ソノヘンの村に向かう馬車に揺られながら、ランキングとにらめっこをする事暫く。
変なものを見つけて、思わず馬車の中でひっくり返りそうになった。
驚くことに僕達の冒険がランキングの上から25番目に掲載されていたのだ。
やはりランキングとは誰かの歩んだ物語を、こうして集めているのだろう。
だとすれば何の順位付けかが全く分からないが……もしかして幸福度だったり……は違うか。
恐らく考えても答えが出そうにないな……今はこの状況を打開できそうなものを探す他ない。
そして、これからどうするかは───彼女の言葉次第になるだろう。
「それで……どう言う事か説明してくれるよね? ツェツィーリア王女殿下?」
「ふふっ、何処から話したものでしょうか……」
ツェツィーリア王女殿下……いや、ツェツィの言い訳を。
彼女の事は信頼しているし、腹芸は彼女の得意とするところである。
つまり、彼女が騙すつもりなら恐らくコロッと騙されてしまいそうだが……
そんな心配はしなくてもいいだろう、というか僕がしたくなかった。
「まずノルさんはご自身の価値を正しく理解しておられますか?」
「まあ、ある程度は……」
よく使うのは
他にも、お気に入りやルビは使い勝手がいいし……
「正直な事を申し上げれば、ノルさんの戦闘能力はスキルの持つ一側面でしかないのです。もし国を率いるつもりがあれば、その能力はS級冒険者を抱えるのに匹敵……いや、凌駕することでしょう」
「そんなに?」
「そんなに……です」
正直に言えばそこまでのモノとは認識していなかった。
少なくとも戦闘の面で言えばシエナの方がずっと頼りになるし。
「スキル……『ハーメルンの上の方にあるやつ』。名前こそ珍妙ですが、その効果は非常に強力です。密使の使う暗号は分かりやすく開示され、あらゆるアーティファクトの使い道や効果の説明書まで作れる……それどころか古代語までもが解読できるのであれば、国力は数倍に膨れ上がるでしょう」
「僕のスキルが国の運営に役立つのは分かったけど……つまり?」
「まあつまり……明け透けに言えば、立場を与え甘い蜜を吸わせて懐柔しようと。そういう事です」
男爵位とS級冒険者の推薦を使って、僕をクロッカスに留めておきたいという事だろう。
前者はともかく、後者は非常に助かった。
まあ実力が伴わなければ酷い事になるから、荷は重いんだけど。
それにしても……
「ありがたいけど、随分と言わなくても良い所まで教えてくれるんだね?」
「隠しておくと、今後の信頼関係に差し障ると思いまして……それにノルさんには誠実さを持ってお話すれば、こちらの事情を汲んでくれるだろうという打算もありますけど……ね?」
テヘと舌を出してから……少しバツが悪そうに遠くの方を向く彼女。
何処までが計算づくなのかは分からなかったが、全て彼女の手のひらの上だということだけは分かった。
「それが1つ目の理由です。そしてもう1つは……ソノヘンの安全に関する話ですね」
「えっ、ソノヘンに危険が迫ってるの?」
「危険性があると言う話ですね。何せ1度……魔族の侵攻に遭っていますので」
そう、あまり特筆するべき点は無いあの村だが……
剣聖の生まれ故郷だからという理由で1度、12魔将の襲撃に遭った事がある。
その時は僕とシエナで何とか弾き返したものの……
次がないだろうと考えるのは、確かに楽観的過ぎたかもしれない。
「この辺りを治めていたのは誰か、ご存知ですか?」
「テキトー子爵……だったよね?」
「そう、テキトー子爵”でした”ね」
何処か含みのある言い方をしたツェツィは、少し困ったように眉を顰める。
「実は、3年前の魔族の侵攻を察知できなかったのが問題になりまして。少し調べた所……」
何かを逡巡するように眉間に指をあててから、彼女は続ける。
「彼が警備費を一部、着服していたようでして。あぁ、安心してください。彼に対しては『然るべき対応』を取っておりますので」
「そっ、そっか……」
「このような事は、本来あってはならない事で……しっかりと管理出来ていなかった私達にも責任の一端があります。この件に関しては国の代表として……ここに謝罪致します」
「ツェツィが謝るような事じゃ……」
国の王女として頭を下げたツェツィに対して、心臓が止まりそうになる。
それに、正直あの魔族の軍勢を前に子爵の軍が少し精強だったとて……焼け石に水だろう。
シエナが居なければどうにもならなかった、そういう局面だ。
彼女に頭を上げて話の続きをして欲しいと促すと、ゆっくりと続きを話し始めた。
「それでソノヘンや、周辺の村の空いた席を誰に任せるかは難儀していたのです。別の方に任せるにも、この辺りは他の有力貴族の土地と大きくかけはなれていまして……今は暫定的に、王家が直轄で収めているというのが実情です」
「そのままじゃいられない状況が起きたって事かな?」
「そういう事です、流石はノルさん。察しが良いですね?」
国の直轄領として運営しているのであれば、別にそれでもいいとは思うのだが……
「えぇ、何時までも国の直轄領のままにしておくのは色々と軋轢を産んで……大変なんですよね。なのでソノヘン以外の土地は少しずつ他の貴族に分割してきたのですが……」
ソノヘンが分割できなかった理由が、先ほどの話とようやく繋がった。
つまり……
「今後も襲撃されるかもしれず、土地としての魅力は無い……そんな土地になってしまっていて、この土地を希望するものが居なかったのです。ですが、我々としても守りを薄めるなんて言うのは以ての外です。そこで、白羽の矢が立ったのが……」
「僕って事……か」
「えぇ、国としての援助は入れつつも、ノルさんに任せてしまおうと言う事です」
パンと手のひらを打って、難しい話は終わりだというポーズを示したツェツィ。
正直そんなに地頭が良い方じゃないから、ついていくのがギリギリだった。
「まあ、ここまで長々と語りましたが……あの村が襲撃を受ける可能性は殆ど無いと思います。とは言え前例がある以上油断できないという訳で……事後承諾と言う形になってしまい申し訳ございません」
「まあ、相談されてたら何とか逃げ道を捜してた気もするんだよね……」
多分その辺りを汲んでああいう形を取ったのだろう。
考え方によっては、S級冒険者の推薦を盾に男爵になる事を強要しているようにも見えるし。
「ただ、僕領地経営とか無縁どころか、そのへんの村のただの村人Aなんだけど」
「ふふっ、ご謙遜を。ですが……ノルさんの負担になるのを嫌って、信頼のできる代官を立ててありますのでご安心を」
話が終わったから、席を外してもらっていた二人を呼びにいこうと席を立ったツェツィ。
そんな彼女が、最後に……声と目に明らかな期待を滲ませながら告げる。
「とは言え折角のスキルを、どれくらい戦闘以外に使えるのか……試してみるのも何か新しい発見があるかもしれませんよ? 勿論、私も精一杯お手伝いさせていただきます♪」
こうやってパーティメンバーに期待されると、応えなきゃいけない気がして気が引き締まる。
最後まで彼女の掌で踊らされ続けているような、そんな話し合いだった。
それから暫く馬車に揺られて、見覚えのある……気がする山や街道が見えてくる。
「なんだか懐かしい空気がするね?」
「言われてみればそうかもしれない、師匠は4年ぶりくらいですか?」
「そうだけど……ノル君、わざと言ってるね?」
「ふふっ、ちょっと懐かしくって」
そうだ、遂に帰ってきたのだ。
1年と少しぶりだが、村はどんな所が変わったのだろうか。
手紙でやり取りはしているけど、父さんと母さんは元気だろうか。
村の皆も元気だと良いなぁ。
「見えてきましたね、何時でも降りれるようにしておきましょう」
「そう……だね……?」
そんな訳でようやく見えたソノヘンの村は……村は?
場所を間違えたのだろうか、いや……ソノヘンの村の近くには
思わず呆気に取られていると……馬車はグングンと村まで向かっていく。
それ故に、シンプルな疑問が口から漏れ出た。
「「「なに……これ?」」」
「何って……ソノヘンの……町? いや、村ですよ?」
聳え立つ、巨大な石造りの防壁。
間違いなく建てられたばかりのそれは、村の外壁とは思えないほど重厚で……堅牢だったのだから。