僕は今、揺れている。
効率と人情の狭間で。
『スキル:推薦一覧』
★感想推薦─受託─
・幼馴染にハグをしよう!
・スキルで本を読もう!
・賢者の太腿を映そう!
クエストには頭の痛くなるようなモノが並んでいた。そしてこの受諾したクエストは……
『スキル:推薦一覧』
★感想推薦─受託─
・幼馴染にハグをしよう!
・スキルで本を読もう!
▼受諾可能一覧
・賢者の太腿を映そう!
任意で取り消したりできるみたいなので、取りあえず受けておくのもいいかもしれない。
クエストの内容は……賢者にならまぁ別に良いかという気持ちもある。シエナもハグくらいなら許してくれる……というか彼女は昔からよく引っ付いてくる癖がある。だから問題は無いのかもしれない。
確かに、此処にあるクエストをこなせば僕自身の強化に繋がるのだろう。
だけど……本当にそれで良いのだろうか?
シエナとの関係は、そんなに打算的なモノだっただろうか。
その行為は本当にシエナに向けられたものなのだろうか。
そして一度妥協してしまえば───次もまた妥協して、しまわないだろうか。
僕は心の強い人間じゃない、性根はただの村人に過ぎない。
そんな僕が、自身の強化という魅力に……抗えるようには到底思えない。
だからこれは……
「やっぱり駄目だな、そういうのはあくまで双方の合意の上で……」
「ノル君、おっはよ~!」
「うぐっ!?」
そんな僕の決意は、勢いよく開け放たれた扉と共に吹き飛ばされて……
「あれ? ノル君どしたの? 元気ない?」
「いや、悩んでたのがバカらしくなってきて……」
「悩み事なら私が聞いてあげるよ?」
「いや、もう解決したから大丈夫……」
達成<幼馴染にハグをしよう!>報酬:1SP
勢いよく抱き着かれたまま体勢を崩した僕の耳の奥で……やかましいファンファーレが鳴り響いていた。
そんなハプニングがあったり、作戦会議をしたり、道具の用意をしたりと。大忙しで日々は過ぎていき……そしてついに『その日』が来た。
「ここが試験会場かぁ、楽しみだね!」
「流石はシエナちゃんですね、私はちょっと緊張してますよ?」
「私に出来るのは、剣を振るって敵を倒すだけだから! あんま難しく考えても仕方ないかなって」
学園の広いグラウンド、試験用の的などが並べられていたそこは……この前まで学生が試験に使っていたと言われているプルプラ魔法学園の第1演習場。
「グレイししょ……さんは、何時も通りそうですね」
「いやぁ、そうでもないよ? 相手が格上の魔法使いと言うのは、流石に緊張するもんだよ。誰かに師事を受けるなんて実に数百ね……いや、数年ぶりだったからさ」
「僕は何も聞いてないですからね」
「うんうん、ノル君は聡い子だなぁ……」
そんな場所に集められた僕達は、多少の緊張はあるものの……皆やる気は十分そうだった。少なくとも、これからの試験に怖気づいてしまったメンバーはいない。
その事がどれだけ心強いか。本当にパーティメンバーに恵まれたと、そう思う。
「やぁやぁ、皆揃っているようで何よりだよ」
僕達”氷竜の一閃”の四人が集う演習場に、紫の髪を振りまいて登場した彼女。
僕達は剣士入りの四人組のA級冒険者パーティだ。それに相対するのは……魔法職ただ一人。間違いなく、相手にならないだろう。
それが、S級冒険者の『賢者』でなければの話だが。
今回の試験はA級冒険者昇級試験の時のように、街の外にある演習場で行われる……訳では無く、なんと学園の敷地内で今回の試験をやると聞いたときは驚いた。そして未だに、本当にこんな場所でやっていいのかも疑問に思っている。
「本当に学園で試験をやるんですか? 都市の外に出た方が……」
「この学園は勿論、魔法試験等に備えて高い耐久力を持っているんだ。それに外では学生と教師が総出で結界を張っている。全力を出すのなら……此処の方が適しているんだよ」
そう言って普段は部屋の隅に放置されがちな杖の先で、地面をトントンと叩いて見せた賢者。
彼女がそう言うのなら、問題は無いのだろう。『賢者』は性格は終わっているものの、未だに僕達に嘘をついたことは無かったはずだから。笑えない冗談は何個かあったけど。
そんな彼女はニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら……こちらに振り向く。
「さて、準備は万全かな?」
ここまでの一週間は……あっという間だった。
「S級相手に準備が万全なんて事はありませんよ」
それも当然だ、S級冒険者を相手取るにあたって、準備はいくらあっても足りる訳が無い。そして何より、その賢者の底を僕達はまだ知らないのだから。
「ははっ、それもそうか。相手の力量を見誤らないのは良い判断だ」
「それでも……やれるだけのことは、やってきたつもりです」
「うんうん、良い心がけだねぇ」
一段、『賢者』の纏う魔力が高まり───反射的に身構える。
「その上で、一つだけ忠告しておこう」
あくまで、少し気合を入れた……それだけのはずなのに。杖を持つ手が震えそうになるくらいの魔力の奔流が、辺りに渦巻いている。
「まず今回の試験は……安心してくれていい。万が一にでも君達の命を奪う事は無いから。好きに自らの力を示すと良い」
殺さないように手加減する余裕すらあると、言外に言っている。それはまるで挑発そのものだが……‥それだけの自信が、彼女にあるという事なのだろう。
それにしても何か……含みのある言い方だった。
そもそもの話、ここまで賢者が聞き分けが良いのも想定外で……
「でも、もしも。もしもの話だよぅ?」
それはまるで、命
「試験で大きな怪我を負ってしまったら……療養の為に、此処に留まらざるを得ないよねぇ?」
「……ッ!? もしかして、はじめからそれがっ……!」
「はっはっは! それじゃあ試験開始だ! 生徒諸君、精々存分に───足掻き給えよ」
瞬間、地面が跳ねた。比喩や錯覚ではなく……文字通りに地面が隆起して僕達に牙を剥く。それは彼女の屋敷で見た、ゴーレムの動きそのもので。
「なっ、何時の間にゴーレムを足元に……!?」
「何時? その質問に答えるとすれば……最初からと、言うべきかな?」
隆起した地面をシエナが切り払う。しかしそれはあくまで、巨大な地面の一部分でしかない。際限なく、埋め尽くすかのように岩石の触手が持ち上がり……僕達へと狙いを定める。
「このプルプラは、巨大な魔法都市でありながら……一つの巨大魔道生命体なんだよ。プルプラは都市の名前でありながら……私の矛であり、盾であり……そしてゴーレムの名前でもある」
地面が揺れている、否───浮き上がっている。
ようやく揺れが収まったころには、遠くに見えていた山が小さくなっていた。いや……このプルプラ自体が、浮き上がったのだろう。
「今この都市は六つの脚を持ってして、地上から500m程立ち上がった。逃げる事は……不可能だと思ってくれていい」
それは、彼女の言葉通り。「特訓を手伝ってあげる時間があれば、小国の一つや二つ落とせるのがS級冒険者だよ」なんて言ってはいたものの、今の今までその意味を考えたことは無かった。
「勿論、住民の殆どは知らないけど……ね?」
「こんの糞賢者ッ……!」
「はっはっは、倫理観など犬にでも食わせておけよノル君。常識にとらわれないのが、手っ取り早く強くなるコツだよぅ?」
見誤っているつもりは無かった、そう思っていた。
「先生らしいことは得意じゃないんだ、だからこれが手っ取り早い。君達が目指すべき存在を……」
それでも……その想定は、国を単独で落とせるというS級冒険者を前にしてはあまりにも……甘すぎる想定だったと言わざるを得ない。
「何かの道の頂点に位置する存在の実力を、その身に刻んでいくと良い」
ゆっくりと、彼女が指揮棒のように杖を振りかざし───都市そのものが今、僕達に牙を剥く。