アンバーと名乗った彼が、錬金術ギルドの長であるという事は驚きながらも理解はした。
だけどそれは、何故彼が来たのかの答えにはならなくて……
「それでその、アンバーさんは一体どうしてこの村に?」
「アンバーでええんよ? ノマル先生にはエラいお世話になってるさかいなぁ」
「お世話になってる……って言うのは」
「あんなエラいもん生み出しといてピンとけぇへんなんて、随分と余裕あるんやなぁ」
エラいもんって言うのは、ポーションの事だろう。
だけどもう製法は教えたし、これ以上僕に何か聞くような事があるだろうか?
「いやぁ、そこがボクらが来た理由にも繋がってくるんやけどね?」
「あぁ、はい……」
「それにしても画期的やなぁあのポーション。あれのお陰でただ甘いだけの草が随分と上質な回復薬に化けおった。そのお陰でウチどころか冒険者ギルドや商人ギルドもバケツを引っ繰り返したように大騒ぎや。エラいことやで、ほんまに……」
「そんなに……」
確かに凄い額が毎月振り込まれているけど、その事についてあまり深く考えたことは無かった。
そもそもあまり回復薬を使う事自体が少ないし、考えてみれば冒険者の知り合いが殆ど居ない。
「そこら辺に生えとる甘いだけの草が、既存の回復薬のシェアを奪うような性能しとるんやで? その事、ホンマに理解できとる? 自分、命を狙われてもおかしくないんやで?」
「勘違いしないでくれよノルの旦那、こう見えてもこいつは本当に旦那の身を案じてるだけだからさ」
だからこそそこまで回復薬を巡ってそんな事になっているとは思いもよらなかった。
もしかしたらツェツィがコンタクトを取ってきたのにも、少なからず関係しているのかもしれない。
「で、本題や。そしたらそんなもんが、故郷で読んだレシピに書いてあったって言うやろ?」
「……あっ」
「そりゃぁ、このボクが足を運ぶだけの価値があるに決まってますやん」
不味い。
そんなものある訳ない、と言うか見せられる訳が無い。
だってそれは薬草図鑑に書いてあった一幕にしか過ぎなくて、その本は……古代語で書かれているのだ。そんなものを、どうやって読んだのかという話になるに決まっている。
「いやぁ、どうせ他にもレシピあるんやろ? 気になるに決まってますやん、そんなん」
「うっ、えっと……どうですかね? はははっ」
「いやぁ、隠したい気持ちも分かるで? でも、悪い様にはせえへんから……な?」
そうは言われても、こちらとしても古代語を読めるなんて伝える訳にもいかないし……
「まぁまぁ、暫くは村に居るんだからあまり旦那を急かすなよな」
「村にいるって言うのは……」
「調査やなぁ、レシピのゆかりの地なら甘草にも何か変化や特徴があるかもしれんし。ほな、調査の為に一旦失礼するで。さっきの話は、是非前向きに考えておいてほしいわ」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら去って行った2人を見送る。
意外と真面目……というかあんまり金にならなさそうな目的だった。
守銭奴っぽいというか、お金に五月蠅そうな雰囲気があったのに。
実はそこまで悪い人じゃないのかもしれない、まあ判断するのには少し早いけど。
「薬草学の本……か」
ペラペラと古代語で書かれたそれを捲っていくと、
彼らが来たのには少し戸惑ったが、この話題は渡りに船なのかもしれない。
村の特産品と言うのは難しい問題だ、なんと言ってもこの村にはそこまで人手がない。
そんな村の労働力も今後大きくなっていくであろう畑の作業の事を考えると、あまり多くは使えない。そんな中で錬金術ギルドの人が来てくれたのは、チャンスとも言える。
村の周りを散策して、普段の冒険であったら便利……つまり売れそうな効能のモノを探していく。
特に王都のダンジョンは沢山の冒険者が潜るから、使える消耗品があれば飛ぶように売れるだろう。
「それで私達を呼んだんだ?」
「冒険者に関してはそこそこ詳しいと自負してるよ? これでも長い事冒険者を……」
「僕、突っ込みませんからね」
何で年齢の話をすると不機嫌そうにするのに、自分から地雷を踏むんだこの人は。
「それで私も呼んだのは……そういう事ですか?」
「そういう事です、今日は王女様の視点から見れば欲しいものもあるかなと……」
「えぇ、そういう事ならぜひお任せください?」
王族、ないしは高貴な身分の人ならではの不満なんかもあるだろうと呼んだのはあるが……そもそもわざわざツェツィだけ仲間外れにする理由も無い。
薬草図鑑を開く……前に、今や使い慣れた石板を起動させる。
これがあればわざわざ読み上げなくても、皆で薬草図鑑を読むことが出来る。
「わぁ、普通に読めない文字が石板越しにルビが振ってあって変な感じだね」
「あぁ、そうだね。それにしても本当に便利だ、遠見の石板」
本当に便利だ、プルプラで一番の収穫だったと言っても過言ではないかもしれない。
そんな感じで本を読み進めるが、これだけ種類が書かれているとどれを見ればいいか分からない。というか似たような薬効を持つポーションがないかどうかも調べないといけない。
一通り目を通してみて、気になった薬効を持つ薬草を探していく。
それぞれが特別気になった効果の薬草があったようで、意見交換はかなり活発に行われている。
「洞窟内は暗い場所も多いし、野宿する時なんかも夜目が効くと嬉しいなとはよく思うんだ。その点これなんかかなり便利そうじゃないかい?」
「えっ、じゃあ皆って夜の番の時何見てるの……?」
「周囲の様子と音だね。一部の例外を除いて、普通は月明かりくらいでしか見えないモノなんだよシエナちゃん」
グレイさんの意見は、確かな経験に裏付けされた意見だった。
普段は光源用に灯りの魔法を使っているが、全員がポーションを飲むというのも有りなのか。
それにそういう魔法はあると聞くけど、ポーションは確かに聞いた事が無い。
「これ、毒消しのポーションと言えば聞こえは良いですが……どんな毒に効くんでしょうか」
「毒消しって言う位なので、毒なら何でも良いんじゃないですか?」
「ノマルさん? 事も無げにおっしゃられましたが……いっ、良いですか? 毒と言うのは動物や植物由来なのか、魔法やスキル由来なのか、それとも錬金術で作られたものなのか……種類によっても効果や効き方が全く違うんですよ? それこそ高位の神官でなければ……」
ツェツィーリア王女は毒消しのポーションに興味があるようだった、確かに便利だが高位の冒険者にはそもそも毒の効き目が薄かったりするしそれこそ新人冒険者に……
「国が動きますよ、これ。うちにも一本ストックしておきたい性能です」
「効能が良さそうなら、全然降ろしますけど……」
「正直、これを秘匿にしておくのならソノヘンへの村の投資は全てペイ出来るだけの影響力があります。本当に他国に行く前には一言相談くださいね?」
「しませんよ!?」
一旦、今後の取り扱いは応相談という事になった。
確かに毒殺を防ぐのには打ってつけの一本だ、もちろん全ての毒に対応できる訳では無いのだろうが……それでもあるのとないのとでは、訳が違う気がする。
「環境に適応できるようなポーションが良いな。ほら、王都のダンジョンの第三層憶えてる? あのすっごく湿気った沼地……ブーツの中が濡れてぐちゃぐちゃになるじゃん? ああいう時に、乾かせるような何かがあれば便利かなぁって」
シエナの意見は、ごく直近で困った事に対するものだ。
ダンジョンは熱かったり湿っていたり大変な層もあった。
それに依頼で火山の近くに行くときなんかもあるだろうし、沼を通る事もあるだろう。
「あぁ、すっごく分かる! 気持ち悪いんだよねぇ、売れるよこれは!」
「気持ちはわかりますけど、お金払う人そんなに居ますかね?」
「ノル君は分かってない、分かってないよこの偉大さが……」
便利だが買う程か……と思ったが、狩場にするのなら一本位持っていても良いのかもしれない。確かにあんな沼地にずっといたら、気が狂ってしまいそうだ。虫よけなんかも売れそうだな、うん。
それからも会議をして、その上で近くで生息していそうな薬草を捜していく。
当然中には貴重な薬草もあったが、それ以外は結構村の近く……というより遺跡の近くに咲いていた。
あの挿絵の精度は、確かに実物を見ないと描けないだろう。
この本を書いた筆者がこの辺りに住んでいたからこそ、この本に載っているのもこの辺りにある薬草が多いのかもしれない。