スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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はじまりの村?『ソノヘン』編
70.波乱の幕開け


『北風を運ぶもの』さんのお陰で、随分と速く旅路を進めることが出来ている。

 揺れず、他の馬より圧倒的に早く……そして疲れた所を見た事が無い。

 

 その最高速は、馬車を一頭で曳いているのに……早馬に匹敵するレベルだった。

 間違いなく馬車を曳かせていいような格の精霊じゃない、本人がしたいと言っているから嫌とは言えないんだけども。

 

 

 

 そういう訳であっという間の旅路だったが、そんな短い中で非常に役立ったものがある。

 それはこの……キッチンに鎮座している、真っ白な箱の形の魔道具。

 

「『魔鉄鋼の特性を活かした冒険者用の持ち運び食料保管庫』……なんて聞くとちょっと堅苦しいけど」

 

 ようは、アルヴィン君が賢者の前で発表していた『あれ』だ。

 

 どうやら僕達が出発すると聞いて、急いで持ってきてくれたとの事だ。

 しかもご丁寧に手紙付きで、要らないからくれてやると……彼は一応言っていたらしい。

 

 何度も言うが、『手紙付き』でだ。

 プルプラでは、偶々手紙が要らなくなることがあるのだろうか……いや、ないだろう。

 

 その上、持ち運びの手段があると聞いた途端、急遽大きなサイズを用意してくれたらしいアルヴィン君は、所謂『ツンデレ』に区分される人間なのだろう。

 僕はその時グッスリ寝てたので、その顔を見れなかったのはちょっと残念だけど。

 

 

 今ここにあるのは、前にプルプラで見たモノより一回りどころか二回り大きく、箱と言うよりかは……箪笥のようなサイズだった。

 しかも下にさらに冷たい空気が溜まり、物を凍らせることも出来るという。

 

 持ち運べる氷室、しかも維持は魔力だけという優れもの。

 僕達氷竜の一閃としても、ピッタリなイメージのアイテムだった。

 

 偶然それを見た北風さんが、冷蔵庫と口にしていたが……冷たい蔵の保管庫。

 略して冷蔵庫とは、確かにとてもしっくり来る名前だった。

 

 それ以来この箱は冷蔵庫と名付けられ……ホームのキッチンに鎮座している。

 

 食事の保管性や購入する食料の選択肢が非常に増えた、後は料理が出来れば旅先でも飲食店と遜色ないご飯が食べられるだろう……間違いなく過剰な装備だった。

 

 

 その上、夜や暇な時間にはこうして……

 

 

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 沢山の小説……らしきものを読むことが出来る。

 これももしかしたら、誰かの冒険の一幕を綴ったものなのかもしれない。

 

 

 ……なんだろうか、この違和感は。

 

 

 まるで何かから拒絶されているような、そんな違和感を感じて……

 これ以上考えると不味い気がして、意図的に思考を反らす。

 

 

 

 まあ、少しのトラブルはあったが、快適な旅路を進み……クロッカス王国に戻ってくるのはあっという間だった。

 体感的には、『賢者』との試験の1/3くらいで着いたような気すらする。

 

 いや、流石にそんな訳は無いはずなんだけど。

 

「ついた~! ねえノル君、お昼ご飯何処で食べる!?」

「獅子の尻尾亭に顔を出すのも良いし……まずはギルドに報告しないと」

 

 国を跨いで活動拠点を変える場合、ギルドへの申請が必要になる。

 と言っても、あっちでまともに依頼なんて受けてないんだけど。

 

「この後はどうされる予定ですか? ダンジョンや闘技大会に行きたいという話も出ていたとは思いますが……」

「それが……一度ソノヘンに戻ろうと思ってるんだけど……」

「ノル君のパパとママもきっと会いたがってるよ! それが良いと思うな」

 

 そこに彼女の父と母が含まれていないのは、少々複雑だが……ずっと一緒に居たから、父さんと母さんはシエナの事を実の子供のように思っているだろう。

 

 何時か、この旅の何処かで……シエナの両親についても知れればいいと思っているのだが。

 

「成程……少々お待ちくださいね、お父様に少しお話をしてきますので」

「ツェツィのお父様って……」

「安心してください、悪いようにはしませんから♪」

 

 用事も言わずに走り去っていく彼女は、正にお転婆姫そのもの。

 

 だけどその時は、帰った報告をしたり……それこそグリーンウッドに行った時のように、ソノヘンの村への視察という形を取るのだと……そう思っていた。

 

 

 その甘い幻想は、次の日にバラバラに砕かれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い大理石の床に敷かれた、赤色のカーペット。

 高い天井からはシャンデリアが吊り下げられており、壁にはこの国の国章と灰色がかった紫のタペストリーが揺らめていていた。

 

「───良い、面をあげよ」

 

 そんな荘厳な空間に響く、壮年の男性の声。

 

 間違いなく貴族……それもかなり高位の貴族たちが並ぶ、この広間。

 そんな中で声を聴くだけで一般人では無いと、魂で分からせられるような威厳に満ち溢れた声は……

 

「我らがクロッカス王国が誇る、救国の英雄達よ」

 

 ツェツィ……いや、ツェツィーリア・フォン・クロッカス王女殿下の父に当たる人物。

 この国の王……アルディーニヒ・フォン・クロッカスその人だった。

 

 

 どうしてこんな事になっているんだったっけ。

 喉がカラカラだ、正直未だに現実を受け入れられていない。

 

「此度の防衛戦における働き……実に大儀であった」

 

 確か何時も冒険に行くときの恰好で良いから王城に来て欲しいと呼び出された……所までは覚えている。

 前みたいに礼服を着なくていいという事で、そこまで大切な用事では無いだろうと高を括っていたのだが……案内されるがまま、気づけば謁見の間へと連れてこられていた。

 

「世界を揺るがす、魔王の先兵たる……12の脅威。その内の4つを退けたパーティ「氷竜の一閃」の働きは、大陸広しと言えど……目覚ましいものである」

 

 今思えば、冒険に行くときの服装で良いというのは……僕達を成果を上げた冒険者として招きたかったからなのだろう。

 

「彼らのような英雄の誕生は、世界を挙げて称賛と最大限の祝福をもって迎えられなければならぬ」

 

 彼の横にいる初老の男性が、一枚の紙を陛下に手渡し……彼はそれを確認したうえで……告げた。

 

「よって、我が国クロッカス王国は彼らの働きに報いるべく……彼らをS級冒険者として推薦するものとする」

 

 謁見の間にどよめきが広間に広がる、それも当然かもしれない。

 

 確かに一国の推薦でS級に昇級することは出来ない。

 だが、S級冒険者に推薦するという事は……もしもその実力が見込み違いだった場合、周辺国にかなり侮られることになる。

 

 国の威信と威光に、泥を塗るような事態になりかねないのだ。

 だからこそ、S級冒険者になるのは途轍もなく難しく……栄誉のある事なのだから。

 

 興奮も冷めやらぬままに、王がその続きを告げる。

 

「また、その内の2つを単独で退けたノマル・フトゥーに───」

 

 事態を呑み込めないまま、自分の名前が呼ばれた事で意識を現実に取り戻す。

 

「───男爵位を授けるものとする。異論のあるものは申し出よ」

 

 そしてこちらはどよめきではなく、拍手と共に迎えられた。

 だが、全くもって追いつかない……理解がちっとも……ちっとも追いつかない。

 

 

 金銭では受け取っていたものの、12魔将討伐という働きからすれば妥当……どころか過少ですらあるのかもしれない。

 だがそれでも、いきなり貴族位を渡されたこちらからすれば理解が出来ない。

 

 そんな中視線を向けてみれば、口元を隠していたツェツィがニッコリと笑っていた……気がした。

 

「ついては……ソノヘンの村を領する権を与う事とする」

 

 そこでそう繋がってくるのか、ツェツィの思惑が今になって透けて見えた気がした。

 

 とてもじゃないが、断ることは出来ない。

 否と言えば、首を刎ねられそうなプレッシャーだった。

 

 実際僕達なら、この場から逃げられるとしても……そこまでしてクロッカス王国と敵対する必要性が無い。

 

 何より、ツェツィの思惑通りなら……そこまで僕達にデメリットがある話では無いのだろう。

 踊らされているようで、ちょっと癪だけど。

 

「はっ、はっ……謹んでお受けします!」

「うむ、より一層の活躍を期待しているぞ、ノマル男爵」

 

 

 久しぶりの里帰りは、波乱を巻き起こすことになるのかも……しれない。

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