ギャラリーに注目されながら中庭へと辿り着いた僕達だったが、ここに来るまでにどっと疲れてしまった。ただでさえアウェー気味なのに、珍しく賢者がいて……しかも決闘をやるなんて噂が直ぐに広まり、軽いお祭り騒ぎになってしまっていた。
「禁止事項はナシ! 危なさそうなら私が止めるから、好きにやりたまえよノル君~」
「頑張れノル君! あの時とは逆の立場だけど、圧勝を期待してるから!」
「またそうやって焚きつけるような事を……」
存外にお前には期待していない、お前なんて楽勝だと言われたような形になった、アルアル君が鬼のような形相でこちらを睨んでいる。
「この僕は、『上級魔法使い』だ。魔法使い程度のスキルじゃ勝てない、降参するなら怪我する前の方が良いぞ」
魔法使い系列としては、賢者を除いた最上位のスキル保持者。それだけの才能があれば、確かにこの魔法学園で主席を取るのも夢ではないのかもしれない。
「心配ありがとうございます、でも大丈夫です」
「ちっ、お前……歳はいくつだ」
「15歳ですけど」
「なんだ、1つ下か……多少運が良かったらしいが、主席の僕を倒せるとは思わない事だ」
とは言え戦闘中に怒りで我を失うような事は無いだろう。彼はこの有名なプルプラ魔法学園の二年次の首席なのだ。現に戦闘が始まる直前だからか、表面上は落ち着いているように見える。額に青筋が浮かんでいるが。
身に漂う魔力からしても、魔法においては間違いなく格上。A級冒険者の僕が、一学生より魔法の才能が無いというのもまた、何とも言えない気分になるけど。
それ故に、やり方を工夫しなければならない。まともに魔法だけを撃ちあえば、絶対に負ける事は決まっているのだから。感想と、過去の自分を見て作り上げた……対魔法使い用の必勝方法を。
「ノマル・フトゥー……何時でも行けます」
「アルヴィン・アルブレート、準備は何時だって万全です」
油断なく杖を構えている彼が、自信満々に応える。それ相応の実力は確かにあるのだろう。だけど僕だってここまで死地を何度も潜り抜けてきた、今更こんな所で躓いている訳にはいかない。
「それでは───はじめっ!」
数分にも感じた待機時間の中で、開始の合図は唐突に行われた。
「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───」
詠唱を始める彼に対し、僕はあえて何も唱えずに機を待つ。敵の出方を見ての二小節の詠唱、先ほどまでの怒り具合が嘘のように冷静な判断だった。だが幸運な事に、
実際魔法使い同士の戦闘において、長い詠唱の魔法は使い辛い。3小節の魔法を詠唱し終わる前に、更に短い詠唱を当てられてしまえば勝負がつくからだ。
だからこそ、彼の顔が怒りで染まる。勝負を捨てた、そう思われても仕方が無いだろう。魔法を使う者同士の戦いにおいて、詠唱一節分の隙は致命的過ぎる。
「アイスラン───」
『スキル:太字+
「───
彼よりも先に出現した氷の槍は、生成されかけていた氷柱を叩き割った。
「なっ……はっ?」
「これはこれは……」
確かに魔法を真っ向に打ち合えば、威力負けするかもしれない。だから僕は相手と同じ魔法を、相手よりも速く強く詠唱するだけ。
これこそが、運も秘策も無効化する僕の勝ち方。
後の先を制する……ルビ式模倣魔術だ。
これならば魔法同士の相性も、何小節の魔法を唱えるかの心理戦も起こりえない。
例え知らない魔法が来たとしても問題ない、僕には魔力を追えるこの目と───
『特殊タグ:注釈』
「大地よ、盛り上がり───*1」
───知らないモノを知る、スキルがある。
「
「我が敵を串刺しに……」
小馬鹿にしたようにこちらを見る彼の反応は当然だ、同じ魔法を後から唱えても間に合うはずがない。こんなスキルでも無ければの話だが。
『スキル:傍点』
「───
「……しろッ!?」
地中から現れた土の槍は彼を串刺しにしようと迫るが、すんでの所で回避に成功する。その代償として、彼の魔法の詠唱は中断されてしまう。あまりにも、あまりにも致命的な一手。
とは言え僕の魔力にも余裕がある訳じゃない、この一手を使って勝負を決めに行こう。
『特殊タグ:注釈+
「燃え盛る獄炎よ、今こそ集い───*2」
「
自信のある魔法なのだろう、実際に広範囲で使い慣れているとすればもしかしたら破られるかもしれない。だけど、わざわざ同じ土俵で戦う必要は無い。
「爆ぜて一切を灰と化せ───!?」
「
詠唱の途中で現れた火球が、彼の眼前へと迫る。魔法戦としては地味だが、十分に人を倒せるレベルの攻撃を前に……選択は二つに一つ。即ち攻撃を受けながら詠唱を続けるか、回避や防御に専念するか。彼は後者を選択したようだけど。
「クソッ! 燃え盛る炎よ───」
その隙は魔法使い同士の戦いにおいて、あまりにも致命的だった。
僕は既に、三小節の魔法の詠唱の完成に手が届きかけているのだから。
「フレイム───」
「そこまで、勝負ありだ」
詠唱が完結する前に、待ったがかけられる。彼は不満そうだが、ここから逆転の目が無かった事を理解していたのだろう。先ほどのように突っかかってくる事は無かった。
「勝者、ノマル・フトゥー。いやぁ、凄い……凄いね。全くもって理解できなかった、この私をしてだよ? 考えられるとすれば魔道具……それもアーティファクト級のモノだけど、そんな様子も兆候も無い。流石はA級、正直見くびってたよ。支援系の魔法使いなんじゃないかとね?」
テンションが何時もより高い賢者は、周囲の様子も彼にも目を向けずにこちらへと喋り続けている。正直かなり鬱陶しいし、まずは自分の学園の生徒にかける言葉の一つや二つあるのではないだろうか。
「おっほん! ここに居らっしゃられる魔法使いこそ、彼の十二魔将を倒したA級冒険者! ノマル・フトゥーである!」
「十二魔将ってあの……?」
やけに芝居がかった声でシエナが大声を張り上げた。その内容に生徒たちがざわめいているのがここまで聞こえてくる。
「見ての通りの魔法に、剣術まで一流の彼の大立ち回り! 気になる者は是非彼に会いに、研究室までお越しになってくださいね?」
「なっ、やってくれたなクソッ……!」
ざわめきが大きくなる。反応としては好感触そうだった、隣にいる紫色の髪の女性を除いて。
「シエナ……ちょっと恥ずかしいんだけど」
「えぇ? 本に乗るような冒険者になりたいんでしょ? これくらいアピールしてかないと……ね?」
確かにそれはそうだった、名を売れる機会があれば積極的に売っていくくらいじゃないと、夢への道をちゃんと追っているとは言えないのかもしれない。
「だぁああ、来られても困るから特別講師として時間を取る! それでいいだろ!?」
「賢者さんも少しくらいは学園に目を向ければいいのに……」
そんな中で、立ち上がったアルヴィン君は僕を指先で指し示した。
「つっ、次は負けないからなッ……!」
「あっ、あの……!」
恐らくだが、次は無い。そんなにずっとこのプルプラに滞在する訳でも無いし。そんな事を伝える間もなく走り去っていった彼の背中を見送りながら、僕はどんなアーティファクトがあるのか……まだ見ぬお宝達に思いを馳せていた。