……それは、あまりにも最悪の邂逅だった。
代官さんの僕に対する第一印象は「奇声を上げながら独り言を呟く人間」で固定化されてしまった訳だ。
「改めましてご挨拶を。ソノヘンの代官の任を承りました、スチュワード・ベイリフと申します」
「ノマル・フトゥーです、これからよろしくお願いします……」
茶色の髪を後ろで束ねた、非常に頭の良さそうな文官と言った印象の彼。
年齢で言えば30くらいだろうか、この年齢で王女のお墨付きを得られるとは……余程優秀なのだろう。
そして先ほどの動揺をおくびにも出さないのは、流石優秀な人物と姫様が太鼓判を押すのも確かなのだろう。
だけど内心では……今更正気ぶってるとか思われているのだろうか? あまりにも苦しい。
村長宅と客人用の部屋へと向かい、そこにある椅子へと腰掛ける。
今後も外からお客さんが増えるのなら、宿屋も用意しないといけないのかもしれない。
「こちらが予めソノヘンについて調べた資料になります」
「ありがとうございま……んっ、助かるよ」
「口調や態度に関しては必要があれば後々矯正いたしましょう。ご事情はお聞きしておりますので」
「そうですか? たっ、助かります……」
一応は男爵としてこの村に居るのなら、ある程度は口調にも気を付けていきたいが……それは追々改めていこうと思う。
「まずはご確認ください」
「分かりました」
貰った資料に目を通すと、この村の特産や地理と言った様々な情報が分かりやすく纏められている。
それにしても……子供とそう変わらない年齢で、奇行を振るっていた僕にもしっかりと尊敬をもって真摯に村についての話をしてくれる彼には頭が上がらない。
それから少しして、僕が資料に目を通し終わったのを確認して彼が口を開く。
「御覧の通り、今のソノヘンには財源と土地、そして防衛設備はありますが……食料と人材、そして収入源がありません」
「分かってはいたけど、お金かぁ……」
「そうですね。強固な防衛力を保つには、やはり金が要りますから」
今のソノヘンには、辛うじて初期費用と土地だけがあるという状況だ。
それも単発的な報奨金、今後を見据えるのなら絶対に足りなくなる。
「お金を稼ぐとなると……」
「高品質な鉄金属、加工品と言った特産品があれば手っ取り早いのですが……」
特に変哲の無いこの村に、そんな都合のいい特産品がある訳が無い。
あえて言えば、近くに遺跡がある事くらいだが……もう既に有益そうなものは無いだろう。
剣聖の生まれの地なのを活かして、剣術道場でも開くか?
もう、この際……剣聖饅頭でも売り出せば……いや、禄でも無い事にしかならない気がする。
「実際の村の様子を見て、これからの計画を立てていく予定ですが……」
「……何か、問題があるんですか?」
「姫様からは、ノマル男爵は好きに動かせた方が上手く行くだろうとお聞きしております」
「随分と、期待が重い……ですね」
領地経営なんて初めてなのに、何をすればいいというのか。
……と思ったが、基本的な村の困りごと等は村長さんが今まで通りやってくれるわけだ。
それなら、村をより良くする方向に注力すれば良いだろう。
「もちろん私も期待しております。一先ずは此処を拠点に村の状況を確認していく予定ですので、何か必要があればお呼びください」
やけに期待の籠った目で見送られ、村長宅を後にする。
一介の冒険者に過ぎない僕に、何を期待しているというのだろうか。
村長宅を離れて、一先ずは会議の場を離れて村で農耕が行われている土地へとやってきた。
一番最初に此処に来たのには、理由がある。
というのも何事もまずは土台作りから。
食糧問題を解決する方が良いだろうという考えがあってのことだ。
王都から来てくれている兵士の方々の食事が増えたのもあって、食料の消費が増えてきているという話も聞くし。これから人が増えるのなら、食料の生産は、あるに越したことは無い。
畑に着くと休憩していた村人がこちらを見て、ヒラヒラと手を振っている。
「良く来たなノル坊……じゃなくてノマル男爵だったな」
「あの、ノーフさん。あんまりかしこまられない方が助かります……」
「ふふっ、そうかい。ところで男爵さんは今日は畑仕事の視察かい?」
「あぁえっと……まあそんな所ですかね?」
今の村の食糧事情としては三通りが挙げられる。
一つ目は農業、二つ目は狩り、三つめは商人からの購入だ。
そして多く作った作物や獣の皮などを行商人や町に売る事で、通貨を稼いでいる。
それを改善するなら作物を変えるか、効率よい手法を試すか、単純に土地や人手を増やすかくらいか。
土地は余っているものの、その全てを農地にしてしまう訳にもいかない。
勿論農具は新しく効率の良いものを手配しているが、村の鍛冶師はカジおじさんしか居ないので時間がどうしてもかかる。
僕は農業に関しては全くの素人だ。
そんな僕が農業の効率を良くしようというのだから、僕の強みを活かせるようなやり方を考えなければならない。
どれが使えるかをスキルウィンドウを見ながら、じっと考える。
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まずは情報を知る所からだろう、そう思って収穫したであろう農作物の入った籠に近づいていく。
籠の中にあったのは何の変哲もない、だがしかし『ここすき』で何故か人気なじゃがいもだった。
それに対して……
『特殊タグ:注釈』
じゃがいも*1……違う。
これは求めていたものじゃない、今知りたいのはもっと……
このじゃがいも*2についてだ……おお。
「これだ……」
じゃがいも全体ではなく、このじゃがいもについての情報が知りたかったのだ。
植える前にどれくらい優れた作物なのかを確認できれば、厳選して収穫量や味等を向上させることが出来るだろう。
普段は収益が取れないが、初期投資として土の魔石を使って短期間で育成して種芋を更新していけば……比較的早く良い作物が育てられるようになるだろう。通常は90日程度で収穫できるじゃがいもは、土の魔石を使う事で30日程度で収穫できるらしい。農業関連のスキル持ちが栽培する事で、もっと早くなるんだとか。
まあ普通は、作物よりも魔石の方が高いから本末転倒なんだけど。
それでも、こうして種芋を育てたいときには有効だ。
その他にも麦や豆類に葉野菜と言った野菜と……いつの間にかそんな作物のラインナップの中に入っていたサトウダイコンなる植物を厳選した。
これを繰り返せば、更に高品質な作物が早く作れるようになるだろう。
それにしても……サトウダイコン*3。
別に珍しいものじゃない気はするけど、なんでこれが村の育てている作物に入っているのか。
そしてこれだけほかの作物に比べて品質が少し良いのかは、あまり深く考えない方が良いのかもしれない。
「ノルの坊は農業も詳しいのか……どうだい、うちの娘が丁度」
「ノーフさんの娘さん、まだ7,8歳ですよね?」
「ははは、将来はきっと嫁に似て───」
「本当に、本当に大丈夫ですから!」
これで今後効果が出るだろうけど……農業は直ぐに結果が出るようなものじゃない。
これからも少しずつ、根気強くやっていこうと思う。
他に改善するなら……ランキングの物語達ならどうしていただろうか。
……いや、恋愛や戦闘がメインで……農業に役に立ちそうな描写は無い。
218件まで膨れ上がった感想にも……流石にピンポイントな解決方法が来ている訳が無い。
ならばここは、ピンポイントに物語を捜しに行くしかないだろう。
『スキル:小説検索』
【小説検索】
キーワード:
原作:LOCK
並び替え:最終更新日時(新しい順)
検索
また別のウィンドウが出てきた。
増える事はあっても、減る事は無いのがこのスキル。
今でも到底使いこなせているとは言えないが、今後もさらに増えるだろうという確信がある。
ここで調べるべきワードは……【農業】【内政】【領地経営】あたりだろうか。
検索して……おお、膨大な数の物語がある。
この内のどれを参考にすればいいのかは分からないが、一つずつ見ていくしかないだろう。
一番上にあった物語を開いて───そんな風にして、日々が過ぎていく。
その記述を見つけたのは、偶然だった。
物語を読み続けること3日、面白そうな技術を試している物語があった。
幾つかの作物を交互に耕作する事で、休耕地を設けずに農業をすることが出来るらしい。
畑を休ませなきゃいけないとは農夫さんが言っていたが、これならその問題を解決できそうである。
書いてあったところによると……あぁ、一応裏取りも忘れずにしておくべきだろう。
その物語によると、それはノーフォーク農法*4なる技術らしい。
……待ってほしい、また分からない土地と分からない単語が出てきた。
そもそもここの土地でそれが出来るのかすら分からないのなら、試しでやってみるには怖すぎる。
「そんな上手い話は無いよなぁ……」
そんな事が簡単にできるのなら、誰かが試すか広めているだろう。
それこそ、異界から来たという勇者様とか。
やはり何事も堅実に地道にが一番だ、少しずつ改善を……
「ノル君~ノーフさんがじゃがいも順調そうだって!」
「そっか、注釈が上手く……あっ」
結論から言えば、畑の土に注釈をする事で土のコンディションを確認することが出来た。
……出来てしまった。
今後は何を植えればどう変化するかを確認して、ローテーションを組んでいこうと思う。
育てる作物や、錬金術で精製し終わった後のサトウダイコンの搾りカスを有効活用するために畜産にも手を出していくべきだろう。
やる事は多いが、意外と性に会っているのか結構楽しい。