スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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73.教え導くもの

 村を走って、問い続けた。

 

「オシエル君が今何処にいるか知りませんか!?」

「そう言えば最近見ないね?」

 

 村中の人間に聞きまわった。

 それでも返ってくるのは、要領の得ない回答ばかり。

 

「オシエル君って男の子が───」

「おっ、ノマル帰ってきてたのか! ん……最近見ねえな」

 

 捜して、捜して、捜し続けて───

 そのどれもが、徒労に終わる。

 

「ねっ、ねぇ? オシエル君……一緒に遊んだよね?」

「オシエル……そんな奴も居たような? そうだ、クッキー要るか? 作りすぎちまってよ」

 

 皆が皆、一様に甘いものを作る習慣だけが残って……誰も彼のその後を知らない。

 村長にさえ行き先を告げずに、あの歳の子供が村を出る?

 

 そんな訳が無い、無いのに……その事に誰もが疑問を持たない。

 

「何で……誰も……?」

 

 誰も彼がどうなったかを知らない、憶えていない人すらいた。

 あんなにキャラの濃い子がいなくなって、気づかない筈が無いのに。

 

 ただ彼が居た事を示すかのように、各家庭でお菓子作りだけが盛んになっていて。

 それがとても怖くて、逃げ帰るように家に帰って。

 

 

 家でくつろいでいた幼馴染の肩を揺さぶるように、掴んで問いかける。

 

「しっ、シエナは……シエナは……オシエル君を憶えてるよね!?」

「あっ、うん!? ……あれ、そうだよね? この村でスイーツが流行ってるのは……彼のお陰だから……?」

 

 シエナですら何処かうろ覚えの様子で、彼の事を話している。

 一度話したら忘れるはずの無いくらい特徴的な彼を、どうして……

 

 こうなると当初の「彼の力を借りる」なんて話じゃなくて、シンプルに彼の事が心配だった。

 何か事件に巻き込まれている可能性だって、未知のスキルによる攻撃を受けているまである。

 

「もしこの村に手掛かりが……あるとすれば……」

「オシエル君自身の事……だよね?」

 

 この村でどれだけ交友を断っていても、彼の事をよく知る人物がいる。

 本来はやっちゃいけないことだけど、彼自身の安否がかかっているとすれば───

 

「お話があるんです、神父様」

「おお、ノマル君……じゃなくて、ノマル男爵ではありませんか! 私は君のスキルには並々ならぬものがあると初めから思って───んん、どうやらお急ぎのようですな」

 

 スキル授与の儀で人はスキルを受け取る、そして神父様が変わっていないのなら……

 

「この村に居たオシエル君のスキルについて、教えてくれませんか?」

「いくら領主様にと言えど、個人のスキルを無暗に明かすことは殆どない……それは理解しておりますね?」

 

 それは知っていた。

 唯一の手掛かりだと思って、それを承知の上でやって来たが……やはり……

 

「ダメ……ですよね……」

「ここからは私の独り言になるのですが……最近物忘れが激しくてですね」

 

 神父様は初老に差し掛かっているが、未だハキハキとしていて物忘れが激しいようには到底見えない。

 そんな神父様が、物忘れが……激しい?

 

「そんな私でも、絶対に忘れてはいけないと固く決めているものがあるのですよ。それが……誰がどんなスキルを授かったか……です」

「もしかして……」

「とある一人のスキルだけ、思い出せないのです。それも……全く」

 

 確実に何か、超常的な何かの力が働いている。

 それがスキルなのか、権能なのか……それともほかの何かなのかは分からないけど。

 

「ありがとうございます、神父さん」

「いえ、ただの独り言ですから……忘れるのがよろしいでしょう」

 

 神父さんに一礼してその場を後にする。

 何も分からなかったが……分からないという事が分かった。

 

「何も分かんないんだけど……何か分かったんだね?」

「うん、此処まで来たら……見直してみるべきだと思うんだ」

 

『スキル:ハーメルンの上の方にあるやつ』

 

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 見慣れた青白いウィンドウから、使うのはこのスキル。

 

『スキル:目次』

 

 幼少期の僕達の体験の追想が───始まる。

 

【大丈夫、私───()()から】

 

 もっと、もっと後だ。

 

【私はA級冒険者のグレイエル・スノウリリィ。『白銀の魔女』と言えば、伝わるかな?】

 

 この辺りだ。

 彼は旅人の特技を余すことなく知っていた、だからこそそのスキルを頼ろうと思ったのだ。

 

 でも、この辺りにはまだ……不自然な点や手掛かりはない。

 

【そう落ち込まないでくれよノル少年。まだ小さいんだからこれから学んでいけばいいのさ】

【ノル君冒険に行くの!? シエナも行く……!】

【その方が───カッコいいだろう?】

【シエナ君を連れて逃げてくれ。これは君にしか出来ない事だ】

【ノル君ならきっと何とか出来るよ!】

【───ははっ、これが本当の白銀って奴か】

 

 思わず、視界が揺れる。

 溺れるような情報の波に溺れそうになる。

 

「ぐっ……!?」

「ノル君!?」

「大丈夫、大丈夫だから……!」

 

 そんな過去を追想し続けるのには、全ての情報を取得し続けちゃダメだ。

 

 まるで本を読むのように俯瞰的に、読者のように客観的に。

 必要な部分だけを取捨選択して、拾っていく。

 

 スキルを……制御するんだ。

 

【随分と魔法も上手くなったね、私が居なくてもしっかりと精進するんだよ?】

【勿論です、少しでも早く師匠に追いついてみせますから】

 

【にしても、少し露骨すぎたかな。まさか自分の髪と同じ色の触媒の杖なんて……】

 ……ん、今のは? いや、少し気になったが───今のは本題じゃない。

 

【吾輩はクロッカス王国騎士団が団長───オットー・マグヌスですぞ】

【今代の騎士団長と言えば、王国の盾なんて言われてる超有名人じゃねえか!】

 

 ───今代の?

 

 何時騎士団長が変わったかなんて分かりもしないのに、わざわざ()()なんて使い方をするか?

 それじゃまるで、先代の騎士団長を知っているかのような……考え過ぎだろうか?

 

【つまり──────私があなたより強ければ問題ないってことだよね?】

【……成程、受けて立とうではないか】

【私さ、ずっと“強くなりたい”って思ってたの】

 

【俺様こそが『魔族』。名はランドウィンだ。今から死ぬお前らが覚えても仕方ねぇけどよぉ!】

【私を───信じて】

【なら、探す手間が省けたじゃないか】

【魔王軍幹部直属───12魔将の『鋼鉄のシャリブレン』様だ。精々、自分の無力さを噛みしめて死んで行けよクソガキ】

 

【行こっかノル君! 誰も見た事のないお宝と景色を求めて!】

【行こうかシエナ! 山よりも大きいドラゴンを求めて!】

 

 これで───終わ

 


 

 り? 本当に?

 何か、何かが隠されているのではないか?

 

 そこにきっと、この問題を解決する───鍵がある。

 

『スキル:目次』

「───行【情報を表示するには権限が不足しています】」

 

 拒絶感、このスキルを使っていて幾度か感じた異物感。

 本能的に何かがまずい気がする、それでも僕はこの先で何があったのか……知りたい。

 

『スキル:目次』

「きま【情報を表示するには権限が不足しています】」

 

 ならば、こうすればいい。

 今まで自分では試した事の無かった、スキルを───スキルで強化する。

 

『スキル:傍点』

『スキル:()()

 

「したか」

 

 パタンと本が閉じ───「そこまで」

「……え?」

 

 声がした。

 男性とも女性ともつかないような声が、確かに響いていた。

 

 だけど辺りを見回しても何処にも居ない、何時も通りの村の様子が広がっているだけだ。

 

「のっ、ノル君? どうしたの? 急に辺りを見回して……」

「シエナには声……聞こえない?」

「ううん、全然聞こえないけど……」

 

 だけど確かな声が聞こえた。

 それなら一体───あなたは、この事象を良く知っているはずですよ?

 

「誰……いや……もしかして……」

 

 ……予想外でした、まさかそこまで必死に探すなんて。

 私達は観測者であって、舞台に立つ資格など無いというのに。

 

 確かに、知っていた。

 こんな僕だけに聞こえる声を引き起こすスキルを、一つだけ。

 

「すっ、スキル……『よみあげ』!」

 

『スキル:よみあげ』

 

『老ノマル』

『賢者アメティスタ』

 ▶『??エル』

『戻る』

 

 疑問には思っていた、『よみあげ』の残りの一枠。

 その謎が今、ようやく……明らかになろうとしていた。

 

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