スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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57.邂逅

 遠見の石板を手に入れた次の日。彼女の研究室で何時ものように本にルビ(るび)を振ったり、彼女の修業を受けたりとしていたのだが……あまり頭に入ってこない。

 

「あの、言おうか迷ってたんですけど……」

「ふふん、なんだい?」

 

 流石に賢者相手にでも言って良いのかは迷う、でも頭が痛くなるくらい辛いのだ。此処は心を鬼にして伝えないと、ずっと改善されないまま作業する事になる。

 

「香水って、かければかけるだけ良いってものでは無いんですよ。ちょっと流石にかけすぎです」

「……ッ!?」

 

 ぐいっと距離を取る賢者だったが、残念ながら部屋中に匂いが充満しているのだ。今更距離を取った所で、頭痛がするような甘い匂いがするので手遅れである。

 

「その、興味の無い事にも多少は興味を持った方が良いかなって……」

「わっ、分かってるとも!」

 

 面倒くさい事になったなあと思いつつ、彼女の部屋を出る。色気づいた……と考えるには浅すぎる。恐らくの目的は……篭絡。あわよくばそう言う仲になって、僕のスキルを使いまくろうという算段だろう。只管に面倒くさい事態になった。

 

部屋を追い出されるように部屋を後にして、宿への帰路に就く。

 

「でもあの場を切り抜けるには、あれくらいしか思いつかなかったし……」

 

 まあ、あの様子なら別に問題にはならないだろう。人心を理解するまでに、100年くらいかかりそうだし。これを機に他者からどう見られるかを少しでも理解する気になってくれれば、学園の生徒達も救われるのだろうが……

 

 とりあえず今日は、パーティメンバーの皆に会うために宿への帰り道を急ぐ。遂に僕だけが見ていた景色を、彼女達にも見せることが出来るのだから。

 

 

 

 

 泊まっている宿の部屋は、当然のように一部屋だから毎日顔を合わせてはいる訳だ。だけど何故かこう……皆に会うのが久しぶりな気がする。どうしてなのか、よく分かってないけど。

 

「それで、これが……遠見の石板ですか?」

「確かに、普通の石よりちょっと堅そう!」

「いやいや、壊しちゃ駄目だからね?」

 

 机の上に置いた石板に興味津々な三人、ぱっと見は文様の描かれた石の板……という感じだが。確か使い方は、石板の上に手を乗せて魔力を……

 

「おぉ、確かに何か映った……! 板の中に、私が居るね?」

「それと上にあるのが……例のあれかい?」

「そうです、例のあれです」

「本当に浮いてるんだねぇ……あぁいや、疑っていた訳じゃないが」

 

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 青白いウィンドウが、画面の右上に表示されている、もしかしたら映らないかもしれないと思っていたが、どうやらなんとか映ってくれたらしい。そんな中で、ツェツィが声を上げる。

 

「あの……今更ですが、私がここに居てもよろしいのですか?」

「いきなりどうしたのツェツィちゃん」

「私は……ツェツィーリア・フォン・クロッカスなのですよ? その、一国の王女にスキルの全てを話すのは些か不用心かと……本質では、賢者も王女も変わりませんよ?」

 

 今更過ぎる宣告だった。確かに国も賢者も僕のスキルが喉から手が出るほどに欲しいと思っている事には変わらない。契約で縛っているとはいえ、その契約を無効化出来る何かが無いとも限らない。それでも、ここまで一緒に歩んできた仲間を今更疑うような器用な真似は、僕には出来ない。

 

「プルプラとクロッカスだけと言いません、その能力を知ればすべての勢力が貴方を狙いに来るでしょう。それだけ貴方のスキルは理を越えています」

「それでも……国じゃなくてツェツィなら酷い事はしないかなって……それじゃダメかな?」

 

 呆気にとられた表情の彼女は、思わずと言った様子で笑い出す。

 

「ぷっ、一国の王女の前で……国は信じられないけど、私は信じられるなんて普通言います?」

「それはその……配慮が無かったというか……」

「ふふっ、では皆様も待っていますし見ていくとしましょうか?」

 

 不敬にも取られる発言を聞いても、何処か機嫌が良さそうなツェツィと一緒に石板へと目を向ける。こうして僕の『スキル』とパーティメンバーの皆の邂逅が……始まった。

 

 

 

 

 

 机の上の石板に集って……あれはこう、これはこうと説明を続ける事しばらく。

 

「これがルビねぇ……何時も使ってるあれだね?」

「そうですね、使うと……こんな(かん)じです」

「ううん、成程……画像の筈なのに何処となく文字を感じるね?」

 

 あまりにも数が多すぎて、全ての説明はしきれないだろう。それ故に、よく使う機能だけを出来るだけ教えていく事にした。僕の出来る事を知れば、それだけ連携も取りやすくなるだろうし。

 

 そんな中で、一際驚かれたのは……『感想』だった。

 

「へぇ、私達が見えてるんだ? やっほ、元気~?」

「第三者が見ているというのは中々……不思議ですね?」

「そうだねぇ、私はそれよりも気になる事がある訳だが……」

 

 石板の一点を指し示しているグレイさん。その先にある感想に書かれていたのは……

 

「感想によると、太腿とセクハラ三昧だったそうじゃないかい。昨日はアーティファクトを受け取りに行くだけって聞いてたけど……随分とお楽しみだったようだね?」

 

 うっ、恨むぞ感想欄……! 言及しなければこうしてバレなかったというのに……

 

「ノル君? これ……どういう事?」

「たっ、他国はダメですよノルさん!? プルプラはもっと駄目です!」

 

 本当に誤解だ、場を切り抜ける必要があっただけで僕は別に太腿フェチでは無い。英雄色を好むとは言うものの、好んだ覚えのない色がドンドンと積みあがっていく音がする。

 

「そして『ここ好き』によると前回一番人気だったのは4人13票で【僕は只管に、彼女のローブから見え隠れする真っ白な太腿を凝視していた】となる訳だ。申し開きはあるかい?」

「……不可抗力なんです」

「OK、私は許そう。だが……シエナちゃん達が許すかな?」

 

 ぐぎぎと擬音がしそうな動作で、こちらを振り向いた二人。口元はにっこりと笑っているものの、目が据わっていて……二人の顔を見て可愛いという感情よりも先に恐怖が来た。

 

「ねぇ、ノル君。一番近くにいた私にはそんな素振り少しも見せなかったのに……どうしてあんな女の? ノル君はお風呂に入ってないような女の子じゃないと興奮しないの? ねぇ、答えてよノル君」

「国中の女を集めて太腿で酒池肉林を作りますから、プルプラはダメです! ただでさえS級が頭に居て、国同士のパワーバランスが危ういのに2人目なんて……お父様、私は今日……覚悟を決めます!」

 

 頭痛が痛くなりそうな状況に陥っている、頭痛が痛くなる訳無いのに……あはは。

 

「本当に誤解なんだ、誤解……そもそも僕は太腿より……」

「より?」

「……考えてみれば、言える訳無いよね?」

 

 女性三人に男性一人のパーティ。もしも色恋なんて始めれば、崩壊は免れないだろう。ギルドの酒場でも、男女関係で崩壊したパーティの話を幾つも聞いている。それに彼女達は信頼して一部屋を借りている、そんな信頼を裏切るような行為を僕が出来る訳が無い。

 

「あんまり、疲れるからあれなんだけど……昨日の出来事を映すからそれで納得して欲しい……」

「そんなことも出来るんだ……なんでもありなんだね?」

 

 そんな声を聴きながら、僕はスキルを発動させる。前は一括読みして頭が痛くなったけど……ゆっくりと、1つぶんだけなら問題ないだろう。

 

『スキル:目次→【56.突入! クレイドール邸】』

 

 まるで映像のように、昨日の僕の体験が石板に映し出される。

 

 何時ものような追体験ではなく、あくまで表示形式で出現させる。今までできなかった事を出来るようになったのは、沢山の本にルビを振り続けてスキルの習熟度が上がった成果とも言えるだろう。そんな事を賢者は、考えても居なかったと思うが。

 

 流石に、石板から音は出ない。だから僕が読み上げる形(アフレコ)で上映会をした訳だが……

 

「つっ、疲れたぁ……!? 一々台詞が長いんだよあの賢者ッ……!」

「おっ、お疲れ様ノル君……果実水いる?」

「たっ、大変ご失礼を……でもプルプラがノルさんを狙っているのは本気みたいですね……」

 

 長い、ただただ長い。寄せようと思って賢者の声を何時もより高めに話したのが良くなかった。喉がとても痛い、僕の台詞は普段大して長くないだけに猶更疲れた。

 

 

 

 そんな訳で誤解を何とか……本当に何とか解いた僕は、皆と感想を読み進める。その中でやはり一際目を引くのは……

 

「それでそもそも天野ミラって何なんだい……ん?」

「それが、何故か一部読めない感想があるんですよね。後はこう……認識できそうで出来ない文字列とか」

 

 それに、絶対に誰かに向けて話しかけているような内容でも、その返信らしきものは何処にも見受けられないのだ。これくらい数が来ていれば、一つくらいは返信がありそうなものなのに……

 

 そんな感想を交えつつ、夜は更けていく。

 今後もこうして、皆にスキルを説明することが出来る場を設けたいところである。

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