49.魔法都市プルプラにて
あの後、国を挙げての祝勝会があったりS級冒険者への推薦があったりと……様々な事があった。だが、S級への昇級はA級とは違い国やギルド単独の承認ではなく、複数の国に認められる必要がある。そして、S級の冒険者に昇級するための試験官はS級冒険者である。
恐らく実力が足りていない、当然ながらS級の冒険者のスキルは『剣聖』を筆頭に強力なスキル揃いらしい。僕とシエナがよーいどんで戦い始めれば、魔法を使うまでも無く負ける。だから単純に実績と戦闘経験を積む必要がある。
そしてお察しの通り『よみあげ』は動かしてはいない。頼り切ってしまいそうで怖かったのもあるし、単純にその……うるさいと言うか、やっぱり気になるというか。
「風が気持ち良いねぇ」
「いや、それにしても早すぎでは?」
そんな事情もあって僕達は、別の国に向かうために北風を運ぶモノ……通称『北風さん』の駆る馬車に揺られていた。偉そうな精霊を足代わりに使って良いのかは本当に迷ったものの、本人たっての希望なら否とは言えない。
それに普段の旅程の3分の1以下で旅を出来ているし、揺れないので非常に快適だった。通りすがる人は、少しぎょっとした目で馬を見ているけど。
「ほら、そろそろ見えて来たよ。あれが今回の目的地……」
安価……であってるんだよね?
それによると『ここ好き』に委ねるという事だったけど、僅差で他国が見てみたいという意見が優勢だった。
馬車が走っている街道の遥か先に、わずかに城壁が見える。あそこがこの旅の目的地であり、都市を中心とした小規模で形成される都市国家。
「……魔法都市プルプラだね」
今回の目的地である『魔法都市プルプラ』は、城壁で囲われた城壁都市だ。だけど、王都ウィスタリアを囲う壁よりは低く見える。
それでも、目を引くのは城壁に描かれた文様だろう。真っ白な城壁に、青色の魔法陣が淡く光りを放っている。城壁の強度を上げるために、魔法陣を描いて魔力を循環させている……と旅の途中でツェツィが語っていた。
「着くまではもう少し時間がかかりそうだし、お昼にしよっか。食料にも余裕があるし、豪華に使いきっちゃおう」
「私は食材を切りますね」
「僕は食材の用意しちゃいますね」
「私は薪集めて来る!」
そう言って各自昼食の用意の為に、手慣れた手つきで動き出す。
王女様に食事の用意を手伝わせるなんて随分と不敬かもしれないけど、王女様扱いをすると露骨に機嫌を損ねるので仕方がない。彼女をこうして他国に連れて来るのにも随分と揉めたらしいが、王族からS級冒険者を排出出来るかもしれないという大きなメリットの前に許されたらしい。
だからこの場に居るのはあくまでA級冒険者のツェツィ……という事らしい。
『スキル:
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出ていたウィンドウは『固定』してある。何に使うのか分からなかったけど……使ってみて漸く使い方が分かった。
「『特殊タグ:二段階縮小』解除っと」
荷台に乗せていた塩漬けの肉のサイズを元へと戻す。オークの時に初めて使ったこれは、質量は据え置きではあるものの荷物の多くなりがちな長旅ではかなり重宝している。
そしてスキルを使い終わって暫くしても、青白いスキルウィンドウは消えずに残っている。この『固定』はスキルのウィンドウを出しっぱなしにしておけるらしい。視界にチラチラと映って邪魔な時もあるが、多くなってきたスキルを咄嗟に選択しやすいのは結構ありがたい。
シエナが集めてきた薪にグレイさんが着火を行うと、暫くして肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。魔法使いが二人で構成されたうちのパーティの食事は、旅をしている割には意外としっかりしている。
全員分のコップに、二つずつ大粒な氷と水を入れるとカランと音を立てる。
火をつけるのは勿論の事、飲み水も保存のための氷も出せるというのはやはり楽でいい、パーティに一人魔法使いが欲しいというのはこういう側面もあるのだろう。夏場にぬるくなった水を飲むなんて確かにもう耐えられないかもしれない。
「やっとついたぁ、身体動かしたいなぁ……」
「そうかい? 結構早い方だったと思うけど」
結局、プルプラに着いたのは夕食手前くらいの時間だった。初めて行く都市は手続きが大変だと思っていたが、冒険者ギルドのカードでスムーズに入れたのはとても助かった。まあ、ここにもギルドの支部があるから、当然かもしれないけど。
「ここがプルプラか……!」
「凄いねノル君、ランプが浮いてるよ!?」
門をくぐった先に広がっていた夜のプルプラは、浮遊するランプのようなものが照らしていた。どういう原理で浮いているのかすら分からない、見た事も無い景色に心が躍る。
「久しぶりに来たけど、随分と様変わりしてるねぇ」
「新しいものを取り入れるのに、抵抗の無い国民性ですからね」
異国に来たのはグリーンウッド以来だが、王都や村とは全く違う光景に僕は目を奪われていた。魔法を扱うものは当然ながら、冒険に憧れて村を飛び出てきた僕達にとって求めていた景色がそこにあった。
待ちゆく人は見慣れない道具を持っていて、馬の無い馬車のようなものが往来している。此処が魔法都市、聞いてはいたものの生活に魔法が取り入れられている。
とは言え他国でこれを真似しようとしても上手くは行かないだろう。これだけの魔法を使っても賄えるのは『プルプラ魔法学園』がある事と、その学長にしてS級の冒険者……『賢者』の存在が大きい。
S級冒険者は文字通り規格外の力を持っていると聞く。僕達が討伐した12魔将の殆どはS級によって討伐されているのだから。その戦闘の際、怪我や後遺症を負った……と言う話も聞かない。それはつまり、初見殺しのような『権能』の詳細を知る事も無く、真正面から叩き潰したという事だ。
この都市は、文字通り世界における魔法研究の第一線。ここでなら僕やグレイさんの魔法に関しては間違いなく成長できるだろう。今からでも街をもっと見て回りたいところではあるものの……
「今日はもう遅いし、街を見て回るのは明日以降にしようか」
「そうですね、ギルドにも顔を出さなければいけませんし……」
「明日が楽しみだね!」
パーティは皆、流石に長旅でクタクタだった。まあ近接職のシエナはまだまだ元気そうだけど。目的があって来たとは言ったものの、やはり折角来たのだから目一杯楽しみたい。
今回の旅の目的は、このプルプラの冒険者ギルドでも実績を積むこと。そして、魔法の実戦的な扱い方を学ぶことだ。出来ればS級冒険者にも会ってみたいけど……そう簡単に会えるわけもないだろうし。
その日は宿を見つけて、ゆっくりと睡眠をとった。あまりお金に困っていない事、セキュリティに気を遣わなければいけない点を踏まえて結構お高い所だ。その分出てくる食事も美味しいのでとても良かった。
「それじゃお休み!」
「はいはい、シエナちゃんは元気だねぇ……」
「あっ、あの……」
でも、パーティ割が効くからって……受付で勝手に部屋を一つにしたのは良くなかったと思う。シエナは慣れているからともかくとして、僕も年頃の男子だしやはり気になると言えば気になる。
まあ、普通はパーティで一部屋を取る事が多いらしいし合理的だとは思うけど……やっぱり何と言うか、慣れない。着替えとかもあるだろうに……なんで?
「どうしたんだい、ノル君?」
「いっ、いや……なんでもないですよ?」
パーティでの色恋は崩壊の原因になると聞くし、気をつけないといけない。魔族の襲来があって先延ばしになっちゃってたけど、グレイさんとの関係性も少しだけぎくしゃくするし。
「明日は朝から動く予定なので、しっかりと休まないとダメですよ?」
「はい、お休みなさい……」
翌朝、今日はギルドに顔を出す予定だったので早めに起きたのだが、街は夜よりもずっと活気づいていた。その中には学園に向かうであろう僕と同い年位の学生の姿も見える。制服を着ている彼らは、全員が魔法使いの卵なのだろう。
魔法都市プルプラは名前の通り、魔法は当然として……他にも様々な研究が盛んに進められている。魔物素材を専門とした研究や、その……古代文字に関する研究を続けている研究機関もあるとか。まあどの国も大なり小なり古代言語の解読には力を入れているんだけど。
実際、古代文字が読める事によるアドバンテージは計り知れないものがある。薬草図鑑だけで一財を築けた訳だし。
訪れた冒険者ギルドの内装は、ウィスタリアにあったものとそう変わらないものだった。その際他の冒険者に絡まれたり……なんてことも無い。ただ場所が場所なだけに、魔法職の数が多い気がする。
ギルドで活動場所の変更手続き自体はスムーズに終わった。だけど、何故か手続きが終わった後に奥の部屋へ通される。そこに現れたのは、初老くらいの筋肉隆々の男性だった。
「私がこのギルドを統括している、ウスゲと申します」
「わざわざマスターが出て来るなんてどうしたんだい? 何か緊急で頼みたい事でも?」
「そういう訳では無いのですが……」
ギルドのマスターらしい彼は、気性の荒い冒険者を束ねているにしてはとても物腰が柔らかい。それと同時に、一言会話をしただけで物凄い苦労してそうだなという雰囲気まで感じ取ってしまった。
そして告げられたのは、渡りに舟ではあるものの……都合が良すぎてあまりにも怪しい一言だった。
「その、学長様が……是非、氷竜の一閃の皆様にお会いしたいと……」
なにせ到着した次の日に、S級冒険者が僕達と会いたいと言うのだから。