「どうしよっかなぁ……」
休憩と昼食の為に、野原で馬車を止めた僕達。
見晴らしがよく、射線のよく通った場所だが……逆に言えば、周囲には魔物や夜盗の隠れられるような場所は無い。
そんな中、今日は食事当番ではない僕が頭を悩ませているのにはある理由がある。
それはあの賢者、アメティスタ・クレイドールに関する事だった。
彼女の最後の行動によって、色々と一悶着があったのだが……それを語るのはまた別の機会にしておこう。
彼女がさも『ご褒美』ですよと言う顔をして行った接吻。
その事をよくよく考えると、一つの結論に辿り着くのだ。
【賢者が意味も無く、あんな事をするだろうか?】と。
考えれば考える程有り得ない、確かに意識づけるため……という可能性も無くは無いが。
だとしたら猶更、何故追い出すようにプルプラを去らせたのかが分からない。
という訳で……結論として、彼女の事を呼びたくはないが、呼ばざるを得ない。
もし彼女が何か企んでいるようなら、手遅れになる前に確認する必要がある。
『スキル:よみあげ』
『老ノマル』
▶『賢者アメティスタ』
『???』
『戻る』
とても嫌だ、嫌だが……
「何か事を起こされてから気づくのが一番嫌なんだよなぁ……」
そういう悪い信頼が、彼女にはある。
憂鬱だが、覚悟を決めるんだ僕。
半ばヤケクソ気味にスキルを発動させて───
広がるのは一面の緑! うぅん、真新しさの欠片も無い平原だね!
何となくしなくちゃいけない気がして、辺りの様子を読み上げてみたけど……
こんな既知塗れの場所に、なんで私を呼んだんだい?
「今知りたいのは、状況じゃなくてあなたについてだからですよ……賢者さん」
いやぁ、まさか私に興味津々って奴かい? そっかぁ、プルプラに戻って来たくなった?
「そもそもプルプラは帰る先じゃないんですが?」
ふふっ、辛辣だねぇ。打ち解けてきた……と前向きにとらえておくことにしようか。
「話を進めたいんですが……そういえば、そっちって今どうなってるんですか?」
どう見えているか……みたいな話だろう?
そうだなぁ……視覚情報が切り替わったけど、依然として身体はプルプラに存在している。
うぅん、魔道具や魔法による映像付きの通話……が近いかな?
これだけで研究のし甲斐が……
「そういうのはいいんで、答えて欲しい事があるんですけど……悪だくみとかしてませんよね?」
悪だくみって……例えば?
「僕の血を使って何かしてないかとか」
そうだねぇ、とても良い質問だ。
100アメティスタポイントをあげよう、10ポイント集めると私の名誉助手に慣れる優れモノだぞ?
「いや、そう言うの要らないんで」
……こほん。
話を戻すと、実際に血とスキルには密接な関係性があるんだよね。
例を挙げると、クロッカス王国の王族が分かりやすいかな。
彼らの先祖は……異界の勇者と言われていて、優秀なスキル持ちを家系に取り込んできた一族な訳だが……実際、彼らは強力なスキルを持って生まれる事が多い。
あのツェツィーリア・フォン・クロッカスの持つ『聖女』を筆頭にね?
だから実験をして見た事はあるんだよ。『賢者』の私の血を使えば、同じスキルを持ったゴーレムや魔法生物を作成できるのではないかとね。
「抜かりないですね……それで、結果はどうなったんですか?」
結果から言えば……悉くが失敗に終わったよ。
血も髪も、魔力を込めても……作った生物にスキルが発現する事は無かった。
下位のスキルですらね?
だが……おかしなことに血をコストに使う魔術的儀式があるんだが……
『賢者』の血と、他の『魔法使い』のスキル持ちの血では価値が違ったんだよ。
「……成程?」
つまり血には『スキル』の情報が残っていて……その上で、別の生物に宿そうとした瞬間にその意味を無くしてしまうんだ。
まるで本当に神とやらがスキルを……いや、実在の証明が出来ないものの所為にするのは個人的には好まなくてね。
とりあえずそういう訳で、君の血を使って悪さをしようとはしてないから安心してくれたまえよ?
「信じますからね?
その……なんだ。
まあ、うん…………使う予定は無いけど、保存だけしてある。
「破棄しておいてくれますね?」
分かった、私の負けだ。
アメティスタ・クレイドールの名に誓って処分しておくよ、うん……はぁ……
「本当に、油断も隙もあったものじゃないですね」
他に何か聞きたいことはあるかい? 例えば……そうだな、スリーサイズは……
「じゃあその……何でキスしたのか、とか」
……おいおい、そんな事を私の口から言わせるつもりかい?
ほら、乙女心だよ……これで満足かい? 全くノル君、君って奴は……
「いや、そういうの良いんで」
……打算が無かったと言えば嘘になるよね。
君が通話……おそらくこの『よみあげ』していたであろう相手が気になってね。
幾つか推論を立てた結果だぁよ。
あの日、シエナちゃんに作戦を伝えずに博打を打ったみたいだが……もし通話できるのならしているだろう?
つまり、仲の良さは通話出来るかどうかに関係しない。
じゃあ誰としていて、どういう条件を満たせば会話出来るのか……気になるだろう?
同じパーティメンバーですらダメとなると、何かしらの要因が必要である。
そして、よみあげ相手は君のそのスキルを……君以上に使いこなせる相手と来た。
そうなると自ずと答えは絞られてくる。
同じスキルを持つ相手か、君の師匠か……それとも家族あたりに何かいるのか。
一つ目は無いだろうと思っていたよ、こんなスキル見た事も聞いたことも無い。
もし発見されていれば、古代語は既に読み解かれていただろう。
じゃあ二つ目だが……これも除外した。
授業している内に直ぐに分かったよ、君の魔法の師匠はグレイ女史だ。
そして……彼女が君以上にそのスキルに精通しているとは思えない。
じゃあ最後、家族だが……これも無い。
君のお父様は一般的な冒険者だったし、お母様もその……スキル自体は普通だ。
となると兄弟姉妹になるが……居ないだろう?
「待ってください、そんな事まで調べたんですか?」
当たり前だろう? 使い道があるかもしれないし……現にこうして考察に役立っているじゃあないか。
「プライバシーの欠片もないんですね」
……話を戻すと、ここまで可能性を潰していけば彼の正体には目途がつくというものだろう?
察するに……それは未来の君自身。
もしくはスキル自身……可能性は薄いけど過去のスキルを授かった者……この辺りだろうとね。
となると条件が気になってくる。
先ほど言った通りスキルと家系……血には強い繋がりがあるんだ。
そこで思い至ったのが同一存在の血もしくは細胞を持っている事が、スキルの条件……かもしれないという仮説。
まあ外したら外したで痛むのはこめかみくらいだから……実験してみたら、ビンゴという訳だ。
「そのせいで、初めてのキスは鉄の味だったんですけど」
……そのよみあげを相手を増やす方法は、何らかの方法で相手の血液……もしくは細胞を取り込む事だというのが今の仮説さ。
「あの」
とはいえ闇雲に増やすのはお勧めしないけどね。
知られるリスクもそうだが……その……単純に血液を媒介にした病気のリスクが高い……から……
「何の相談も無しにされたんですけどね?」
おっと、そろそろ学生たちに授業を教える予定があるのをすっかり忘れていたよ!
また『よみあげ』してくれたまえノル君! まだ読みたい本が出来てね!
……絶対だぞ? かけてくれないとそっちに押し掛けるからな?
ブツリと強引に世界の見え方が戻される。
あっちからも切れるらしいことを、今知れたのは収穫だっただろう。
それにしてもまさか、『よみあげ』の相手すら推測されていたとは……
言い当てられた時は、少し肝が冷えた。
「……さて、思ったよりすぐに終わったけど……どうしよっかな」
そう言いながらウィンドウを表示させると、何時ものように依頼の一覧が表示される。
『スキル:推薦一覧』
●推薦依頼一覧
★長期推薦─未受諾─
・ダンジョンに潜ろう! 報酬:???
・ソノヘンの村に戻ろう! 報酬:???
・ルベル闘技大会に出場しよう! 報酬:???
・【クリア済み】魔法都市プルプラに行こう! 報酬:魔法のコツLv.1
★短期推薦─進行中─
・夕飯をステーキにするんじゃ! 報酬:力1pt
★感想推薦─進行中─
・ランキングから読書をしよう! 報酬:成果によって変動
▼受諾可能一覧
そう、プルプラの報酬は賢者のよみあげ機能……では無かった。
そのことは正直嬉しい、あまり欲しい訳では無かったし。
「次は何処に行こうかな……前みたいに安価してみても良いけど……うぅん……ここ好きに任せてみるのも有りかな?」
「ノル君~! ごはんできたよぉ〜」
「分かったよシエナ、今行くから」
僕達の旅は続く。
いつかこの日々が、誰かにとっての物語になる……その日まで。