脚注……確かに、確かにそうだ。
もし回想に脚注が使えたのなら、あそこが何処か分かるのではないだろうか。
そう思ってスキルを発動させて、ウィンドウを出現させる。
| 傍点 | ルビ | 特殊タグ | プレビュー | 小説閲覧設定 | 一時保存 |
| 目次 | 小説情報 | 一括 | 縦書き | お気に入り | 評価 | 感想 | 推薦 | ここすき |
『スキル:目次』
見るのは当然、先ほど見た回想に対して。今までの物語を全て追憶すると、恐らく僕の脳が焼き切れるが……ピンポイントに指定する分には問題が無いだろう。
『特殊タグ:注釈』
薄暗い洞窟*1の中を、焚火の灯りだけが照らしている。
まずは、ここだ。回想越しだと実際に目の前にあるものよりは注釈の精度が悪い。だが、王都からどちらの方角にあるのかを確認できれば良かったので……目的は果たしたと言えるだろう。
大きな石の上に腰掛けている、二体の人型の影*2が炎の明かりを受けて洞窟の壁でユラユラと揺れている。
やはり12魔将で確定だった、だが権能までは読み取れない。まあ、一番秘匿性を高めるとすれば……そこだろうな。こういった方法で注釈を躱されるのなら、姿の見えない相手などへの対策を考えておかなければいけないかもしれないが……少なくとも今じゃない。
「───時は来た」
「然り、あの御方*3────!?
「───あっ?」
ボタリと鼻から血が流れる、視界が酷く揺れる。なんだこれは、まるで弾かれたかのような……抵抗された? それとも、権能による攻撃か?
「ちょ、ちょっと大丈夫ですかノルさん!?」
「だっ……うん。問題は無い……です」
ポタポタと止まらない血が、部屋の床を汚す。ツェツィと宿屋の女将には申し訳ない事をしてしまったと、慌てて服で顔を抑える。分からない、何も分からないけど……これ以上読み解くのはおそらく不味い。意識が飛びそうだ、その前に伝えるべきことを伝えないと。
「南西……侵攻は、南西から。拠点は森の中の洞窟……」
「ちょっとノルさん……!? それ以上は……」
「二人以外にも雑兵はいるけど、敵の将は12魔将……」
初動が大切だ、敵の侵攻に備えるにしても打って出るにしても……軍を用意するのには時間がかかる。
「ごめ、少し……休……」
「あぁ、もう……無理をし過ぎです……!」
視界が揺れて、意識が落ちていく。
倒れる直前に、肩を貸してもらったらしい感触だけは……あった。
次に目が覚めたのは、見慣れた宿屋の一室。頭痛や倦怠感は無かった、そして戦いの音もしない辺り……まだ侵攻は起きていないと見ていいだろう。窓の外はかなり暗い、夜ではあるだろうが……日は跨いでいないと良いのだが。
「……目が覚めたんだね、ノル君」
「シエナ、おはようかな?」
「最近は倒れないなと思ってたのになぁ……?」
「うぐっ、それは……ごめん」
昔から倒れて、シエナに心配をかけてばかりだった。確かに、最近はその頻度も減ってきたとは思ってたけど。
「ノル君はさ、オットーさんが村に来た日の夜の事を覚えてる?」
「うん、当然覚えてるよ」
あの丘の上で、将来の夢だとかそんな……少し子供っぽいけど、大切な事を語り合ったのを忘れるはずはない。
「もし、無理なら……逃げちゃったっていいと思うんだ。ここ以外にも国はあるって……ノル君も言ってたよね?」
「うん、確かに言ったね」
それはそうなのだろう。きっと僕が戦わなくても、何処かにいるS級の冒険者がどうにかしてくれるかもしれないし……それこそ、勇者なんて存在がどうにかしてくれるのかもしれない。
「その上で聞くのはずるいかもしれないけど───」
少し言葉を止めたシエナは、使う言葉を迷っていたのだろう。
「勝てると思う?」
「僕達なら……勝てるよ」
明確な根拠があった訳では無い。だけど、例え権能がどれだけ相性が悪かったとしても。どれだけ敵の数が多くても……村へ侵攻があったあの日よりずっと強くなったし、仲間も増えた。
「じゃ、行こっか?」
「そっ、そんな軽い感じで良いの?」
「うん! ノル君が行けるって言ってたら行こうかって、グレイちゃんも言ってたよ?」
うっ、仲間からの期待が酷く重い。
でもこの重さも信頼だと思うと少しだけ心地良い。
「それに1人にしといたらノル君だけでも行っちゃいそうだしね?」
「その節は……うん、ごめんね」
それから用意を済ませて、王都の南門へと向かう。夜明けと共に進軍を開始する用意を進めていたであろう王国の兵と有志の冒険者達……と言っても、見知った顔は殆どいた。それだけ彼らも街を守りたいという強い気持ちがあるのだろう。
「報告ッ! 王都南西方向に魔物の大軍を確認! 2時間程で王都へと到達する見込みです!」
「そんな兆候は無かったはずなのである、まるで『権能』とやらでいきなり現れたと言われた方が……自然と言えるやも知れぬな」
凄い数の兵士だ。しかし、これまでの12魔将の性質を考えるに……ある程度の実力がないと戦いの場にすら立てない可能性が高い。少なくとも『鋼鉄』のような相手には、圧倒的な攻撃力を持っていないとどんなに頑張っても攻撃が通らない。
故に、12魔将の討伐は少数精鋭で対処する事になるだろう。もしも数が必要な場合は、僕達で耐え忍んで増援を待つ。クロッカス王国のA級冒険者の数は僕達を含めず3名。
「任せたのである、ノマル殿とグレイエル殿」
「まさか騎士団長様に殿を付けられる日が来るなんてね。まぁ、ご期待に添えるように頑張らせていただくよ」
その誰もが一流の冒険者だ。そして騎士たちを纏めるのは、騎士団長のオットー・マグヌス。シエナが規格外だっただけで、王国の盾とも呼ばれている彼の実力は確かなものだ。
そして一番槍を務めるのは僕とグレイししょ……グレイさんだ。その後ろには例の氷精霊が守護霊のように立っているが……実情を知っていると、ストーカーのようにも見えてきてしまう。
「これをやるのも久しぶりだねノル君? ところで……今回は何小節の魔法なんだい?」
「5……じゃなくて6です」
「……先に聞いておいて良かったよ、本当にね?」
無表情のまま杖の先をグリグリと押し付けられるが、甘んじて受けいれる。前回は伝えてなくて変なアドリブをさせてしまったんだっけ。今回も危うくそうなる所だった。
「さぁ、行こうかノル君! 世界に私達の勇姿を刻みつけてやろうじゃないか!」
「はい!」
使い所が難しく、誰も読める者のいない古代魔法の詠唱を……僕が貼り付けて、彼女が放つ。これをやるのもあの遺跡以来だろうか。
『スキル:ルビ』
「
「
ルビを振るから何でも良いとは言え、それで本当に良いんだろうか。
「
「
彼女のものと、別の魔力が混ざり合い濃密に圧縮されていく。これまで見た誰の魔力操作よりも綺麗で緻密な……芸術品のような白銀の魔力が、周囲を震わせる。
「
まるで爆発するのでは無いかと思う程の魔力が、一点に集まっている。その矛先は地平線を埋め尽くすような魔物の群れ。
「───
魔法が詠唱され───刹那の内に世界が凍った。いや、目の前の全てが……と言うべきか。巨大なダイヤモンドダストが……草も土も生物も。その全ての時を奪うかのように凍らせていく。規模的に言えば、王城を丸ごと氷漬けにできるような……そんな暴力的なまでの破壊力。これが契約精霊のいるグレイエル・スノウリリィの真の実力。
「……ははっ、ちょっとやり過ぎたかな? ここに居てもちょっと寒いんだけど」
「……僕もここまでとは思ってなかったです」
鳥肌が立っているのは寒さからか、それとも畏敬の念からだろうか。分からないけど、何時までも呆けている訳にも行かない。敵陣のその一角に、ドームのように不自然に凍っていない地面があったのだから。
「後は任せたよ?」
「えぇ、任せてください」
味方から雄叫びのような歓声が上がるのと同時に、残った魔物に対して一斉に進軍が始まる。人類の攻勢は……こうして始まった。