遺跡の守護ゴーレムを避け、行きついた先にあったのは、彼の守っていたものは『聖剣』や『魔道具』なんかではなくて───
「そんな……」
書斎だ。古びているものの、そこはまるで誰かの書斎のような場所だった。光り輝く聖剣もオーラの籠った杖もない。そこには椅子と机に本棚があるだけ。察するにこの遺跡は誰かの隠れ家のような場所だったのかもしれない。
「これじゃ、あの守護者は倒せない……」
そして見たところ入り口の開閉レバーみたいなものもない。それはつまりこの部屋に来た意味なんて無かったという事を意味していた。
「いや、まだ可能性はあるだろ……‥!」
外ではグレイ師匠とシエナが必死に戦っている。そんな中で僕だけが諦めて良い訳がない。
当たり前のように読む事の出来ない本のタイトルにスキルを使う。
『スキル:
『スキル:
『
『
見掛けた本に片っ端から、ルビを振って、振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って振って───振り続けた。
ポタポタと鼻から赤い液体が流れていくのが視界の端に映る。スキルの使いすぎだろうか、頭も割れるように痛い。このまま諦めて意識を手放してしまいたい───けど。
「諦めたくない───ッ!」
僕を信じて送り出してくれた二人に応えたかった。こんな『普通』の僕を信じて命を預けてくれた二人に……!
頼む……今度こそッ!
『
揺れる視界の中、見つけた本にルビを振る。
「……これなら、もしかしたら!」
ようやく見つけたこの状況を打開しうる本のタイトルは───
「
───古代の時代の魔法なら、この状況を打開できるかもしれない。
本を片手に抱えながら書斎を出て守護者の下に走る。ちょうど良さそうな魔法を見つけられたのは良いけど……僕の魔力じゃ使えそうに無い。シエナは無理だ、グレイ師匠は魔力が足りたとしても古代文字を読める訳じゃない……つまり、詠唱が出来ない。
「ノル君待ってたよ!」
「ノル少年ッ! 何か見つけたんだね!?」
見つけたと言えば、見つけたけど……上手く行くかは分からない。だけど、僕が何とかしてみせる。
「……はい! シエナは隙を作ってほしい!」
「任せてよ!」
「グレイ師匠は使える中で一番強い魔法を詠唱してください、出来るだけ小さな声でッ!」
「それじゃ魔法は発動し辛く───いや、分かった!」
【まず魔法は3つのステップに分けられる。『詠唱』・『魔力を込める』・『発動』の3ステップだね】
グレイ師匠が魔法を教えてくれた時の一言だ。それについて考えたことが一つあった。それは、魔法の詠唱は何のために唱えているのか。魔法は詠唱ありきでないと発動しない、短縮詠唱もあるらしいが無詠唱と言う訳では無い。自分のイメージがはっきりしていれば無詠唱でも良いだろうに……それでも、詠唱は『必須』とされている。
つまるところ、魔法の詠唱とは『世界』への宣言なのだ。これから魔力を使って何をするという……予告。それがもし『聞こえない程に小さく』・『聞こえ辛く』・『別の物に聞こえた』とすれば?
『スキル:
「冷たく暗い溶ける事のない氷よ」
スキルの二重起動でかかる負荷は大きいが、それでも耐えられない程じゃない。
「我が魔力を贄とし、触れるものを氷へと閉ざせ」
尋常じゃない魔力が世界を満たしていく、これがA級冒険者グレイエル・スノウリリィの本気の魔法。
「其は氷の星にしてその終わり」
その魔力に寄せられ攻撃の対象を近くにいたシエナから魔力の塊に切り替えようとした巨人の腕に、光のような剣閃が奔る───と同時にその姿勢を崩す。
「フロスト……もう一小節!? フロスト───」
大きく後退してその場から離脱するシエナ、魔法の発動が近い事を察してくれたのだろう。これで巻き込む心配も無いッ!
「───ノヴァ」
目を開けられない程の猛吹雪が───古の竜の息吹が洞窟の中に顕現する。世界が白銀に包まれていく、彼女の銀色の髪が風に揺れている。そのあまりの冷たさに凍えそうなはずなのに───僕はその魔法の美しさに目を奪われてしまっていた。
「───ははっ、これが本当の白銀って奴か」
吹雪が吹き止み、洞窟の中に雪が舞い散る。晴れた視界の先にあったのは───すべてが氷に包まれた世界。床も天井も……そして守護者のゴーレムでさえ氷の世界に囚われていた。
「これで一先ず安心───って、ノル少年?」
グラリと視界が揺れる、安心からか疲れからか───僕は意識を手放した。
意識がゆっくりと浮上していく。聞こえたのはパチパチと何かが燃える音。頬に感じたのは柔らかくて───温かい感触。
「おはようノル少年。気分はどうだい?」
「僕は、いやゴーレムはいったい……?」
「シエナ君が見張ってるけど、今のところ動く様子は無いって話だよ。反応から考えて倒せてると見て間違いないだろうね」
あれからどれだけ時間が経ったんだろうか、頭はまだ痛いからそんなに時間が経った訳じゃないんだろうけど。体が重い、酷く怠い……このまま何時までも寝ていたいくらいに。
「うんうん、もう少しゆっくり休んでいていいよ。随分と頑張ってくれたみたいだからね」
「……そんなことは」
隙を作ったのはシエナだし魔法を唱えたのは師匠だ。それに元はと言えば、僕の軽率さがこの事態を招いたんだし……なんて続けようとして口を指で塞がれる。
「君はもう少し自分に自信を持った方が良いと思うんだがなぁ……」
僕の頭を細い指がゆっくりと撫でる、もっと小さい頃に母さんが寝かしつけてくれた時のように。それが心地良くて───何かを忘れているような気がする。
「……それに私も休みたいんだ、恥ずかしながら魔力を使い切ってしまってね? これじゃあ魔法使いというより可愛いだけの美少女だから、帰りの為の魔力は回復してからじゃないと。だから少しばかり師匠の独り言につきあってくれたまえよ」
そういうことならと、僕は返答の代わりに頭をゆっくりと縦に動かした。
「いやぁ、それにしても部屋は広いし通気用らしき穴があって助かったよ。このままじゃ倒せたはいいものの寒すぎて風邪を引きかねなかったからねぇ」
そう言えば何か燃えている音がすると思っていた、焚火を焚いているのだろう。そこまで考えて───今僕が何に頭を乗せているのかに気付いた。これは俗にいう膝枕という奴なのでは? 流石に師匠にそんな事をさせるのは弟子として不味いだろうと立ち上がろうとするが───手足に上手く力が入らない。
「こら、動かないでくれよノル少年。くすぐったいじゃあないか」
結果的に身じろぎをしただけに終わった。結局、諦めてそのまま体を休める事に専念する事にする。それから師匠は何か大切な事を話していた気もするし……していなかった気もする。そんな中で少しずつ眠気が強くなっていく。
「もしノル少年さえ良かったら、将来パーティにならないかい? 君と一緒なら何処までも駆け上がれる気がするんだ、それこそ『S級』にだって」
パチパチと木の燃える音が空間に響いて。
「なんて、弱っている今話すことじゃないか。うん、それじゃあ───」
ゆっくりと聞こえる音が遠くなり、意識が揺らいでいく。
「───おやすみ、ノル君」
心地良い微睡の中、僕は再び意識を手放した。
どれくらいが好み?
-
主人公が無双無双してる方が良い
-
紆余曲折と苦難を乗り越えてほしい