クオンディル大洞窟の一際大きな空洞の中で、学生達が戦っているのを伺っていた僕達。かなりの時間歩きっぱなしだったから、戦闘はしてないものの結構な運動量だった。
「疲れたら言ってくださいね、疲労回復の奇跡を……」
「流石に大丈夫だよ、後衛職とは言え剣も使えるように身体も鍛えてるから」
僕を除くとうちの前衛はシエナだけ。僕は魔法一本でやっていける程、才能……というより魔力が無いので鍛えている。それに近接されたときの対策として、剣を学ぶのは合理的だ。
そして世界で一番お手本になる剣士が横にいる。だから、スキルが無いなりに最低限形になってるんじゃないかな……と自分でも思う。少なくともシエナの稽古に付き合える程度には頑張っている。
「うん、疲れた! 私にも疲労回復を……」
「土人形の上で本を読んでいただけで、何処がお疲れになったのでしょうか?」
「それは勿論……目と腰だよ。お世辞にも座り心地が良いとは言えなくてね」
そんな順調とは言えない試験官同士の仲とは対照的に、学生組は非常に順調だった。
相対しているのは第二層のボスであるアイアンゴーレム。その巨体から来る振り下ろしは非常に強力で、C級の冒険者レベルでは手間取る相手だろう。
そんな相手の振り下ろしを大剣で難なく受け止める、赤い髪の男。
「ふっ、まだまだ大丈夫かなオレサ君?」
「当然、俺様にかかればあと半日は耐えられるぜ」
大剣で前衛を張るオレサ君、その一歩後ろでレイピアを振るうオガニ君。
「───ウォーターバレッド、隙は出来ました」
「───グラウンドスパイクッ!」
水属性の魔法を淀みなく発動するアサイさんと、その一歩前に立って三小節の魔法の詠唱を完了したアルヴィン君。
顔に向けて放たれた水の弾丸により、一瞬動きが止まった土巨人。そんな彼に、隆起した土の槍が突き刺さり……大きな風穴を開ける。
「動か……ねぇよな?」
「ダンジョンでは敵がアイテム化するまで油断しない……でしたよね? ノマル先生」
「そうだね、そいつはまだ───」
最後の力を振り絞ったように立ち上がろうとした鉄の巨人に、ざくりと大剣が突き刺される。それを皮切りに、巨人の身体は粒子化していき……鉄製のインゴットが一本と魔石らしきものが地面へと落ちた。
「見事な連携だったと思います、これなら試験点数も高得点が付きそうです……よね? 試験官?」
「……ん? あっ、あぁ! そうだな、素晴らしいモノだった」
「これ位は……プルプラ魔法学園の生徒として当然です」
話どころか戦闘に目を向けていたかすら怪しい賢者と、焦った様子のアルヴィン君。幸いパーティメンバー同士の雰囲気はそこまで悪いモノではなさそうなのが不幸中の幸いだった。
「これで第二階層は制覇……一旦は装備の見直しと休憩とする。それで構わないな?」
「了解、流石僕達だね……この様子なら第三階層も楽勝さ☆」
良いチームワークだった、流石は優秀そうなメンバーが集まって良そうなパーティなだけある。とはいえ、このパーティにはあまりにも致命的な欠点がある。それは……
「バッファーは仕方ないにしても、斥候がいないのは致命的ですね……」
「斥候がいないと、こんなに大変なんだね……」
スコア稼ぎにはなっているものの、戦闘を避けるという選択肢が無い。出会った敵を片っ端から倒しているので、魔力と時間の消費が大変なのである。
魔法学園に斥候を求めるのもどうかと思うのだが、それはそれとして居ないのは辛い。うちの場合は僕と、偶に師匠が氷の騎士で哨戒させてたりするけど。
「斥候から、バフデバフにアタッカーと……‥本当に一パーティに一人ノマルさんですね?」
「そんな、買い被り過ぎです……だよ。バフはともかく他は全部二流止まりだし」
「全部を二流程度までこなせれば、それは器用貧乏ではなくオールラウンダーなのですよ?」
眼とスキルが良いから、斥候をこなせているだけで本職の技術があってのものじゃない、今もめきめきと剣の腕を上げているシエナに追いつくには、やれることはなんでもやっていかないと。
「オールラウンダーか……シエナも昔言ってたけど、なれてると良いなぁ……」
「自己評価の低さは、その辺りにありそうですね……難儀な事です」
「それじゃあ次の階層へ……」
ボス部屋の奥にあるのは3階層への階段、ここまでは全てマップの通りだ。さて、このまま進むのも良いけど……
「迷宮に入ってから12時間だ、ここで休憩を取るのをお勧めするよ」
「ボスを倒してから暫くはリポップしない……でしたよね?」
「そう、よく勉強してるね……ますね」
「敬語じゃなくて良いですよ、先生。現役冒険者の授業は……実りのあるものでした」
随分としっかり調べて来てくれていたのは、水魔法が得意なアサイさん。決闘の日の約束で臨時講師として何度か冒険者で気を付ける事とかを教えた事があったのだが……その時も質問をしてくれていたような気がする。
もしかして卒業後は冒険者になるつもりなのだろうか、それだったら将来有望である。
「……くっ、分かった。今日はここで野営をとろう」
焦りながらも冷静な判断をこなせるあたり、やはり悪い子では無いのだろう。
迷宮内では太陽も月も無いせいで、時間の感覚が曖昧になる。そのせいで休むべきタイミングを見逃しやすい……とは言ったものの、僕達は階層間テレポートがあったので基本日帰りである。そう考えると、ミービーちゃんには頭が上がらない。最近行ってないけど、元気だろうか。
という訳で食事の用意を始めた僕達。生徒は生徒で、引率組は引率組で食事の用意を始める。一人、あまりに手持ち無沙汰にしていた学生がいたが……そもそもあちらは簡単に済ませてそうだった。まあそれも当然だ、マジックバッグなんてそうそうあるものでもないのだから。
「食事も含めて冒険だよ。ダンジョンじゃなくても、二日三日街に帰れない事なんてよくあるでしょ?」
「そうだな、俺様も肉焼くくらいなら出来るが……」
「まあ、応用力とでも称して評価するから学生諸君も頑張ってくれたまえ~さて、そろそろ私達もご飯の用意と行こうか? ノル君が作ってくれるんだろう?」
「まあ、2人分も3人分も変わらないので作りますけど……」
「私はお手伝いさせていただきますね?」
あまりにも図々しい賢者、料理は作ってもらって当然と言わんばかりの態度である。そしてパーティメンバーとは言え、王女様に使用人の真似事をさせるのも……今更か。
『スキル:縮小→解除』
さも、マジックバッグから出したというような顔で森に居たオークの肉を取り出す。重さは変わらないが、ダンジョン内で大荷物を持ち運べるのは便利である。
『感想』でもあげられていたが、イレギュラーが起きると大変なので急遽森の中を回って物資を多めに持ち込んでいたのだ。いやぁ、本当にありがとうございます。これで万が一にでも、食料が切れる事は無いと思う。
あと賢者さんとそう言う事になるくらいなら、ツェツィが黙っていなそうというか……うん。
「どうしました? 私の顔に何か……」
「いや、本当に何でもないよ? ごめんごめん、調理を始めよっか」
この階層は天井も異様なほど高いし、多少火を使った所で窒息の心配は無いだろう。空気も循環している雰囲気は感じるものの、構造がどうなっているのかは分からない。
嵩張るから薪は持ってきていないものの、近くのモンスターのドロップアイテムに石炭があったため火には困らなかった。簡易的な焚火台を作ってその上にスキレットを並べる。
「着火せよ───イグナイト」
「野菜類は私が切っておきますね?」
「お願いツェツィ」
野菜の処理はお願いして、僕はスキルを発動させる。一度作った事のある料理を再現するだけなら、こうしてしまえば問題ない。
『スキル:プレビュー』
すーっと、脳裏にシェフの人が料理をしている姿が想起される。
スキレットが温まってきたら、大きなオーク肉のブロックを上へと並べると……じゅうっと肉の焼ける音と匂いが辺りに響き渡る。脂身が凄くて脂を敷かずともスキレットに脂が溜まりそうなくらいだった。
「……ッ!」
運動している筈なのにこんなに油を蓄えているというのは、食料にはあまり困らない森なのだろう。確かにあまり強い魔物は居なかったし。
「いやぁ、随分と贅沢だねぇ……テーブルくらいは用意しておくよ?」
「きっかけは何であれ、相手を思いやれる行動が出来るのは良い事だと思います」
恐らくは僕に良い顔をしようとして、自ら手伝いを申し出た賢者。少しずつ、本当に少しずつだが真人間に近づいて行ってる気がする。これで300年後くらいに、一般常識を知った賢者が完成するのではないだろうか。
両面に焼き色を付けたオーク肉に、塩と胡椒を振る。引っ繰り返したお肉の上に香草を乗せて蓋をし、スープの用意に移る。
ツェツィが切ってくれた野菜に、固形の調味料を加えてぐつぐつと煮込む。冒険者になる前に少し練習したのと、冒険者になって野営の機会が増えた事で必然的に料理の機会が増えた。そして一度覚えてしまえば、『一時保存』しておけばいつでもその時のことが見直せる訳で。
なんかジャンルが揺れ動いているような気もするけど、まぁ多分大丈夫だろう。
スープに関しては煮込むだけなので、火の通りさえ気にすればプレビューすら必要無かった。とはいえ食事の時に一品汁物があると、とても嬉しい。今は必要無いけど、長旅で固くなったパンを浸すだけでも食事の満足感が上がるし。
スキレットの蓋を開けると、むわっと香ばしいお肉と香草の香りが一帯へ広がり……誰かが生唾を飲む音が聞こえた。後はこれを盛りつければ完成……
「……ッ!?」
「これで完成、オークの香草焼きと野菜のスープ……あっ」
「まあ、とっても美味しそうですね。王宮のシェフのにも劣らな……というよりも、盛り付けの仕方すら似てますね?」
しまった、何時もの癖で4人分作ってしまった。食べきれない事も無いけど……寂しそうな顔で干し肉にかじりついている学生さんたちに振舞っても、そこまで問題は無いだろう。少なくとも彼らは帰るまでは持ちそうな食料をしっかりと持ち込んでいるのだから。
「良ければ作りすぎてしまって……食べます?」
「いっ、良いんでしょうか……」
「おっ、恩に着るぜノル先生とツェツィさん……!」
先程から匂いだけ嗅がせて、食べれませんと言うのも余りにも人情が無い。とは言え数回授業を行っただけで、先生呼びされるのは何かむず痒いから止めて欲しい。
当然簡単に済ませる時もあるが、ちゃんとした食事は士気を高く保つのにも役立つ。だから旅中の食事は気を遣っている。
スープと香草焼きを3人で分け合う彼ら。特に身体をよく使う大剣使いの赤髪の子は、やはり少し物足りなかったのだろう。それは嬉しそうに食事をしていた。そんな中、居心地悪そうにしているのが一人。
「アルヴィン君は食べないの?」
「僕の事を……恨んでないのか」
唐突な質問に、一瞬何の事だったかと思って……思い出す。確かにいきなり決闘を仕掛けられたが、腕試しにもなったし、実戦経験も積めたから別に気にしていないのに。とはいえ、気にしていないと伝えるのもまた……彼のプライドを傷つけるだろう。
「別に、食事一つで恩着せがましく何か言うつもりは無いから食べなよ」
「そうか。礼は……言っておく。ノマル・フトゥー」
「ノル君ノル君、おかわりはあるかな?」
3人の輪に戻っていくアルヴィン君、後ろでおかわりが欲しそうにしていた賢者には見ないふりをした。何でまだ食べる気なんですか、一番動いてないでしょ貴方……