スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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前話で名称を間違えるという痛恨のミスをしてました。
前話で戦っていたのは正しくは『ジドゥイ』ではなく『トゥールム』です。
なので今回もジドゥイ出てきますが、暖かい目で見守ってあげてください。


47.舞い散るは剣の華

「……という訳じゃの。ところでトゥールムって誰じゃったかの? もう歳で若い子の名前はさっぱりなんじゃ……」

 

「それと、誰を伴侶にしたかじゃと? そいつは勿論、メディコちゃんじゃよ。初登場は22話くらいかの、職人気質な所がこれまた愛いんじゃよ」

 

 

 

 

 

 

「……冗談じゃよ。とは言え、分かりきった未来ほど興醒めなものは無かろう。ワシとは違う未来を辿ることもあるじゃろうしな」

 

「老人の独り言もここまでに。それじゃあ、本編……『水平線』って感じかの?」

 

 


 

 

 剣閃が奔り、魔族の肉が裂け骨が断ち切られる。

 

 だがしかしそれは、逆再生のように元へと戻っていく。切っても潰しても刺し穿っても瞬時に回復される。こうなるとリソース勝負になる訳だが……剣を振り身体を動かし続けるシエナと、その場で腕を組んでいる魔族『刻戻しのジドゥイ』の体力の消費は、前者の方が当然多い。

 

 そして権能のリソース切れも見えない、否。底があるのかすら分からない。『鋼鉄』と違って皮膚は断ち切れる。『悪食』のように防御不能の一撃ではない。だがしかし、確実に不利を稼がれていく。彼女にとっては非常にやり辛い相手だった。

 

 そして防戦一方ではない、先ほどの12魔将が出しているのを見た『霧』がブワリとその場を包む。触れても良い……とは思わない方が良いだろう。勢い良くその場を飛び退き、ズサリと音を立てて地面を滑る。

 

「やり辛いッ……!」

「回復行きます! ───癒しをもたらすものよ。彼らの傷を治し、疲労を取り除きたまえ!」

 

 そんな戦闘がここまで継続で来ているのは、紛れもなく『聖女』の回復によるところが大きい。無尽蔵にも見える魔族と人間の体力の差を埋める鍵として、彼女がこの戦場の均衡をギリギリのところで保っていた。

 

 とはいえやはり聖女と言っても底がある。故にこの均衡は、そう長くは続かない事は理解していたのだろう。『無敵の権能』ならば、単身で王都に攻め込めば良い。だから、陽動を作った意味が必ずある。それこそが弱点であると考えたものの……そこで思考は止まる。

 

「こういうのノル君が上手なんだけどなぁ……! 早くこいつを倒して援軍に行きたいのに!」

「焦っては事を仕損じますが……このままではジリ貧、というやつですね?」

 

 魔法使いの魔力は未だ回復しない、当然の事ではあるが。戦闘中に回復を見込める程、魔力の回復は早くない。

 

「素晴らしい剣筋……だが残念な事に相性が良いらしい」

「うる……さいッ!」

 

 やや力任せに横薙ぎに振られた一閃は、並大抵の生物ではその目に捉える事すら出来ないだろう。事実、魔族も反応が出来ていたのかは怪しい。だがしかし、真っ二つになった胴体は同様に再生を繰り返すのみで……勝負の決め手にはならない。

 

 絶対に負けないという一点において、この12魔将は最も優れていた。そして後ろに守るものがある以上、彼女達に逃げると言う判断は難しい。少なくとも、この国の王女としてその判断を受け入れる事は無いだろう。

 

「あぁ、もうっ……こっちは急いでるのに!」

「ならば諦めると良いだろう、それ……直ぐに楽にしてやろう」

 

 3mを越える背丈の魔族と言うだけあって、ジドゥイの一撃は重い。それこそ普通の人間がぶつかれば、ミンチになる程には。そんな攻撃と霧を往なしつつも攻撃を続けられるのは、『剣聖』のスキル故か……それとも彼女の()()によるものか。

 

「これなら……『剣理』王国式剣術───連」

 

 壊れない……それだけのエンチャントが成された長剣の剣筋が、まるで空気中で掻き消えるかのような速度で振られる。一息の間に放たれた四連撃は魔族の身体を捉え……たものの。8等分になった魔族の身体は、残酷な事に再生を始める。

 

「斬られたなら死ぬべきでしょッ……!」

「生憎、理の中で生きる者達とは違うのだ」

 

 先ほどよりも霧の濃度は少ない、だからシエナが近づくことは出来ている。おそらくは権能の共有をしているが、しかし……本人程の出力は出ないのだろうと彼女は推測を立てる。ただ、それは『刻戻し』の権能の突破には繋がり得ない。

 

 斬撃は効果が薄いと見て剣の峰を振るい胴体に叩きつける……が。吹き飛んでいった先に立っていたのは、傷一つない魔族の姿であった。未だ健在の魔族を前に、彼女は考える。そして出した一つの結論。まるで巻き戻るかのように再生する肉体、そしてその法則性から導き出された答えは……

 

 

「……斬れるなら、斬っちゃえばいいんだ?」

「……なんて言いましたの?」

 

 

 あまりにも、力任せな一答だった。

 

 元より、彼女は感覚派である。剣の振り方に至っては、『正解が分かる』なんて言うあまりにも大雑把なモノ。そんな彼女だからこそ……その考えに辿り着いたのは、必然だったのかもしれない。

 

「ありったけのバフをお願い! 腕ぐらいなら最悪、後で繋がればいいから!」

「しょ、正気ですか!?」

 

『剣聖』のスキルで『聖女』のバフをその身に宿せば、まず肉体の方が持たない。如何に『剣聖』のスキルによって肉体が頑丈であると言ってもだ。

 

「あぁ、もうっ……死んだら恨みますからね!? 力を司る者よ───!」

 

 だが短時間なら、無理をすればあるいは……そんな綱渡りの選択を選んだのは、一重にこの場に早く決着を付けたかったからに他ならない。彼は、今もきっと一人で12魔将を相手取っているのだから。

 

 

 覚悟を持って剣を構えたシエナに何か嫌なものを覚えた彼は、迎撃の為に一手を講じる。

 

「ならばこれで……」

 

 先ほどよりも色濃く、厚い霧が辺りを満たす。その霧は触れたものを老いさせる……生物にとってはあまりにも致命的な毒。

 

「……ッ!?」

 

 だがその霧は、まるで初めからなかったかのように掻き消える。

 否、そもそも……彼の使える権能は『刻戻し』だけであった。

 

「我は、は……!」

 

その記憶にあったのは辛うじての残滓。互いを思う情が起こした奇跡は、必ずしも良い方向に転ぶとは限らない。

 

「剣の理を──────ここに再現する」

 

 傍から見れば、地面が爆発したようにしか見えない程の踏み込み。一瞬で掻き消えたシエナの姿は、一足で魔族の眼前に迫る。速度を乗せた一撃が、今放たれる。

 

「王宮剣術───連」

 

 横一文字に振るわれた長剣が、ジドゥイの上半身下半身を切り裂く。

 

「無駄ッ───!?」

 

 質量からか、臓器故か。上半身を中心としてくっつこうとする下半身。それらを───

 

「連」

 

 剣を振りぬいて、縦一文字に切り裂いた。口も裂けているしこれで耳障りな騒音を聞かなくても良いだろうと彼女は内心で独り言つ。そして、やはり質量の大きい身体をベースに再生するらしい。彼女からすれば法則なんて無くても、再生する限り斬り続けるだけだが。

 

「連───」

 

 逆袈裟に剣を振りぬいて、更に肉片を細切れへと変える。未だフワフワと一つになろうとするそれらよりも、剣を振りぬく速度の方が───速い。

 

「連連連」

 

 一瞬の内に振りぬかれた3本の剣閃。ここまで来れば、後は自分との戦いだった。腕ははち切れんばかりに酷使しているせいで、血管が千切れそうだった。それでも、まだ速く。もっと速く。まだ速く───振れる。

 

 幸いだったのは、この剣術が速さのみを求めたモノだった事。歴代の王国の騎士たちが積み重ねてきた最も早い一閃が、今この場に花開こうとしていた。

 

「……連」

 

 一瞬だけ、動きが鈍った。力が上手く入らないのは、身体の酸素が足りていないからか……とっくに限界を迎えていたからだろうか? だけど、そんな事も関係無い。()()あろうと。大切な人を守れない位なら死んだ方がマシだと語った彼女の言葉に、嘘は無い。故に、疲労程度は剣を振り止める理由にはならなかった。

 

「剣術結界─────」

 

 次の一振りのための一瞬の溜め。まだも蠢く肉塊を確実に仕留めるための一撃。そんな時、何故か大切な彼の声が聞こえたような気がして……剣を握る手により一層力が入った。繰り出すのは線の攻撃である、剣戟による……面の攻撃。

 

 

「───剣華」

 

 

 その瞬間、剣閃がまるで花開いた。

 

 

 

 肉塊は再生を止め、まるで雨のように緑の大地へと降り注ぐ。ジドゥイという個を認識できなくなったのか、それとも『権能』のキャパシティを越えたのか。一つだけ確かな事は、この長い勝負にも遂に決着がついたという事だけ。

 

 

「私達の───勝ちだね」

「いっ、今治療しますから動かないでください……!」

 

 最後に立っていたのは、燃えるような真っ赤な瞳の……黄褐色を帯びた茶色の髪の少女だった。

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