遺跡最深部の入り口だった場所は既に厚い壁に阻まれている。まさか読み上げる事でこんな事になるなんて想像もしていなかった……なんていうのは言い訳にしかならないけど。
「にしても、聞き間違いじゃなきゃ……ノル少年は台座の文字が読めるんだね?」
「えぇ、そのせいでこんな事になってしまって……」
空気がいつまで持つのか、この先が安全なのかすら分からない。でも、このまま待っていても何時助けが来るのか分からない。だから歩いた先に出口があるのかも確実じゃないけど、僕達はここを降りていくしかない。
「また隠し事が増えたねぇ……国や教会だけじゃなくて学術院からも身柄を狙われる理由が出来るなんて、ノル少年はモテモテだねぇ。将来は刺されないように気を付けるんだよ?」
そう言ってグレイ師匠は茶化すように僕に笑いかける。この状況でも焦った様子を見せないのは、これが彼女にとって大したアクシデントではないからか? それとも余計な心配を掛けまいとしてだろうか。
「最初に言っておくけど、刻まれた文字を読んだらこんな事になるなんて私も想像していなかったんだ。その事で自分を責めるのはナシだよ」
「でも……」
確かに予見するのは無理だったのかもしれない、それでもこんな事態を引き起きしたのは間違いなく僕だ。
「その上で少し酷な事を命令するよ。ここから先は私にも何が起きるか分からないから、もし私が不測の事態に陥って戦えない状況になったら……」
『遺跡の中では私の指示に絶対に従う事』“これ”は師匠がこの遺跡に入る前に、何度も念を押して話していた事だ。だから『命令』なんていう強い言葉を使ったのだろう。
「シエナ君を連れて逃げてくれ。これは君にしか出来ない事だ」
「えっ、私?」
「それはっ……!」
それが意味するのはつまり───自分を見捨てて逃げろという事だ。僕のせいでこんな事になったというのに。
「返事は? 約束を忘れた訳ではないよね」
「……はい」
「うん、良い返事だ。もちろん私も早々負けるつもりは無いけど、何があるかは分からないからね」
それに───と彼女は続ける。
「別に、見捨てるなんて考えなくていい。私が勝てない以上は、君達だけじゃ勝てない。無駄死にする事は無いというだけだよ。助けが来る可能性も0じゃないからね」
そう言って何でもない事のように、手をヒラヒラと振って自分が死んだ時の事を話す師匠を見て……『冒険者』というものが常に死と隣り合わせだって事を再認識する。
「そしてそんな命の危険が迫った今だけど、そんな今だからこそ……」
そう言って銀髪の彼女は、先ほどとは違って獰猛な笑みを見せて───
「楽しもうぜ、少年少女。冒険者っていうのは……こういう冒険を乗り越えて大きくなるもんなんだぜ?」
───愉しそうに笑ったのだ。
「まぁ、ノル君と私にグレイさんがいるんだからきっと大丈夫だよ」
コツコツと階段を降りる音が空間に響き渡る。罠があるかもしれないから、ゆっくり歩を進める僕達だったが罠の類は仕掛けられていなかった。もしかしたら、年月を経て老朽化してしまっただけなのかもしれないけど。
階段を降り切って最深部と思われる場所に辿り着いた僕達だったが、その先は行き止まりだった。壁や天井に埋め込まれた鉱石のようなものが淡く廊下を照らしている。
「だから、そんなに落ちこま───ノル君止まって、何かいる」
「……気づかなかったよ。随分と眼が良いんだね、流石は剣聖といった所なのかな?」
行き止まりだと思っていたものは、決して壁なんかじゃなかった───
“それ”は隆起すると……人の形を取っていく。
「Ανίχνευση εισβολέα───」
「ゴーレムかぁ……覚える威圧感はあそこを守ってた守護者より、よっぽど上だね……」
グレイ師匠の呼び出した氷の騎士の倍以上はある巨大な石像がこちらにゆっくりと向かってくる。尋常じゃない威圧感だ、それだけ大切なものを守っているのだろう。壁のようなそれが動いた先には、廊下にあるモノより強い光源があるように見える。
「───来るよ、構えて」
あのゴーレムは何を言っていたのか、そこに解決の糸口があるかもしれないとスキルを発動して。
『スキル:
「
……分かったのは、どうやら戦うことは避けられそうに無いという事だけだった。
「凍てつく槍よ、わが敵を貫け───」
詠唱を始めた彼女、それが戦いの合図となった。勢いよく身体を振りかぶったゴーレムの一撃を受け止めようと、氷の騎士が氷で出来た大きな盾を構えその前に立ちはだかるが───まるでガラスのように叩き潰される。
「───アイスランスッ!」
そして撃ち出された氷の槍は巨体の頭部に直撃したものの───傷一つつくことは無い。氷の騎士を粉砕したゴーレムはそのままこちらに向かってその巨体を向けて動き出す。
「ちっ! 我が命に従い顕現せよ───」
「大いなる大地よ、我が前にっ───」
進路を塞ごうと慌てて詠唱を始めるが───間に合わない。その腕がグレイ師匠に迫り───寸前のところで木剣にその軌道を逸らされる。
「───アイスナイト! 悪い、助かったよシエナ君」
「でも反らすのが限界! 全然刃が通んないの!」
そりゃ木剣だから石に刃が通らないのは当たり前だ、むしろ石の塊であるゴーレムの腕をただの木の剣で逸らせる技量の方がおかしいくらいで。
「───現れ壁となれッ、ストーンウォールッ!」
漸く詠唱し終えた僕の魔法が発動する。石の壁がゴーレムの行く手を阻むように現れて、押し潰さんとその身体を覆う───が、まるで鬱陶しいと言わんばかりに振り払われた腕で粉々になった。
それでも、意味が無かったわけじゃない。たとえ少しの間でも視界を塞ぐことが出来た。それによって生まれた一瞬の隙。
「凍てつく大槌となって我が敵を叩き潰せ───アイスハンマーッ!」
振り下ろされた巨大な質量はゴーレムを叩き潰すように振り下ろされ───砕け散る。傷こそついていないが、先ほどよりも効果があったようで体勢を戻すのに少しだけ時間が生まれる。
「参ったな。これも効かないとなると、切り札が使えたとしてもトドメは刺しきれないかな」
僕に何ができる? 師匠の魔法ですら有効打にはならず、シエナのように攻撃を受け流す事も出来ない。魔力だって無限にある訳じゃない、このままじゃ……ジリ貧だ。ここで僕の秘められた力が覚醒する───なんて楽観的な事に期待できるほど、僕は主人公なんかじゃない。
「ううん、困ったなぁ……硬すぎて斬れないなんて」
今あるものでなんとかするか、それとも試したことのないスキルの他の機能を使うか……いや、奇跡はそう何度も起こらないから奇跡なんだ。裏山で上手くいったからって、次も上手くいくなんて楽観的な事は考え辛い。
自爆覚悟なら何とかできるのかもしれないけど……なんてまだ早いだろ。考えろ考えろ考えろ───考えろ。頭を回せ、思考を止めるな。諦めるのは最後で良い。そこまで考えて思い出す。一つだけあるだろう、この状況を打開できるかもしれない『何か』が。
「僕に一つ考えがあるんです、僕を信じて任せてくれませんか」
「危険と勝算はどれくらい?」
「危険は……分かりませんが、勝算は低くないと思います」
「───まあ弟子を信じるのも師匠の務めって奴か。この命……君に預けるぞノル君」
「ノル君ならきっと何とか出来るよ!」
期待が重い、誰かの命を背負う事になるなんて思ってもいなかったし覚悟も出来ていない。それでも、このまま何もしなければ意味も無く死ぬだけだ。なら、覚悟を決めろよ僕……!
「凍てつく大槌となって───」
師匠が詠唱を始めたのと同時に、僕とシエナが巨大なゴーレムに向かって走り出す。先ほどと同じようにゴーレムはその巨大な腕を振るって近くにいた氷の騎士を盾ごと叩き潰した。
「我が敵を叩き潰せ───」
そして次に近づいて来た僕とシエナを叩き潰そうとその腕を振り上げる。もし、当たれば騎士のように叩き潰されて地面に赤い花を咲かせることになるだろう。それでも、シエナならきっと───
「───遅すぎッ!」
神がかったタイミングで差し込まれた一閃により、巨大な拳は僕達を捉えることは無く地面に大きなクレーターを作る事になる。そして後は僕がタイミングを合わせるだけ……!
『スキル:
「
先ほどよりも
「παρείσακτος───!」
壁に突き刺さった頭を引き抜き、体勢を直そうとする巨人を横目に───僕は走り抜ける。初めからこの一瞬を作るための一撃だった。
僕は賭けたんだ。わざわざ隠し部屋の奥に番人まで用意して……この遺跡を作った存在が必死に守りたかったものに。出口の開閉装置でも強力な魔道具でも何でもいい! この場を切り抜ける事さえできればそれで……!
「ダメ押しの
こちらを捕まえようと巨体が腕を伸ばすが、それは既に手遅れだった。
僕は今、厳重に守られた『
どれくらいが好み?
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主人公が無双無双してる方が良い
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紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい