何時ものように賢者の部屋で、特訓が5割、彼女の知的好奇心を満たすのが5割の時間を過ごしていた時の事。
「あぁ、もう学期試験の季節か……」
「学期試験……ですか?」
「そ、実技と学科のね」
随分と学園の様子が浮足立っていたので、何かあるのだろうとは思っていたが……その答え合わせが珍しくも、彼女の口から語られることになった。
「定型的で画一的な学生を数値化するための面白みのない催しだよ。やれ『的に魔法が当てられるか』だとか、『どんな堅い的を壊せる』だとか……随分つまらない催しだとは思わないかい?」
「確かに、いざ魔法を撃とうと思ってするものでもないですよね……冒険中は敵が何かなんて分からない事も多いですし」
その辺りは、魔法に対する認識の問題だろう。この学院で魔法を教えている教師は殆どが研究職だ。戦闘のエキスパートという訳では無い。
そして、この魔法学園の卒業者の内、そちらの道に進む人間は2割もいないとの事。冒険者になったり、どこかの貴族のお抱えになったりするらしい。
「そう、そうなんだよ。
「
「そっ……そうだねぇ……」
今日はよいしょでこちらを立てようとしている。恐らくだが『男性を褒めるさしすせそ』みたいな本を読んだんだろう。確かに、本から学ぼうという意欲は大変すばらしいとは思うが……
「何事も程々が一番だと思いますよ……?」
「んんっ、話を戻すけど……そんなつまらない試験より……もっと実践的な実力を測れればいいと思ってね。という訳で今期の実技試験はぁ……ダンジョンアタックと洒落こもうじゃあないか」
全く悪びれずに話を進める賢者。だけどその提案には驚いた。
「賢者が思いやりの心を……? 他者に興味とかあったんですね!?」
「いや、全く? その方が君の心証が良いだろう?」
「それを言わなければ……ですね」
あまりにも明け透けな理由だった。だが、実際学生にとっては良い経験になるのではないだろうか。引率の問題などはあるが、それが解決できればより実戦慣れする事が出来るだろう。研究職を目指すにしても、フィールドワークが必要になる事もあるだろうし。
「とは言え急な事でねぇ、学院の教師だけじゃ手が回らない訳だ。というわけで君達氷竜の一閃に正式に依頼をお願いしたいと思っているんだよね」
「成程、そっちが本命……」
ダンジョンの中に入れば、自ずとスキルを使う事も増える。その場面を見て、スキルへの理解を深めようというのだろう。彼女の提案に乗るのは癪だが、久しぶりにダンジョンに潜りたいと思っていた所だ。
「まあ僕は構いませんけど……アメティスタさんって外とか出れるんですか?」
「私を何だと思ってるんだい?」
そんな話をしながら部屋を出て、宿へと帰る。とりあえず僕としては構わないけど、パーティメンバーに依頼を受けるかを聞くために。結果としては、皆の反応は良好だった。
報酬が良かった事、そして……皆修行漬けの日々に疲れていたのだろう。どれくらい自分が出来るようになったのか、試してみたい気持ちはとても分かる。そんな訳で依頼を受ける事を決めた僕達。あまり深い階層まで潜らせるつもりは無いらしいが、2人ずつに分かれて引率としてついていく事を決めた。
試験内容は、4人で1つのパーティを組んで実際に迷宮でドロップアイテムを拾ってくるというものらしい。アイテムの質よりも、どんなモンスターが落とすのかが重要視されるとか。
そんな訳で迎えた試験の当日、プルプラから少し離れた所にあるダンジョンへと足を運ぶ。岩肌に不自然にぽっかりと開いた大穴。これが今回の試験会場である、クオンディル大洞窟である。
入り口の前には特設のテントが建てられており、万一に備えてか医療用らしき簡易ベッドも用意されている。そして今回僕達が担当する事になったパーティと顔合わせをする事になったのだが……
「人呼んで風の貴公子とは僕の事っ……オガニ・マイメさ」
彼の得意魔法は風系統。風の貴公子の二つ名を良いようにしている……らしい。
「俺様は破炎剣のオレサ・マケ―ルニアだ。前衛は任せな」
彼の得意魔法は炎系統。どうやら隣国の騎士団長の息子らしく、剣も魔法もかなりの実力を誇るとか。
「生徒会会計のアサイ・レンスルー。ごめんなさい、彼……副会長が迷惑をかけた」
彼女の得意魔法は水系統。そして最後の一人は『彼』と言う言葉が示す通り……
「生徒会副会長のアルヴィン・アルブレートだ。こうも早く再会する事になるとはな……」
彼の得意魔法は土と氷系統。二年次の首席にして、決闘を吹っかけてきた張本人である。
随分と個性的だが、何処かの小説で読んだ事があるような気がする彼らが今回の護衛対象らしい。とはいえ基本的に引率は手出しをしない。あくまでも、不測の事態に陥った時だけ。
そして、僕と一緒に引率を受け持ったパーティメンバーは……
「ふふっ、こうして二人で冒険に出るのは……初めてですね?」
『聖女』であるツェツィだ。一国の王女……だという事は気にしない事にしたものの、彼女もあわよくばクロッカス王国へと取り込もうとしている事だけは忘れてはいけない。万が一、億が一にでも……酒の場で既成事実を作りでもしてしまえば間違いなく、間違いなく
「おやおやおやぁ? 私も居るのを忘れないで欲しいねぇ?」
「まさかあの賢者様が学園からお出掛けになるとは……! そんなにも我がクロッカス王国のA級冒険者である……氷竜の一閃のノマル・フトゥーは素晴らしいですか?」
「あぁ、大変気になるとも。それこそ是非プルプラに迎え入れたいくらいにねぇ?」
バチバチと視線が飛びあっている。二人が僕を挟んで『お話』をしている。国交のいざこざに僕を巻き込もうとするのは止めて欲しい。
試験の評価項目シートなるものを取りに賢者が離れたのを見て、ツェツィへと話しかける。命の危険があるダンジョンに入るのだ、メンバーがどの程度の仲なのかを把握しておく必要がある。
「ツェツィも順調そうだね、賢者さんとはその……どう?」
「知識は素晴らしいモノをお持ちです、教え方も簡潔で分かりやすく非の打ちどころがありません。だからこそ気に入らないのですが……いえ、忘れてくださいね?」
実力は認めているが、仲は良くは無さそうという所か。まあ冒険者のツェツィとしてはいざ知らず……王女としては自国の冒険者を引き抜いて助手にしようとされているのだから良い思いはしないだろう。
「あぁ、一応言っておくが私は一切手出ししない。あくまで視察だからね」
「分かってますけど……本当にゴーレムに乗ったまま行くつもりですか?」
「別に良いじゃあないか、減るもんじゃあるまいし」
そんな中で帰ってきた彼女は、何時ぞやに見たミスリルのゴーレムを二回り小さくしたようなものにお姫様抱っこをされたまま本を読んでいた。絵面はやばいし、動かすだけでも魔力は減るとは思うのだが……流石は賢者、魔力量まで規格外である。恐らくは自然回復が、消費量を上回っているのだろう。これがS級、正しく怪物だった。
岩肌にぽっかりと開いた洞窟へと最初のパーティが入っていく。引率は……
「ツェツィちゃん! ノルく~ん! 気を付けてね、何かあったら飛んでいくから!」
シエナとグレイさんだった。4人1組で、計5パーティ20人が今回の試験で潜る学生の数らしい。万全を期して教師が二人ずつ引率につくらしいが……それは確かに教師の数も足りなくなる。
「はいはいシエナちゃん、私達の引率はこっちの子達だから。まあ、大丈夫だとは思うけど……気を付けるんだよ2人とも? ダンジョンに絶対は無いからね」
「えぇ、勿論承知してます。シエナとグレイさんも……気を付けてね?」
「ちっ、このハーレム野郎が……」
何処かから舌打ちが聞こえた。
勘弁してほしい、感想でも来ていたが……誰と恋仲だとか誰が本命だとかそう言う関係では無い。まして全員自分の女だなんて……貴族の人たちはそういうのもあるらしいけど、一人一人に不誠実じゃないだろうか。まあ、回想を見なかった事にした僕が誠実さを語るのも筋違いだとは思うけど。
何とも言えない気持ちを胸に抱えながら、彼女達の背中を見送る。とは言え実際にダンジョンに入ったら気持ちを切り替えないといけない。ダンジョンでは何が起こるか分からないのだから。
次々と他のパーティがダンジョンへと入っていく中、僕達はダンジョンの前で最後の確認……もとい、おさらいをしていた。一斉に入ると、後ろがつっかえてかえって危険だからだ。
「おさらいですがこのクオンディル大洞窟は、5階層からなるダンジョンです。特筆すべき点として……他所と比べて非生物系のモンスターが多くみられる点ですね。ドロップも肉や皮と言ったものより、鉱石などが多く産出されています」
クロッカスでは生物系が多く、環境も多彩でかなり大変だったが……今回の大洞窟は全てが薄暗い洞窟らしい。その分、食料には気をつけなければいけないが……僕達の分はスキルがあるので問題ない。
「今回の試験では3階層のボスまで……って話だったね。そこのボスのドロップを拾えれば、実技試験は最高評価を貰えるって話だ。試験期間は3日間、此処までで質問はあるかな?」
「質問だ。ノマル…………さんは、ダンジョンは何階層まで潜ったことがあるんだ?」
「クロッカスのダンジョンで、5層の入り口までかな?」
「ふん……そうか」
アルヴィン君は憎いであろう相手からでも学ぶ姿勢はあるし、引率と言う立場を考慮してか渋々と言った様子ではあるものの敬意をもって接してくれている。学年内でもかなり実力が高い4人らしく、恐らく僕達の出番はやっては来ないだろう。とは言え、油断をするつもりは毛頭ないが。
7人と言う大人数で……というより、パーティメンバー以外と一緒に冒険をするのは初めてかもしれない。何時も横にはシエナが居てくれたわけだし。
「そろそろ私達の入場の番ですね。肩に力を入れすぎず……何時も通りの実力を発揮できるように頑張ってくださいね?」
ゆっくりとクオンディル大洞窟へと足を踏み入れる僕達。
こうして、3日間にわたる学科試験が幕を開けた。