スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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54.訪問!プルプラ魔法学園

 今日は久しぶりの休みである。ここ数日は本を読んだり、本を読んだり、本を読んだり……そしてゴーレムに襲われたりと散々な日々を送っていた。まあ、その分得るものも多かったんだけど。折角の休みだから魔法学園を見てみようと、シエナと学園を訪れた……そこまでは良かった、良かったんだ。

 

「なんで賢者さんがここに居るの? 今日は二人で学園を見て回る予定だったのに」

「学園の事を知りたいなら私が間違いなく適任、何と言ったって私……学園長だからね?」

「何してるんですか、賢者さん」

 

 学生が通る、今や通りなれた立派な校門を通った矢先……突如として現れた紫の髪の女性。まるでここに来ることが分かっていたかのように、颯爽と現れたもので思わず言葉を失う。

 

「今日は翻訳はしませんし、出来ませんよ?」

「いやぁ、気になるだろう? 君が学園を見て回る事で面白い事が起きると確信しているんだよ。翻訳に限らず……君は私の予想を裏切らない」

 

 嫌な粘着のされ方をしている。面倒くさがって外には出てこないと踏んでいたのに、どんな思惑があっての事なのだろうか。

 

「ノル君は魔法学園には渡さないから」

「だが、魔法学園に興味が沸いた場合は……本人の意思を無視したりはしないだろう?」

「それは……そうかもしれないけど……」

 

 S級の賢者にも物怖じせず張り合っているシエナは流石だった。恐らくパーティの中で最もS級に近いのはシエナだろう、と僕は推測している。彼女よりきれいな剣筋を、僕は見た事が無いのだから。

 

 学園……しかも他国のものとなれば、とても新鮮だった。僕もシエナも貴族の生まれでも無ければ、成人して直ぐに冒険者になったので、そういう所とは無縁だったし。

 

「随分一杯人が居るんだね……何人くらいいるのかな?」

「……で、どうなんです?」

「別に何人でも良いじゃあないか、大体良さそうだなって研究を持ってくる子は年に一人いればいい方かなぁ……」

 

 学園長を名乗っておきながら、全くもって学園に興味が無さそうだった。恐らく彼女がここで学園長をしているのは、環境が良いからと面白そうな研究が偶にあるからなのだろう。学園としても箔がついて、気が向けば賢者の恩恵にあやかれる。両者ともにWin-Winな取引ではあるけど……

 

 これで案内人を買って出たのだから、随分と面の皮が厚いものだ。別にあの場所を乗り切れればどうでも良かったのだろう。それでも実験や本に関して聞けば、答えてはくれた。

 

「いやぁ、学園ってこんな感じなんだぁ……ノル君は学校に通ってみたりしたいとか思わなかったの?」

「まあ、憧れる気持ちはわかるけど……それよりもやっぱり冒険者になりたかったからさ」

「へへっ、そうだよね! 私も身体動かす方が好きかも!」

 

 

 そうやって学園を回っていたのだが……随分と注目されている。部外者が来たから注目されているのかなとも思ったが、そういう訳では無いだろう。見学の為の子供や、物品を運ぶ業者も出入りしているみたいだし。

 

「あっ、あの……賢者様! 少しお時間よろしいでしょうか!」

 

 そんな事を少し疑問に思ってはいたのだが……教室の前を通って歩いていた時、後ろから聞こえたその声で疑問は解消されることになる。視線を集めていたのは、賢者だったのだ。学園長なのに、学園に顔を出すだけで驚かれるなんて……

 

「で、誰?」

「なっ、賢者様……僕は二学年主席のアルヴィン・アルブレートですよ!?」

「あぁ、アルアル君ね。で、何? 見ての通り忙しいんだけど」

 

 ゾッとする程冷たい声で、興味が無さそうに一瞥した後……何時も通りの視線を僕へと向ける彼女。いや、恐らくは前者の方が何時も通りなのだろう。僕に興味が……僕のスキルに興味があるだけで。

 

 それでも自分の学園の首席くらいは把握しておいてほしかった、流石にそれくらいは把握しているだろうという彼の困惑は正しい。

 

「是非、是非とも私の魔法を……研究の成果をお見せしたいと思っていて!」

「いや、興味ないかな。面白そうな実験があったら提出するように教師には言ってあるし」

 

 彼の言葉は全くと言って良い程、賢者には届かない。あんまりにも可哀そうだったので、僕から少し助け舟を出してみる事にした。

 

「僕もここの学生さんがどんな事をしているのか気になりますし……聞いてみても良いんじゃないですか?」

「はぁ、なんで私がそんな事……いやぁ、冗談冗談! 聞かせてもらおうじゃあないか」

 

 僕への心証を優先してか、研究室での口調に戻って先を促す彼女。その心遣いが出来るなら、少しくらい他者への思いやりとか持てばいいのに……

 

「今回僕が考えたのは、魔鉄鋼の特性を活かした冒険者用の持ち運び食料保管庫で……」

 

 レポートへとさっと目を通す賢者は、今も必死に説明している学生に目すら向けない。その方が確認が早いのだろうけど、これでは学生があまりにも報われない。アイデア自体は良い物だと思う、実際旅が多くなりがちな冒険者には喜ばれるだろう。値も張りそうだが。

 

 説明も半ば、最後のページを捲り終わった彼女は深く息をついて……首を振る。

 

「新しい……と言いつつ、既存研究をなぞっただけのうっすい内容。魔鉄鋼の使い方を変えるという手法こそ目を引くものはあるけど、それによって何か別の反応が起きている訳でも無い。あぁ……商才はある方なんじゃない?」

 

 最悪だった。他人に興味がないだけでなく、人に要求するレベルまで高いなんて。こういうのは当たり触りの無い事を言って……言えないからS級冒険者なんだろうなぁ……

 

「さぁ、これくらい褒めれば十分だろう? さっさと次に行こう」

「ちょっと流石にその言い方は……えっ、今の褒めた扱いになるんですか?」

 

 真っ赤になって震えている彼は口を開き……僕を指さす。

 

「そんな、そんな冴えない男より僕の方が助手に相応……ッ!?」

「は?」

 

 

 ストンと、彼の首が落ちた。

 

 

 ……いや、違う。この場にいる誰もがきっと、彼の首がシエナによって斬り落とされる様を幻視したんだ。彼の首は繋がっている、今の所はまだ……だが。

 

 静寂が場を包み込んでいる、下手な事を言えば寸分違わずその夢は現実になる事を理解しているのか……青い顔で押し黙ったままの彼は、身動き一つ取らない。

 

 息が出来なくて苦しくなったのか、その場へと倒れこんだ彼をクラスメイトらしき子が介抱しに来る。

 

「はっ、はひっ。死んで……!?」

「いやぁ、素晴らしいね。流石は君のパーティメンバー、全員がS級を目指せるだけの素質があるって訳だ」

「しっ、シエナさん?」

「あいつノル君を馬鹿にした……!」

 

 目が据わっているシエナは、射殺さんと言わんばかりに彼の事を凝視している。必死に宥めると殺気は感じなくなったものの……かなり機嫌が悪そうだった。僕の為に怒ってくれるの嬉しいけど、冴えない顔なのは自分でも理解してるから気にしないで良いのに。

 

「魔力も大し……ヒッ!? ぼ、僕の方が上です! そん……彼よりも私の方がより優れていると、証明してみせます!」

 

 そう言って杖を構えた彼、どうやら決闘をご所望らしい。恐怖からか、所々語気が弱くなった彼は……それでも賢者のお眼鏡に適いたいらしい。実情を知っている僕からすれば、こんなのには目をつけられずに適切な距離感を保った方が良いと思うのだが……

 

「いやぁ、見る気すら起きないなぁ……そうだ、ノマル助手。何か面白い魔法を見せてくれたら、特別に面白い物をあげよう。あるんだろう、奥の手の一つや二つくらい」

「勝手に助手にしないでくれませんか?」

「そうだなぁ、使ってないアーティファクトが幾つかあるからその中から選ぶかい?」

 

 勝手に助手扱いされて、その事でさらにキレているアルヴィン君……僕が悪い訳じゃ無くないか?

 

 それにしてもS級冒険者のアーティファクトか……あまり手の内を晒すつもりは無かったけど、そう言われるとかなり興味が沸いてくる。対魔法使い相手の実戦を積むいい機会でもあるし、流石に冴えない男扱いされた相手に優しく配慮する必要も無いだろう。

 

「中庭で良いですか? ここだと廊下が傷ついちゃうので」

「よし、決まりだ。さぁさぁ、退屈させないでくれよ?」

 

 

 よし、アルヴィン君には悪いけど、ここは本気で行かせてもらおうと思う。

 

 

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