その日の魔法修行は程々に、明日に向けての準備のために早めに準備を済ませた僕だったが、思わぬ足止めを食らう事になった。
「ノル君冒険に行くの!? シエナも行く……!」
「シエナ、遊びに行くわけじゃなくて修行の一環なんだ。探索は殆ど終わっているとは言え、魔物だって出るんだぞ?」
僕が村の外に出かける事を、シエナが何処かからか聞きつけていたのだ。おそらくグレイ師匠が僕の両親と話しているのを聞いたのだろう。流石に父さんと母さんの許可なしに連れ出すのは常識的じゃないし。
「魔物くらい余裕だよ? シエナはとっても強いから!」
「守る対象が二人になると、グレイ師匠もやり辛いと思うんだよね」
実際の戦闘は、グレイ師匠への負担が大きくなってしまうだろう。魔法使いが自分の身だけでなく、見習いの僕の身まで守らなくてはいけないのだから。
「ノル少年の言う通りだね、私自身も護衛依頼が得意という訳でもないから」
「自分の身もノル君の身も私が守るから!」
「うーん、『剣聖』のスキル持ちだとは聞いてるけど流石になぁ……」
僕も彼女もまだ12歳の子供である、スキルを授かって1、2カ月の子供に出来る事なんてたかが知れている……はずだ。もし、シエナがどうしても冒険に行きたいならまた日を改めてシエナとグレイ師匠で……
「あっ、もしかして───自信ないの?」
「……安い挑発には乗らないよ?」
「A級冒険者って言っても、子供二人くらい守れないんだぁ……なんか幻滅しちゃったなぁ」
「ちょっとシエナ、グレイ師匠に失礼だろう!?」
「ふっ、気にする必要なんてないよ……ノル少年。私だって数百年は生きてきたからね、子供の戯言に目くじらを立てるほど子供じゃないんだ」
「S級じゃなくてA級なんだもんね」
「ふふっ、ふふふふふふ……」
極めて冷静にいようとしている師匠だったが、眉間に青筋が浮かんでいる。
「A級冒険者ってとっても凄いって聞いてたんだけどなぁ……」
「グレイ師匠? あの、師匠?」
「───まあ、A級冒険者の私にかかれば、子供2人のおもりぐらいは余裕だけどね?」
「やった、さっすがA級冒険者! 頼りになるね~ノル君?」
「あっ、うん」
グレイ師匠って意外と、子供っぽい所があるんだな……
見覚えのある裏山を横目に、平原を歩く事3時間程経った頃。鬱蒼とした林道に入って見えたのは、山肌にぽっかりと空いた大きな空洞だった。
「ここが、今回見つかった遺跡だよ。中を探索した感じはよくある古代文明の遺跡だったけど、随分と守護兵の数が多かった。その割には何もなかったんだけどね」
遺跡と言うだけあって、床や壁はタイル調になっていて明らかな人工物だった。古代文明の遺跡では現代の技術では再現できない、所謂『アーティファクト』と呼ばれるものが出土する事がある……と冒険譚には書いてあった。
「何度もしつこいけど、最終確認だよ。『遺跡の中では私の指示に絶対に従う』事。これだけは守ってもらうからね」
「はーい、分かりましたグレイ先生!」
「分かりました、グレイ師匠」
当然だが、その道のプロであるグレイ師匠の言う事は絶対だ。素人である僕達の判断で動くべきではないのは当たり前だろう。
「と言っても、中の掃討は済んでるから……いたとしても遺跡に迷い込んだ野生モンスターの類だろうけどね。私が先導するからついてきてね」
「そういえば、どうして師匠はソロなんですか? 前衛が居た方が楽できるんじゃ?」
「それは───これを見てもらえばわかるかな」
その瞬間、ゾワリとするほど周囲の魔力が揺れる。まるで周囲の空気が数℃冷えたかのような錯覚を覚える。師匠は火の魔法が得意ではないと言っていたが、その代わりに得意だと言っていた属性は───氷。
「我が命に従い顕現せよ──────アイスナイト」
何もない筈の虚空に描かれた魔法陣から現れたのは、大きな盾と剣を持った氷の騎士だった。召喚されたそれはあの時の狼なんかとは比べ物にならない威圧感を覚える。“それ”はまるで本物の騎士のように、彼女に向かって跪き頭を垂れた。
間違いなく凄い、凄いんだけど……戦闘中に呼び出す場合を考えて、聞かざるを得なかった。
「首を垂れる必要ってあるんですか?」
「その方が───カッコいいだろう?」
キメ顔でそう言い放った彼女はなんというか……ブレないなぁと思う。まあ、それは余裕の表れでもあるんだろうと前向きに考える事にした。
遺跡の中は薄暗いが、淡く光る石のようなものが点在しているので真っ暗という訳ではないのは幸いだった。洞窟によってはランタン等の光源になるものは忘れずに持っていかないといけないだろう。
掃討が済んでいるというだけあって、兵器らしきものの残骸こそあるものの魔物らしきものが出てきたのは、遺跡に入ってから15分程の時間が経ってからの事だった。
「ハウリングウルフか、見たところ一匹みたいだからトドメはノル少年に任せても良いかな?」
裏山でも見た大きな狼が振り下ろした爪の一撃を、氷の騎士が大きな盾で弾く。そのままトドメを刺すこともできただろうけど、僕に実戦を経験させたかったのだろう。図らずもあの時のリベンジマッチという形になった。
「何の魔法を使うかは決めたかな」
狼が牙で食らいつこうとするのを、氷の騎士は身を捩って躱す。もし僕があれを喰らえば一溜まりも無いだろう。実際に戦うとはそういう事だ。命の奪い合いをする事になるなんて分かってたはずなのに、分かっていなかったんだ。
「大丈夫、落ち着いて」
余計な事を考えている場合じゃない、動物系の魔物に火は有効だがこの閉所で火を使うべきではないと考えて選んだのは、師匠と同じ───氷の魔法。
「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───」
この一か月練習してきたとおりの詠唱。焦っているからこそ、失敗しないように丁寧に魔力を込める。後は……放つだけ。
「───アイスランス」
僕の手元で生み出された氷の槍は勢い良く打ち出され、騎士の脇を通り過ぎて狼の眉間を貫く。魔物の血液が床を赤く染めていく、間違いなく即死だろう。
「ただ頭を潰しても死なない魔物もいるからちゃんと確認しないとダメだよ? とは言え……初めての実戦にしては上出来だよノル少年、よく頑張ったね」
「ありがとう……ございます」
緊張からか喉がカラカラだった、初めての実戦は満足のいくものではなかった。とはいえ僕の夢に向かって小さくない一歩を踏み出せた気がする。
「すっごいよノル君! もう一人前の魔法使いだね!」
「大袈裟だよシエナ、まだ見習いも良い所だって」
さっきのはあれだけお膳立てされていたからで、実際はあんなにゆっくりと魔法を放つことは出来ないだろう。魔法使いのソロが少ないのも頷ける、何とかもっと早く魔法を撃つことが出来ればいいんだけど……
戦闘を終えて遺跡の中を進む事10分程経った頃、前を歩いていた氷の騎士が足を止める。どうやらこれ以上進む事が出来なくなったらしい。
「ここが、遺跡の最奥だよ。ほんとはこの真ん中の台座の上に綺麗な宝石が置いてあったんだけど、王都の研究者の方に送られちゃったからここにはもう何もないんだよねぇ……」
「ここが最深部……」
遺跡の最奥は何処か神秘的な雰囲気を放っていて、大切な何かを祀っているのだろうという感じがする。どうせならその宝石というのも見てみたかった。
ポッカリと空いた台座には何やら『Είμαι ο νόμιμος διάδοχος』と文字が刻まれているが、全く見覚えのない文字だった。
「何この文字……ノル君は分かる?」
「いや、見た事も無いんだけど……」
「見た事無いのは当然かもしれない、これは失われた文明の古代文字だからね。アーティファクトにも刻まれてたりするんだけど、それを読み解こうと王都の学者さん達が躍起になってるんだ」
なんて書いてあるのかが気になるけど、未だ解読されていない古代文字らしいから仕方がない。もしかしたらどんな宝石だったのかの説明文かもしれないのに。まあ気になるけど、分からないものは仕方ない……と思ったが、一つ試してみたいことが出来た。
「スキル発動───」
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「それじゃ帰ろうか? いやぁ何事も無くて良かった、A級冒険者の名は伊達じゃないって事だね!」
『スキル:
「グレイ先生? それって所謂フラグってやつなんじゃ……」
「いやぁ、行き止まりだし学者の人が2週間もかけて探索したんだよ? 今更何か起きる訳が───」
まさかとは思ったが、本当に読めるなんて……それにしてもなんて書いてあるんだろうか? えっと───
「───
どう考えても宝石に関する説明文じゃなさそうだ、一体何の事だったのか。これは何の為に刻まれていたのか。その意味を僕はすぐに理解する事になる。
「───ッ!? 構えろッ!」
グレイ師匠の指示で氷の騎士が盾を構えたのは『入り口の方向』だった。天井が勢いよく降りてきて来た道を塞ぐ。その厚さは分からないが、無理に破壊しようとすれば天井が崩れて生き埋めになる可能性もある。
「一体何が……」
そして台座がゆっくりと動き出すと階段が現れる。それはまるで、本当に守りたかったものはこの先にあるのだと言わんばかりの雰囲気を醸し出していて───
「戻れない以上は、進むしか───なさそうだね」
初めての冒険は、思いもよらない展開を迎える事になった。
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