを見つける。彼女は、こちらを見つけると……ヒラヒラと細い手を振って僕を招き寄せる。
罪悪感で吐きそうだった、少なくとも朝食を摂ろうとすら思えない位に。
「やぁ、ノル君。昨日はよく眠れたかい?」
「えぇ、やはり疲れてたからかグッスリでした」
「……そっか」
それでも、食べないとお昼は動けないし、怪しまれる。
何時ものパンをスープで流し込んで……
そして今日も一日が始まる。
あれから数日が経った、何度か回想のようなものが挟まる事があったものの……僕は普段通りに生活出来ている、その筈だ。少しは気分も持ち直した、ここで不可抗力で切り捨てられれば……幾分か気も楽だったのかもしれないけど。それはあまりにも不義理が過ぎる。
本格的にS級への昇級を目指して活動するのか、それともいろんな国を見て回るのか……そのどちらかを考えていたが、スキルの熟練度を上げるのを優先する必要があるかもしれない。スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』Lv.2/? ……なんて表記があるという事は、まだ続きがあるのだろうし。
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青いウィンドウを表示させて項目を流し見る。そう言えば感想の方で、『誤字報告』なる項目があると聞いた。それと……『よみあげ』と『PDF』? 何かの呪文のようだが、おそらくはそれにも意味があるのだろう。今の所使い道は無くても、何も起きない項目は無かったのだから。
「ふっ……せいやッ! どうだ母さん! これならノルの奴が帰ってきた後でも……」
「あなた……‥確かにお腹の辺りがシュッとしましたね……ふふっ」
「どっ、どうした母さん目つきが……」
『特殊タグ:水平線』
そうしている間にも何か別の場所が流れ込んできた。そして、入ってしまった回想には『水平線』を差し込む事で途中で中断出来るらしいと分かった。父さんも母さんも元気そうで良かった、でも父さん……本当に鍛え直してるなんて……
話を本題に戻そう、僕はこの現状をいったん受け入れる事にした。少し感想でも上がっていたが、ここで自重をする事で存在するリスクが怖いからだ。恐らくはもっと使いこなすことで、こうやってエピソードが挟まる頻度も減っていく……はずだから。
困った時の安価……についても聞いてみた。だけど一旦は保留だ、流石に僕のスキルについての悩みが精霊に聞いてどうにかなるようには思えない。どちらかと言うと感想……いや、一旦は止めておこう。
そんな日々を過ごす事数日、朝に宿屋のベッドで目が覚めた時……突如として”それ”は起こった。
薄暗い洞窟の中を、焚火の灯りだけが照らしている。
大きな石の上に腰掛けている、二体の人型の影が炎の明かりを受けて洞窟の壁でユラユラと揺れている。
「───時は来た」
「然り、あの御方は贄を所望されている」
2メートルを超える長身の彼らの外見は、人の”それ”に酷似していた。だがしかし、頭部についた1対の巨大な角が……彼らが人間ではない事を雄弁に示していた。
「故に、忌まわしき初代の血を今こそ捧げよう」
「然り、あの忌まわしき男の末裔こそ我らが捧げる贄に相応しい」
まるで修行者のような出で立ちの装いに、不釣り合いな悪辣な表情。錫杖と呼ばれる杖に似た、特徴的なそれを握ると地面へと叩きつけるかのように振り下ろす。
「然り、全ては我らが」
「───王の為に」
鈴の付いた杖が揺れ、リンと言う特徴的な音が洞窟の中へと木霊すると……フッと焚火の火が掻き消えて炭だけが残る。暗闇の中で無数の真っ赤な目がギョロリと蠢くと、それは───
───額から嫌な汗が地面へと滴り落ちる。今のは……幻覚なんかじゃない。恐らくこの世界の何処かで行われた、2人の魔族の只の話し合い。
なのに、息をするのを忘れるくらいのプレッシャーを感じていた。最後の一瞬なんてこちらの事がばれたのではないかと気が気ではなかった。心臓の高鳴りが五月蠅い、それでも先に思考を整理しなきゃいけない。
確かに、有益そうな情報がいきなり流れ込んでは来た。これも、スキルをオフにしていれば気づけなかった事象だろう。だけど……どうする? この情報を誰に持っていけば良い? こんなことが出来ると知られたら、昨日の一件だって隠しきれなくなるのではないだろうか?
おそらく、今見えたのは恐らくは12魔将だ。それも……同時に2体も。シエナとパーティで話した通り……僕は別に魔王を倒したいだなんて大層な意気込みがある訳じゃない。それに前回上手く行ったからって、今回も上手く行くとは限らない。
だけど放っておけば……彼らはツェツィとその父親を、王族を狙ってくるだろう。この国が落ちれば、ソノヘンの村もきっと襲われる。当然、良くしてくれた冒険者ギルドの人達や、錬金ギルドの人達も皆。
それなら、最初からどうすべきかは決まっていたのだろう。前よりも人も居るし、状況も良い。だから後は、戦う覚悟を決めるだけ。
部屋を出て、グレイさんの隣室に居る彼女を訪れる。ドアをノックすると、少し高めの声が僕を招き入れる。
「ツェツィーリア様、ちょっと良いですか?」
「ツェツィで良いと……いえ、そう言う事ですか?」
「はい。この国の王女に……お伝えしたいことがあるのです」
リスクはある、でもここまで来て……ツェツィの事を信頼しないもまた不義理だと思った。問題は彼女が僕の妄言にも近い予知を何処まで信じてくれるかだったが……
「お父様にお話しして、直ぐに偵察を出しましょう。おそらくは既に国内に潜伏している可能性が高いでしょうから」
「……疑ったりしないんですか?」
「嘘だったら、貸し一つです。嘘じゃなければ未曽有の危機を防げる……というのは、少し打算的な女過ぎるでしょうかね?」
ふふっと笑った彼女は、冗談で言っているのかが分からない。
「冗談ですよ? 意味も無くそんな嘘をつくような人では無いと、ここまでの旅路で分かりましたから。それに、相談してくれたという事は……信頼して頂いているという事ですし。ですが……よろしいのですね?」
「僕は覚悟を決めました、2人にはこの後話すつもりです」
「そう……ですか、心強い事ですね」
そして戦う事を決めたなら、この王都を戦場にはしたくない。
「ではパーティとしての行動指針が決まり次第、この国の王女として、氷竜の一閃に正式に依頼を出します」
なら僕は、いや僕達は……打って出るべきだ。僕達は、クロッカス王国は……いや、人類は───
「目標は王都の防衛、及び12魔将の討伐……」
───12魔将を討つために、攻勢に転じる。
「報酬は、この国の王女なんて言うのはどうでしょうか?」
「そっ、そのスタンスは変わらないんですね!?」