スキル『ハーメルンの上の方にあるやつ』   作:天野ミラ

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76.人材ガチャ

 今日は畑の品種改良に一旦の区切りがついて、村の入り口の近くで物語を読みながら待っていた。

 テーブルに置いた二人分の紅茶とクッキーは、いつの間にか半分無くなっていた。

 

『スキル:よみあげ』

 

【ふむ、流石はノマルですね。芳醇な砂糖の甘みと、紅茶を練り込んだクッキーのコントラストが素晴らしいです。バターもそう安くはなかったと思いますが……】

「まあ、一応はお世話になってるし……ここでお金を渋るべきじゃないかなと」

【ふふっ。貴方のそういうところ、やはり好きですよ?】

 

 何処かからか、紅茶を啜る音が響く。

 一体どういうシステムになってるのか気になる所だが、あまり深掘りしたくないところでもある。

 

『スキル:()()

 今日も()()が村を訪れる。

 

【あれは……甘味づくりのプロフェッショナル「アマイノ」ではありませんか! ノマル、是非彼を……】

「あぁ、もうそれは別に良いですけど……」

 

 単純に人手不足を解消しようとすれば、こうして有益な人材を探すのは理に適っている。

 叶っているのだが……

 

「よければ村で……」

「申し訳ないが、道を急いでいるんだ」

 

 料理人と言う風貌の彼に、にべもなく勧誘は断られた。

 当然だ、別に彼らは近くに来てくれるだけで協力してくれるわけではない。

 

 あくまでグレイエルさんが特別だっただけなのだ。

 

「結局なぁ……彼らが求めるものが提供できないと、交渉の土台にすら立てないというか」

【あぁ!? アマイノが去って行きます……!】

 

 

 傍点で珍しい旅人を呼び出せても、その人が協力してくれるかは別なのだ。

 

 

 

 

 

【……こほん】

 

 去って行くアマイノさんを見送ってから暫くして、オシエル君がコホンと一つ咳払いをする。

 どうやら、ようやく正気に戻ったらしい。

 

【ふぅ……少し取り乱しました。それにしても、お困りのようですね?】

「少し……少し? 今から取り繕ってもだいぶ遅いと思いますけど」

 

 カチャンと何処か少し乱雑に、ティーカップをティーソーサーに置く音が響く。

 この話は此処で終わり、そういう事なのだろう。

 

 

 話を戻すが……当たり前だが、人手が足りない。

 農業をやるにも特産品を作るにも、今ある強み? を活かすにも人手が必要なのだ。

 

 分かってはいたが、深刻な状況だ。

 外資の獲得手段と人手不足は、この村を取り巻く深刻な問題である。

 

【そもそも、なんでグレイエルが来たと思いますか?】

「師匠が来た理由……?」

 

 一体どうして師匠が……と思ったが、そう言えば彼女も旅人ガチャの最中に来てくれた冒険者だった。とはいえそれがどうして、この事態の解決と繋がってくるのかは検討もつかないが。

 

「おや、どうしたんだいノル君」

「うわぁ!? いつの間に来てたんですか!?」

「今さっきだけど……そんなに驚かなくても良くないかい?」

 

 狙い澄ましたかのように、ひょっこりと現れた師匠……じゃなくて、グレイさんに思わず高い声を出してしまった。どうもこの村に帰ってくると、やはり師匠呼びが頭から離れない。

 

 例え何をできるようになっても、僕にとっての魔法使いとしての……そして、冒険者としての師匠は彼女なのだ。彼女の教えは、今もこの胸に強く根付いている。

 

 だからつい、師匠と呼んでしまいそうになる。

 本人が不服なのは、知っているけれども。

 

「あぁ、今話してたのが例の……シエナちゃんが言っていたやつだね。うん、私のことは気にせず話を続けてもらっていいよ?」

「あぁ、いや……ちょうどグレイさんの話が出ていたところだったんです」

「なんで私がこの村に来たかだっけ? そりゃあギルドで遺跡探索と護衛の依頼を受けたからだけど……それがどうかしたのかな?」

 

 それは知っていたが……なんだ?

 何か、何かが引っかかるのだ。

 

 そもそも、そんなに都合よく……都合よく?

 

【そうです。旅人ガチャと言われる行為によって人が来たように見えますが……貴方の傍点は別に誰かをテレポートさせた訳では無く、この近くに来るまでにはその人なりの旅路があったはずです。現にグレイエル・スノウリリィは、この村の近くにある遺跡を訪れるために現れました】

「来た理由があるってこと?」

 

 人間はダンジョンのアイテムや技のように、いきなり発生する訳では無い。そこまでの人生が、道のりがあったはずだ。だからこそ、彼らには……

 

「ここに来るだけの、理由があるのか」

【えぇ、流石ノマル。察しが良いですね? もしくは……いえ、この可能性は語られるべきではないでしょう】

 

 そうなると、都合が変わってくる。

 

 来たのは、薬草学の権威「ハーブ・ミチクサ」、有名画家「イラストン」炎の料理人「フランベ」伝説の探索家の……誰だっけ。まあこれは、遺跡関連だろう。

 

 つまりこの村の近くを訪れる人間を調べ続ければ……

 

「この村の近くに何があるか、分かるってこと……か?」

【少なくとも5年前の時点で、良質な野草と料理と絵に関するものがあったと言うことですね。勿論、別の場所への旅の途中に寄ったということも考えられますが……】

 

 あまり旅人の寄らない辺鄙な場所にある村だ、その可能性は無いとは言い切れないが……そう高くは無いだろう。

 

「ありがとうございます師匠、お陰でどうすればいいか……分かった気がします」

「そっ、そうかい? 私は何もしていないんだけど……」

 

 それから暫く待っていたが……その日は、他の旅人が村を訪れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 今日も()()が、この村を訪れる。

 いや、()()()か、来たのは男女の2人組なのだから。

 

 コートの下に覗く実験器具のようなものから見るに、彼は冒険者と言った風貌では無い。

 いや、何処かで見た事があるような……それにしても凄い荷物だな。

 

 そんな二人組の……男の方と、目が合った。

 彼は人好きしそうな笑みを浮かべて、目を細める……失礼だが何処となく胡散臭い。

 

 そんな彼が……なっ、なんで急にこっちに来るんですか?

 

「おはよさん、君が噂のノマル・フトゥーで間違いないやんな?」

「えっ、えぇ……そうですけど」

 

 噂になっている? 何処から村の事を知ったのだろうか?

 ここに来て、僕を目当てに現れた旅人……恐らくはスキル関係だろうと、少し警戒を引き上げる。

 

「いやいや、そんな警戒せんとってやぁ。ちょっと聞きたい話があるだけやから……な?」

「あんたはそれ以上口を開くなよ、ただでさえややこしい話がさらにややこしくなるだろうが」

「あいたたた、すぐ手が出るのはあかんよ?」

 

 そんな彼の脛へローキックを放ったもう一人の人物は、やや身長が低めでフードから覗いた顔は活発そうな女性だった。

 そしてそんな特徴の人物を……僕は一人だけ知っていた。

 

 

「……なぁ、メディコちゃん?」

 

 

 錬金術ギルドでレシピを提出しに行ったときに出会った女性は、こちらを見ると頬を綻ばせる。

 こうなる事は、お爺ちゃんになった僕も知っていたのだろう。

 

 だから、異様に彼女の事を推していたというのだろうか……そんな事は今考えるべきじゃない。

 

「久しぶりだな、ノルの旦那! いや、今はノマル男爵って呼んだ方が良いか?」

「貴方は……メディコさん? いや、なんでここに?」

「いや、うちのマスターがあんたに用があるって言うんでな」

 

 マスター? 何処の……と言えば、一つしか思い当たらないだろう。

 

「いやぁ、そう言えば自己紹介がまだやったなぁ。最近はボクも有名になって、ボクの事を知ってる人ばかりやったからなぁ……」

「だからといって、いきなり押しかけといて失礼だろうが……」

 

 ようやく彼の正体に見当がついた。

 彼が、彼が錬金術ギルドの長……

 

「ボクがクロッカス王国の錬金術ギルドの長をやらせてもらってる───」

 

 

 狐のような目つきの彼は、ずいっと距離を詰めてきて……僕の手を握って言葉を続ける。

 

 

「───アンバー・ウルペスというもんや。損はさせへんから……末永くよろしゅうな?」

 

 

 彼は、僕を見定めるかのように目を細めてニッコリと口元を歪めていた。

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